ロープ
ロープとは、紐や針金などの細長い繊維または素線を、さらに縒り合わせたもの。
けん引や支持などを目的とするロープは綱(つな)ともいい、縛るためのロープは縄(なわ)ともいう。また、登山の用途に用いるものをザイルと呼ぶことが多いが、これはドイツ語で「綱」の意味であり、英語のロープと同義語である。
目次
概説[編集]
繊維を縒り合わせて太くして実用に供するものには糸・紐などがあるが、縄やロープというのはそれらに似てより太いものをいう。普通は紐を縒り合わせて作られる。
素材としては古来、つる植物や細長い草類をそのまま用いたり、藁などのほか生糸が用いられていた。時代が進むと次第に麻やシュロ繊維や、木綿が用いられるようになり、18世紀頃には鉄などの金属細線を縒り合わせたワイヤーロープが登場する。20世紀になるとナイロンをはじめとする化学繊維が開発され、古来より用いられてきた天然繊維に取って代わるようになった。20世紀後半には、ガラス繊維や高強度かつ高耐久性でありながら柔軟で軽い炭素繊維も実用化されている。
素材による分類[編集]
化学繊維[編集]
- ナイロンロープ
- 強度が高く、伸び易い。伸びが負荷を吸収するので、衝撃にもよく耐える。
- ポリエステルロープ
- ナイロン並みの強度を持ち、伸び率は高くないが、耐酸性や耐摩耗性はナイロンより高い。水に濡れると強度が増す特徴があり、漁具や船舶などで多用されている。水に浮かない。
- ポリエチレンロープ
- 安価で軽い場合が多い。水に浮く。熱や紫外線に弱い場合がある。
- ビニロンロープ
- 安価だが柔軟で扱いやすい。
- クレモナロープ
- 「クレモナ」はクラレが生産するビニロンとポリエステルの混紡糸の商標。
- ポリプロピレンロープ(PPロープ)
- 安価で軽量・強度に優れるが、紫外線にやや弱い。漁網や荷造り用に多用されている。
- その他の化学繊維のロープ
- アラミド系、非晶ポリアリレート、超高分子量ポリエチレンといった素材のロープ(スペクトラロープ)は、高価だがナイロンの倍以上の強度がある。
天然繊維[編集]
天然繊維でできたロープを天然繊維索という[1]。化学繊維のそれと比べると、破断強度が1/3以下とあまり強くない。
- マニラロープ
- マニラアサの繊維で作られるロープ[1]。ロープの色は黄色味のある銀色で、真珠のような光沢がある[1]。強度はヘンプロープより劣るが、軽量で水に浮かびやすく、良質のマニラロープは硬くて柔軟性に富む[1]。耐食性に優れるが、生産量が少ない。
- 木綿ロープ
- 柔らかく作業性がよく安価でもあるが、腐食しやすく耐久性は低い。
- ジュートロープ
- 繊維が細かく、柔らかいのが特徴。
- パームロープ
- 強度が高く水に強い。水に浮く軽さも特徴。
- サイザルロープ
- ユカタン半島やジャワ島などに生育するサイザルアサの繊維で作られたロープで、ヘンプロープやマニラロープと比較して色が白い[1]。マニラロープの生産量減少に伴い、代替品として流通量が増えた。強度はマニラロープの3分の2程度[1]だが、安価。
- ヘンプロープ
- 大麻(ヘンプ)で作られたロープで、白麻ロープとも呼ばれる[1]。強度は天然繊維索の中で最も高いが、水に弱いため、雨などの影響を受けない場所で使用する[1]。
- シュロ縄
- 天然繊維の中でもっとも劣化(腐敗)しにくいと言われ、造園の竹垣などによく使われる。黒または茶色に染めてあることが多い。
金属[編集]
- 炭素鋼
- いわゆるワイヤーロープ用として最も多く用いられている。
- ステンレス
- 美観が求められる建築部材、酸や食品を扱う機械類用、接水部や原子力用など防食性・耐久性が求められるワイヤーロープに用いられている。
その他[編集]
- ガラス繊維
- ガラス繊維単体では耐久性に難があるので、化学繊維や合成樹脂と複合して用いられる。
- 柔軟性は乏しいが伸びが小さく軽量、高強度、電気絶縁性に優れるので、放送局用大規模アンテナの補強や展張に多用されている。
構造による分類[編集]
縒りロープ[編集]
繊維を縒り合わせた糸(ヤーン)を、さらに縒り合わせて作った子縄(ストランド)を縒り合わせたロープ。ヤーンとストランドの縒り方向を逆にしてあるため、簡単にはほどけなくなっている。
3本のストランドを縒り合わせた三つ縒りが多い。縒りの方向によりZ縒りとS縒りに分類されるが、Z縒りの製品が多い。編みロープよりやや硬い。また、よじれができやすい。
編みロープ[編集]
ヤーンやストランドを編んで作ったロープ。筒状に編み込んだ外皮(マントル)で複数のストランドを束ねて作った芯(カーン)を覆う丸編みと、S縒りストランド2本とZ縒りストランド2本を交互に編み上げた角編みに分類される。特に前者、丸編みのものは「カーン・マントル構造」と呼ばれている[2]。素材繊維が同一の場合、編みロープは縒りロープより伸びやすいが、キンク(くの字に曲がって戻らなくなった状態のこと)や型崩れが少なく、荷重を掛けたときのねじれや縒りが戻る方向の回転を生じにくいので、扱いやすい。同径の縒り構造のロープより高価である。
登山[編集]
岩登りや沢登りでの、墜落・滑落防止のための確保、懸垂下降、荷揚げ、救助、固定(フィックス)ロープやチロリアンブリッジなどのルート作りに使われる。ロープ単体だけでなく、カラビナや下降器などの登攀具と組み合わせることで目的の機能を構築できる。
水泳[編集]
競泳でのコース作りに使われ、「コースロープ」と呼ばれている。ステンレス製のワイヤーに、消波効果を持つポリエチレン製やポリプロピレン製などのフロートを取り付け、水面に浮かせて伸ばす[3][4]。
船舶[編集]
船・船舶では古来、多種多様な用途にロープを用いてきた。現代では大荷重部に金属ワイヤーロープ、漁具のほか、弾性を要する用途や人手による取り扱いを要する用途には、ナイロンやポリエステルなどの化学繊維が多用されている。
古くは「纜」(ともづな)や「もやい綱」と呼ばれ、現代の船舶用語ではhawser(ホーサー)と呼ばれている船舶を係留する際に用いるロープは、その時代において最も強度の高い素材が採用されてきた。現代の大型船係留用途のものでは、ナイロン系素材でø120ミリメートル、引張強度300トン以上のロープが製造されている。
運送[編集]
運送時の荷物の荷造りなどに使われる。
結び方[編集]
縛り[編集]
縄は人を縛るためにも使われる。これを緊縛という。罪人を捕まえる場合、その自由を奪う方法として縄で縛るのがよく行われた。逮捕されることを「お縄」というのは、これに起因する。古くは捕縄術が発達した。
また、日本のSMにおいて緊縛は必須プレイとなっており、亀甲縛りなどのさまざまな縛り方が考案されている。これは、第二次世界大戦後のSM雑誌の発展に起因する。もともと囚人を捕縛した「責め絵」趣向からはじまったものであるが、1968年(昭和43年)に発刊した『SMマガジン』における編集者・飯田豊一らを中心に次第に縄目の美しさなどへのこだわりから、より複雑なものに発展していった[5]。その影響は、漫画などさまざまな分野にも見られる。
プログラミング[編集]
プログラミングの世界では、文字列やデータ列をストリング(糸)と呼ぶ。ここから、単なる文字列よりも高機能なクラスなどをロープと呼ぶことがある。縄は糸の発展形だからという一種のジョーク。
歴史[編集]
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日本文化の中の縄[編集]
日本では、古くから道具として縄が使われた。古いものは、アジアで最も古い16000年前の縄の痕が縄文土器に遺されている。
縄を結うという行為は、材料の葛や藁、すなわち自然界の産物を治めて道具に変えるという神聖なものとして、自然界を治める行為の象徴とされた。日本では人間の力の及ばない「神(八百万の神)」を治め、その力を治める象徴として縄が用いられた。古くは『日本書紀』にもそのような記述があり、弘計天皇の項に「取結縄葛者」とある(注連縄を参照)。
さらに、江戸時代には幕末まで、温故堂にて伝説の縄の発明者葛天氏が和学として、塙保己一・塙忠宝親子によって講談されていた。
相撲の世界で横綱が誕生したときに部屋の者全員で横綱の綱を結うのは、「神」とされる横綱の力を治めるためであり、日本の神社で神として祭られているものに縄が巻かれていたりするのは、そのためである。
また、縄で囲って所有権を主張するのを縄張りといい、現在では動物生態学用語にも「縄張り行動」として使われている。
格闘技[編集]
格闘技では、リングアウトなどを防ぐためにリングの外周をロープで囲んでいる。
プロレスにおいては、技をかけられている選手がロープを掴んだ場合、技から逃れることができるルールになっており、これを「ロープ・ブレイク」や「ロープ・エスケープ」、または単に「ロープ」と呼ぶ。ただし、特別ルールによりロープ・ブレイクが認められない場合もあり、これを「ノーロープ・ルール」と呼ぶ。ノーロープは、主にロープ自体が使われていないものや、ロープの代わりに金網や有刺鉄線などが使用されているケースが多い。UWFルールでは、ロープ・ブレイクで持ち点が1減点される。
総合格闘技ではロープ・ブレイクは認められておらず、逆に故意に掴んだ場合は反則を取られることもある。ただし、ロープ際での攻防が続く場合はブレイクになる場合がある。
ボクシングでは、相手の攻撃を受け続けてロープにもたれかかった場合にダウンを取ることがあり、これを「ロープダウン」と呼ぶ。
脚注[編集]
参考文献[編集]
- 和田守健 『ロープの結び方』 舵社、2003年。
- 下川耿史、「変態の総合デパート『奇譚クラブ』から『SMセレクト』が産声を上げるまで」。『性メディアの50年 欲望の戦後史ここにご開帳!』(1995)。宝島社、別冊宝島240号
- 小暮幹雄 『図と写真でよくわかる ひもとロープの結び方』 新星出版社、2015年8月25日。ISBN 978-4-405-07145-2。