シュウ酸塩

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シュウ酸イオンの構造
シュウ酸塩の球棒モデル

シュウ酸塩 (英語:OxalateIUPAC名:エタン二酸塩ethanedioate))は化学式C2O2−
4
または(COO)2−
2
で表される2価陰イオンを含むシュウ酸誘導体である。シュウ酸ナトリウム(Na2C2O4)などがある。

錯体を作ることもでき、この場合oxと表記される場合もある。

尿路結石の原因となるシュウ酸カルシウムを始め、多くの金属イオンと不溶性の錯体を作る。

なお、シュウ酸ジメチル英語版((CH3)2C2O4)などシュウ酸エステルは含めない。

シュウ酸との関係[編集]

他の多塩基酸と同様、シュウ酸のプロトンも1個ずつ脱離していく。シュウ酸分子からプロトンが1個脱離すると、1価の陰イオンであるシュウ酸水素塩英語版HC2O
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)が生成する。このアニオンは酸性シュウ酸塩(acid oxalate), 一塩基シュウ酸塩(monobasic oxalate)、 シュウ酸水素塩(hydrogen oxalate)などと呼ばれることもある。最初のプロトン脱離反応の平衡定数 (Ka)は5.37 × 10−2 (pKa = 1.27)である。2回目のプロトン脱離反応の平衡定数は5.25 × 10−5 (pKa = 4.28)である。これらの値からわかるように、pH中性に近いシュウ酸溶液ではシュウ酸イオンはほとんど存在せず、シュウ酸水素イオンがわずかに存在するのみである[1]。この事典ではしばしばH2C2O4, HC2O
4
C2O2−
4
が混同され、物質の索引ではどちらも「シュウ酸」(oxalic acid)として参照されている。

構造[編集]

単純なシュウ酸塩化合物のX線結晶構造解析によって、平面分子のD2hか、O–C–C–Oの二面角が90°であるD2dに近い分子対称性を持っていることが示されている[2]特に、M2C2O4 (M = Li, Na, K)の固体ではD2hの平面配座をとる[3][4]。しかし、シュウ酸セシウム(Cs2C2O4)ではO–C–C–Oの二面角が81(1)°になっている[注 1][5]。したがって、CO2を含む2つの平面が千鳥状に配置されているため、Cs2C2O4はD2dの構造に近い。また、シュウ酸ルビジウム(Rb2C2O4)を単結晶X線回折で解析すると2種類の構造が得られる。一つは平面型で、一つは千鳥配置型である。

上記の例からわかるように、シュウ酸塩の分子の形は結合しているアルカリ金属イオンの大きさに依存し、中央のC-C結合に回転障壁が生じる場合がある。この結合の回転障壁は計算によって求められ、束縛のない二価陰イオン(C2O2−
4
)についておよそ2–6 kcal/molと求められる[6][7][8]。この結果は2つのCO
2
の間でのπ電子相互作用英語版が最小になるように炭素-炭素結合が配置されるという解釈と矛盾なく一致する[2]。C−C結合の回転障壁 (これは平面型と千鳥型のエネルギーの差に等しい) は、平面型では、酸素原子間での反発が最大化されることに起因している。

重要なのは、シュウ酸塩はシュウ酸第二鉄カリウムなどのように二配位キレート配位子となることである。錯体の中心金属原子が1個である場合は、必ず平面配座をとる。

天然における存在[編集]

シュウ酸塩は炭水化物の不完全酸化によって合成され、植物中に大量に存在する。

シュウ酸塩が豊富な植物には、シロザスイバカタバミ属の植物などがある。ルバーブソバの根や葉もシュウ酸が豊富である[9]。その他のシュウ酸を多く含む食物を、下の表に降順に並べている。 茶葉には他の植物より高濃度でシュウ酸が含まれているが、は通常茶葉を熱湯で煎じ出し英語版てから作られるため、飲料での濃度は低い。

身体への作用[編集]

尿路結石をスキャンした電子顕微鏡写真英語版。結石の中心にあるアモルファスな部分から生まれた正方晶ウェッデル石英語版(シュウ酸カルシウム二水和物)が見える。写真の横幅は実物の0.5mmに相当する。

体内では、シュウ酸イオンはカルシウムイオン(Ca2+)や鉄(II)イオン(Fe2+)などの2価の陽イオンと結合してそれらのシュウ酸塩を作り、尿から小さな結晶として排出される。この結晶が大きくなると尿路結石となり、やがてはネフロンを塞ぐこととなる。結石は約80%がシュウ酸カルシウム由来であるとされる[11]。体内のシュウ酸を減らす食べ物が近年注目を集めている[12]

痛風の人やそのリスクが高い人は[13]、シュウ酸が多い食べ物を避けるべきとされている[14]

カドミウムビタミンCをシュウ酸に変換する触媒となる。これは食事や仕事、喫煙などでカドミウムへの曝露が多い人々の間で問題となっている。

ラットにカルシウムのサプリメントとシュウ酸の多い食事を与えると、腸内でシュウ酸カルシウムが生成し、体内への吸収が97%のラットで抑えられたという研究結果が出ている[15][16]

粉末状のシュウ酸塩は養蜂ミツバチヘギイタダニ英語版から蜂を守るための殺虫剤として用いられる。

コウジカビの一部はシュウ酸を作る[17]

予備的な証拠から体内の微生物をうまく調整することでシュウ酸の体外への排出量を増やすことができることが示されている[18]

配位子[編集]

シュウ酸の共役塩基であるシュウ酸イオンは金属イオンに対してよい配位子となる。2箇所で金属と配位結合し、MO2C2という五員環を作る。代表的な錯体は鉄オキサラトカリウムK3[Fe(C2O4)3])である。オキサリプラチンという薬はプラチナをベースにしたかつての薬より水への溶解度が向上し、かつ服用制限の原因となっていた副作用腎毒性英語版を軽減した。シュウ酸やシュウ酸塩は自触媒反応過マンガン酸塩によって参加される。シュウ酸は鉄(III)イオン英語版と水に可溶な錯体を作るので、サビ取りに利用されている。

シュウ酸過多による病気[編集]

シュウ酸を摂りすぎたことによる症状を蓚酸症(hyperoxalemia)といい、特に尿中に多量のシュウ酸が含まれている状態を高シュウ酸尿症英語版という。

後天性[編集]

一般的なものではないが、シュウ酸の過剰摂取(例えば、家畜がBassia hyssopifolia英語版などのシュウ酸の多い植物を食べたり、ヒトが紅茶カタバミといった特にシュウ酸の多いものを摂取した場合)によってシュウ酸の毒性により尿路結石ができたり、最悪の場合死亡したりすることもある。ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンには"ほぼ確実にアイスティーの飲み過ぎによって"深刻な腎臓病英語版)になった56歳の男性の症例が報告されている。彼は"毎日8オンスグラス16杯" (およそ33/4リットル)もの紅茶を飲んでいたとされる。この論文の著者は深刻な腎臓病は腎不全の過小診断の原因となり、尿蛋白尿円柱中の大量のシュウ酸カルシウムによらない不可解な腎不全であるおそれがあるので、患者の食事歴を徹底的に調べることを提案した[19]腸内細菌のうちOxalobacter formigenes英語版などのシュウ酸分解菌はこれらの症状を緩和してくれる[20]

先天性[編集]

原発性高シュウ酸尿症英語版は遺伝性の珍しい病気であるが、シュウ酸の排出が増え、シュウ酸結石を持つ可能性が高くなる病気である。

関連項目[編集]

脚注[編集]

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注釈[編集]

  1. ^ 81(1)°と表記した場合、(1)は測定値81°に対し1°の不確かさを含むことを示している。

出典[編集]

  1. ^ Riemenschneider, Wilhelm; Tanifuji, Minoru (2000). “Oxalic Acid”. ウルマン産業化学事典英語版. doi:10.1002/14356007.a18_247. ISBN 3-527-30673-0. 
  2. ^ a b Dean, Philip A. W. (2012). “The Oxalate Dianion, C2O2−
    4
    : Planar or Nonplanar?”. Journal of Chemical Education 89 (3): 417–418. Bibcode 2012JChEd..89..417D. doi:10.1021/ed200202r.
     
  3. ^ Reed, D. A.; Olmstead, M. M. (1981). “Sodium oxalate structure refinement”. Acta Crystallographica Section B 37 (4): 938–939. doi:10.1107/S0567740881004676. 
  4. ^ Beagley, B.; Small, R. W. H. (1964). “The structure of lithium oxalate”. Acta Crystallographica 17 (6): 783–788. doi:10.1107/S0365110X64002079. 
  5. ^ Dinnebier, Robert E.; Vensky, Sascha; Panthöfer, Martin; Jansen, Martin (2003). “Crystal and Molecular Structures of Alkali Oxalates: First Proof of a Staggered Oxalate Anion in the Solid State”. Inorganic Chemistry 42 (5): 1499–507. doi:10.1021/ic0205536. PMID 12611516. 
  6. ^ Clark, Timothy; Schleyer, Paul von Ragué (1981). “Conformational preferences of 34 valence electron A2X4 molecules: Anab initio Study of B2F4, B2Cl4, N2O4, and C2O2−
    4
    ”. Journal of Computational Chemistry 2: 20–29. doi:10.1002/jcc.540020106.
     
  7. ^ Dewar, Michael J.S.; Zheng, Ya-Jun (1990). “Structure of the oxalate ion”. Journal of Molecular Structure: THEOCHEM 209: 157–162. doi:10.1016/0166-1280(90)85053-P. 
  8. ^ Herbert, John M.; Ortiz, J. V. (2000). “Ab Initio Investigation of Electron Detachment in Dicarboxylate Dianions”. The Journal of Physical Chemistry A 104 (50): 11786–11795. Bibcode 2000JPCA..10411786H. doi:10.1021/jp002657c. 
  9. ^ Streitweiser, Andrew, Jr.; Heathcock, Clayton H. (1976). Introduction to Organic Chemistry. Macmillan. p. 737. 
  10. ^ Resnick, Martin I.; Pak, Charles Y. C. (1990). Urolithiasis, A Medical and Surgical Reference. W.B. Saunders Company. pp. 158. ISBN 0-7216-2439-1. 
  11. ^ Coe; Evan; Worcester (2005). “Kidney stone disease”. The Journal of Clinical Investigation英語版 115 (10): 2598–608. doi:10.1172/JCI26662. PMC 1236703. PMID 16200192. http://www.pubmedcentral.nih.gov/articlerender.fcgi?tool=pmcentrez&artid=1236703. 
  12. ^ Betsche, T.; Fretzdorff, B. (2005). “Biodegradation of oxalic acid from spinach using cereal radicles”. Journal of Agricultural and Food Chemistry 英語版 53 (25): 9751–8. doi:10.1021/jf051091s. PMID 16332126. 
  13. ^ UMMC Condition Guide: Gout”. 2016年6月24日閲覧。
  14. ^ UPMC Article, Low Oxalate Diet”. 2016年6月24日閲覧。
  15. ^ Morozumi, Makoto; Hossain, Rayhan Zubair; Yamakawa, Ken'ichi; Hokama, Sanehiro; Nishijima, Saori; Oshiro, Yoshinori; Uchida, Atsushi; Sugaya, Kimio et al. (2006). “Gastrointestinal oxalic acid absorption in calcium-treated rats”. Urological research 34 (3): 168–72. doi:10.1007/s00240-006-0035-7. PMID 16705467. 
  16. ^ Hossain, R. Z.; Ogawa, Y.; Morozumi, M.; Hokama, S.; Sugaya, K. (2003). “Milk and calcium prevent gastrointestinal absorption and urinary excretion of oxalate in rats”. Frontiers in Bioscience英語版 8 (1–3): a117–25. doi:10.2741/1083. PMID 12700095. 
  17. ^ Pabuççuoğlu, Uğur (2005). “Aspects of oxalosis associated with aspergillosis in pathology specimens”. Pathology – Research and Practice 201 (5): 363–8. doi:10.1016/j.prp.2005.03.005. PMID 16047945. 
  18. ^ Lieske, J. C.; Goldfarb, D. S.; De Simone, C.; Regnier, C. (2005). “Use of a probiotic to decrease enteric hyperoxaluria”. Kidney International 68 (3): 1244–9. doi:10.1111/j.1523-1755.2005.00520.x. PMID 16105057. 
  19. ^ Syed, Fahd; Mena Gutiérrez, Alejandra; Ghaffar, Umbar (2 April 2015). “A Case of Iced-Tea Nephropathy”. ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン 372 (14): 1377–1378. doi:10.1056/NEJMc1414481. PMID 25830441. 
  20. ^ Siener, R.; Bangen, U.; Sidhu, H.; Hönow, R.; von Unruh, G.; Hesse, A. (2013). “The role of Oxalobacter formigenes colonization in calcium oxalate stone disease”. Kidney International 83 (June): 1144–9. doi:10.1038/ki.2013.104. PMID 23536130.