二面角

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Dihedral angle.png

二面角(にめんかく、: dihedral angle)は、2つの平面(またはその部分集合)がなす角度である。たとえば、二面角が0なら2面は平行(同一の場合を含む)で、π/2(90°)なら垂直である。

二面角は、法線同士の角度として定義される。つまり、2面の法線ベクトルabとすると二面角φは

 | \mathbf a | | \mathbf b | \cos \phi = \mathbf a \cdot \mathbf b

で表せる。cosを取っているため、二面角は2π(360°)の周期性を別にしても一意には決まらないが、通常は0~π(180°)の範囲で表す。ただし、多面体など内側と外側を区別する場合は、0~360°の範囲で表す。また、内側・外側も面の向きも区別しない場合は、

 | \mathbf a | | \mathbf b | \cos \phi = | \mathbf a \cdot \mathbf b |

絶対値を取り、0~π/2(90°)の範囲で表す。2つの平面は鋭角鈍角の2つの角度を為すので、そのうち鋭角のほうを取っていることになる。

二面角は、2面に垂直な平面(平行移動自由度を残して決まる)での断面内で考えると、通常の直線同士の角度に還元できる。面の断面は直線なので、断面の2直線がなす角度が2面の二面角である。

二面角は、3つの(でない)ベクトルabcに対しても定義でき、面ab(ベクトルaとベクトルbを含む面)と面bcの二面角を考える。また、4つの(異なる)点A・B・C・Dについても、面ABCと面BCDの二面角を考える。面ABCと面BCDの二面角が0でない場合、直線ABと直線CDはねじれの位置にある。このため、ねじれ角torsion angle)ともいう。

多面体[編集]

多面体では、で隣り合う2面の二面角を考える。(単に二面角といった場合は、それ以外の二面角は無視する)凸多面体は、全ての二面角が180°未満の多面体であると定義される。正多面体と準正多面体(半正多面体の特殊例)は、全ての二面角が等しい。このほかに、それらの変形(立方体の変形の直方体など)でもそれは成り立つ。

化学[編集]

化学において、二面角とは2原子を共有した2組の3原子を通る面の間の角度である。化学では、原子がA-B-C-Dと結合しているときの二面角が、立体配座を決定する要素のひとつとして重要である。二面角は結合距離結合角に比べ自由度が大きいため、特に比較的大きな有機化合物においては全体構造を決定する重要な要素である。

定義[編集]

二面角は2つの交差する面の間の、交線に垂直な3つ目の面上での角度である[1]

ねじれ角(torsion angle[2])は二面角の一例であり、立体化学において化学結合によって連結された分子の2つの部分の幾何的関係を定義するために使われる。

立体化学における二面角[編集]

Synantipericlinal.svg Newman projection butane -sc.svg Sawhorse projection butane -sc.png
配置の名称 syn n-ブタン
ニューマン投影式
syn n-ブタン
のこぎり台投影式
二面角の関数としてのブタンの自由エネルギー図。

立体化学において、分子の3つの(同一線上にない)原子の全ての組によって面が定義される。こういった面の2つが交わる時、それらの間の角が二面角である。二面角は分子の配座を特定するために使われる[3]。0º と±90º の間の角度に対応する立体化学配置はシン(syn、s)と呼ばれ、 ±90º と180º の間の角度に対応する配置はアンチ(anti、a)と呼ばれる。同様に、30º と150º あるいは−30º と−150º の間の角度に対応する配置はクリナル(clinal、c)、0º と±30º あるいは±150º と180º の間はペリプラナー(periplanar、p)と呼ばれる。

これら2種類の用語を組み合わせて角度の4つの領域を定義できる。0º から±30º はシンペリプラナー(sp)、30º から90º および−30º から−90º はシンクリナル(sc)、90º から150º および−90º から−150º はアンチクリナル(ac)、±150º から180º はアンチペリプラナー(ap)である。シンペリプラナー配座はシン (syn-) あるいはシス(cis-)配座、アンチペリプラナーはアンチ(anti)あるいはトランス(trans)、シンクリナルはゴーシュ(gauche)あるいはスキュー(skew)とも呼ばれる。

例えば、n-ブタンでは、2つの中心炭素原子と両端のメチル基の炭素原子の一方の観点から2つの面を特定することができる。上に示されている二面角60º のシン配座は二面角180º のアンチ配座よりも不安定である。

高分子では、記号T、C、G+、G、A+、Aが推奨される(それぞれap、sp、+sc、-sc、+ac、-acに対応する)。

タンパク質の二面角[編集]

タンパク質の描写。主鎖の二面角が示されている。

1963年にG・N・ラマチャンドラン、C・ラマクリシュナン、V・サシセクハランによって開発された[4]ラマチャンドラン・プロットタンパク質構造中のアミノ酸残基の主鎖の二面角φに対してエネルギー的に許容される角度ψの領域を可視化する方法である。右の図は主鎖の二面角φおよびψの定義を表わしている[5]

タンパク質鎖では、図に示されているように3つの二面角φ(ファイ)、ψ(プサイ)、ω(オメガ)が定義される。ペプチド結合の平面性によって、ωは180º (典型的なトランス配座)あるいは0º (稀なシス配座)に大抵制限される。トランスおよびシス異性体におけるCα原子間の距離はそれぞれ約3.8および2.9 Åである。シス異性体は主に、Xaa-Proペプチド結合(Xaaは任意のアミノ酸)において観察される。

側鎖の二面角は180º、60º、−60º 近くに集まる傾向にあり、それぞれトランス、ゴーシュ+、ゴーシュ配座と呼ばれる。特定の側鎖の二面角の安定性は隣接した主鎖および側鎖の二面角によって影響される。例えば、原子同士の衝突が増大するためゴーシュ+配座の次にゴーシュ+配座が続くのは稀である。

脚注[編集]

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  1. ^ IUPAC, Compendium of Chemical Terminology, 2nd ed. (the "Gold Book") (1997). オンライン版:  (2006-) "dihedral angle".
  2. ^ IUPAC, Compendium of Chemical Terminology, 2nd ed. (the "Gold Book") (1997). オンライン版:  (2006-) "torsion angle".
  3. ^ Anslyn, Eric; Dennis Dougherty (2006). Modern Physical Organic Chemistry. University Science. p. 95. ISBN 978-1891389313. 
  4. ^ Ramachandran, G.N.; Ramakrishnan, C.; Sasisekharan, V. (1963). “Stereochemistry of polypeptide chain configurations”. Journal of Molecular Biology 7: 95–9. doi:10.1016/S0022-2836(63)80023-6. PMID 13990617. 
  5. ^ Richardson, J.S. (1981). “Anatomy and Taxonomy of Protein Structures”. Advances in Protein Chemistry. Advances in Protein Chemistry 34: 167–339. doi:10.1016/S0065-3233(08)60520-3. ISBN 9780120342341. PMID 7020376.