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立体化学

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

立体化学(りったいかがく、英語:stereochemistry)とは、分子の3次元的な構造のこと、あるいはそれを明らかにするための方法論や、それに由来する物性論などを含めた学問領域をいう。

化学物質の立体的な構造は、その物性に極めて大きな影響を及ぼす。したがって、立体化学は化学のなかでも最も基本的かつ重要な項目である。基本的な分野であるため、講義科目や教科書名で多用される用語である。

概要

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ある分子について、それを組み立てている元素の種類と数を表したものが分子式である。しかしながら、同じ分子式であっても、各原子同士の結合の種類や方向、すなわち分子構造が異なると、全く性質の異なる分子となる。このように、同じ分子式でありながら構造が異なるものを異性体という。また、ある分子が異性体に変化することを異性化という。

異性体には、大きく分けて構造異性体立体異性体がある。立体異性体はさらに幾何異性体ジアステレオマーおよび光学異性体(鏡像異性体)に分類される。

立体異性体の原因となるような、通常では非可換な原子の空間的な配置を立体配置という。また、室温で容易に変換しうる空間配置を立体配座という。

立体化学は、分子実体における原子の空間的配置と、その配置の差が物理的性質および化学反応性に及ぼす影響を扱う化学の側面である[1]。この範囲には、分子式や原子の結合順序だけでは区別できない三次元的な差異と、その差異を図示・命名・比較するための規則が含まれる[1]

立体化学で扱う「空間的な配置」は、異性体の階層の中では、まず立体異性体の定義によって位置づけられる。立体異性体は、同一の構成を持ちながら、原子の空間的配置が異なる異性体である[2]。立体異性を生じさせる単位には、識別できる配位子をもつ中心原子、安定な配座にある非平面の4原子鎖、置換基によってシス–トランス異性を生じる二重結合が含まれる[3]

立体配置立体配座は、いずれも原子の空間配置に関わる語であるが、用語上の射程は異なる。立体配置は、立体異性体を区別する分子実体中の原子配列のうち、配座の違いに由来しないものを指す[4]。立体配座は、形式的な単結合まわりの回転によって相互変換できる立体異性体を区別する原子の空間配置であり、三角錐中心での反転や多面体的な組換えまで含めて用いられることがある[5]

三次元的な関係は、論文、教科書、データベース、計算機画面では二次元の構造式として表されることが多い。平面上の構造式では、太線、破線、くさび形結合などの結合表記を平面的な図に加えることで、図の面に対して原子や結合が手前側または奥側にあることを示す[1]。二重結合の配置では、同じ二重結合の両端にある置換基が同じ側にあるか反対側にあるかという位置関係が、シス–トランス配置の記述に関係する[1]。標準的な二次元の化学構造式では、単結合を一本の線分、二重結合を二本の平行線分、原子を原子記号で表示する形式が前提になる。紙面、電子画面、透明フィルムなどの表面は図の面として扱われ、その面に対して手前側か奥側かという向きが立体表記の読みに使われる[1]。同じ骨格式であっても、立体結合の種類、向き、位置は、その図が配置情報を含むかどうかを左右する[1]

構造式の表記は、絶対配置が既知の単一構造、絶対配置が未知の構造、ラセミ混合物、複数の立体中心間の相対配置だけが分かる場合を区別して扱う。対象が同じ結合順序を持つ化合物でも、単一のエナンチオマーラセミ体、未知配置の試料では、図や説明が指す化学種の範囲が異なる[1]

以下に立体化学で取り扱われる主な項目を概説するが、詳しくはそれぞれのリンク先を参照されたい。

構造異性体

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構造異性体とは、分子式は等しいものの、原子のつながり方(示性式)が異なるもの同士をいう。例えば、1-プロパノール CH3−CH2−CH2−OH と2-プロパノール CH3−CH(OH)-CH3 は互いに構造異性体である。

立体異性体

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立体異性体とは、分子式および構成原子のつながり方までは等しいものの、原子同士の空間的な配置が異なるもの同士をいう。その結合様式の違いから、幾何異性体ジアステレオマーおよびエナンチオマー光学異性体)に分類される。

不斉源がn個ある場合、その化合物の異性体は2n個でき、そこから2つ選択したときの各々の関係は、ジアステレオマーかエナンチオマー、あるいはメソ体の関係になる。光学異性体を2次元平面上で表すには投影式を用い、光学異性体同士はRSDLなどの命名法を使って表記する。

幾何異性体

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幾何異性体とは、構成原子と結合関係は等しいが、空間的な構造が異なっていて、通常の条件では相互に非可換な異性体を言う。二重結合を持つ物質でのE体Z体、正八面体型錯体におけるcis体とtrans体などの例がある。

ジアステレオマー

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ジアステレオマーとは、不斉源を複数持つ化合物のうち、互いに鏡像ではない異性体である。例えば、2つの不斉炭素を持つ化合物において、RR体とRS体の関係をいう。また、この例で言えば、RR体をsyn体、RS体をanti体という。場合によってはerythro体・treo体、あるいはendo体・exo体という分類がされることもある。

ジアステレオマーのうち、特に一箇所だけ不斉が異なるもの同士をエピマーといい、エピマーになることをエピメリ化という。また、糖化合物ではアノマーが生成する。

エナンチオマー

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エナンチオマー(光学異性体・鏡像異性体)とは、互いに鏡像関係にある異性体である。1つの不斉炭素であれば、R体とS体がエナンチオマーであり、2つの不斉炭素を持つ化合物においては、RR体とSS体がエナンチオマーになる。エナンチオマー同士はキラルであり、旋光度以外の物理的性質は完全に等しいため、分離するには特殊な方法を要する。

一対のエナンチオマーの当量混合物をラセミ体という。これは全く旋光性を示さないが、どちらかの鏡像体が多いと光学活性体となる。化学合成において、どちらか一方のエナンチオマーだけを合成することを不斉合成といい、その立体選択性鏡像体過剰率で評価される。

立体配置と立体配座

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立体配置とは、通常の条件では非可換な構造の違いをいい、上記の立体異性体の元になるものである。

立体配座とは、原子団の相対的な立体配置のことをいい、単結合周りの回転のように、自由に変化する。相対的な位置関係によって、単結合回りではゴーシュエクリプススタッガード・アンチ(トランス)、シクロヘキサンなどの平面に対してはアキシアルエカトリアルという区別をする。クラム則によって反応性を議論する際などには重要である。

立体化学の決定法

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単純な有機化合物の場合は、NMRによってほぼ完全に立体化学を決定することができる。近年では新モッシャー法などの発展により、絶対立体配置も決定できるようになってきた。しかし現在のところは、単結晶を作成してX線構造解析をするのが最も確実である。

脚注

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  1. 1 2 3 4 5 6 7 Graphical Representation of Stereochemical Configuration (IUPAC Recommendations 2006)”. IUPAC Recommendations on Organic & Biochemical Nomenclature, Symbols, Terminology, etc.. International Union of Pure and Applied Chemistry. 2026年6月27日閲覧。
  2. stereoisomers”. IUPAC Compendium of Chemical Terminology. International Union of Pure and Applied Chemistry. doi:10.1351/goldbook.S05984. 2026年6月27日閲覧。
  3. stereogenic unit”. IUPAC Compendium of Chemical Terminology. International Union of Pure and Applied Chemistry. doi:10.1351/goldbook.S05980. 2026年6月27日閲覧。
  4. configuration”. IUPAC Compendium of Chemical Terminology. International Union of Pure and Applied Chemistry. doi:10.1351/goldbook.C01249. 2026年6月27日閲覧。
  5. conformation”. IUPAC Compendium of Chemical Terminology. International Union of Pure and Applied Chemistry. doi:10.1351/goldbook.C01258. 2026年6月27日閲覧。

関連項目

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外部リンク

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