琥珀

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琥珀
Baltic amber. Polished stones]
バルト海産の琥珀
分類 有機鉱物
シュツルンツ分類 10.C その他の有機鉱物
化学式 主成分C10H16O+(H2S)>
結晶系 非晶質
へき開 なし
断口 貝殻状断口
モース硬度 2 ~ 2.5
光沢 樹脂光沢無光沢
蜂蜜色白色黒色
条痕 白色
密度 1,05 ~ 1,096(g/cm3)
光学性 透明、半透明、不透明
プロジェクト:鉱物Portal:地球科学
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琥珀のペンダント
古代から続く琥珀の道(古代から琥珀市場が開かれていたポーランド、カリシュ市)

琥珀(こはく)またはコハク: Amber、アンバー)は、天然樹脂化石であり、宝石である。半化石の琥珀はコーパル: Copal)、加熱圧縮成形した再生コハクはアンブロイド(: ambroid)という[1]

バルト海沿岸で多く産出するため、ヨーロッパでは古くから知られ、宝飾品として珍重されてきた。

鉱物ではないが、硬度は鉱物に匹敵する。色は、黄色を帯びたあめ色のものが多い。

組成[編集]

琥珀は純物質ではないが、主成分は高分子イソプレノイドである。これは、樹液に含まれるテルペンが天然樹脂やその化石となる過程の高温・高圧の下で、酸化蒸発重合などの化学変化を起こし、その結果として生じた重合体である[2]

200℃以上に加熱すると、油状の琥珀油に分解され、過熱を続けると黒色の残留物である「琥珀ヤニ、琥珀ピッチ」という液体になる[3]

名称[編集]

「琥」の文字は、中国において虎が死後に石になったものだと信じられていたことに由来する[4]。 日本の産地である岩手県久慈市の方言では、「くんのこ」と呼ばれる。

英語

英名 amberアラビア語: عنبر‎ ('anbar)に由来する。

古代ギリシア

古代ギリシアではエーレクトロン (古希: ἤλεκτρον)と呼ばれる。意味は「太陽の輝き」という意味である[5]。 英語で電気を意味するelectricityは琥珀を擦ると静電気を生じることに由来している[6]

古代ローマ

古代ローマでは、 electrum、sucinum (succinum)、glaesum、glesum[7]などと呼ばれていた[8]

ドイツ語

ベルンシュタインドイツ語:Bernstein) -ドイツ語で「燃える石」の意で、琥珀を指す。これは可燃性である石であることから名づけられた。

琥珀の利用[編集]

装飾

ネックレスペンダントネクタイピンボタンカフリンクス指輪などの装身具に利用されることが多い。人類における琥珀の利用は旧石器時代にまでさかのぼり、北海道の「湯の里4遺跡」、「柏台1遺跡」出土の琥珀玉(穴があり、加工されている)はいずれも2万年前の遺物とされ、アジア最古の出土(使用)例となっている[9]。また、バイオリンの弓の高級なものでは、フロッグと呼ばれる部品に用いられることがある。

宝石のトリートメントとして、小片を加熱圧縮形成したアンブロイド、熱や放射線等によって着色する処理も行われている。

ニス

熱で溶解した琥珀にテレビン油またはアマニ油を溶解させた場合は、「琥珀ニス、琥珀ラッカー」と呼ばれる状態になり、木材の表面保護と艶出しとして塗布される[3]

薬用

その他の利用法として、漢方医学で用いられることがあったという。 南北朝時代医学者陶弘景は、著書『名医別録』の中で、琥珀の効能について「一に去驚定神、二に活血散淤、三に利尿通淋」(精神を安定させ、滞る血液を流し、排尿障害を改善するとの意)と著している[4]

ポーランドグダンスク地方では琥珀を酒に浸し、琥珀を取り出して飲んでいる。

古生物学
「アリ入り」琥珀

琥珀は樹脂が地中で固化してできるものであるため、石の内部に昆虫(ハエ、アブ、アリ、クモなど)や植物のなどが混入していることがある。こうしたものを一般に「虫入り琥珀」と呼ぶ[4]。 昆虫やクモ類などは通常の化石ではあり得ないような細部まで保存されていることから化石資料としてきわめて有用である。ただし、小説『ジュラシックパーク』の設定のように、数千万年前に琥珀に閉じ込められた生体片のDNAを復元することは実際には不可能である[10]

なお、市販の「虫入り琥珀」については、コーパルなどを溶解させ現生の昆虫の死骸などを封入した、いわば「人造虫入り琥珀」である場合がある。

香料

特定の条件で琥珀を燃やした時に松木を燃やしたような香りがするが、近年の琥珀の香りと呼ばれるものは、人工的に再現された香が特許として取得され使用されている[11][12][13]

それとは別に、近年のアンバーと呼ばれる香には、アンバーグリスを再現したものも指している[14][15]。このアンバーグリスは、琥珀と同様に浜に打ち上げられたマッコウクジラ結石である。

琥珀と似たような香木には、同様に樹脂の化石である薫陸というのも存在するがコハク酸を含まない。

産地[編集]

ポーランド、グダンスク琥珀製造業者組合のパレード

主な産地はかつてのプロイセンに相当する地域である、ポーランドグダンスク沿岸と、ロシア連邦カリーニングラード州で、ポーランド・グダンスク沿岸とカリーニングラード州だけで世界の琥珀の85%を産出[16]し、そのほかでも、リトアニア共和国ラトビア共和国など大半がバルト海の南岸・東岸地域である。

琥珀の道

産地であるバルト海沿岸を中心に、琥珀の交易路が整備された。この交易路は琥珀の道(琥珀街道)という名称が付けられた。

ポーランド
白リン(表面は日光によって赤リン化)

ポーランドは琥珀の生産において圧倒的な世界一を誇り、世界の琥珀産業の80%がグダンスク市にあり、世界の純正琥珀製品のほとんどがこのグダンスク地方で製造される[17]。 毎年、グダニスクでは国際宝飾展AMBERMARTが催される。また、琥珀博物館も建てられている。

※注意
バルト海沿岸では、第二次世界大戦に使われた白リン弾から白リンが漏出し、琥珀と間違えて火傷を負う事故が起きている。白リンは海中では発火しないが、人体に接触すると発火発熱する為、注意が呼びかけられている[18]
アジア

歴史[編集]

もっとも古い琥珀は、上部石炭紀の地層の物とされている[19][20]

科学史

琥珀を擦ると布などを吸い寄せる摩擦帯電の性質を持つことは今日では有名であるが、歴史上最初に琥珀の摩擦帯電に言及をしたとされている人物は、現在は紀元前7世紀哲学者タレスとされている[21][22]

琥珀の蒸留物である琥珀油は、12世紀に知られていた。1546年にゲオルク・アグリコラは、コハク酸を発見した[23]。古代ローマの博物学者プリニウスは、既に琥珀が石化した樹脂であることを論じていたが[24][6][25]、その証明は 18世紀のロシアの化学者ミハイル・ロモノーソフによってなされた[26]。1829年にイェンス・ベルセリウスは、現代的な手法で化学分析を行い琥珀が可溶性および不溶性成分からなることを発見した。

琥珀色[編集]

アンバー
amber
 
16進表記 #FFBF00
RGB (255, 191, 0)
HSV (45°, 100%, 100%)
表示されている色は一例です

琥珀のような色、すなわち、透明感のある黄褐色や、黄色よりの橙色を、琥珀色、または英語にならってアンバーと呼ぶ。たとえば、ウイスキーの色あいをやや詩情を込めて述べるとき、この言葉を使うことがある。また自動車関連で、方向指示器などの色は一般に「アンバー」と呼ばれる。

また、純色のうち、黄色橙色の間にあたる色を amber と呼ぶことがある[27]信号機の黄色も英語では amber と表現する場合がある[28]

なお、JIS慣用色名の中の「アンバー」や、「バーント・アンバー」「ロー・アンバー」というときの「アンバー」は、土から作る顔料の umberアンバー (顔料))に由来する、茶系の濁った色である。混同しないように注意を要する。

脚注[編集]

  1. ^ アンブロイド(コトバンク)
  2. ^ Elizabeth Owen; Eve Daintith (2009) (英語). The Facts on File Dictionary of Evolutionary Biology. Infobase Publishing. p. 8. ISBN 9781438109435. 
  3. ^ a b Rudler 1911, p. 792
  4. ^ a b c d 仝選甫「薬食兼用の天産物 No.34 琥珀(コハク)」『漢方医薬新聞』2010年11月25日、8面。
  5. ^ (イーリアス 6.513, 19.398). King, Rev. C.W. (1867). The Natural History of Gems or Decorative Stones. Cambridge (UK). p. 315. http://www.farlang.com/gemstones/king-gems-decorative-stones/page_315. 
  6. ^ a b P.A.セルデン・J.R.ナッズ著、鎮西清高訳『世界の化石遺産 -化石生態系の進化-』 朝倉書店 2009年 132ページ
  7. ^ Wikisource reference タキトゥス (Latin). De origine et situ Germanorum (Germania) [ゲルマニア]. - ウィキソース. "ac soli omnium sucinum, quod ipsi glesum vocant," 
  8. ^ Wikisource-logo.svg Chisholm, Hugh, ed. (1911). "Amber (resin)". Encyclopædia Britannica (11th ed.). Cambridge University Press. }
  9. ^ 『日本の時代史1 白石太一郎編 倭国誕生』 吉川弘文館 2002年 ISBN 4-642-00801-2 p.118 - p.120
  10. ^ 生物遺体のDNA情報は521年に半分の割合で失われるという研究がある。これに基づけば、数千万年前の恐竜時代のDNA情報はほぼゼロとなる。(Matt Kaplan "DNA has a 521-year half-life : Nature News & Comment",2012年10月10日)
  11. ^ Sorcery of Scent: Amber: A perfume myth. Sorceryofscent.blogspot.com (30 July 2008). Retrieved on 23 April 2011.
  12. ^ アメリカ合衆国特許第3,703,479号
  13. ^ アメリカ合衆国特許第3,681,464号
  14. ^ Aber, Susie Ward. “Welcome to the World of Amber”. Emporia State University. 2007年4月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年5月11日閲覧。
  15. ^ Origin of word Electron”. Patent-invent.com. 2010年7月30日閲覧。
  16. ^ http://www.polamjournal.com/Library/APHistory/Amber_in_Poland/amber_in_poland.html
  17. ^ http://books.google.co.jp/books?id=g6NVVpqhixIC&pg=PA137&lpg=PA137&dq=amber+poland+per+cent&source=bl&ots=nzSlMk-CEB&sig=9wrGCk6cBWnH5uLDxB_274GoYvw&hl=ja&ei=7W0WTcOzDI3Qca206eEK&sa=X&oi=book_result&ct=result&resnum=5&ved=0CEcQ6AEwBA#v=onepage&q&f=false
  18. ^ Phosphorklumpen: Vermeintlicher Bernstein verbrennt Strandbesucher. Spiegel Online, 2014-01-15. Abgerufen am 2014-01-15.
  19. ^ Grimaldi, D. (2009). “Pushing Back Amber Production”. Science 326 (5949): 51–2. Bibcode 2009Sci...326...51G. doi:10.1126/science.1179328. PMID 19797645. 
  20. ^ Bray, P. S.; Anderson, K. B. (2009). “Identification of Carboniferous (320 Million Years Old) Class Ic Amber”. Science 326 (5949): 132–134. Bibcode 2009Sci...326..132B. doi:10.1126/science.1177539. PMID 19797659. 
  21. ^ Electrochemical Supercapacitors for Energy Storage and Delivery: Fundamentals and Applications (Electrochemical Energy Storage and Conversion) 著者: Aiping Yu、Victor Chabot、Jiujun Zhang  ISBN:1439869898 p.1
  22. ^ その前は、紀元前4世紀の博物学者テオプラストスと言われていた
  23. ^ Life in Amber 著:George O. Poinar 23p
  24. ^ また、取引されている琥珀はヨーロッパ北部(バルト海周辺)の産であることも知っていた
  25. ^ Wikisource reference ガイウス・プリニウス・セクンドゥス. “Liber XXXVII” (Latin). Naturalis Historia [博物誌]. - ウィキソース. "Certum est gigni in insulis septentrionalis oceani et ab Germanis appellari glaesum, itaque et ab nostris ob id unam insularum Glaesariam appellatam, Germanico Caesare res ibi gerente classibus, Austeraviam a barbaris dictam. nascitur autem defluente medulla pinei generis arboribus, ut cummis in cerasis, resina in pinis erumpit umoris abundantia." 
    • 確かな話として、それ(sucinum)は北の海の島々で採れ、ゲルマン人たちはglaesum(ガラス*glasą)と呼んでいる。それゆえ、皇帝ゲルマニクスの艦隊が侵攻した島のひとつを、前述の蛮人たちはAusteraviaと呼ぶが、我々はGlaesaria(ガラスの地)と呼んでいる。それは、例えば桜の樹液や水分を豊富に含む松のレジン(松脂)のような、松の類の樹木から溢れた液体からできている。
  26. ^ Menshutkin, Boris N. (1952). Russia's Lomonosov, Chemist Courtier, Physicist Poet. Princeton: Princeton University Press. ASIN B0007DKTQU
  27. ^ 英語版 en:Amber (color) を参照。
  28. ^ Definition of amber in Oxford Dictionaries (British & World English)”. Oxford Dictionaries. オックスフォード大学出版局. 2013年3月27日閲覧。Definition of amber in Oxford Dictionaries (US English)”. Oxford Dictionaries. オックスフォード大学出版局. 2013年3月27日閲覧。yellow, orange の語も用いられる。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]