クヌギ

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クヌギ
Quercus acutissima.jpg
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
階級なし : バラ類 Rosids
: ブナ目 Fagales
: ブナ科 Fagaceae
: コナラ属 Quercus
: クヌギ Q. acutissima
学名
Quercus acutissima Carruth. (1862)[1]
和名
クヌギ
英名
Sawtooth Oak

クヌギ(櫟[2][3]・椚[3]・橡[3]・椚木、学名: Quercus acutissima)は、ブナ科コナラ属落葉高木。山地などに生え、雑木林の景観をつくり出す代表的な樹種としても知られる。樹皮からしみ出す樹液にはカブトムシなどの昆虫がよく集まり、実はドングリとよばれ、材は薪や家具、シイタケ栽培の原木など様々に利用されてきた。樹皮は染料や薬用にも使われる。

名称[編集]

和名クヌギ語源は諸説あり、昔から薪炭木として重用されて、国木(くにき)または食之木(くのき)とよばれ転訛という説[4][5]や、葉がクリの葉に似ていて栗似木(くりにき)が転訛してクヌギになったともいわれる[6][7]。古名はつるばみといい[8]、古くは『万葉集』に記されたという[9]。別名でツルバミ[6][10]、クノギ[6][10]、ハハソ[6]、ホウソ[6]などともよばれる。漢字では苗字などを含め、、椚、、櫪、栩、椡、㓛刀、功刀、あるいは柞(ははそ)などいくつかの字をもっている[6]中国名は「麻櫟」と書く[1]

ミズナラコナラなどブナ科の実を広く「ドングリ」とよぶが、狭義ではドングリといえばクヌギの実を指す[7]。地方によってはクヌギのことを、ドングリノキ、ズグリ、ズングリ、ズングリノキなどというところもある[6]

分布・生育地[編集]

日本を含むアジア北東部に分布する[7]。日本では主に本州四国九州の各地に広く分布し、一部は北海道南部にもある[6]沖縄の一部でも植栽可能である[10]。低山地や平地で照葉樹林に混成して生え、特に関東平野ではコナラアカシデなどとともに、雑木林を構成する代表的な樹種としても知られる[6][11]。また、薪炭目的の伐採によって、この種などの落葉樹が優先する森林が成立する場合があり、往々にして里山と呼ぶのはこのような林であることが多い。また、これを薪炭用材として人為的に植えられた物も多い。

また、このようにいわゆる里山の代表的な構成と認められて来たために、近年の広葉樹の植樹の際に選ばれることが多い。しかし、元来その分布は日本の中ではやや北に位置するものである。

特徴[編集]

台場クヌギの林
台場クヌギの林

落葉広葉樹[10]大高木[7]、樹高は15メートル (m) ほどになる[2]。萌芽力が強く、生長すると広大な樹冠を形成する[12]。幹は直立するが、里山などの雑木林では伐採による更新で株立ちが多い[3]樹皮は暗い灰褐色から黒褐色、厚いコルク状で縦に深く不規則な割れ目が生じる[7][10]。樹皮の見た目は、同属のコナラよりもゴツゴツした印象を与える[10]。一年枝は褐色や淡褐色で、無毛または少し毛がある[3]

互生し、7 - 15センチメートル (cm) の長楕円状の披針形で、葉の左右は不整形で、葉縁には2ミリメートル (mm) ほどある針状の鋸歯が並ぶ[2]葉身は薄いが硬く、濃緑色で表面にはつやがある[10]。葉はクリに非常によく似た印象で、見分けがつきにくいが[11]、クヌギの鋸歯の先は針のように尖っている[5]。新緑・紅葉が美しく、紅葉期の葉色は緑色から黄変して、茶褐色へと変色する[11]。紅葉後に完全な枯葉になっても離層が形成されないため枝からなかなか落ちず、冬も枝についていることがある[3]。これは同属のカシワと同様である。

花期は春から晩春にかけて(4 - 5月ごろ)で[7]、雌雄別の風媒花である。雄花は黄褐色の10 cmほど雄花序が穂状になって垂れ下がり、小さな花をつける[7][12]。雌花は、上部の葉の付根に非常に小さい赤っぽい花をつける。雌花は受粉すると果実を付ける。

果期は翌年の秋[2]果実堅果で、他のブナ科の樹木の実とともにドングリとよばれ親しまれている[12][10]。ドングリの中では直径が約2 cmと大きく、ほぼ球形で、基部半分は椀型の殻斗につつまれている[2][10]。殻斗の回りには線状の鱗片総苞片)が、密に線状になってたくさんつく[2][10]。この鱗片は細く尖って反り返った棘状であり、この種の特徴でもある。ドングリは結実した翌年の秋に成熟する[10]。実は渋味が強いため、そのままでは食用にならない。

冬芽は枝に互生し、枝先には頂芽と頂生側芽が1 - 3個のつく[3]。長卵形で多数の芽鱗に包まれており、芽鱗の縁に毛がある[3]。葉痕は半円形で、維管束痕は多数見える[3]

よく似た近縁のアベマキ (Quercus variabilis) は、葉の裏が白く、樹皮のコルク層が厚いのが区別点となる[2]。アベマキと交雑したものはアベクヌギと呼ばれ、両親の中間的な特徴をもつ。雑木林にともよくに生えるコナラは春の芽吹きが銀灰色であるのに対して、クヌギは黄褐色で見分けやすい[5]

虫の集まる木[編集]

クヌギは幹の一部から樹液がしみ出ていることがある。クヌギの樹液は、カブトムシクワガタなどの甲虫類チョウオオスズメバチなどの好物で、これら昆虫が樹液を求めて集まる[9][12]。樹液は以前はシロスジカミキリが産卵のために傷つけた所から沁み出すことが多いとされ、現在もほとんどの一般向け書籍でそう書かれていることが多いが、近年の研究で主としてボクトウガの幼虫が材に穿孔した孔の出入り口周辺を常に加工し続けることで永続的に樹液を滲出させ、集まるアブのような軟弱な昆虫ダニなどを捕食していることが明らかになった。

ウラナミアカシジミという蝶の幼虫はクヌギの若葉を食べて成長する。またクヌギは、ヤママユガクスサンオオミズアオのような、ヤママユガ科の幼虫の食樹の一つである。そのため昆虫採集家は採集する種にもよるがこの木を見ると立ち止まって幹、枝、葉、さらには根元まで一通り確認して昆虫を探すことが多い。また、オオクワガタなどクヌギを主な活動拠点とする昆虫を探すために、それらの名産地においてマニアが何時間もクヌギを見張っている光景が見られることも珍しくない。

利用[編集]

植栽適期は12 - 3月、または6月 - 7月、10 - 11月とされるが、移植は難しい[12][10]。剪定は3 - 4月に行う[12]。施肥は行う必要がない[12]。伐採しても切り株から萌芽更新が発生し、再び数年後には樹勢を回復する[13]。持続的な利用が可能な里山の樹木の一つで、農村に住む人々に利用されてきた。庭木に1本立ちで植えられることもあるが、よほど広いところでない限り植えない方が賢明だという意見もある[12]

材質は硬く、材は建築材や器具材、家具材、車両、船舶に使われるほか、伐採しても萌芽再生力により繰り返し収穫できるところが重宝されて薪炭シイタケの原木栽培の榾木(ほだぎ)として用いられる[7][12]。落葉は腐葉土として作物の肥料に利用される。クヌギは成長が早く植林から10年ほどで木材として利用でき、木材生産には効率がよいとされてきた[9]。病気も少なく、手入れをしなくても育つので人気があったが、もっぱら薪や炭用の利用が多かったため、その後はだんだんと植える人も減っていった[9]

実は爪楊枝を刺して独楽にするなど子供の玩具として利用される[9]。また、縄文時代の遺跡からクヌギの実が土器などともに発掘されたことから、灰汁抜きをして食べたと考えられている。

樹皮やドングリの殻は、つるばみ染め(橡染め)の染料として用いられる[3]。つるばみ染めは、実の煮汁をそのまま使うと黄褐色が得られ、灰汁媒染剤とすると黄色が強くなってこれがツルバミ色とよんでいる[9]。さらに媒染材に鉄を加えると、染め上がりは黒から紺色になる[9]

養蚕では、屋内でを飼育する家蚕(かさん)が行われる以前から、野外でクヌギの葉にヤママユガ(天蚕)を付けて飼育する方法が行われていた。

樹皮は樸樕(ボクソク)という生薬であり[14]、十味敗毒湯[15]、治打撲一方(ヂダボクイッポウ)[16]といった漢方薬に配合される。

中華人民共和国四川省では、標高3,500 mを超える地域にクヌギ林が成立しており、マツタケ林として利用されている[17]

文学[編集]

  • 万葉集(巻十八)
    • 紅は うつろうものぞ 橡の なれにし衣に なおしかめやも(大伴家持

市町村の木[編集]

市の木
静岡県伊豆市
福岡県大牟田市
町の木
大分県玖珠郡九重町
愛媛県伊予郡砥部町
村の木
宮崎県東臼杵郡諸塚村

出典[編集]

[脚注の使い方]
  1. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Quercus acutissima Carruth. クヌギ(標準)” (日本語). BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2021年6月12日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g 西田尚道監修 学習研究社編 2009, p. 100.
  3. ^ a b c d e f g h i j 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 143.
  4. ^ 木村陽二郎監修 『図説草木辞苑』柏書房、1988年。ISBN 4-7601-0351-1 
  5. ^ a b c 亀田龍吉 2014, p. 93.
  6. ^ a b c d e f g h i 辻井達一 1995, p. 124.
  7. ^ a b c d e f g h 平野隆久監修 永岡書店編 1997, p. 231.
  8. ^ 小林文子、金成俊ほか「樸樕と土骨皮の来歴」『漢方の臨床』第52巻第4号、2005年、 p.p.613-626。
  9. ^ a b c d e f g 辻井達一 1995, p. 126.
  10. ^ a b c d e f g h i j k l 山﨑誠子 2019, p. 132.
  11. ^ a b c 山﨑誠子 2019, p. 133.
  12. ^ a b c d e f g h i 正木覚 2012, p. 53.
  13. ^ 辻井達一 1995, p. 125.
  14. ^ 治療学編集部編、大塚恭男監修「和漢生薬事典」『治療学』1983年、10巻、Suppl.、p162(なお、近縁植物のナラカシの樹皮も樸樕という)
  15. ^ ツムラ十味敗毒湯 第二類医薬品(2016年6月29日閲覧)
  16. ^ 「ツムラ治打撲一方エキス顆粒(医療用)」添付文書2013年3月改訂第5版 (PDF, 286 KiB) 、日本医薬情報センター(2016年6月29日閲覧)
  17. ^ マツタケ収穫記 四川省雅江県”. 新華社 (2018年8月16日). 2018年8月25日閲覧。

参考文献[編集]

関連項目[編集]