長いお別れ
『長いお別れ』(ながいおわかれ、The Long Goodbye)は、アメリカの作家レイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説。
本項目では、これを原作とする映画『ロング・グッドバイ』についても併せて記述する。
概要
1953年に刊行された、私立探偵フィリップ・マーロウを主人公とする長編シリーズの第6作目。
この作品に対する評価は賛否両論であり、チャンドラー作品の最高峰に位置づけられることも多いが、その一方で、『大いなる眠り』や『さらば愛しき女よ』に及ばないと評されることもある。ハードボイルド小説によって社会批評を行ったことは注目すべきであり、また本作はチャンドラー自身の自伝的要素を持っていることでも有名である。ハメットらと比べ文体が感傷的すぎるなどの難点もあげられているがその独特の文体、世界観がいいと言われている。
また、本作は「ギムレットには早すぎる」や「さよならをいうのはわずかのあいだ死ぬことだ」、「警官はけっしてさよならをいわない。機会があったら容疑者の首実検の列のなかで顔を見たいと思っているのだ。」(いずれも清水俊二訳)などのセリフで知られる。
あらすじ
フィリップ・マーロウは、偶然知り合ったテリー・レノックスにどこか惹かれるものを感じ、酒場で杯を傾けるようになる。しかし、ある長日、レノックスは資産家の娘である妻殺しの容疑をかけられ、マーロウに助けられて逃れたメキシコの町で自殺を遂げてしまう。彼はその死に疑問を抱くが警官にのされさんざんな目にあう。テリーからの手紙には「コーヒーをつぎ、タバコに火をつけてくれたら、あとはぼくについてすべてを忘れてくれ」(清水俊二訳)と書かれていた。やがて、別の事件でレノックスの隣人達の失踪と関わるようになったマーロウは、酒に溺れた小説家とその妻、ハウスボーイや出版社の編集者などを巻き込みながら事件の意外な真相にたどり着く。
登場人物
- フィリップ・マーロウ……探偵
- ハーラン・ポッター……億万長者
- シルヴィア・レノックス……ハーランの末娘
- テリー・レノックス……シルヴィアの夫
- リンダ・ローリング……シルヴィアの姉
- エドワード・ローリング……リンダの夫
- ロジャー・ウェイド……作家
- アイリーン・ウェイド……ロジャーの妻
- キャンディ……ウェイド家のハウスボーイ
- ハワード・スペンサー……ニューヨークの出版社の代表者
- ヘンリー・シャーマン……「ジャーナル」紙の編集長
- ロニー・モーガン……「ジャーナル」紙の記者
- ランディ・スター……クラブの経営者
- メンディ・メネンデス……ギャングのボス
- チック・アゴスティノ……メンディの用心棒
- ジョージ・ピーターズ……カーン協会員
- レスター・ヴューカニッチ……耳鼻喉喉科の医者
- エイモス・ヴァーリー……医者
- ヴァリンジャー……医者
日本語訳
現在は以前から刊行されていた清水俊二訳の『長いお別れ』 と、村上春樹の新訳『ロング・グッドバイ』が両方とも流通している。
- 『長いお別れ』 清水俊二訳 早川書房(世界探偵小説全集) 1958年 絶版
- 『長いお別れ』 清水俊二訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 1976年
- 『ロング・グッドバイ』 村上春樹訳 早川書房 2007年 ハードカバー
- 『ロング・グッドバイ』軽装版(ノベルス) 村上春樹訳 早川書房 2009年 絶版
- 『ロング・グッドバイ』ハヤカワ・ミステリ文庫 村上春樹訳 2010年
備考
矢作俊彦のハードボイルドシリーズ・二村永爾シリーズ第3作『ロング・グッドバイ(THE WRONG GOODBYE)』は、この作品を下敷きにしており、プロット、登場人物の相関に似通った要素が多い。
映画化
ロング・グッドバイ | |
---|---|
The Long Goodbye | |
監督 | ロバート・アルトマン |
脚本 | リイ・ブラケット |
製作 |
エリオット・カストナー ジェリー・ビック |
出演者 | エリオット・グールド |
音楽 | ジョン・ウィリアムズ |
撮影 | ヴィルモス・ジグモンド |
編集 | ルー・ロンバード |
公開 | 1973年3月7日 |
上映時間 | 112分 |
製作国 | アメリカ |
言語 | 英語 |
概要
1973年に監督ロバート・アルトマン、主演エリオット・グールドにより映画化された。邦題は『ロング・グッドバイ』(原題は"The Long Goodbye")。
内容は1970代風にアレンジされており、エリオット・グールドが演じる探偵のフィリップ・マーロウが友人の死をきっかけにある事件に巻き込まれていく。
松田優作がこの映画にインスパイアされ、TVでは『探偵物語』、映画では『ヨコハマBJブルース』を生み出したことで知られている。
脚本家のリイ・ブラケットは、フォークナーと共作したチャンドラー原作の『三つ数えろ』など、ハワード・ホークスの常連ライター。
恋人をビンで殴るシーンが強烈な印象の、チンピラのボス役のマーク・ライデルは、『黄昏』の監督でオスカー候補に。
キャスト
- エリオット・グールド:フィリップ・マーロウ
- スターリング・ヘイドン
- ニーナ・ヴァン・パラント
- ジム・バウトン(元野球選手):テリー・レノックス
- ヘンリー・ギブソン
- デビッド・キャラダイン
- アーノルド・シュワルツェネッガー
- マーク・ライデル:チンピラのボス
関連項目
- ヴィルヘルム・シュタイニッツ - マーロウが並べていた棋譜「スタイニッツ」のこと。1900年没。
- ペチジン - 「デメロール」の名で登場した鎮痛薬。
- 特殊空挺部隊 - 1941年から実戦に投入された。
リダイレクトの所属カテゴリ
- ロング・グッドバイ
Category:アメリカ合衆国の映画作品 - Category:ミステリ映画 - Category:1973年の映画 -Category:ロバート・アルトマンの監督映画