糖新生
糖新生(とうしんせい、gluconeogenesis)とは、飢餓状態に陥った動物が、グルカゴンの分泌をシグナルとして、ピルビン酸、乳酸、糖原性アミノ酸、プロピオン酸などの糖質以外の物質から、グルコースを生産する経路である。
肉食に偏っている場合、摂取栄養がタンパク質と脂肪に偏り、同じく三大栄養素のひとつである糖分の摂取が不足することになる。猫のような肉食動物は、糖新生の酵素活性が高く、タンパク質から分解されて得られた糖原性アミノ酸から糖新生を行って体内で必要な糖分を生成している[1]。
反芻動物の場合は、セルロースを分解するバクテリアが胃の中で糖を揮発性脂肪酸にしてしまうのでプロピオン酸からの糖新生は特に重要な代謝である。
1分子のグルコースを新生するのに、ATPを6分子必要とする。ほとんどは肝臓の細胞で、一部は腎臓で行われる。糖新生が急激に起こったため高血糖をもたらす現象をソモギー効果という。1850年代に、フランスの生理学者、クロード・ベルナールにより明らかにされた。また、絶食を行うと糖不足を補うため筋肉が分解されて糖新生が起こり[2]、筋肉が減少することにより新陳代謝が減少することが、絶食によるダイエットが成功しにくい原因の一つでもある。
糖新生の経路
反応は、ほぼ解糖系の逆反応に沿って進む。 しかし、可逆的でない反応もあるので、それらについては別の方法で起こす。以下にその反応を示す[3]。
ピルビン酸 → ホスホエノールピルビン酸
クエン酸回路を経由させることで反応を進めている。この反応は4つの段階を踏み、はじめの2段階はミトコンドリアで、後は細胞質で行われる。ミトコンドリア内ではピルビン酸カルボキシラーゼがピルビン酸に作用してオキサロ酢酸となりクエン酸回路の中間体となる。そして、オキサロ酢酸がミトコンドリアから出るためにリンゴ酸デヒドロゲナーゼによってリンゴ酸に還元される。ミトコンドリア外で再びリンゴ酸デヒドロゲナーゼによってオキサロ酢酸に酸化され、最終的にはホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)によってホスホエノールピルビン酸に変換される。全体的にこの反応のギブズエネルギーの総和は⊿G'°=0.9 kj/molである。
- (ミトコンドリア内)
段階1:ピルビン酸+HCO3-+ATP → オキザロ酢酸+ADP+Pi
- ピルビン酸カルボキシラーゼにより進む。
段階2:オキザロ酢酸+NADH+H+←→ L-リンゴ酸+NAD
- リンゴ酸デヒドロゲナーゼにより進む。
- (ミトコンドリア外)
段階3:L-リンゴ酸+NAD ←→ オキザロ酢酸+NADH+H+
- この反応もリンゴ酸デヒドロゲナーゼにより進む。
段階4:オキザロ酢酸+GTP → ホスホエノールピルビン酸+GDP+CO2
- ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(phosphoenolpyruvate carboxykinase)により進む。
フルクトース-1,6-ビスリン酸 → フルクトース-6-リン酸
解糖系ではこれの逆反応をホスホフルクトキナーゼにより行っているが、これは不可逆的なのでフルクトース-1,6-ビスホスファターゼ(fructose-1,6-bisphosphatase)が用いられている。また、Mg2+も必要である。この酵素は、フルクトース-1,6-ビスリン酸のC-1位のリン酸基を加水分解する。
- フルクトース-1,6-ビスリン酸+H2O → フルクトース-6-リン酸+Pi (⊿G'°=-16.3 kj/mol)
グルコース-6-リン酸 → グルコース
グルコース-6-ホスファターゼにより進む。この反応の解糖系での逆反応ではATPが生成したが、この反応ではATPは必要ない。グルコース-6-ホスファターゼはグルコース-6-リン酸をリン酸エステルとして単なる加水分解を促進する。
- グルコース-6-リン酸+H2O → グルコース+Pi (⊿G'°=-13.8 kj/mol)
プロピオン酸 → ホスホエノールピルビン酸
プロピオン酸からは以下の経路を経て糖新生が行われる。この反応の前半部分は奇数鎖脂肪酸のβ酸化から発生したプロピオン酸の代謝経路を辿る[4]。
プロピオン酸 → プロピオニルCoA → S-メチルマロニルCoA → R-メチルマロニル-CoA → スクシニルCoA →
コハク酸 → フマル酸 → リンゴ酸 → オキサロ酢酸 → ホスホエノールピルビン酸
脚注
- ^ https://www1.hills.co.jp/vetssite/practice/hfs/hfs046.shtml
- ^ http://www.med.kyushu-u.ac.jp/intmed3/4dm/dms4.html
- ^ "レーニンジャーの新生化学[上]第4版"(2006)、監修:山科郁男、発行:廣川書店
- ^ http://www.sc.fukuoka-u.ac.jp/~bc1/Biochem/gluconeo.htm
関連項目