新本格魔法少女りすか

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新本格魔法少女りすか
小説
著者 西尾維新
イラスト 西村キヌ
出版社 講談社
掲載誌 ファウスト
レーベル 講談社ノベルス
連載期間 Vol.1(2003年10月15日発行) -
刊行期間 2004年7月5日 -
巻数 既刊3巻
テンプレート - ノート
プロジェクト ライトノベル

新本格魔法少女りすか』(しんほんかくまほうしょうじょりすか)は西尾維新による日本ライトノベル。イラストレーションは西村キヌが担当。『ファウスト』(講談社)Vol.1から連載中。単行本は講談社ノベルスより既刊3巻。全13話予定[1]魔法が存在する日本を舞台に、魔法を使えない普通の人間である主人公の少年・供犠創貴と魔法使いの少女・水倉りすかの2人が、りすかの父親・水倉神檎を追う中での戦いと冒険を描いている。魔法少女ものに推理小説の要素を加えた作風であり、作中には「一般的な魔法を小説で書いた時の嘘っぽさ」を緩和するための装置として、架空の神話体系「クトゥルフ神話」からの引用がある。

世界観

舞台は主に九州の佐賀県。魔法の国・長崎県とは巨大な城門によって隔てられ、長崎県との行き来は城門管理委員会によって管理されている。

長崎県には魔法使いと呼ばれる者が住んでおり、彼らは魔法と呼ばれる異能力を行使する。魔法は「使用者の『精神』を外側に向けて放出する行為」とされ、その魔法によって使用者がどのような人物か知ることができる。魔法使いによって魔法を授けられた人間は「『魔法』使い」と表記される。魔法について「属性(パターン)」、「種類(カテゴリ)」、「顕現(モーメント)」という単語で説明がなされているが、これらが何を意味するのかは明確に示されていない。

魔法の発動を助ける技術として、魔法式(まほうしき)と魔法陣(まほうじん)がある。魔法式は、事前に術をかける対象に「式」を書いておき、呪文の詠唱時間を短くする技術。術者が近くにいなければ発動できない。魔法陣は、一定の条件がクリアされると発動する「陣」。魔法式と違い、術者が近くにいる必要はない。

あらすじ

「魔法使い」・水倉りすかと「『魔法使い』使い」・供犠創貴の2人は、りすかの父親・水倉神檎を探すために佐賀県を拠点とした「魔法狩り」を行っている。県外の魔法使いとの接触・戦闘を通して、2人は背後に水倉神檎の影を見出していく。(第1巻)

水倉神檎の手掛かりがあるという場所へ創貴とりすかが向かうと、2人とは別のルートから手掛かりに辿り着いた魔法使い・ツナギに出会う。水倉神檎と関係があると思われる「六人の魔法使い」の1人・人飼無縁を倒した創貴・りすか・ツナギの3人は、残りの「六人の魔法使い」に接触するため佐賀を旅立つ。(第2巻)

創貴たちは「六人の魔法使い」の1人・地球木霙を倒すが、水倉鍵と蠅村召香により窮地に立たされる。りすかの新たな力で蠅村召香の魔法を破り、3人は危機的状況を脱出する。直後に創貴は塔キリヤの魔法により平行世界に飛ばされるが、両親の協力により元の世界へ戻る。(第3巻)

登場人物

水倉神檎を追う者たち

供犠創貴(くぎ きずたか)
主人公[2][注釈 1]。佐賀県在住の小学5年生で、毎期クラス委員長を務める優等生。目的のためには手段を選ばず、周りの人間は全てそのための「駒」としか思っていない[3]。1年前に不登校であったりすかの家を訪問した際に彼女が普通ではないことを直感。それ以後彼女を重要な「駒」とみなし、近しい関係を保っている。夢は全ての人間を幸せにすることであり、そのためならばどんな犠牲も厭わない。父親には反発している反面、敵わないと認め尊敬している。
水倉りすか(みずくら りすか)
長崎県森屋敷市出身で、運命干渉系の「魔法使い」。小学5年生。一応小学校には籍を置いているがほぼ不登校であり、自宅で魔道書の写しの作業を行っている。好みのタイプは恰幅のいい男性(関取体型)。趣味は相撲観戦。父親探しのため佐賀県に転校してきた。2年近く前から単独で「魔法狩り」を行っていたが、1年近く前に創貴に出会い、以後行動を共にしている。「日本語」を覚えたのは最近であるため「○○なのが、○○なの」(例:私に優しくしてくれないのが、キズタカなの)といった、主語・述語の逆転した独特の言い回し(創貴曰く、「下手なドイツ語の訳みたい」な話し方)をする。彼女の血には水倉神檎によってあらゆる種類の魔法式が施されており、大抵の魔法ならば血を流すだけで施行できる。
属性は「」、種類は「時間」、顕現は「操作」。自身の寿命を消費し、目標とする座標への移動にかかる時間や、ケガが完治するまでの時間を「省略」することができる。死に直面するほどの血を流すと1分間だけ17年後・27歳の自分になれる。17年後のりすかは、なるたびに性格は少し違うが共通して非常に好戦的である。またそれと同時に非常に強く、現在のりすかが使いこなせていない時間の魔法をいとも簡単に使いこなしている。
ツナギ / 繋場いたち(つなぎば いたち)
水倉神檎によって「魔法」使いにされた元人間の少女。2000年以上生きているらしい。りすか達との戦闘後「観察」のため、"繋場いたち"と名乗ってりすか達の小学校へ転校してきた。城門管理委員会の創始者であるが、目立った地位には就かず、孤高の前線部隊として活動している。水倉神檎に自身を殺してもらうために、彼の消息を追っている。2000年以上生きていることもあり経験豊富で、戦闘においては心強い仲間であるが、逆境に弱いという弱点も持つ。
属性は「」、種類は「分解」。体中に512の口をもち、その口に喰われたモノは魔力を分解・吸収される。

水倉神檎と六人の魔法使い

水倉神檎(みずくら しんご)
現在行方不明のりすかの父親。「ニャルラトテップ」など666の「称号」を持っていたが、そのうちのひとつ「赤き時の魔女」をりすかに与えたため、現在の「称号」は665個。海を渡れない「魔法使い」に海を渡らせる「箱舟」計画なるものを企んでいるらしい。
六人の魔法使い
人飼無縁(ひとかい むえん)
それなりに背の高い、不健康そうな痩せた男で、板垣退助を思わせる重力に逆らったカイゼル髭を生やしている。「○○。いや、××と言うべきかな?」という、自身が言ったことを直後に否定する言い回しをする。一人称は吾輩。目を合わせただけで相手を死に至らしめるという究極魔術「魔眼」の使い手であり、「魔眼使い」を名乗っている。
地球木霙(ちきゅうぎ みぞれ)
属性「肉」、種類「増殖」。自己の体を好きなように改造・再生することが出来る。
蠅村召香(はえむら しょうか)
属性「」、種類「操作」、顕現「固定」。対象者本人に所有権がないものを完全に「固定」することができる。「固定」されたものはいかなる手段をもってしても動かすことができない。
塔キリヤ(とう キリヤ)
属性「」、種類「創世」、顕現「絶対矛盾」。運命干渉系・精神感応系の両方の性質を持つ魔法使い。対象者を「平行世界」(鍵曰く「パラレルワールド」)に引き込むことが出来る。ただしその際には彼本人もその平行世界にいなければならない。
結島愛媛(ゆいしま えひめ)
武闘派の魔法使い。属性「」、種類「反応」、顕現「化学反応」。大気中の物質を利用して化学変化を起こさせる。主に炭素を「杭」にして、化学変化によって生じた熱を利用して射出する。
水倉鍵(みずくら かぎ)
「魔法封じ」の能力を持つ人間。「六人の魔法使い」に数えられているが、実際には魔法使いではない。水倉家との血縁関係は無く、本人曰く「一応養子扱い」とのこと。「六人の魔法使い」の中で、一番水倉神檎に近い存在。外見は創貴達よりも少し幼いぐらいのおかっぱ頭の男の子。

その他

チェンバリン
りすかの忠実なる従僕。りすかの家の一階でコーヒーショップを営んでいるが、あまり繁盛はしていない。子供である創貴に対しても非常に丁寧な対応をする。りすかが持っている手錠の作者。
在賀織絵(ありが おりえ)
りすかと同じクラスの委員長。影谷蛇之に攫われた。才女で人気も高い。
水倉破記(みずくら はき)
りすかの従兄妹。18歳の高校3年生。父親は水倉神檎の弟。属性「水」、種類「運命」、運命干渉系の魔法使い。彼の血には水倉神檎により魔法陣が施されていて、その血を浴びた人間は血を洗い流さないと死ぬまで不幸がつきまとう。
供犠創嗣(くぎ きずつぐ)
創貴の父親。佐賀県警の刑事。日本中の警察で彼に逆らえるものはいない。女性にモテる。結婚・離婚を5回繰り返していて、現在の6人目の妻とも別居中。全身真っ白の背広姿。甘いものに目が無く、カレーも甘いものが好きである。創貴とは距離を置いた関係。りすかのことはそれなりに気に入っているらしい。
折口きずな(おりくち きずな)
創貴の4番目の母親。自称・属性「」、種類「知覚」の魔法使い。勘が非常に鋭い。創貴に大きな影響を与えた人物。「平行世界」の中で、創貴に現実への道を示した。

作風

魔法少女ものに推理小説の要素を加えた作品[2]で、バトルものでもある[2][4]。本作における魔法は「何でもやりたいことができるすごい力」ではなく「固有の得意技」に近いものであり、主人公たちは相手の魔法の弱点を探り対抗手段を見つけていく[2]

題名に魔法少女を冠してはいるがいわゆる魔法少女ものではなく、例えば日曜日の朝に放送されるような魔女っ子アニメとは異なり、魔法の能力はファンタジーともオカルトとも違う凄惨さを感じさせるものとなっている[5]。内容は「王道を逆立ちして行く」というもので、魔法少女ものの基本要素を少しひねくれさせている[6]

制作背景

執筆のきっかけは、講談社の編集者太田克史が魔女っ子ものによるメディアミックスを考えたことだった[7]。『ファウスト』が創刊される際、この企画を実現するために西尾に執筆が依頼され誕生したのが、太田が「『絶対アニメ化は無理』と涙した」と語る本作だった[7]

太田から依頼された企画のキーワードとして「魔女っ子探偵」があり、西尾は「『魔女っ子』はともかく『探偵』は自分には難しいのでは」と考えつつ、予習として中学生の頃に読んだ『ラヴクラフト全集』を再読した[8]。また執筆にあたり、西尾は様々な魔法少女もののビデオを視聴した[7]。当初のタイトルは「魔法少女りすか」だったが、太田の「『新世紀エヴァンゲリオン』の『新世紀』のようなものが欲しい」という意見を受けて「新本格」が足された[9]

「一般的な魔法を小説で書いた時の嘘っぽさ」を緩和するための装置として、「クトゥルフ神話」が引用されている[10]。作中にはクトゥルフ神話に関する用語が登場し、単行本の冒頭にはクトゥルフ神話の作者H・P・ラヴクラフトの小説からの引用がある。魔法の設定もクトゥルフ神話を下敷きにしていると思われる[11]。また、台詞回しに漫画『ジョジョの奇妙な冒険』に通じるところがあり[12]、西尾は本作を「『新本格ジョジョ』と言っていいくらい」の気持ちで書いているという[12]

イラスト担当の西村キヌは、カプコンに所属していたころに太田に声をかけられて本作品に参加した[13]

西尾の別作品「戯言シリーズ」とは内容的には全く関係ないが、作中の最強のキャラクターに赤色をあしらっているのは西尾なりの「禁じられたクロスオーバー」であるという[14](同シリーズには「人類最強」の赤い人物が登場する)。

第10話は2006年の時点ですでに執筆を要望されていたが[15]、それが掲載される『ファウスト Vol.7』は2年後の2008年に刊行された。残りの3話は続きものであり、書き下ろしにしようかと西尾は述べている[16]

既刊一覧

脚注

注釈

  1. ^ 第1巻の後書きでは「創貴とりすか、どちらが主役ということはない」としている。

出典

  1. ^ 『ザレゴトディクショナル』168頁。
  2. ^ a b c d 『西尾維新クロニクル』62頁。
  3. ^ 『ライトノベル☆めった斬り!』太田出版、2004年、256頁。ISBN 4-87233-904-5 
  4. ^ このライトノベルがすごい! 2006』宝島社、2005年、96頁。ISBN 4-7966-5012-1 
  5. ^ 『別冊オトナアニメ オトナラノベ』洋泉社、2011年、66頁。ISBN 978-4-86248-684-4 
  6. ^ 『ユリイカ9月臨時増刊号』178-179頁。
  7. ^ a b c 『西尾維新クロニクル』82頁。
  8. ^ 『ミステリー迷宮読本』洋泉社、2003年、187頁。ISBN 4-89691-775-8 
  9. ^ 『ユリイカ9月臨時増刊号』179頁。
  10. ^ 『ユリイカ9月臨時増刊号』104頁。
  11. ^ 『ユリイカ9月臨時増刊号』87頁。
  12. ^ a b 『ユリイカ9月臨時増刊号』182頁。
  13. ^ イラストレーターのわ第2回/西村キヌ”. Wacom. 2015年1月18日閲覧。
  14. ^ 『ザレゴトディクショナル』167頁。
  15. ^ 『ファウスト Vol.7』369頁。
  16. ^ 『ファウスト Vol.7』364頁。
  17. ^ 『新本格魔法少女りすか』(西尾維新):講談社ノベルス”. 講談社BOOK倶楽部. 講談社. 2015年1月18日閲覧。
  18. ^ 『新本格魔法少女りすか(2)』(西尾維新):講談社ノベルス”. 講談社BOOK倶楽部. 講談社. 2015年1月18日閲覧。
  19. ^ 『新本格魔法少女りすか(3)』(西尾維新):講談社ノベルス”. 講談社BOOK倶楽部. 講談社. 2015年1月18日閲覧。

参考文献

外部リンク