ライブアイドル

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ライブアイドルとは、マスメディアへの露出よりもライブ等を中心に活動するアイドルのこと[1]

歴史的変遷や言い換えが多く、プレアイドル地下アイドル(ちかアイドル)[2]、またインディーズアイドル[3][4][注 1]リアル系アイドル[6]とも呼ばれる。

概要

1980年代末頃から、それまでアイドル歌謡を歌ってきたアイドルの在り方が否定的に捉えられるようになり、1990年代に入ると、「アイドル冬の時代」へと突入して、マスメディアに登場するアイドルの形態が、それまでの歌手活動を中心とするものから女優、CM、グラビアなどを主とするものへと変化していった。こうした状況下で、アイドル黄金時代と呼ばれた1980年代と同様に歌を中心とした活動にこだわるアイドルは、J-POPにその座を奪われてテレビなどへの出演が難しかったため、地道なライブを中心に活動するようになる。その活動はテレビ番組の様な華やかな世界とは遠いもので、小規模なライブハウスや区民会館、百貨店の屋上などで行われ、握手会などを繰り返しファンと間近に交流するようになっていった。

この頃、後のライブアイドルにあたる者はプレアイドルと呼ばれ、水野あおいがその代表的な存在で、森下純菜清水夕紀美鈴木まりえらが活動した[7]。一方、グループアイドルとしては制服向上委員会(SKi)やキューティーレモンなどが同様に活動したが、冬の時代における厳しさは何ら変わることなく、外道と呼ばれる極端なファンとも渡り合っていかねばならなかった[8]

また、1992年、宍戸留美[9]は大手事務所から独立して無所属となることがきっかけで大手メディア活動が前提の業界から事実上黙殺され、1995年[10]にこのような活動に加わった[11]

1990年代後半、テレビでは沖縄アクターズスクール出身のSPEEDがアーティストとして活動しながらアイドル的な人気も獲得し、その後『ASAYAN』からはモーニング娘。が生まれ、アーティスト志向ではない昔ながらのアイドル文化を復活させると、再びアイドルに注目が集まるようになった。一方でプレアイドルにその流れが直接波及することはなかったが、そのような時に、東京四ッ谷にライブハウス「四ッ谷サンバレイ」[注 2]が開業し、ここが多くのプレアイドルの活躍の場になることで、その知名度が増し始めた[12]。この四ッ谷サンバレイが地下にあったことで、彼女たちを「地下アイドル」と呼ぶようになったと言われている[7][注 3]。地下アイドルの特徴は、大手媒体への露出がないことを逆に熱いライブやファンとの触れ合いで覆そうとしていた所にあり、その頑張りを身近に体験できる一体感がファンの支持を得ていく[7]

2000年代に入ると、桃井はるこ[14]に代表されるアキバ系アイドルが勃興し、秋葉原の歩行者天国で路上ライブを繰り広げ、特に専用の劇場を構え恒常的に公演を行うAKB48が表れると、大きな社会現象を引き起こした[15]。AKB48は単なる物販を行うだけでなく、その購入数を握手など触れ合いの時間や投票と絡めることでCDの売り上げが低迷する中でも大きな売り上げを上げ続け、これは「AKB商法」と呼ばれて批判も浴びた[3][16][17]

2010年代には、過酷な環境でも活動を可能にしてきたライブアイドルの手法と、AKB48の影響が相まって「アイドル戦国時代」と呼ばれる、過当競争を生み出すまでに至っている[18]

この頃になると、地下アイドルとの呼称は良くない印象が出始め、またAKB48とその姉妹グループのように、元来はライブ活動中心のアイドルであっても、メディアに積極的に登場するようになったため、相対的に地下アイドルの呼称も実情に合わなくなったため、言い換えとして「ライブアイドル」という呼び方が使われるようになってきた[1][6]。また、ライブで会えるアイドルとの意味合いから「リアル系アイドル」という呼び方も存在する[6]

ライブアイドルの中でも活動内容によって細分化されることがあり、絵恋ちゃんは、ソロでアニソンやメジャーアイドルのカヴァーを歌っている「地底アイドルシーン」と、その上(自らの持ち歌がある)の「地下アイドルシーン」の二層構造になっている[19]吉田豪に語っている。また、ロマン優光は、「自分の音楽や表現をアイドルを通して実現しようという節のあるアーティスト性のある運営が経営している小規模なアイドル」を「インディーズアイドル」、「芸能事務所的な立ち位置の運営が経営している小規模なアイドル」を「地下アイドル」として区別している[20]

特徴

ライブアイドルの所属先は小規模な芸能事務所が多く、中には事務所に所属せずセルフプロデュースで活動する[注 4]場合もある[2]。ファンとの距離が近いことが特徴で、「会いにいけるアイドル」を標榜する者もいる[21]。ライブアイドルの活動は、メジャーとインディーの垣根を取り去り、職業としてアイドルになる、もしくは認められる以前の、アマチュアという意味合いで呼ばれることもある[22][23][注 5]

プレアイドルの時代から、ライブアイドルは小規模なライブに多く出演し、会場での物品販売などと組み合わせ収益にしてきた[3]。CD、Tシャツ、ライブで用いられるサイリウムや、ケミカルライトなどの販売やチェキ撮影における売上が主な収益となっている。形式や内容は運営やイベント等によって異なるが、基本的には物販の購入特典として握手などのコミュニケーションが付随する。また、秋葉原などの店舗で購入特典としてライブなどの催しを行うこともある。ツイッターではフォロワー(=ファン)にはもちろんの事、ツイートに肯定的リプライを一度でも行なえばやはりフォローを返す。

昔は気軽に会いに行けたりコミュニケーションを取れるアイドルとされていたが、AKB48の成功以降、直接交流出来るのは物販利用者だけという差別化が図られるようになった。主に渋谷などで活躍する地下アイドルはほとんどがこれに該当する。また、主に本人たちが望まなくても事務所や運営側の方針でこのような方法がとられる場合がある。

事件

  • 2016年7月大阪市内でライブ活動を行っていた20歳の女性を「しばく」などとインターネット上で脅迫した40代の男が逮捕される。書き込みなどがストーカー規制法のつきまとい行為に当たるとして、大阪府警察は男に対し警告書を交付した[24][25]
  • 2019年9月1日に、江戸川区在住でアイドル活動を行う女性に対して、ファンの男性がツイッター上の自撮り写真などから女性の住むマンションを特定した上で女性の自宅に侵入・傷害する事件があり、2020年2月26日東京地方裁判所で懲役2年6カ月の実刑判決が出されている。[26][27]
  • 2021年3月14日徳島市内のビル内のライブハウスで、地元アイドルグループ「Baby dolls」のメンバーの一人の卒業を祝うライブイベントが開催されていたが、その最中にビル内で爆発音と共に火災となり、ビル内9のバーの経営者が煙を吸って病院に搬送された。徳島県警察は、ビル内からガソリンの入った携行缶が発見されたことなどから、放火の疑いで捜査を行った[28][29]。その後無職男性が放火容疑などで逮捕され、「京アニの事件をまねした」との趣旨の供述をした[30]

脚注

注釈

  1. ^ "インディー"は、大手媒体への露出を主とする"メジャー"と対比し、そのような露出の伴わない活動を主とするものに用いられることが多い[5]
  2. ^ 現在の「四谷Honey Burst」
  3. ^ 他にも秋葉原ディアステージなど地下に店舗を構えていることが多かった[13][2]
  4. ^ 極端な場合、家族運営(例:Chelip)というパターンもある。
  5. ^ 特にプレアイドル・地下アイドル

出典

  1. ^ a b 『W100 LIVEアイドル』 p214
  2. ^ a b c 「地下アイドル - メディア露出を極力抑え、「ライブ・イン・マジック」に代表されるような「地下にあるライブスペース」で、あくまで「歌」にこだわった活動をするインディー系アイドルのこと。基本的に、マネージメントも事務所やレコード会社に頼らず、すべてアイドル本人が1人でこなす場合が多い。」 『現代用語の基礎知識 2007』 自由国民社 2007年 ISBN 4-426-10125-5 p.1526
  3. ^ a b c 『グループアイドル進化論』 p14-20
  4. ^ 「サブカルチャー事情に詳しいフリーライターの来栖美憂さんによると、1990年代、おにゃんこクラブの流れを受け、大人数のアイドルグループが続々と誕生した。アイドルとしてのハードルはぐっと下がり、アイドルになりたいと思う女の子は急増。そんな「インディーズのアイドル」がさらに先鋭化したものが地下アイドルという。」 【サブカル最前線】地下アイドルって何? アキバの新人ユニットを直撃 (1/3ページ) - MSN産経ニュース 2008年3月16日
  5. ^ 『アイドル進化論 - 南沙織から初音ミク、AKB48まで』 p.236
  6. ^ a b c 特集:特別対談:ピエール中野(凛として時雨)×吉田豪 - CDJournal CDJ PUSH 2011-09-30
  7. ^ a b c ブレーメン大島 「インディーズアイドルの真実」
  8. ^ 『アイドルバビロン』
  9. ^ 「「Twitter始めるまで、いつも泣いてた」【宍戸留美】20年目のセルフポートレート」宍戸留美×小明×Voice Artist【声優 on FINDER!】第1回
  10. ^ 「1992年に所属事務所を辞めました。それはそれは当時、大騒ぎで文芸春秋、読売新聞等からも取材されました。脅されたり、騙されたりしながらも周りにいた人たちに助けられ収入も身寄りもない中、なんとか生きていました。当時、コンビニで立ち読みしていた「投稿写真」という雑誌に「宍戸留美、死亡説!」と書かれていて、編集部宛に「私は生きています!」とハガキを投稿! それを機に特集記事が組まれました。その記事を読んだフジテレビのFさんが私をゴールデンタイムの番組に起用してくださいました。 その辺りから徐々にお仕事を再開。フリーになって3年後、アイドル時代のアルバムを聴いた東映の女性プロデューサーが私を矢沢あい原作アニメ「ご近所物語」のオーディションに呼んでくれました。イエイ!!!見事合格!主題歌と主役を担当!!この時ばかりは「生きててよかった」と心の底から思いました。ここからが私の声優という新しい世界の始まりです。~略~ 宍戸留美 / 『Set me free』 ~略~ このアルバムを期に、ライヴ活動を開始。自分でチケットを売ってCDも売るということを始めました。「ライヴアイドルの元祖」といわれています。それらの活動は私に充実感をくれました。現実世界でファンの人とお話ができたり、感想が聞けたり。そんなこんなを17年続けています。」 宍戸留美さん” (2012年7月27日). 2012年10月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。
  11. ^ 『W100 LIVEアイドル』 p6-7
    アイドルよ、目覚めよ!サエキけんぞうの 次世代アイドル論 アイドルの真髄を知る伝説のミュージシャンが語る〜アイドルの形〜(2010年4月、電脳サブカルマガジンOG)
    サエキけんぞう | OGな人びとVol.45 - OCN TODAY
  12. ^ プロデューサーズ:vol.2 「僕が関わることで、今までにないものを作れるかどうか」。サエキけんぞう - アノオト - 音楽を楽しむ、音楽と触れあう、音ライフメディア
  13. ^ 秋葉原マップ:DEAR STAGE(ディアステージ) -秋葉原から萌ぇを発信するライブ&バー
  14. ^ ASCII.jp:元祖アキバ系アイドル桃井はるこがニューアルバムと初PV集を同時発売!
  15. ^ 東京新聞:AKB48 社会現象 育てるアイドル共感:特報(TOKYO Web) 2012年9月2日
  16. ^ 「AKB商法には問題がある」 自民参院議員が自主規制呼びかけ : J-CASTニュース
  17. ^ 「音楽ソフトの売上数について改めて簡単にまとめると、日本の音楽CDの売り上げは1999年以降、2011年まで連続して前年を下回り、前年を上回った十二年の数値を見てもCD生産枚数は最盛期(1998年)の半数以下に落ち込んでいる。また、1990代半ばには年間20タイトルを超えていたCDシングルのミリオンセラーも、2012年は5タイトルになっている。このようにCD売り上げにおいて音楽産業が往時の勢いを著しく欠く中で、なお高いCD売り上げを誇っているのが、「アイドル」という芸能ジャンルの代表格であるAKB48とその姉妹グループである。2012年のミリオンセラーシングル五タイトルはすべてがAKB48名義のものであり、同年のCDシングル売り上げランキング上位20タイトルのうち、12作品がAKB48とその姉妹グループのものである。CD売り上げ全体が減退するなかでこれらアイドルのCDが高い売り上げを維持していることは、「AKB商法」的なものへの批判的視線をさらに際立たせている。もっとも、この批判的視線について相対化を促す議論が少なくない」 『「アイドル」の読み方 - 混乱する「語り」を問う』 pp.110-111
  18. ^ 『グループアイドル進化論』 pp93-100
  19. ^ 吉田光雄(吉田豪) [@WORLDJAPAN] (2016年5月24日). "絵恋ちゃんが「ソロでアニソンやメジャーアイドルのカヴァーをしている地底アイドルシーンがあって、その上に地下アイドルシーンがある」とか言ってて、そこは二層構造なんだ!と驚いた想い出。". X(旧Twitter)より2017年2月5日閲覧
  20. ^ ロマン優光のさよなら、くまさん 連載第72回 2016年のアイドル”. ブッチニュース (2016年12月9日). 2017年2月5日閲覧。
  21. ^ 『グループアイドル進化論』 pp102-105
  22. ^ 『アイドル・パフォーマンスとアジア太平洋共同体の意識形成』 p43
  23. ^ 「プレアイドル【ぷれあいどる】
    本来は、これから一流アイドルになるであろうアイドルの卵達のことを指すが、あまりメジャーでないアイドルのことをこう呼ぶことがある。ただし、最近ではこの層のアイドルが少ないため、あまり用いられなくなっている。」 『ヤフーBBマガジン 2002年7月号 Hot Topics ONLINE』 2002年5月24日
  24. ^ “大阪府警:地下アイドル脅迫容疑で40代男逮捕”. 毎日新聞. (2016年7月31日). http://mainichi.jp/articles/20160801/k00/00m/040/074000c 2016年8月1日閲覧。 [リンク切れ]
  25. ^ “「地下アイドル」脅迫容疑でファンの40代男を逮捕 - 事件・事故 : 日刊スポーツ”. 日刊スポーツ新聞社. (2016年7月31日). https://www.nikkansports.com/entertainment/news/1687306.html 2017年12月21日閲覧。 
  26. ^ [1]
  27. ^ [2]
  28. ^ アイドルの卒業ライブ中、雑居ビル内に「バンという音」…煙充満し70人避難 読売新聞 2021年3月16日
  29. ^ 地元アイドルのライブ火災、携行缶からガソリン成分…放火の疑い強まる 読売新聞 2021年3月17日
  30. ^ “【独自】アイドルのライブ中に放火した男「京アニ事件まねした」”. 読売新聞オンライン. (2021年4月9日). https://www.yomiuri.co.jp/national/20210409-OYT1T50123/ 2021年4月9日閲覧。 

参考文献