ポルシェ・996
ポルシェ・996は、ポルシェ・911の5代目モデルである。
解説
ポルシェ・911(5代目) 996型 | |
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1999年GT3 | |
概要 | |
販売期間 | 1997年 - 2002年 |
ボディ | |
乗車定員 | 4名 |
ボディタイプ | 2ドア クーペ |
駆動方式 | RR / 4WD |
パワートレイン | |
エンジン | 水冷 F6 DOHC 3,387cc |
変速機 |
6速MT 5速ティプトロニックS |
前 |
前 マクファーソンストラット+コイル 後 マルチリンク+コイル |
後 |
前 マクファーソンストラット+コイル 後 マルチリンク+コイル |
車両寸法 | |
ホイールベース | 2,350mm |
全長 | 4,430mm |
全幅 | 1,765mm |
全高 | 1,305mm |
車両重量 | 1,320kg |
系譜 | |
先代 | 993 |
後継 | 996後期型 |
前期型
1997年、30年以上に及ぶ改良を繰り返してきた911が車体、エンジンとも全面的な新設計となる初めてのフルモデルチェンジを受けた。996型が発表された時に最大の注目を集めたのは、それまでトレードマーク的存在の1つとされていた空冷エンジンが、欧州をはじめとする世界的な環境問題への対処を主な目的として水冷化されたことである。
コスト削減のために車体前方部分がボクスターと共通部分が非常に多く、下位モデルの露骨な共通部品の導入は従来からの911ユーザーに強い違和感を与えた事から、2001年に発売された911ターボではヘッドライトの形状が変更された[1]。
ボディー
ボクスターで採用された涙目型ヘッドライトとフロントフェンダーがそのまま流用されており、バンパーも、ごく一部のデザインが違うのみで基本的にはボクスターと同じ形状のものが使用された[1]。
フロントウインドウは空冷時代と比較すると55度→60度と寝かされ、フロアのフルフラット化も合わせて空気抵抗が減らされ、Cd値は0.30となった(993は0.33)[1]。
ボディの大型化・水冷化に伴うエンジンの補機類の設置、さらに衝突安全基準の適合のための安全装備の充実にもかかわらず、重量は993型から約50kg軽量化(初期モデル 2輪駆動モデル同士の比較)された[1]。
クーペに加え1999年春にカブリオレが追加された。電動ソフトトップはダイムラー・ベンツとの合弁会社カートップシステムズ製で、センターコンソール、ドアキー、リモコンでの操作により20秒ほどで開閉できる。安全性にも配慮し各サスペンションの荷重とロール角度を検知し自動で飛び出す左右2本のロールバーを装備する。993型タルガがカブリオレの車体を土台に設計されていたのに対し、996型タルガではクーペの車体を土台にしているために車体剛性が向上した。
ボディー剛性はフロアやサイドシルやルーフを補強することで993型より捩れ剛性で45%、曲げ剛性で50%向上した[1]。
内装
ホイールベースの延長とボディの拡大により、室内長は170mm長くなり、レッグルームも80mm広くなったほか、ドリンクホルダーは着脱式の簡易なものが用意された[1]。内装はビニール貼りであったが、質感の向上を目的に2000年モデルからアルカンタラに変更となった[1]。
コンソールは、ごく一部のデザインが違うのみで基本的にはボクスターと同じ形状のものが使用された[1]。
エンジン
クランクケース、シリンダーヘッド周りとも一新され、DOHCとなった。内径φ96mm×行程78mmで3,387ccと小排気量化されたにもかかわらず圧縮比11.3から300PS[2][3]/6,800rpm、35.7kgm/4,600rpmを発生した。エンジン自体も993型と比較してエンジン全長で70mm、全高で120mm小さくなっている[1]。1,500rpmと5,820rpmでオーバーラップを切り替える可変バルブ機構(バリオカム)と、吸気管の切り替え(バリオラム)を搭載した[1]。エンジン補気類の配置も見直され、メンテナンス性の向上が図られた[1]。
ターボとGT2・GT3のエンジンは964系3,596ccと同じ内径φ100mm×行程76.4mmで3,600ccの空冷用クランクケースを使用し、水冷のシリンダーとバリオカムプラスのヘッドを組み合わせている[4]。
水冷化され油温が厳格に管理できるようになり、パッキンの劣化によるオイル漏れが減少した[1]。
ラジエターは左右に分割して前部に格納され、3分割されたフロントバンパーのインテイクは左右がラジエターで中央がATF冷却用として使用された。MTモデルの場合は中央はプラスチック板で塞がれている[1]。
トランスミッション
足回り
2000年よりPSMがオプション装備として設定された[1]。
サスペンション形式はフロントはボクスターと共通[1]のストラット式、リアはマルチリンク式と名目は993型と変わっていないが完全な新設計。
ブレーキサイズはフロント318mm×28mm厚、リヤ299mm×24mm厚[1]。
後期型
ポルシェ・911(5代目) 996型 | |
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996型911(後期型) | |
概要 | |
販売期間 | 2002年 - 2004年 |
ボディ | |
乗車定員 | 4名 |
ボディタイプ | 2ドア クーペ |
駆動方式 | RR / 4WD |
パワートレイン | |
エンジン | 水冷 F6 DOHC 3,596cc |
変速機 |
6速MT 5速ティプトロニックS |
前 |
前 マクファーソンストラット+コイル 後 マルチリンク+コイル |
後 |
前 マクファーソンストラット+コイル 後 マルチリンク+コイル |
車両寸法 | |
ホイールベース | 2,350mm |
全長 | 4,430mm |
全幅 | 1,770mm |
全高 | 1,305mm |
車両重量 | 1,420kg(MT、カレラクーペ) |
系譜 | |
先代 | 996前期型 |
後継 | 997 |
2002年マイナーチェンジが行われた。
ボディ
前期モデルで不評だったヘッドライトのデザインが、911ターボと同形状に変更されたが、レンズカットは911ターボと異なる[1]。前後バンパーについても空力特性を改善すべく微細なデザイン変更が実施された[1]。フロントのトレッド幅は10mm拡大され、これに伴いフロントフェンダーも15mm拡大された(996ターボと同じパーツを導入)[1]。カブリオレのリアウィンドーがガラス化された[5]。
シャシーはフロアとルーフ中心に補強され[2]、前期モデルより捻り剛性および曲げ剛性で25%向上しているが、重量は25kg増加した[1]。
形式はGF-99603[3]、ターボはGF-99664[6]。
内装
ステアリングは前期でオプション設定だった3本スポークのものに変更され、運転席メーターについても細かい変更が実施された[1]。前期型では助手席にグローブボックスがなく非難を浴びたため、設置された[1]。ドリンクホルダーはダッシュボード中央の引き出し式に改められた。
エンジン
内径φ96mm×行程82.8mmの3,596ccに拡大、バリオカムプラスに進化し320PS(235kW)/6,800rpm、37.6kgm(370Nm)/4,250rpmとなった[2][3][7]。バリオカムプラスではバルブタイミングが連続可変となり、バルブのリフト量も低速側3.6mm、高速側11mmと可変されるようになった[1]。
911ターボ用と911GT2用のエンジンは内径φ100mm×行程76.4mmで3,600cc[4]。911ターボは309kW/5,700rpm、560Nm/2700-4600rpm[6]。911GT2は462PS[8]/5,700rpm、63.2kgm/3,500-4,500rpm。
ラジエターのエアダクトの形状を変更したことにより、ラジエターを通過するエア量が15%増加した[1]。
トランスミッション
増大したパワーに対応して6速MTが3ベアリングにグレードアップした[2]ほか、5速ティプトロニックSはメルセデス・ベンツ製に変更された。
足回り
ホイールサイズは変更ないが、ホイールデザインの変更により4輪で3.6kg軽量化された。サスペンションのセッティングも変更され、フロントの伸び側が硬くされた。ブレーキサイズは変更なし。PSM(姿勢安定制御装置)は標準装備となった[1]。
グレード一覧
グレード | 駆動方式 | 過給器 | 排気量 | 最高出力/最大トルク | 変速機 | 備考 |
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カレラ カレラカブリオレ |
RR | NA | 前期3,387cc 後期3,596cc |
前期300PS/6,800rpm、35.7kgm/4,600rpm 後期320PS/6,800rpm、37.6kgm/4,250rpm |
6MT 5Tip-S |
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カレラ4 カレラ4カブリオレ |
4WD | NA | 前期3,387cc 後期3,596cc |
前期300PS/6,800rpm、35.7kgm/4,600rpm 後期320PS/6,800rpm、37.6kgm/4,250rpm |
6MT 5Tip-S |
1998年発売、4WDモデル |
カレラ4S カレラ4Sカブリオレ |
4WD | NA | 3,596cc | 320PS/6,800rpm、37.6kgm/4,250rpm | 6MT 5Tip-S |
996ターボのボディにカレラ用の3,596ccエンジンを搭載し、、サスペンションをリセッティングしたモデル[1]。外寸は996ターボと同一。ホイールも外観は同じであるが中空構造にはなっていない[1]。リヤバンパーのインタークーラーアウトレットは必要が無いので黒いプラスチック板で閉鎖されている[1]。 |
タルガ | RR | NA | 3,596cc | 320PS/6,800rpm 37.6kgm/4,250rpm | 6MT 5Tip-S |
ガラス製のサンルーフと、ガラス製のテールゲートを装備したモデル。 |
40thアニバーサリー | RR | NA | 3,596cc | 345PS/6,800rpm、37.6kgm/4,800rpm | 6MT | 2003年発売、911発売40周年を記念した1963台の限定生産モデル |
ターボ ターボカブリオレ |
4WD | ツインターボ | 3,600cc | 420PS/5,700rpm、57.1kgm/2,700-4,600rpm | 6MT 5Tip-S |
2000年発売3,387ccから3,600ccに拡大され、さらに片バンクにつき一基のターボとインタークーラーを割り振られ420PS/6,000rpm、57.1kgm/2,700-4,600rpmを発生する[9]。ヘッドは水冷化されているが、911GT1クランクケースを流用しているため、カレラ系の3.6Lエンジンとはベースが異なる。996前期カレラと比較して車高10mmダウン、リヤフェンダー60mm拡大、フロントフェンダー15mm拡大。ビスカスカップリングによって、フロント側に5-40%の駆動力を配分[1]した。後輪のスリップを検知し、フロントへ駆動力を配分する制御を行なっている。ターボモデルとしては初めてティプトロを用意した[1]。4Sと共通のバンパーを装備[1]。ブレーキサイズは前330m×34mm厚、後330mm×28mm厚。タービンはKKK製K16。最大加給圧は1.8バールでバリオカムプラスを996としては初めて装備した[1]。PSMは標準装備[1]。センターラジエターを通過する空気をダンパー上部から排出させることで、ボディー下面を流れる空気を60%減らした。加速時にロック率40%となる機械式デフも装備された。リヤサブフレームとシャシーとの結合部位はゴムブッシュからメタルブッシュに変更されている。 |
ターボHPE ターボS |
4WD | ツインターボ | 3,600cc | 450PS/5,700rpm、63.2kgm/3,500-4,500rpm | 5Tip-S | ターボHPEは911ターボX50の日本仕様版 |
GT3 | RR | NA | 3,600cc | 前期360PS/7,200rpm、37.6kgm/5,000rpm 後期381PS/7,400rpm、39.2kgm/5,500rpm |
6MT | 1999年発売、ポルシェカップへの参戦を希望するユーザやGTレース向けの1,400台限定生産の予定だったが予想外に人気があり1,889台生産された(前期モデル)[1]。後期モデルはカタログモデル化された[1]。996カレラ4をベースに製作されており、911GT1クランクケースを採用したエンジンを搭載した。後期型ではチタンコンロッドなどの内部パーツの大幅刷新で回転系の重量が2kg軽量化され381PS[1][10]、39.3kgm[10]となっている。エアコン・パワステを装備しているため空冷時代のような極端な軽量化には至っておらず車重は996カレラ前期型より30kg重い1,350kg(後期型は1,380kg)[1]。ブレーキサイズは前期モデルはターボやカレラ4Sと同一で前後4ポットキャリパーでブレーキディスクも同一である。後期モデルは前ブレーキに6ポットキャリパーが導入され、ブレーキディスクも前側が350mm×34mmとなった[1]。リヤ側のスタビライザーは4段階に効きを調整できた[1]。クラブスポーツオプションを選択すると、軽量化されたフライホイールと6点シートベルト、ボルトオンロールケージが装備される[1]。トランスミッションは993GT2のものをケーブル操作式にしたものが装備された。前期後期ともに各種エアロパーツが装備されるが、専用品ではなく996カレラなどにも装着できた[1]。 |
GT3RS | RR | NA | 3,600cc | 381PS/7,400rpm、39.2kgm/5,500rpm | 6MT | フロントボンネットやドアミラーをCFRP製、リアウィンドウを強化プラスチック製にするなどでGT3から20kg軽量化し1,360kg[10] |
GT2 | RR | ツインターボ | 3,600cc | 前期462PS/5,700rpm、63.2kgm/3,500-4,500rpm 後期483PS/6,500rpm、65.3kgm/3,500-4,500rpm |
6MT | 2002年発売、911ターボをベースにエンジンチューン、100kgの軽量化を行ない最高速は315km/h[10]、カタログモデルでは最強スペックとなる。加給圧はフルスロットル時に2.0バールまで上昇する[1]。911ターボより20mm車高が低く、2WD化によって911ターボより100kg軽くなっている[1]。PSMは装備されない[1]。ギヤ比や減速比なども964ターボと同一[1]。 |
脚注
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag ah ai aj ak al am an ao ap aq ar as 991DAYS VOL37 2009 AUTUMN
- ^ a b c d e 『礼一郎式外車批評』p.127。
- ^ a b c 『礼一郎式外車批評』p.134。
- ^ a b 『礼一郎式外車批評』p.140。
- ^ 『礼一郎式外車批評』p.130。
- ^ a b 『礼一郎式外車批評』p.142。
- ^ 『ワールドカーガイド1ポルシェ』p.17。
- ^ 『礼一郎式外車批評』p.145。
- ^ 『ワールドカーガイド1ポルシェ』p.204。
- ^ a b c d 『ワールド・カー・ガイド1ポルシェ』p.19。
参考文献
- 福野礼一郎『礼一郎式外車批評』双葉社 ISBN 4-575-29558-2
- 『ワールドカーガイド1ポルシェ』ネコ・パブリッシング ISBN 4-87366-090-4