おがさわら丸 (3代)

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おがさわら丸(3代)
竣工記念式典・内覧会のため竹芝客船ターミナルに接岸中の本船
基本情報
船種 貨客船
船籍 日本の旗 日本
所有者 鉄道建設・運輸施設整備支援機構
小笠原海運
運用者 小笠原海運
建造所 三菱重工業下関造船所(第1194番船)
母港 東京
建造費 約92億円
航行区域 近海
船級 JG
信号符字 7JWG[1]
IMO番号 9767687
MMSI番号 431347000
経歴
起工 2015年6月27日
進水 2016年1月27日
竣工 2016年6月29日
就航 2016年7月2日
現況 就航中
要目
総トン数 11,035 トン
全長 150 m
全幅 20.4 m
満載喫水 5.7 m
デッキ数 8層(旅客区画6層)
機関方式 ディーゼル 2基2軸
ボイラー 三浦工業 HB-03
主機関 JFE-SEMT ピルスティク 14PC2-6B 2基
推進器 可変ピッチプロペラ 2軸
バウスラスター 2基
スタンスラスター 1基
出力 19,800 kW (9900Kw×2)
航海速力 23.8ノット
旅客定員 892名
その他 フィンスタビライザー装備
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貨客船3代目おがさわら丸の煙突 2016年9月18日に撮影

おがさわら丸は、小笠原海運が運航している貨客船である。本項目では2016年(平成28年)就航の3代目について扱う。

概要

1997年(平成年)に就航した2代目「おがさわら丸」の代船として三菱重工業下関造船所で建造され、2016年(平成年)1月27日に進水し、7月2日に就航した。本船の就航に合わせて、父島と母島を連絡する「ははじま丸」も3代目に更新された。

共有建造制度を利用して建造された鉄道建設・運輸施設整備支援機構との共有船である。

小笠原諸島航路には、テクノスーパーライナーの実用1番船となる「スーパーライナーオガサワラ」が2005年(平成17年)11月に就航する予定であったが、原油価格高騰の影響を受け、運航費用の問題で頓挫した。その後、2011年(平成23年)の小笠原諸島世界遺産登録の影響などを盛り込んだ航路改善計画が検討され、通常船型の貨客船として本船が建造された。

就航航路

東京11時発 - 父島翌11時着、父島15時発 - 東京翌15時着、航海時間約24時間のダイヤで運航される。従来より東京発を1時間遅らせることで、港までの移動の際にラッシュ時間帯を回避、朝一番の列車・航空便との接続が改善され、従来は前泊を必要とした遠隔地からの利用の利便性が向上した[2]
繁忙期に実施される父島当日折り返し便の際は、荷役や船内清掃の都合で父島発が15時30分となり、東京入港も翌日15時30分到着として運航される。
また、下記の港に臨時寄港することがある。
横須賀港久里浜地区(年2~4回 4~5月頃・10~11月頃) ・館山港(年1回 10月頃) ・伊豆大島元町港(年1回 10月頃) 
・八丈島底土港(年1回 6月頃)
寄港実施便は、寄港地における出入港作業のため、目的地到着が40分遅延する。父島入港の場合は11時40分、東京入港の場合は15時40分。

設計

船容は前船に類似しているが、船客定員を増加するためデッキが一層増やされ大型化した。全長は約20メートル長い150メートル、総トン数は1.6倍の11,000トンとなった。二見港桟橋に制約される全長の範囲内で垂線長を可能な限り長くするため、船首は垂直ステムが採用されており[3]、外観上の特徴となっている。航海速力は1.3ノット向上し、片道約24時間での運航が可能となった。省エネ船型と高効率プロペラの採用により、前船と同一の機関出力で大型化・高速化を図っており、運航コストは同程度に抑えられている[2]

船体は8層構造で、最下層が1デッキ、最上層が8デッキと呼称されており、2-7デッキが旅客区画となる。バリアフリー新法に基づいて作成された鉄道・運輸機構の旅客船バリアフリーガイドラインに準拠したバリアフリー高度化船である。通常の船内設備に加えて、介護室、多機能トイレ、車いす対応エレベーター(4-7デッキ)などのバリアフリー設備を備える。

荷役設備として船首および船尾にデリックを各1基装備しており、船首甲板は貨物倉、5デッキの船尾方はコンテナ搭載スペースとなっている。

2020年(令和2年)1月ドック修繕の際に、2016年にIMO(国際海事機関)で採択された船舶燃料Sox規制強化に対応するため、主機関にのみ排ガス浄化装置(スクラバー)の搭載工事を実施した[4]

これは、スクラバー搭載によって、増加する重量に対し貨物積載量を減少させないための措置で、ボイラー及び発電機についてはスクラバーを搭載せず低硫黄A重油(LSA重油)を使用している[5]

船内

  • 案内放送の音声は、声優中上育実が声を当てている。
  • 2016年(平成28年)7月2日より、レストラン、展望ラウンジ、売店ではSuicaPASMOなどの全国相互利用サービスに対応した交通系ICカードが利用可能である(ただしPiTaPaは利用不可)[6]モバイルSuicaモバイルPASMOは仕様上、支払い時に無線パケット通信が必要になるため、基地局が圏外となる航行中は使用できない。また、従来のカードタイプにおいても船内でチャージが出来ないので、乗船前にあらかじめ必要金額をチャージをしておく必要がある。
  • レストラン及び展望ラウンジの軽食コーナーは、小笠原海運の直営ではなく、テナント業者により運営されている。
  • 先代のおがさわら丸までは酔い止め薬を船内売店で販売していたが、本船就航前の2009年(平成21年)6月の薬事法(現・医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)改定で、薬剤師登録販売者が常駐しないと販売できなくなったため、酔い止め薬を必要とする場合は、乗船前にドラッグストアで購入しておく必要がある。
  • 東京→父島間で、携帯電話の電波が繋がりやすい時刻は、東京湾内(14時頃まで)、大島沖(14時50分頃)、三宅島沖(16時10分頃)、八丈島沖(18時50分頃)、鳥島沖(1時20分頃)、父島入港約1時間前。
  • 4デッキ案内所にて、毛布及びシーツを追加で有料レンタルできるサービスがある。(それぞれ1枚300円)

船室

船体の大型化により、旅客定員は125名増加した。個室需要に対応するため個室も増やされ、原則として相部屋としない運用となった。新たに2等寝台が設定されたほか、2等和室は間仕切りが設けられ、一人あたりのスペースも前船比で約30パーセント広げられた。特2等寝台、2等寝台、2等和室にはレディースルームが、2等和室にはファミリールームが設定される[2]

特等室には隣接して、マッサージチェア、ドリンクサーバー(水・お茶・コーヒー)、水素水給水器を備えた専用ラウンジが設置される[2]

特等室、特1等室、1等室は有料でケータリングサービス(部屋まで食事を運んでもらうサービス。夕食のみ事前申し込み制。)を受けることが可能。

船室タイプの一覧
クラス 部屋数 定員 設備
特等室(スイート) 2名×4室 8名 キングサイズベッド(幅180cm 長さ200㎝)、バス、トイレ、テレビ、DVDデッキ、冷蔵庫、空気清浄機、ドライヤー、

専用デッキ、電気ケトル、専用ラウンジ(共用)

特一等室(デラックス) 3名×24室 72名 シングルベッド2台(幅90cm 長さ200㎝)、ソファベッド1台、バス、トイレ、テレビ、DVDデッキ、冷蔵庫、電気ケトル
一等室(スタンダード) 洋室 2名×39室 90名 シングルベッド(幅90cm 長さ200㎝)、テレビ、DVDデッキ、電気ケトル
※和室 4名×3室 マットレス、テレビ、DVDデッキ ※和室については一般販売していない。
特二等寝台(プレミアムベッド) 約10名×18区画 178名 階段式二段ベッド(1区画に2名ユニット×4、1名ユニット×2)、テレビ、コンセント、マットレス厚約8cm
二等寝台(エコノミーベッド) 約18名×5区画
約160名×1区画
250名 階段式二段ベッド(4名ユニット)(幅80cm 長さ200cm)、コンセント
二等和室(エコノミー) 23区画 296名 カーペット敷きの広間。マットレス(幅75㎝ 長さ100cm)、上掛け、枕付き

設備

パブリックスペース

  • 乗船口・案内所 - 4デッキ中央 乗船口は5デッキとなる場合有
  • ミニサロン「南島」 - 3デッキ後方 コンセント・USB電源有

供食・物販設備

  • レストラン「Chichi-jima」 - 4デッキ前方(全134席)
  • 展望ラウンジ「Haha-jima」 - 7デッキ後方(全76席)、軽喫茶コーナーを設置
  • ショップ「ドルフィン」 - 6デッキ中央
  • 自動販売機コーナー - 4デッキ中央 3デッキ船尾(ミニサロン「南島」内) 7デッキ(展望ラウンジ「Haha-jima」内。ソフトドリンクのみ)

入浴設備

  • シャワールーム - 2~6デッキに各1箇所(5デッキのみ2箇所) 24時間利用可能だが、海況が悪い時は閉鎖される。

利便設備

  • 授乳室 - 4デッキ中央 水素水サーバー(無料)・電子レンジ完備
  • エレベーター - 4~7デッキ中央 車いす対応バリアフリーエレベーター 海況が悪い時は運転が停止される。
  • キッズルーム - 4デッキ中央
  • ペットルーム - 4デッキ中央
  • 喫煙室 - 3・5・7デッキ
  • 貴重品ロッカー - 4デッキ中央 エレベーター乗降口正面 (無料) 小型78個、大型20個
  • 冷蔵コインロッカー - 4デッキ中央 (有料:使用料1回500円)
  • 電子レンジ - 4デッキ自動販売機コーナー、6デッキショップ「ドルフィン」内に併設(無料)
  • 給湯器 - 3~7デッキの各階に1台ずつ設置
  • 冷水器 - 3・4・5・7デッキに1台ずつ設置
  • 衛星公衆電話 - 4デッキエントランス右舷側に2台設置(100円硬貨専用)
  • 両替機 - 4デッキ案内所横
  • 更衣室 - 2デッキ・3デッキ

エピソード

  • 一部の報道やテレビ番組などで「父島行きのフェリー」と紹介されることがあるが、本船は自動車が自走して積載することができないので、いわゆるカーフェリーではない。(貨物としての積み込みは可能) 
  • 三菱重工業下関造船所が建造した旅客船で初めて垂直ステムを採用した船舶であり、本船建造時のデータは2017年(平成25年)に建造された新日本海フェリーの「らべんだあ」「あざれあ」の垂直ステム採用に繋がった。
  • 毎年6月頃に定期運航の合間を利用して父島や母島在住の硫黄島出身者や遺族を乗せて硫黄島に墓参クルーズを実施する。
  • 硫黄三島クルーズや西之島クルーズなど、小笠原海運主催の父島発着のクルーズを実施することがある。なお2021年(令和3年)以降は、新型コロナウイルス感染症の影響により実施されていない。
  • 太平洋沿岸を航行する大型カーフェリーが欠航するような海況でも、運航されることが多々ある。安全運航とは言い難いが、空路が無い小笠原諸島島民の生命線として活躍している。
  • おがさわら丸(2代目)で実施されていた航行中の船内見学は、本船では実施されていない。
  • カーフェリーを除く、在来型貨客船としては日本国内最大、最速の船舶である。
  • 2018年(平成30年)1月から2019年(平成31年)1月までの間、小笠原諸島返還50周年を記念して、船橋下部の両舷外板に返還50周年を記念したオリジナルロゴを塗装した状態で運航された。
  • 2019年(平成31年)1月から2020年(令和2年)1月までの間、小笠原海運の航路開設50周年を記念して船橋下部の両舷外板に航路開設50周年を記念したオリジナルロゴを塗装した状態で運航された。
  • 2019年(平成31年/令和元年)以降、新型コロナウイルスの影響で、特二等寝台、二等寝台、二等和室の定員を3~7割減らす、席数制限が実施されている。また、展望ラウンジのソファ席も閉鎖され、カウンター席のみの提供となっている。
  • 毎年、12月25日クリスマスに重なる便では、サンタクロースが二見港に着岸したおがさわら丸から降りてきて、父島の子供たちにプレゼントを渡すイベントがある。

ギャラリー

脚注

  1. ^ 無線設備は、国際VHFのほか中短波帯短波帯おがさわら丸」(総務省免許状情報)。 衛星公衆電話あり ワイドスターⅡ導入事例『小笠原海運様』(docomo)。
  2. ^ a b c d "2016年7月 東京竹芝 - 小笠原諸島父島航路 新おがさわら丸就航!!" (PDF) (Press release). 小笠原海運. 2016. 2017年4月17日閲覧
  3. ^ 新おがさわら丸、命名・進水式リポート(1)”. 「にっぽん全国たのしい船旅」編集部. イカロス出版 (2016年2月1日). 2017年4月17日閲覧。
  4. ^ 総務委員会 - おがさわら議会だより#134”. www.gijiroku.jp. 2021年11月22日閲覧。
  5. ^ funesuki. “「おがさわら丸」スクラバー搭載工事へ”. 船が好きなんです.com. 2021年11月22日閲覧。
  6. ^ "7月2日(土)〜、おがさわら丸船内(売店・レストラン・スナック)でSuicaが利用可能に!!" (PDF) (Press release). 小笠原海運. 4 July 2016. 2019年12月3日時点のオリジナル (PDF)よりアーカイブ。2019年12月3日閲覧

参考文献

関連項目

外部リンク