B型肝炎

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B型肝炎(Bがたかんえん、: Hepatitis B)とは、B型肝炎ウイルス (HBV) に感染することで発症するウイルス性肝炎の一つ。

ウイルス[編集]

2002年のB型肝炎による人口10万人当たりの障害調整生存年数(en: disability-adjusted life year[1]
  no data
  ≤ 10
  10–20
  20–30
  30–40
  40–50
  50–80
  80–100
  100–120
  120–150
  150–200
  200–500
  ≥ 500

疫学[編集]

日本においてB型肝炎ウイルス保有者(キャリア)は、150万人程度といわれている。そのうち10%が肝炎発症となり、慢性肝炎、肝硬変、肝細胞癌に進行する。しかし、95%は自然治癒する。したがって、キャリアのうち5%が慢性肝疾患になる。

近年、日本ではあまり見られなかったジェノタイプA(北米、欧州、アフリカ中部に多く分布する)のB型肝炎ウイルス感染が広がりつつある。ジェノタイプAのB型肝炎ウイルスに感染した場合、その10%前後が持続感染状態(キャリア化)に陥る。本来、日本に多いジェノタイプCのB型肝炎ウイルスは、成人してからの感染では、キャリア化することはまれであったことから、ジェノタイプAのB型肝炎ウイルス感染の拡大には、警戒が必要である。

感染[編集]

B型肝炎ウイルス血液を介して感染する。感染経路は主に以下がある。成人以降での水平感染 の多くは一過性であることが多い。

かつては幼児期(7歳まで)の輸血による感染が多かったが、現在では先進国では検査体制が確立した為ほとんど見られない。針刺し事故や覚醒剤注射の回し打ち・刺青での針の再使用などもある。

日本では、戦後から昭和63年頃まで行われた幼児期の集団予防接種における注射針や注射筒の使い回しにより、HBVウイルスが蔓延した。国は昭和23年には注射針・注射筒の連続使用の危険性を認識していたが、40年にわたり使い回しの現状を放任していた。現在、推定150万人の持続感染者(キャリア)の内、集団予防接種による感染者は30%前後と言われており、[2]この集団感染は2011年現在、裁判で係争中である。

臨床像[編集]

Chronic HBV v2.png

初期感染[編集]

B型肝炎ウイルスに感染した場合、多くは無症状で経過するが、20~30%が急性肝炎を発症し、1~2%が劇症肝炎化する。D型肝炎の混合感染が生じる場合もある。成人の初感染の多くは、免疫応答でウイルスを排除しての一過性感染であるが、近年成人感染のキャリア化が報告されている。

持続感染[編集]

母子感染の90%以上は、C型肝炎と同様、B型肝炎ウイルスに持続的感染を呈する場合が多い。1986年から母子間ブロックが行われるようになってからは感染はほとんど防げている。

HBe抗原陽性無症候性キャリア
血液検査にて、HBe抗原陽性を示し、ALT高値を示さない状態。B型肝炎ウイルスが増殖しているが、肝障害は呈していない状態のこと。多くの場合、自然経過でHBe抗原陰性・HBe抗体陽性を生じ、HBe抗体陽性無症候性キャリアへ移行する(HBeセロコンバージョン:HBe seroconversionという)が、一部は慢性肝炎へと移行する。
HBe抗体陽性無症候性キャリア
血液検査にて、HBe抗体陽性を示し、ALT高値を示さない状態。B型肝炎ウイルスが完全には排除しきれていないが、ウイルスの増殖は抑えられ、肝障害を呈さなくなった状態のこと。多くの場合は自然経過を経る。ほとんどは、再活性化や肝硬変へは移行しない。一部のみがウイルスの再増殖による再活性化する。また肝逸脱酵素の上昇を伴わずとも肝硬変に進展していることもまれにある。
慢性B型肝炎
B型肝炎ウイルスが増殖し、血液検査においてALT高値持続認め、肝障害を呈している状態。肝硬変への移行・肝細胞癌の発症を生じてくる。
稀に、HBs抗原陰性・HBs抗体陽性となる場合もあり(HBsセロコンバージョン:HBs seroconversionという)、予後良好である。
de novo 急性B型肝炎
近年、さまざまな免疫抑制剤抗癌剤分子標的治療薬が開発され、それらの使用により沈静化していたB型肝炎か再燃するもの。劇症肝炎への移行率が高く、注意を要する。2001年リツキシマブステロイドの併用により加療していた悪性リンパ腫患者が、B型肝炎を発症したことが報告されてからクローズアップされている。

肝硬変[編集]

肝細胞癌[編集]

C型肝炎と異なり、B型肝炎では肝硬変を経ずに肝細胞癌の発症が見られる。無症候性キャリアであっても発症することもある。

検査[編集]

問診[編集]

B型肝炎の感染経路は、主にB型肝炎に感染している母親から出産時の子への感染(母子感染。垂直感染)、出産後の集団予防接種、それ以外による医療者の針刺し事故・集団予防接種での注射器の使いまわし・性交渉・入れ墨で器具を消毒せず繰り返し使用した場合・覚醒剤使用時に注射器を共用した場合、等がある。(但し、成人してからの感染は慢性化する事が少なく一過性の急性肝炎が主な症状になるので、慢性B型肝炎患者の場合は予防接種・母子感染が主な感染経路になる事も考えられる) なので出生時の母親の感染有無、集団予防接種時の時期(昭和23年7月~昭和63年)、輸血暦、手術暦、針刺し事故、覚醒剤注射・異性関係などの感染の原因となりうることがあったかどうかを確認が大切である。

血液検査[編集]

  • ウイルス検査
    • HBs抗原:陽性であればHBV感染を示す。
    • HBs抗体:中和抗体であり、陽性であれば既感染・治癒を示す。
    • HBc抗体:陽性であればHBV感染を示す。多くの場合HBs抗原陽性であるが、HBs抗原陰性であってもHBc抗体陽性であればHBV感染の場合もある。
      スクリーニング検査でHBs抗体陽転の際に測定する。HBV感染であればHBc抗体陽性となり、ワクチンによるものであればHBc抗体は陰性である。
    • HBc-IgM抗体:初期感染急性期または慢性肝炎急性増悪期に上昇傾向を示す。
    • HBe抗原:HBV量が多いことを示す。
    • HBe抗体:HBV量が少ないことを示す。
    • HBV-DNA:HBVのDNA量を直接測定したもの。現在はリアルタイムPCRが用いられる。
      従前はbranched DNA probe, TMA, PCR が用いられていたが、感度の優れたリアルタイムPCRが現在は主である。

臨床的には大まかに以下のように状態評価していく。

HBs抗原 HBs抗体 HBe抗原 HBe抗体 HBV-DNA 臨床像
(-) (+) (-) (-) (-) 既感染・治癒
(+) (-) (-) (+) (-) HBe抗体陽性無症候性キャリア
(+) (-) (+) (-) (+) HBe抗原陽性無症候性キャリア
(+) (-) (+) (-) (+) 慢性B型肝炎

画像検査[編集]

以下の画像検査によって、慢性肝炎~肝硬変肝細胞癌の発生を評価していく。

病理組織検査[編集]

  • 肝生検により肝臓の傷害について、リンパ球浸潤や線維化などの組織学的評価ができる。
    • HBs抗体陽性例やHBV-DNA量が測定感度以下であり、既感染と診断されていても肝臓の組織内にcccDNAという形態でHBVが残存していることがあり注意を要する。"occult HBV"と呼ばれる。

予防[編集]

母子感染予防[編集]

現在、B型肝炎キャリアの多くは母親からの垂直感染(母子感染)であり、外国では母子感染予防の為、B型肝炎ワクチンを乳児期に定期接種している例が多い。日本では、母子感染防止対策事業として、妊婦に対するHBs抗原検査が実施され、健康保険によりHBs抗原陽性妊婦からの出生児へ、抗HBs人免疫グロプリン投与・B型肝炎ワクチン接種を施行している。

  • 接種スケジュールは、一般的には1回目と2回目が4週間間隔(米国では30日)、2回目と3回目が半年間隔である。10年間抗体維持。
  • 緊急接種の場合(緊急でハイリスク暴露になる可能性がある場合)、米国では次の接種法が承認された。1回目と2回目が1週間間隔、2回目と3回目が2週間間隔、3回目と4回目が1年間隔。これで、10年間の抗体維持ができるとされる。

水平感染防止[編集]

労災事故防止(対象 医療関係者・救急関係者等)の観点から実習前の段階からB型肝炎ワクチンの接種が望ましいとされているが、日本では労働安全衛生法上の義務にも関わらず一部の医療機関でB型肝炎ワクチンの予防接種の未実施や接種費用の一部の自己負担を請求している等の問題がある。

渡航者もB型肝炎ワクチンの接種対象となる。日本製、または、日本で承認されているB型肝炎ワクチンの抗原量は10マイクログラムであり、日本以外の製品の20マイクログラムの半分量であること、また、いずれの場合も、"low responder"や"non-responder"という、抗体産生反応をしにくい被接種者がいることも熟知されたい。

VD性行為感染症)としては、コンドームの着用である程度予防することができる。

B型肝炎ウイルスに対しては、高HBIG(高力価HBs抗原ヒト免疫グロブリン)・HBワクチンにより感染の減少がみられる。

治療[編集]

慢性B型肝炎の治療の目的は、慢性肝炎の沈静化(ALTの正常化)と、その後の肝硬変への移行・肝細胞癌発症の阻止にある。急性B型肝炎は基本的に保存的加療がなされる。急性肝炎を参照。

抗ウイルス療法[編集]

抗ウイルス治療B型肝炎ウイルスを排除する治療である。B型肝炎ウイルスは自然経過において排除抗体(HBs抗体ないしHBe抗体)を取得し、ウイルスの活性化が沈静化していき、これを「セロコンバージョン(seroconversion)」と呼ばれているが、抗ウイルス治療はこれを促していくことを目標としていく。治療適応は「HBe抗原陽性無症候性キャリア」・「慢性B型肝炎」・「B型肝硬変」である。

抗ウイルス治療は、インターフェロン(IFN)と、核酸アナログ製剤で行われる。核酸アナログ製剤は一度開始すると終生継続していく必要性があることと、希に耐性ウイルスが出現することも多く、それによる急性肝炎(breack through hepatitis)が発生することも少なくない。

インターフェロン(IFN)
  • IFNα (スミフェロン®、オーアイエフ®)
  • IFNα2b(イントロンA®)
  • IFNβ (IFN®、フエロン®)
核酸アナログ製剤
  • ラミブジン Lamivudine(ゼフィックス Zefix®):LAM
    元々HIV治療薬として開発された。耐性ウイルス出現が多く、近年は新規使用には用いられていない。
  • アデフォビル Adefovir(ヘプセラ Hepsera®):ADF
    ラミブジン耐性のウイルス治療薬として承認された。ラミブジン耐性ウイルス出現時にラミブジンと併用で用いられた。
  • エンテカビル Entecavir(バラクルード Bareclude®):ETV
    ラミブジンよりウイルス抑制作用が強力で、現在はほぼ核酸アナログ製剤として第一選択で用いられている。催奇形性があり、妊娠の可能性がある女性には投与できない。
  • テノフォビル Tenofovir(テノゼット®):TDF
    核酸アナログ製剤の次世代薬。元々は抗HIV薬として使用されており、日本・海外で広く認可されている。催奇形性が低いとされている。
  • テルビブジン Telbivudine:LdT(Sebivo® Tyzeka®)
  • クレブジン Clevudine(Revoivir®)

基本的に年齢によって治療選択される。

  • 35歳未満:免疫応答によるセロコンバージョンが期待され、免疫賦活作用もあるIFN治療が選択される。ウイルス量が多い場合、核酸アナログ製剤との併用療法が行われる。
  • 35歳以上:セロコンバージョンの可能性が低く、核酸アナログ療法によるウイルス抑制治療が選択される。ウイルス量が多い場合、IFNとの併用療法が行われる。また、挙児希望の場合はIFNまたはTDF投与が行われる。

肝庇護療法[編集]

抗ウイルス療法以外に、ALTの正常化を計る目的で、以下が用いられる。ただ、肝庇護療法はC型肝炎には比較的効果はあるが、B型肝炎にはあまり効果を示さない場合も多い。

脚注[編集]

  1. ^ Mortality and Burden of Disease Estimates for WHO Member States in 2002 (xls)”. World Health Organization (2004年12月). 2009年11月13日閲覧。
  2. ^ B型肝炎訴訟とはウイルス性肝炎患者の救済を求める全国B型肝炎訴訟・大阪弁護団

出典[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

政府機関
学会
NPOなど