流れよ我が涙、と警官は言った

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索
流れよ我が涙、と警官は言った
Flow My Tears,The Policeman Said
著者 フィリップ・K・ディック
訳者 友枝康子
発行日 アメリカ合衆国の旗 1974年2月1日
日本の旗 1981年12月1日
発行元 アメリカ合衆国の旗 パトナム社
日本の旗 サンリオ
ジャンル SFサスペンス
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
言語 英語
テンプレートを表示

流れよ我が涙、と警官は言った』(ながれよわがなみだ、とけいかんはいった、Flow My Tears,The Policeman Said )は、アメリカSF作家フィリップ・K・ディックSFサスペンス小説

1974年に発表され、翌1975年ジョン・W・キャンベル記念賞を受賞した。同年のネビュラ賞最終候補にも挙がっていた。日本では1981年友枝康子によって翻訳され、サンリオSF文庫から刊行された。1989年ハヤカワ文庫早川書房)から『流れよわが涙、と警官は言った』の題名で再刊、2013年にハヤカワ文庫・新装版が刊行された。

パラレルワールドを手法として使った現代SFとしても評価されている[1]

あらすじ[編集]

舞台は1988年10月11日アメリカ合衆国。ちまたでは『ジェイソン・タヴァ・ショー』と呼ばれるバラエティー番組が話題となり、常に高視聴率を維持し続けている。その番組の司会は、3000万の視聴者から愛される容姿端麗の男、ジェイソン・タヴァー。歌手でもあり俳優でもあるいわゆるマルチタレントであり、火星のコロニー住民にも存在を知られているが、その経歴などは謎に包まれており、ファンにも彼の実の姿を知るものはいない。実は彼は遺伝子操作を受けて生まれた新人類、「スィックス」と呼ばれるデザイナーベビーであった。彼らはあらゆる所に拠点を置いて生活している。彼の番組は夜中に放送され多くのファンを魅了しており、私生活も悠々自適であった。

ある日、彼は見知らぬ安ホテルで目を覚ます。気がつくと手元の身分証明書が無くなっており、馴染みのある知人やファンからも存在を忘れ去られていた。突然の理不尽な出来事に納得ができないタヴァーは、あらゆる手段を使い自分のアイデンティティを取り戻そうとする。しかし、物的な証拠は見つからず、国家のデータバンクからも存在自体が抹消されていた。本人が所持しているIDすら偽造のものであった。

彼は「存在しない男」になっていた。もはや誰も自分の存在を知らない無色透明な存在…… 自分に関する手がかりを探して行く中で警官にも追われることとなり、彼の身に次から次へと奇怪な出来事が起こるようになる。そんな中で自暴自棄になった彼が起こした行動とは。ラストは衝撃的な事実が明かされることになる。

解説[編集]

今作は最近まで順風満帆な生活を送っていたはずのタヴァーが全てを失い、存在さえも国家から抹消され、自我が崩壊していく過程と現実の裏にある不条理さを描いた作品である。本作には執筆者のディックの経験が反映されている[2]。ディックは、この当時薬物依存症であり、妻子に逃げられるなど悲惨な私生活を送っていた[3]。ディック自身によれば本作の原稿自体は1970年には既に完成しており、その間に何度も推敲を重ねていったそうである。彼にとっては『死の迷宮』以来実に4年ぶりの作品となる。

現代社会を風刺したような内容から、発表当時から現在に至るまで賛否両論の評価がある。しかし本作が与えた影響は大きく、後の文学やアニメ・漫画などにも影響を与えている。大原まり子の『処刑少女マンガ家の念力』でも本作のタイトルが冒頭で引用されている。なお、本作のタイトルはジョン・ダウランドの戯曲『流れよ我が涙 (Flow my tears)』が由来となっている。

本編で鍵となる「スィックス」は本編であまり言及されていないものの、同作者の『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』における「アンドロイド」たちと同質の存在である。遺伝子操作されて生まれたという点で大きく違うものの、彼らには通常の人間にあるはずの悲しみという感情はなく、機械的であり人間味にも欠けている。体の構造は人と変わないが年も取らず、誰しもが一度は考える生死についても疎い。そういった部分では同じ存在であるといえよう。それ故に涙を流せないである。彼らには人が死んだり自分に苦しいことがあっても嘆いたり悲しんだりはせず無感情であり、それが理解できない(劇中でも登場人物の一人が「悲しいことで涙が流せるのは人間の特権だ」と述べている)。その対比として登場人物の人間は感情的なものとして描写されており非常に人間臭い。

こうしたテーマをディックは他作品でも取り扱っており、類似性を窺い知ることもできる[4]

サイバーパンクを先取った作品でもあり、劇中ではチャットSNSなどに近いシステムも登場する。

映画化[編集]

2009年に『ターミネーター4』の制作会社であるハルシオン・カンパニーの経営者ヴィクター・クビチェクデレク・アンダーソンが本作の映画化を決定することを発表した[1]。 公開年などについては未定。

書誌情報[編集]

関連項目[編集]

脚注[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ 世界大百科事典第2版「パラレルワールド」
  2. ^ 『早川文庫版の解説より一部抜粋』400 - 401頁
  3. ^ 『早川文庫版の解説より一部抜粋』402 - 404頁
  4. ^ 特に『時は乱れて』や晩年の『ヴァリス』などにその傾向が強い

外部リンク[編集]