四体液説

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四体液説
左から、黄胆汁質(短気)、黒胆汁質(陰鬱)、粘液質(鈍重)、多血質(楽天的)各々の表情

四体液説(よんたいえきせつ)は、人間の身体には基本体液として、4つの体液(血液、粘液、黄胆汁、黒胆汁)があるとする説。もしくは、それに基づく体液病理説である。

古代ギリシアヒポクラテスは、人間身体の構成要素として2~4種類の体液を挙げ、この体液のバランスによって健康状態、精神状態が決まり、調和が崩れると病気になると考えた(体液病理説)。[1]

また、体液の過少と人の気質には関係があると考えられていた。(メランコリーの語源は黒胆汁である[2])次の表は、四体液説と季節、四大元素、気質等と、心理学の性格類型MBTIの対応表である。[3]

体液と気質の関係
体液 季節 元素 発生部位 性質 古代でいわれた気質 現代 MBTI 古代でいわれた性格
血液 空気 心臓 熱・湿 多血質(sanguine) 職人(artisan) SP 勇敢、楽天的、好色
黄胆汁 肝臓 熱・乾 胆汁質(choleric) 理想家(idealist) NF 怒りっぽい、気難しい
黒胆汁 脾臓 冷・乾 憂鬱質(melancholic) 保護者(guardian) SJ 元気がない、不眠、精神錯乱、天才[4]
粘液 脳/肺 冷・湿 粘液質(phlegmatic) 理性的(rational) NT 穏やか、感情的でない


体液の種類は、最初から4種類で統一されていたわけではない。エンペドクレス四大元素説の影響を受けて、ヒポクラテスが著書『人間の自然性について』の中で、人間は血液粘液黄胆汁黒胆汁からできていると述べており[5]、これが主流の分類である。しかし『疾病について』の中では、血液、粘液、胆汁、また『疾患について』で、病気はすべて胆汁と粘液の作用であるとしており、定まっていない。どちらを採用するかは学派によって異なり、ヒポクラテスのコス派は血液、粘液、黄胆汁、黒胆汁の四体液説で、クニドス派は胆汁、粘液説であった[6]

ローマのガレノス(129年頃 - 199年)が、四体液説を採用しギリシャ医学をまとめ上げたため、後世に残ったのは四体液説だった。ギリシャ・ローマの医学では自然治癒を重視し、悪い体液を排出し自然治癒を促すために、刃物やヒルを使った瀉血や、下剤、浄化剤、緩下剤、誘導剤を用いた。また、食事療法や運動も重視された。

ビザンツ帝国で異教徒・キリスト教異端が迫害され、学者たちがサーサーン朝ペルシャに亡命したことから[7]、体液病理説・四体液説をベースとしたガレノス医学はアラビアに伝わり、アル・ラーズィーイブン・スィーナーらによって「ギリシャ・アラビア医学」(ユナニ医学、ユナーニ医学)として発展した。のちに十字軍によってヨーロッパに再びもたらされた。

また、四体液説は占星術と関連付けて解釈され(医療占星術)、15~16世紀には、神話・占星術・医学(四体液説)が結びついた「惑星とその子供たち」という考え方が流行した。

  • 木星:血液と結びつき、教養と富に恵まれた人々と関係する。
  • 火星:黄胆汁と結びつき、軍人と関係する。
  • 金星:粘液と結びつき、学者、芸術家と関係する。
  • 土星:黒胆汁と結びつき、貧民や犯罪者、身体障害者、インディオなど、当時のヨーロッパで虐げられていた人々と関係する。

土星サターン)は「我が子を喰らうサトゥルヌス」の神話や土星の占星術的解釈から、老年や死という忌まわしいイメージと紐付いた。魔女は「土星=サトゥルヌスの子供」であり、食人を行う(とされた)インディオと同類の存在で、黒胆汁過多によってメランコリー症に冒されているとみなされた。[8]

体液病理説・四体液説に基づくギリシャ・アラビア医学は、ヨーロッパでは15~16世紀まで、ペルシアなどでは19世紀末まで主要な医学であった。[9]アル・ラーズィーによって四体液説の誤りが証明され[要出典]、現代医学には継承されていない。 しかし、アラビアやイスラム文化圏で行われているユナニ医学以外にも、シュタイナー教育などで現在も参照されている。[10]

脚注[編集]

  1. ^ 梶田 (2003),p.51
  2. ^ 梶田 (2003),p.53、黒胆汁は古代ギリシア語でmelas-chole、melasは「黒」、choleは「胆汁」である。
  3. ^ Keirsey, David (1998). Please Understand Me II: Temperament, Character, Intelligence. Del Mar, CA: Prometheus Nemesis Book Company. p. 26. ISBN 1-885705-02-6. 
  4. ^ 黒川 (2011),p.103
  5. ^ 小川 (1963),p.102
  6. ^ 梶田 (2003),p.53
  7. ^ 梶田 (2003),p.136
  8. ^ 黒川 (2011),p.102
  9. ^ 梶田 (2003),p.147
  10. ^ 4つの気質と体液病理学 ~自分の気質を知ろう~. The New Symphony Orchestra,Tokyo

参考文献[編集]

関連項目[編集]