プラティベロドン

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プラティベロドン
内モンゴル博物館のPlatybelodon grangeri
地質時代
新第三紀中新世前期 - 後期
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
亜綱 : 獣亜綱 Theria
: 長鼻目Proboscidea
上科 : ゾウ上科 Elephantoidea
: アメベロドン科 Amebelodontidae
: プラティベロドン属 Platybelodon
学名
Platybelodon Borissiak1928
  • P. danovi
  • P. dangheensis
  • P. tongxinensis
  • P. grangeri
  • P. tetralophus
  • P. barnumbrowni

プラティベロドン学名Platybelodon)は、新第三紀中新世前期から後期にかけてアフリカ大陸ユーラシア大陸北アメリカ大陸に生息した、長鼻目アメベロドン科に属する絶滅した哺乳類。シャベルのように特殊化した下顎とそのを特徴とする[1]

形態[編集]

プラティベロドンの肩高は約2メートルに達する[1][2]。上顎の牙は現生のゾウと比較して小型であるが、下顎の牙は大きく扁平な四角形の板状構造をなしており、下顎はシャベル状である[1][2]。また頭部と頸部は前後に長く、地表の植物や水の摂食・摂取に適していた[2]

時空間分布と種[編集]

人類の起源をアジアに求めるヘンリー・フェアフィールド・オズボーンの仮説を信じ、アメリカ自然史博物館ロイ・チャップマン・アンドリュースゴビ砂漠での発掘調査を開始したのは、1922年のことであった[3]。アンドリュースは1925年までモンゴル側で調査を行っていたが、1928年と1930年の調査では中国側に調査地を移し、中新世の哺乳類化石を多く発見した[3]。1928年に初めて発見されたプラティベロドンは当該調査の成果物の代表例である[3][4]。オズボーンは近縁のアメベロドン英語版の生物層序に基づいてプラティベロドンを鮮新世の動物と考えたが、後にワン・シャオミンらにより中新世の動物であることが明らかにされた[4]

プラティベロドン属は2022年時点で6種が知られている。このうち P. dangheensis(中国北西部)、P. tongxinensis(中国北中央部)、P. grangeri(中国北部一帯)、P. tetralophus内モンゴル自治区)の4種は中華人民共和国で化石が産出しており、中期中新世の中国においてプラティベロドン属は支配的であった[5]。主に東ヨーロッパで知られる P. davoi は、クバーニロシア)、ヴァルナブルガリア)、ジョージアトルコで化石が産出しており[5]、中国の寧夏回族自治区からも報告がある[6]。アフリカ大陸ではケニアから未定種が産出している[5]。北アメリカ大陸ではアメリカ合衆国ネブラスカ州から P. barnumbrowni が知られている[5]

プラティベロドン属は、長鼻目の哺乳類が大型化しまた鼻が長大化していく過程に出現した属として位置付けられており[2]、アメベロドン科の中ではアルカエオベロドン英語版よりも派生的である[6]。その本属でもヨーロッパの P. davoi や中国の P. dangheensis および P. tongxinensis、加えてアフリカの未定種は基盤的な種と見なされており、Wan and Li (2022) では中新世前期の後半から中新世中期の前半に生息した原始的なグループとして纏められている[5]P. grangeri は中新世中期の中盤、P. tetralophus は中新世中期の終盤から中新世後期の初頭、P. barnumbrowni は中新世後期の後半の種である[5]。すなわち、ユーラシア大陸最後の種である P. tetralophus よりも後に北アメリカに P. barnumbrowni が生息しており、既知の範囲内では当該種が本属最後の種である[5]

なお、P. tetralophus は元々 P. grangeri に分類されていたが、Wan and Li (2022) はアメリカ自然史博物館に所蔵された標本をタイプ標本として新種記載した。また Wan and Li (2022) は、ゴンフォテリウム属の種である Gomphotherium shensiense の標本をプラティベロドン属の P. tongxinensis に再分類し、G. shensienseP. tongxinensis のジュニアシノニムとした[5]

古生態[編集]

プラティベロドンはかつて、草原の発達したサバナの湿地帯で水生植物や半水生植物を歯で掘り起こして摂食していたと考えられていた。しかし、歯の摩耗パターンから、プラティベロドンは短い牙を用いて樹木から樹皮を削剥していたこと、あるいはシャベルの縁を形成する鋭利な切歯を現代の大鎌のように用い、同体で枝を掴んで下顎の歯で葉を木から切り離していたことが示唆されている[7]。特に成獣は幼獣と比べてよく粗い植物を摂食していた可能性がある[8]

ギャラリー[編集]

出典[編集]

  1. ^ a b c 冨田幸光『新版絶滅哺乳類図鑑』丸善出版、2011年1月30日、220頁。ISBN 978-4-621-08290-4 
  2. ^ a b c d 土屋健リアルサイズ古生物図鑑 新生代編』群馬県立自然史博物館監修、技術評論社、2020年10月10日、95頁。ISBN 978-4-297-11514-2 
  3. ^ a b c 冨田幸光 (2022年). “監修者が解説、特別展「化石ハンター展」の見どころ、100年前の“史上最大級”の探検”. ナショナルジオグラフィック協会. 2023年1月21日閲覧。
  4. ^ a b 木村百合 (2022年8月1日). “シャベルのような広い下顎 ゾウの仲間、プラティベロドン”. ゆり先生の化石研究室. 毎日新聞社. 2023年1月21日閲覧。
  5. ^ a b c d e f g h Wang, S. Q; Li, C. X (2022). “Attributing “Gomphotherium shensiense” to Platybelodon tongxinensis, and a new species of Platybelodon from the latest Middle Miocene”. Vertebrata PalAsiatica 60 (2): 117-133. 
  6. ^ a b 仲谷英夫、三枝春生、國松豊、Benjavun RATANASTHIEN「タイ北部中新世哺乳類動物群とその地質年代」『霊長類研究』第18巻第2号、2002年、131-141頁、doi:10.2354/psj.18.131 閲覧は自由
  7. ^ Lambert, W.D (1992). “The feeding habits of the shovel-tusked gomphotheres: evidence from tusk wear patterns”. Paleobiology 18 (2): 132–147. doi:10.1017/S0094837300013932. JSTOR 2400995. 
  8. ^ Semprebon, Gina; Tao, Deng; Hasjanova, Jelena; Solounias, Nikos (2016). “An examination of the dietary habits of Platybelodon grangeri from the Linxia Basin of China: Evidence from dental microwear of molar teeth and tusks”. Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology 457: 109–116. doi:10.1016/j.palaeo.2016.06.012. 

外部リンク[編集]