スポラディックE層

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

スポラディックE層(スポラディックイーそう、Es層、略称EスポまたはEs英語:Sporadic E layer)とはからごろにかけて、主に昼間に上空約100km付近に局地的に突発的(スポラディック)に発生する特殊な電離層である[1]。通称「Eスポ」と呼ばれる。

Eスポの電子密度が極度に高い場合は、F層でも反射できないVHF(Very High Frequency)帯の電波をも反射するという特殊な性質がある。

発生時の状況[編集]

伝播状況[編集]

周波数が30MHz以上であるVHF波は通常は電離層を透過し、見通し距離外への伝播はできず直接波通信に限定される。ところがEスポが発生すると、通常は電離層を透過する30 - 150MHzのVHF電波がEスポにより反射されて地上に戻ってくるようになる。いわゆる異常伝播現象のひとつとして扱われている。

主な事象[編集]

VHF帯の電波の電離層反射波は通常想定されていないため、送信出力や割当てなどもそのようになっていない。このため、Eスポ反射波による混信や妨害が発生する。

日本では韓国中国などの周辺諸国や離島・地方の大出力局のテレビFMラジオの電波がEスポで反射して日本でも強く受信され、FMラジオ放送に混信による音声の乱れが生じることがある。日本国内の局でも、遠方の局が受信できたり、遠方の局の電波による妨害が起きたりする。かつてはテレビ放送においてもEスポ発生の影響で地上アナログテレビ放送の1 - 3チャンネルに混信による画像や音声の乱れが生じることがあった[2]。現在は地上デジタルテレビ放送完全移行によりVHF帯によるテレビ放送が2012年3月31日までに全て終了(岩手宮城福島以外の都道府県では2011年7月24日終了)したことにより、日本国内のテレビ放送においてはEスポ反射による混信は解消されている。

地方自治体の同報系防災無線設備を利用した「地方自治体からのお知らせ」などが、同じ周波数を使っている遠方の地方自治体の設備で受信され、全く関係ない土地の「お知らせ」が流れることがある。

アマチュア無線では21MHz帯以上の周波数の反射が顕著で、長距離(300 - 1500km以上。北海道関東、関東⇔九州)の交信が可能となる。ただし、21MHz以下の周波数でもEスポによる反射は起こっている。

また、通常では出力が0.5Wと非常に小さく、かつアンテナも交換禁止で遠方との通信には不向きな、市民ラジオでは、Eスポ反射を利用し1000km以上の遠距離交信も可能となる(オーストラリアと通信してしまった実例がある。国外のCB無線局と通信するのは電波法違反だが「犯意なし」ということで処分はされなかった)。

業務無線関係者・放送関係者からはしばしば「厄介者」とみなされるが、アマチュア無線家・無線愛好者からはEスポは、一つの「イベント」と捉えられている。

観測方法[編集]

電離層の反射状態を知るためには地上の2点間の通信状況を監視するほか横軸に周波数、縦軸に高度、カラーコンターでエコー強度を示したイオノグラムの観測結果が利用されている(当該リンクを参照)。これはレーダー(イオノゾンデ)を用いて地表から上空に電波を発射し、電離層で反射して地表面に戻ってくるまでの時間を測定し電離層の高度と反射強度の検出結果をグラフ化したものである。Eスポ発生時には高度100km付近において周波数軸に対し反射層が水平方向に直線で伸び、電波を強く反射する層がイオノグラムに現れる。イオノグラムは観測地点のピンポイント情報しか得られないため、Eスポの平面的・地域分布情報は得られない。Eスポの地域分布を中国からのFM放送反射波を受信することで得ようとするアイディアはあるが、実現はされていない。

発生の傾向[編集]

Eスポは、季節的には5月中旬から8月上旬に発生頻度が高い。時間的には、11時から12時と17時から18時頃が最も出現頻度が高い。また数日続けて同じ時刻近辺にEスポが出現しやすい傾向があるが、発生頻度は不規則である。

Eスポの発生頻度に地域的偏りがあり、その原因は不明であるが地球上では日本付近において最も出現率が高いことが知られている。通常の電離層(D, E, F層)と比べると電子密度が極めて高いのがEスポの特徴で上空約100kmでのような状態で分布し、高速で移動する。

夜間に発生するVHF帯での異常伝播は、E層での「FAI(Field-aligned Irregularities)」と呼ばれる電離層構造ができるという説もある。FAIとは、Es層内プラズマ中の不安定な構造が地磁気磁力線に沿った鉛直方向に対して電子密度が高くなる濃淡構造をいう。FAIは磁力線に直行の方向から入射する電波を強く後方散乱し、夏の夜半前にしばしば現れるといわれている。

電離層(D, E, F層)の電子密度の変化は11年周期の太陽活動との相関が高いことが知られているが、Eスポでは出現頻度や最大電子密度と太陽活動との関係はない。流星を起源とする金属イオンによって高い電子密度が保たれるため流星群の出現と相関があるとする説やある特定の気圧配置において出現しやすいとする説もあったが、現在ではウィンドシアー理論によるスポラディックE層の生成過程説が有力である。

アマチュア無線家の間では、暑い日に起きやすい、とする説や、50MHz帯の異常伝播の傾向について、栗山晴二の唱えた「キングソロモンの法則」が知られている。この名称は、栗山のコールサインであるJ2KS, JA1KSにちなむものである。「日本列島寒冷前線が縦断した時、かつ雲が垂れ込めていると発生しやすい」というものである。ただし気象現象は対流圏内(およそ上空10km程度まで)の活動であるにもかかわらずなぜE層の高さ(上空100kmの電離層、熱圏)にまで影響するのかといった因果関係を説明できる科学的な根拠はなく、経験則の域を出られなかった。

一方、VHF帯の電波は対流圏内に形成されるラジオダクト(電波伝播)と呼ばれる経路が形成されることで異常伝播が起こることも知られており「キングソロモンの法則」ではEスポによる異常伝播、流星エコー、対流圏内ラジオダクトによる異常伝播が区別できていなかったと考えられる。1500kmを越えるVHFの異常伝播は複数のEスポの発生によるマルチホップよりもF層でのVHF電波の反射、中緯度の赤いオーロラ赤道上空高高度の電離構造(プラズマバブル)などが関係している可能性がある。

脚注[編集]

  1. ^ 関東総合通信局 > 放送 > 電波の異常伝搬によるテレビの受信障害
  2. ^ NHKではかつて、テレビ放送に1 - 3チャンネルを使用している地域などに向け『(Eスポの影響が無い)周辺のUHF中継局を受信する様に』と案内していた

関連項目[編集]

外部リンク[編集]