繰り込み
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歴史
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繰り込み(くりこみ)とは、場の量子論で使われる、計算結果が無限大に発散してしまうのを防ぐ数学的な技法であり、同時に場の量子論が満たすべき最重要な原理のひとつでもある。
繰り込みにより、場の量子論を電磁相互作用に適用した量子電磁力学は完成した。場の量子論に繰り込みを用いる方法は、以後の量子色力学およびワインバーグ・サラム理論を構築する際の規範となる。
目次 |
[編集] 概要
量子力学における不確定性関係から、短時間ならばエネルギーが保存しないような中間状態に遷移することが可能である。場の量子論 (QFT) ではそのような中間状態が無限にあり、そのためにしばしばこのような補正は発散する。
例えば量子電磁力学において、電子が(仮想的な)光子を放出してこれを再び自分で吸収する過程が存在する。これは電子が自身の作る電磁場中において持つ電磁的なエネルギーへの寄与を与え、自己エネルギーと呼ばれる。 また、光子から(仮想的)電子と(仮想的)陽電子が対生成し、再結合して対消滅し光子に戻るという過程も起こる。このように電子の周囲の真空に電子と陽電子が絶えず対生成、対消滅していることを真空偏極という。
これらの電磁相互作用による輻射補正は普通に計算すると無限大の結果を与える。重要なことは、これらの無限大が、電子の質量や電荷という、理論のパラメタの再定義によって吸収されるということである。それゆえ、観測される電子の質量、電荷を計算結果、つまり「裸の」質量、電荷と輻射補正との和と等しいと置くことによって、無限大を取り除くことができる。この操作を繰り込みという。
繰り込みは場の量子論では特別な事情がない限り必要であるが、無限大を「繰り込む」パラメタが有限個で済むかどうかというのは重要である。このように、有限個のパラメタで理論のすべての無限大を取り除くことができる理論を繰り込み可能であるという。量子電磁力学 (QED) 、ワインバーグ・サラム理論、量子色力学 (QCD) は繰り込み可能であることが知られている。一方、重力を記述する一般相対性理論は繰り込みが不可能であるので量子化すると破綻するとされている。 そのため、重力の寄与が無視できなくなる高エネルギー領域においては一般相対性理論に代わる量子重力理論が必要と考えられている。
繰り込みは、場の量子論およびそれを電磁相互作用に適用した量子電磁力学において重要な基礎理論である。また、ゲージ理論とも関連している。
「量子電磁力学」、「場の量子論」、および「ゲージ理論」を参照
[編集] 歴史
1930年代に量子電磁力学が発展していく過程で、マックス・ボルン、ヴェルナー・ハイゼンベルク、パスクアル・ヨルダンおよびポール・ディラックは摂動計算において多くの積分が発散することを発見した。
1930年代、発散を解決する計算がいくつかなされたが、当時、場の量子論は相対論的に不備であるため、正確な値を与えなかった。
これを解決したのが、1943年朝永振一郎が創った相対論的に共変な場の量子論、超多時間論である。繰り込みは超多時間論を基礎にして確立される。遅れること数年、ジュリアン・シュウィンガーは朝永と類似の形式、リチャード・ファインマンは経路積分1948年を形成し、朝永・シュウィンガー・ファインマンは繰り込み理論を建設する。(フリーマン・ダイソンは3者の同等性を証明)
繰り込みは、相対論・場の量子論と並ぶ基本原理とされ、朝永・シュウィンガー・ファインマンの建設した量子論的電磁気学の基礎となる。
量子電磁力学は、以後の素粒子論の典型として、理論形成の規範になり、量子色力学・ワインバーグ=サラム理論を導く糸になる。
この業績で、朝永振一郎、ジュリアン・シュウィンガーおよびリチャード・ファインマンはノーベル物理学賞を受ける。
量子電磁力学の完成の後、繰り込みの手法は量子色力学の構築へと応用されていく。非可換ゲージ理論(1964-1973年)、繰り込み可能性の証明(1971年)、繰り込み群による漸近的自由性の記述(1973年)では、繰り込みが用いられている。
[編集] ノーベル賞
- 繰り込み - 朝永振一郎、ジュリアン・シュウィンガー、リチャード・ファインマン
- 非可換ゲージの繰り込み可能性 - ヘーラルト・トホーフト
- 繰り込み群による漸近自由性 - デイビッド・グロス、フランク・ウィルチェック 、H. デビッド・ポリツァー
- 固体繰り込み群 - ケネス・ウィルソン
[編集] 原理
繰り込みは、素粒子論(場の量子論)が満たす原理のひとつで、繰り込み可能が証明されてはじめて、理論として信用される。
[編集] 繰り込み群による解釈
繰り込みを確立しノーベル賞を受けた、朝永振一郎およびリチャード・ファインマンは、繰り込みを単なる対症療法であるとした[1]。
しかし、ケネス・ウィルソンは繰り込み群の方法で、繰り込みに新たな理論的基礎付けを与えた。
まずウィルソンは素朴に、あるエネルギーΛ以上の高いエネルギーを持った粒子を無視(カットオフ)してしまう事で、有限な理論を定義した。より高いΛを持った理論でも、高い部分のエネルギーを他のパラメータに積分してしまう事でΛの値を下げる事が出来る。その代わりとして、系(のラグランジアン)には繰り込み不可能な物も含めた様々な演算子が登場する事になる。低エネルギーの我々が目にする理論までΛを落とし込む過程で、その大きさは増減する。
さらに、Λは大まかに波長の逆数でもあるので、積分操作をする前後の物理は系の拡大縮小(スケール変換)によっても互いに結び付けられている。
以上2つの変換の組み合わせが繰り込み変換であり、それらのなす群が繰り込み群である。繰り込み変換を施された際に場の理論がどう振る舞うかを調べ、以下の結論が得られた。すなわち、高いΛでの物理がどのような形で表されていようとも、低エネルギーでの物理には繰り込み可能な相互作用しか寄与しないというものである。
この事は場の理論および繰り込みの使用を正当化すると同時に、高エネルギーにおける物理の影響は全て繰り込み群により隠されてしまう事も示している。すなわち、量子重力の研究には相応に高エネルギーでの実験が必要不可欠なのである。
また、上記の結論を得るには繰り込み変換で移り変わる物理のいずれかの点で、相互作用が充分に弱くなる事を要求する。最初に強結合で理論が定義されたとしても、高いΛの領域を積分していく上でそれらが打ち消しあって弱くなるように値をとらなくてはならないのである。これはある意味では作為的であり、ファインチューニングの問題と呼ばれている。
繰り込みと繰り込み群は、類似点もあるが、別概念である[2][3][4][5][6]。
[編集] 脚注・出典
- ^ Feynman, Richard (1985). QED: The Strange Theory of Light and Matter. Princeton University Press. p. 128. ISBN 978-0691125756.
- ^ 't Hooft, G. (1971). “Renormalization of massless Yang-Mills fields”. Nuclear Physics B 33: 173–177. doi:10.1016/0550-3213(71)90395-6.
- ^ 't Hooft, G. (1971). “Renormalizable Lagrangians for massive Yang-Mills fields”. Nuclear Physics B 35: 167–448. doi:10.1016/0550-3213(71)90139-8.
- ^ D.J. Gross, F. Wilczek (1973). “Ultraviolet behavior of non-abeilan gauge theories”. Physical Review 30: 1343–1346. doi:10.1103/PhysRevLett.30.1343.
- ^ H.D. Politzer (1973). “Reliable perturbative results for strong interactions”. Physical Review Letters 30: 1346–1349. doi:10.1103/PhysRevLett.30.1346.
- ^ W. Bardeen, H. Fritzsch, M. Gell-Mann (1973). “Light cone current algebra, π0 decay, and e+ e− annihilation”. In R. Gatto. Scale and conformal symmetry in hadron physics. John Wiley & Sons. p. 139. ISBN 0-471-29292-3
[編集] 参考文献
- Michael E. Peskin; Daniel V. Schroeder (1995). An Introduction to Quantum Field Theory. Westview Press. ISBN 978-0201503972.