ヒッグス機構
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ヒッグス機構(Higgs mechanism)とは、ピーター・ヒッグスが1964年に提唱した、ゲージ対称性の自発的やぶれと質量生成に関する理論である[1]。
ゲージ理論において、ゲージ場は質量項を持つことができないが、この理論では、ヒッグス場が真空期待値を持つことで系の対称性を破り、ゲージ粒子はヒッグス場との相互作用を通して質量を獲得するものと考える。
ただし、この理論によれば真空と同じ量子数を持つスカラー粒子が現れるとされるので、この理論が現実の物理に適用できるものだと証明するためには、その粒子(ヒッグス粒子)を実験的に見つけることが課題になる[2]。
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概要 [編集]
ゲージ理論において、ゲージ場は質量項を持つことが出来ないが、ヒッグス機構により質量をもつベクトル粒子をゲージ場として解釈することを可能にする[2]。
系の対称性が破れると南部=ゴールドストン粒子が生じるが、この理論においては南部=ゴールドストン粒子は物理的には現れず、その自由度はゲージ場の縦成分として吸収されてゲージ場は質量を持ったベクトル粒子となる[2]。 この理論において系の対称性を破るために導入される場はヒッグス場と呼ばれる[3]。 ヒッグス場はゲージ群の下で非自明な表現(チャージ)をもち、ゲージ理論に従ってゲージ相互作用をする。 ヒッグス場が真空期待値をもつと対称性が破れ、ヒッグス場のゲージ相互作用によってゲージ場は質量を獲得する。 対称性が破れた後に残る場が量子化されて得られる粒子がヒッグス粒子である[3]。
またこの理論ならば、対称性のやぶれに伴う南部=ゴールドストーン粒子を、物理的に現れないとして済ますことができる、という特徴がある[2]。 つまり、もしこの《ヒッグス機構》という仮説が正しければ、従来困難な問題だとも考えられてきた質量の説明に関して、物理学的に整合性を保った、合理的な説明を与えることができる、と考えられるわけである。
この機構(メカニズム)は、まず1962年にフィリップ・アンダーソンによって提唱され、類似のモデルが1964年に3つの独立したグループによって発展させられた。すなわち ①ロベール・ブルーen:Robert Brout とフランソワ・エングレール en:Francois Englert ②ピーター・ヒッグス ③ en:Gerald Guralnikと C. R. HagenとTom Kibbleの3グループである。よって、このメカニズムはBrout–Englert–Higgs mechanism ブルー・エングレール・ヒッグス・メカニズム、あるいはEnglert–Brout–Higgs–Guralnik–Hagen–Kibble mechanism,[4] Anderson–Higgs mechanism,[5] Higgs–Kibble mechanism by Abdus Salam[6]あるいは できるだけ頭文字だけにしてABEGHHK'tH mechanism (Anderson, Brout, Englert, Guralnik, Hagen, Higgs, Kibble and 't Hooftの頭文字。ピーター・ヒッグスが他の研究者たちに敬意を払ってこう呼んだ)[6]などとも呼ばれている。
標準模型における例 [編集]
ワインバーグ=サラム理論或いはそれを含む標準模型において、ヒッグス場はウィークアイソスピンとウィークハイパーチャージのチャージをもつ。 ヒッグス場が真空期待値をもつと、電弱対称性が破れてWボソンとZボソンは質量を獲得する。 なお、フェルミオンはヒッグス場が真空期待値を持つことで湯川相互作用を通して質量を獲得するが、湯川相互作用項はゲージ理論から要請される項ではない。
「ワインバーグ=サラム理論」も参照
簡単な例 [編集]
簡単な例としてU(1)ゲージ理論を考える。ラグランジアンは

である。 共変微分とゲージ場の強度は


である。 今の場合
がヒッグス場である。
ポテンシャル項からヒッグス場の真空期待値は

であるが、真空期待値の位相を選んだ時点で対称性が破れる。以降は位相θ=0と選ぶ。
「自発的対称性の破れ」も参照
真空からのゆらぎを

と書いたとき、ラグランジアンは

となる。 ここで、
は

により再定義されたベクトル場である。 再定義されたベクトル場には質量項が存在し、その質量は

である。 再定義されたベクトル場の強度は

である。
は再定義されたベクトル場に吸収されてラグランジアンに出てこない。 残ったスカラー場
の質量は

である。 ヒッグス機構により生じる質量は、ヒッグス場の真空期待値の大きさに比例し、その比例係数はヒッグス場との相互作用の結合定数により決まる。
ゲージ場
への再定義は元のゲージ場
にゲージ固定を施すことと等価であり、当然ゲージ変換によって
が現れるラグランジアンを構成することも可能であるが、ゲージ変換によって消滅する場である
は物理的な自由度を有しない。このように自発的対称性の破れによって現れる無質量のボゾン場を南部=ゴールドストーンボゾンと呼ぶ。対して物理的な自由度を有する
は物理的なヒッグス粒子を記述し、
の質量項や相互作用項によって物理的なヒッグス粒子の質量、相互作用が記述される。 南部=ゴールドストーンボゾンがラグランジアンに現れないゲージ固定をユニタリティゲージ呼び、このゲージ固定の下ではゲージ場のプロパゲータは

と書かれる。ユニタリティゲージの下では場の自由度が少なくラグランジアンに現れる相互作用も少なくて済むが上記の通りプロパゲータの形が複雑になり摂動計算には不向きである[7]。 トフーフト=ファインマンゲージなど摂動計算に便利なゲージ固定の下では南部=ゴールドストーンボゾンとの相互作用が現れるが、その際南部=ゴールドストーンボゾンのプロパゲータは質量
を持つ形で書かれる。 これはゲージ場
の縦波成分と南部=ゴールドストーンボゾンが等価である(Equivarence Theorem)ことに由来する。
脚注 [編集]
- ^ Higgs (1964)
- ^ a b c d 『改訂 物理学事典』 p.1710 「ヒグス機構」
- ^ a b 標準模型(電弱対称性)のもののみを指して使われる場合もあるが、通常は大統一論に現れる大きなゲージ群を破る場や標準模型の拡張版のヒッグス場など自発的に対称性を破るスカラー場一般をヒッグス場と呼ぶ。
- ^ “Englert–Brout–Higgs–Guralnik–Hagen–Kibble Mechanism on Scholarpedia”. Scholarpedia.org. 2012年6月16日閲覧。
- ^ doi:10.1103/PhysRevB.65.132513
これはおそらく他の言語版からコピーされた出典です。日本語版では副テンプレートはまだ作成されていません。テンプレートページを開いて該当言語版からコピーする必要があります。通常英語版ページ - ^ a b Close, Frank (2011). The Infinity Puzzle: Quantum Field Theory and the Hunt for an Orderly Universe. Oxford: Oxford University Press. ISBN 978-0-19-959350-7.
- ^ 九後 (1989) (「摂動計算に不向き」は原文ままである)
参考文献 [編集]
- 論文
- P. W. Higgs (1964). “Broken symmetries, massless particles and gauge fields”. Phys. Lett. 12: 132.
- 参考書籍
- 九後汰一郎 『ゲージ場の量子論Ⅱ』 培風館〈新物理学シリーズ〉、1989年。ISBN 4-563-02424-4。
- 『改訂 物理学事典』 培風館、1992年。