自発的対称性の破れ

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自発的対称性の破れ(じはつてきたいしょうせいのやぶれ、spontaneous symmetry breaking)とは、ある対称性をもった系がエネルギー的に安定な真空に落ち着くことで、より低い対称性の系へと移る現象やその過程を指す。類義語に明示的対称性の破れや量子異常による対称性の破れ、またこれらの起源の一つとしての力学的対称性の破れなどがある。

主に物性物理学素粒子物理学において用いられる概念であり、前者では超伝導を記述するBCS理論クーパー対ができる十分条件、後者では標準模型粒子質量をあたえるヒッグス機構の一部などにみることができる。またこのほか磁気学における強磁性体の磁化についても発生の前後で自発的対称性の破れが考えられている。

[編集] メキシカン・ハット(ワイン・ボトル)型ポテンシャル

(*)式で μ = − 10,λ = 1 とした場合の自発的対称性の破れの図( θ は谷の円周方向である)

理論物理学では場の対称性はすべて作用(もしくはラグランジアン、ハミルトニアン)に含まれるとされる。特にラグランジアンのポテンシャル相互作用)項は系の状態を如実に表わす。自発的対称性の破れを起こすような模型のラグランジアンで最も簡単なもののひとつは「メキシカン・ハット(ワイン・ボトル)型ポテンシャル」と呼ばれるものである。

いま複素スカラー場 \phi=\phi_0\,e^{i\theta} が次のような運動項、ポテンシャル項 V(φ) をもつ系を考える。

L = \partial^\mu\phi^*\,\partial_\mu\phi - V(\phi)\ ,
V(\phi) = \mu|\phi|^2 + \lambda|\phi|^4 \quad \cdots (*)

このとき μ、λ は任意の定数であり、θ の値を任意に変化させてもラグランジアン L は不変である(対称性がある)。スカラー場の基底状態(真空)はポテンシャルの安定点で決まるが、μ、λ>0 であるような場合の安定点は φ=0 ( φ0 = 0 )のみであり、ラグランジアンも真空も θ の値によらず対称性は破れない。

一方 μ<0、λ>0 の場合

\phi=\sqrt{-\frac{\mu}{2\lambda}}\ e^{i\theta}

がより安定な基底状態(真空)となる。

このときラグランジアンには(図のポテンシャルの底の円周方向の回転に対応した) θ を 0 から 2π のあいだで動かすU(1)(回転)対称性が残っている。しかし系の真空にはある θ の値をもったポテンシャルの谷の一点が無作為に自然と選ばれるため、その点の周りでのU(1)(回転)対称性は壊れてしまっている。この現象を自発的対称性の破れと呼ぶ。

素粒子物理学ではこのゼロでない φ0 の値(真空期待値)を核として場に質量を与えることが考えられている(ヒッグス機構)。

[編集] 自発磁化と自発的対称性の破れ

強磁性体では外部から磁場をかけなくとも物質内部の磁気モーメントがそろった領域(磁区)ができること(自発磁化)が知られている。この現象は原子間のスピンの向きに関する相互作用による。この相互作用は3次元ハイゼンベルグ模型では

 H_{int} = J\sum_i^n \vec{S}_i \cdot \vec{S}_{i+1}

であらわされるが、この相互作用ハミルトニアンは座標回転に対応したO(3)変換に対して不変である。ここで \vec{S}_i はスピンベクトル、J\,(>0) は交換相互作用定数をあらわし、構文解析失敗 (&lt;math_output_error&gt;): n

はスピンの数である。これをみるとどの方向に自発磁化ができるかはまったく等価であり、いずれも等しく系の基底状態で理論から定めることはできない。

一方で自発磁化が発生したのちにはその方向が系の基底状態であり、それ以外の方向を磁気モーメントが向くことは系を励起させることになる。つまり元々あった対称性が壊れており、「自発的対称性の破れがおこった」と表現される。

[編集] 関連項目