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{{Otheruses|2=[[神経繊維]]の伝導遮断(cunduction block)|3=伝導ブロック|伝達麻酔(conduction anesthesia)}}{{Infobox medical intervention
{{出典の明記| date = 2023年1月}}
| Name = 神経ブロック
| Image =Fermoral nerve block.jpg
| Caption = 超音波ガイド下大腿神経ブロック
| ICD10 =
| ICD9 = {{ICD9proc|04.81}}
| MeshID = D009407
| OtherCodes =
}}
'''神経ブロック'''(しんけいぶろっく、{{Lang-en-short|Nerve block or regional nerve blockade}})とは、神経に沿って伝わる信号を意図的に遮断('''ブロック''')することであり、多くの場合、[[鎮痛|痛みの緩和]]を目的とするものである。'''伝達麻酔'''({{Lang-en-short|conduction anesthesia}}){{Efn|conductionは電気生理学では一般的に伝導、と訳されるが、麻酔科領域では伝達と訳される。}}と表記されることも多い。'''局所麻酔神経ブロック'''({{Lang-en-short|Local anesthetic nerve block}})、単に「神経ブロック」と呼ばれることもある)は、[[局所麻酔薬]]、[[コルチコステロイド]]、およびその他の薬剤を神経上または神経付近に注射することである。効果時間は通常数時間から数日の短期間のブロックである。'''神経破壊ブロック'''({{Lang-en-short|Neurolytic block}})は、化学物質、熱、または凍結によって神経線維{{Efn|医学分野では神経「線維」と表記されるが、生物学など他分野では神経「繊維」と表記される。本項では「線維」で統一する。}}を意図的に一時的に変性させるもので、数週間、数ヶ月、または永続的に持続するブロックを生じさせることができる。{{仮リンク|神経切除|en|Neurectomy|redirect=1}}は、神経または神経の一部を切断または除去するもので、通常、永久的なブロックを生成する。[[感覚神経]]の神経切除は、数ヶ月後に新たな強い痛みが出現することが多いため、行われることは極めて稀である。


神経ブロックの概念には、[[硬膜外麻酔]]や[[脊髄くも膜下麻酔]]を含む[[脊髄幹ブロック]]が含まれることがある<ref>{{Cite book|title=Portable Pathophysiology|publisher=Lippincott Williams & Wilkins|year=2006|isbn=9781582554556 |url=https://books.google.com/books?id=w7O9c78uQU0C&pg=PA149| page=149}}</ref>。これらを総称して、'''区域麻酔('''{{Lang-en-short|regional anesthesia or regional block}})と呼ぶ<ref>{{Cite web |title=Regional Anesthesia |url=https://www.bcm.edu/healthcare/specialties/anesthesia/regional-anesthesia |website=Baylor College of Medicine |access-date=2023-05-19 |language=en}}</ref><ref>{{Cite web |title=Regional anesthesia for surgery |url=https://www.asra.com/patient-information/regional-anesthesia |website=The American Society of Regional Anesthesia and Pain Medicine (ASRA) |access-date=2023-05-19 |language=en}}</ref>。
'''神経ブロック'''(しんけいブロック、{{lang-en-short|Nerve block}})とは、麻酔を用いた治療法の一種{{sfn|インターベンショナル痛み治療ガイドライン|pages=1-61}}。伝達麻酔({{Lang-en|conduction block}})とも称される。[[神経痛]]などの恒常的な痛みを訴えている患者に行なわれる。一般的に専門の[[麻酔科医]]が行う。
<!-- この記事に紐付けられている英語版では麻酔だけではなく切除や超音波での処理も記載されている -->


==局所麻酔神経ブロック==
== 種類 ==
'''局所麻酔神経ブロック'''(単に神経ブロックと呼ばれることが多い)は、痛みを緩和するために、できるだけ神経の近くに局所麻酔薬を注射する短時間作用の神経ブロックである。局所麻酔薬は神経に作用し、その神経に支配される体の部位を麻痺させる。神経ブロックの目的は、患部からの痛み信号の伝達を遮断することで痛みを防ぐことである。神経ブロックによって生じる鎮痛作用を増強または延長するために、[[局所麻酔薬]]にしばしば他の薬剤が併用される。これらの補助剤には、[[アドレナリン|エピネフリン]](またはより特異的な{{仮リンク|αアドレナリン作動薬|en|alpha-adrenergic agonist|redirect=1}})、[[コルチコステロイド]]、[[オピオイド]]、[[ケタミン]]などが含まれる{{Efn|ケタミンは日本では神経ブロックでの使用は[[適応外使用]]。}}。これらのブロックは、1回の治療、一定期間にわたる複数回の注射、または連続注入のいずれも可能である。持続末梢神経ブロックは、手術中の手足に行うことも可能である。例えば、{{仮リンク|膝人工関節置換術|en|knee replacement|redirect=1}}の痛みを防ぐために、{{仮リンク|大腿神経ブロック|en|femoral nerve block|redirect=1}}を行う<ref>UCSD. [http://health.ucsd.edu/specialties/anes/regional-nerveblock.htm Regional anesthesia]</ref>。
;星状神経節ブロック(せいじょうしんけいせつ-)
:痛みの原因となる[[神経線維]]の[[末梢神経]]や[[交感神経節]]に対し、[[局所麻酔薬]]を浸透させることで、神経そのものの機能を一時的に麻痺させ、交感神経を抑制し痛みの伝達をブロックする。交感神経節ブロックとも呼ばれる。神経痛だけでなく[[顔面神経麻痺]]・[[突発性難聴]]・[[多汗症]]の治療などにも用いられる。
:[[星状神経節]]は首の付け根付近にあり、ここには[[頭]]・[[顔]]・[[首]]・[[腕]]・[[胸]]・[[心臓]]・[[気管支]]・[[肺]]などを支配している[[交感神経]]が集まっているため施術の応用範囲が広く、神経ブロック療法の中では最もポピュラーな方法と言える。
;[[硬膜外ブロック]]{{sfn|インターベンショナル痛み治療ガイドライン|pages=1-11}}
:[[硬膜外麻酔]]と同義である。[[硬膜]]は[[脊髄]]を取り囲んでいる一番外側の膜で、硬膜と黄色[[靭帯]]との隙間のことを[[硬膜外腔]]と言い、ここに[[局所麻酔薬]]などを注入する。
;[[近赤外線]]照射
:高出力の近赤外線を皮膚を通して星状神経節に照射する方法。麻酔を使う方法より効果が穏やかだが、注射や切開の必要がないため副作用や痛みが無く、患者への負担が極めて軽い。


神経ブロックは、頭痛の治療や手術中の麻酔など、さまざまな適応で行われる<ref>{{Cite journal |last1=Fernandes |first1=Linford |last2=Randall |first2=Marc |last3=Idrovo |first3=Luis |date=2021-02-01 |title=Peripheral nerve blocks for headache disorders |url=https://pn.bmj.com/content/21/1/30 |journal=Practical Neurology |language=en |volume=21 |issue=1 |pages=30–35 |doi=10.1136/practneurol-2020-002612 |issn=1474-7758 |pmid=33097609|s2cid=225047626 |doi-access=free }}</ref>。ブロックによる痛みの軽減は、手術中だけでなく術後まで持続する。そのため、痛みのコントロールに必要な[[オピオイド]]の量を減らすことができる<ref>{{Cite journal |last1=Joshi |first1=Girish |last2=Gandhi |first2=Kishor |last3=Shah |first3=Nishant |last4=Gadsden |first4=Jeff |last5=Corman |first5=Shelby L. |date=2016-12-01 |title=Peripheral nerve blocks in the management of postoperative pain: challenges and opportunities |journal=Journal of Clinical Anesthesia |language=en |volume=35 |pages=524–529 |doi=10.1016/j.jclinane.2016.08.041 |pmid=27871587 |issn=0952-8180|doi-access=free }}</ref>。神経ブロックの利点は、[[全身麻酔]]よりも回復が早いこと、[[気管挿管]]を行わずに{{仮リンク|監視下麻酔管理|en|Anesthesia awareness#Conscious sedation and monitored anesthesia care|label=Monitored Anesthesia Care(MAC: 監視下麻酔管理)|redirect=1}}を行えること、術後の痛みがずっと少ないことである<ref>{{Cite web|title=About Regional Anesthesia / Nerve Blocks|url=https://health.ucsd.edu/specialties/anes/Pages/regional-nerveblock.aspx|website=UC San Diego Health|access-date=July 30, 2017}}</ref>。
== 治療の概略 ==
===手技===
神経ブロック療法を行う前には、まず痛みの場所や痛み方を[[問診票]]や、[[フェイススケール]](笑顔から泣き顔までの数種類の顔から痛み度を患者に示してもらう。VAS(Visual Analogue Scale)とも)、[[電流知覚閾値検査装置]](PainVision、ニューロメーター)などで痛みの度合いを客観的にみた後、それが[[心因性]]からくる痛みが疑われる場合は、更に[[うつ病]]尺度を測る検査を行う。
局所麻酔神経ブロックは、通常、外来患者または入院施設で行われる[[無菌]]処置である。この処置は、[[解剖学的ランドマーク]]、[[超音波検査|超音波]]、[[透視室|透視(リアルタイム]][[X線撮影]])、または[[コンピュータ断層撮影|CT]]を、施術者が針を進める際のガイドとして行うことができる。{{仮リンク|プローブ位置決めシステム|en|probe positioning system|label=probe positioning system(プローブ位置決めシステム)|redirect=1}}は、{{仮リンク|超音波トランスデューサ|en|ultrasound transducer|redirect=1}}を安定させるために使用することができる。電気刺激により、針が標的神経に近づいたことを確認することができる<ref name="Gadsden,Jeff" />。歴史的には、神経ブロックは盲目的に、または電気刺激のみで行われていたが、現代の診療では、超音波または電気刺併用超音波が最も一般的に使用されている{{要出典|date=February 2022}}。


====超音波ガイド下末梢神経ブロック====
そして、患者と病歴などを会話しながら[[視診]]や[[触診]]をして、必要ならば[[核磁気共鳴画像法|MRI]]や[[コンピュータ断層撮影|CT]]といった[[画像診断]]を行うとか、[[筋電図]]などの診断をするとか、他科と連携して治療にあたったほうがいいかなどの検査・治療方針を患者とともに立てていく。
'''[[超音波]]ガイド下末梢神経ブロック'''は、[[麻酔]]に使用される手技で、標的とする[[神経]]、[[注射針|針]]、周囲の[[血管]]やその他の解剖学的構造の位置をリアルタイムで画像化できる<ref>{{Cite journal|last1=Brull|first1=Richard|last2=Perlas|first2=Anahi|last3=Chan|first3=Vincent W. S.|title=Ultrasound-guided peripheral nerve blockade|journal=Current Pain and Headache Reports|date=16 April 2007|volume=11|issue=1|pages=25–32|doi=10.1007/s11916-007-0018-6|pmid=17214918|s2cid=8183784}}</ref>。この視覚的支援によりブロックの成功率が高まり、合併症のリスクを低減できる<ref>{{Cite journal|last1=Chin|first1=Ki Jinn|last2=Chan|first2=Vincent|title=Ultrasound-guided peripheral nerve blockade|journal=Current Opinion in Anesthesiology|date=October 2008|volume=21|issue=5|pages=624–631|doi=10.1097/ACO.0b013e32830815d1|pmid=18784490|s2cid=205447588}}</ref><ref>{{Cite journal|last1=Guay|first1=Joanne|last2=Suresh|first2=Santhanam|last3=Kopp|first3=Sandra|date=2019-02-27|title=The use of ultrasound guidance for perioperative neuraxial and peripheral nerve blocks in children|url=|journal=The Cochrane Database of Systematic Reviews|volume=2|pages=CD011436|doi=10.1002/14651858.CD011436.pub3|issn=1469-493X|pmc=6395955|pmid=30820938}}</ref>。また、ブロックが効くまでの時間を短縮しながらも<ref>{{Cite journal|last1=Lewis|first1=Sharon R.|last2=Price|first2=Anastasia|last3=Walker|first3=Kevin J.|last4=McGrattan|first4=Ken|last5=Smith|first5=Andrew F.|date=2015-09-11|title=Ultrasound guidance for upper and lower limb blocks|journal=The Cochrane Database of Systematic Reviews|volume=2015|issue=9|pages=CD006459|doi=10.1002/14651858.CD006459.pub3|issn=1469-493X|pmid=26361135|pmc=6465072}}</ref>、必要な局所麻酔薬の量を低減できる<ref>{{Cite journal|last1=Koscielniak-Nielsen|first1=Zbigniew J.|last2=Dahl|first2=Jörgen B.|title=Ultrasound-guided peripheral nerve blockade of the upper extremity|journal=Current Opinion in Anesthesiology|date=April 2012|volume=25|issue=2|pages=253–259|doi=10.1097/ACO.0b013e32835069c2|pmid=22246462|s2cid=40102970}}</ref>。超音波の応用により、様々な筋膜面ブロックも飛躍的に増加している<ref>{{Cite journal |last1=White |first1=Leigh |last2=Ji |first2=Antony |date=2022-03-03 |title=External oblique intercostal plane block for upper abdominal surgery: use in obese patients |url=https://www.bjanaesthesia.org/article/S0007-0912(22)00078-2/abstract |journal=British Journal of Anaesthesia |language=English |doi=10.1016/j.bja.2022.02.011 |issn=0007-0912 |pmid=35249704|s2cid=247252383 }}</ref>。


===一般的な局所麻酔薬===
実際の施術では、[[星状神経節]]や[[硬膜外腔]]などに注射するためにはミリ単位の位置調整が求められるため、熟練した[[麻酔医]]が強く指で圧迫しながらそのポイントをさぐっていく。星状神経節ブロック注射の場合は首の術部が露出しているため一般的にそのまま薬剤を注射するが、硬膜外腔に硬膜外ブロック注射を行うためには奥深くに針を到達させなければならないため、あらかじめ痛み止めの注射を術部に行った後、施術を行う。
[[ファイル:Local anesthetics general structure.svg|thumb|[[エステル型]](上)とアミド型(下)の化学構造。芳香族疎水性残基が親水性アミノ基と中間鎖(エステル又はアミド)で接続されている。]]{{Main|局所麻酔薬}}
局所麻酔薬は、[[エステル型]]とアミド型に分けられる。エステル系には、[[ベンゾカイン]]、[[プロカイン]]、[[テトラカイン]]、{{仮リンク|クロロプロカイン|en|chloroprocaine|redirect=1}}などがある。アミドには、[[リドカイン]]、[[メピバカイン]]、[[プリロカイン]]、[[ブピバカイン]]、[[ロピバカイン]]、[[レボブピバカイン]]がある。クロロプロカインは短時間作用型(45~90分)、リドカインとメピバカインは中間時間作用型(90~180分)、ブピバカイン、レボブピバカイン、ロピバカインは長時間作用型(4~18時間)である<ref name="Gadsden,Jeff" />。末梢神経ブロックによく用いられる薬剤は、[[リドカイン]]、[[ロピバカイン]]、[[ブピバカイン]]、[[メピバカイン]]である<ref name="ComRegNB" />。


===作用機序===
施術が終わった後は、止血と術後観察のため、しばらく安静にする。


局所麻酔薬は、電気インパルスを伝導し神経に沿った速い{{仮リンク|脱分極|en|depolarization|redirect=1}}を媒介する電位依存性[[ナトリウムチャネル]]に作用する<ref>{{Cite journal |vauthors=Marban E, Yamagishi T, Tomaselli GF |title=Structure and function of voltage-gated sodium channels |journal=The Journal of Physiology |volume=508 |issue=3 |pages=647–57 |year=1998 |pmid=9518722 |pmc=2230911 |doi=10.1111/j.1469-7793.1998.647bp.x }}</ref>。局所麻酔薬は[[カリウムチャネル]]にも作用するが、ナトリウムチャネルをより強く遮断する<ref>{{Cite journal|last1=Hille|first1=Bertil|title=Local Anesthetics" Hydrophilic and Hydrophobic Pathways for the Drug-Receptor Reaction|journal=Journal of General Physiology|date=April 1, 1977|volume=69 |issue=4|pages=497–515|url=http://jgp.rupress.org/content/jgp/69/4/497.full.pdf|access-date=16 August 2017|doi=10.1085/jgp.69.4.497|pmid=300786|pmc=2215053}}</ref>。
術後、局所麻酔薬で交感神経がブロックされると、末梢の[[血管]]が拡張して[[血行]]が改善され、また[[知覚神経]]がブロックされると患部の[[痛み]]の緩和が期待できる。


リドカインは電位依存性ナトリウムチャネルの不活性化状態に優先的に結合するが、[[in vitro]]ではカリウムチャネル、[[Gタンパク質共役受容体]]、[[NMDA型グルタミン酸受容体]]、[[カルシウムチャネル]]にも結合することが確認されている<ref>{{Cite journal|last1=van der Wal|first1=SE|last2=van den Heuvel|first2=SA|last3=Radema|first3=SA|last4=van Berkum|first4=BF|last5=Vaneker|first5=M|last6=Steegers|first6=MA|last7=Scheffer|first7=GJ|last8=Vissers|first8=KC|title=The in vitro mechanisms and in vivo efficacy of intravenous lidocaine on the neuroinflammatory response in acute and chronic pain|journal=European Journal of Pain|date=May 2016|volume=20|issue=5|pages=655–74|doi=10.1002/ejp.794|pmid=26684648|s2cid=205795814}}</ref>。ブロックの持続時間は、神経に麻酔薬が接している時間によってほとんど影響を受ける。麻酔薬の[[脂溶性]]、標的組織内の血流、麻酔薬に含まれる[[血管収縮剤]]の有無も持続時間に関与する<ref name="Gadsden,Jeff" />。脂溶性が高いほど麻酔薬は強力になり、作用時間が長くなるが、薬物の毒性も高くなる<ref name="Gadsden,Jeff" />。
ただ、多くの神経ブロック療法は、一回の施術で痛みが完治するというものではなく、[[ガバペンチン]]製剤(製品名:ガバペン)や、痛みに応じた[[解熱鎮痛消炎剤]]、[[抗うつ薬]]などを患者にあわせて投与しつつ、様子を見ながら複数回行われることが一般的である。


===添加薬===
== 治療の注意点 ==
局所麻酔薬は、鎮痛時間の延長や鎮痛効果の発現時間の短縮を目的として、互いの効果を高める薬剤である添加薬と併用されることが多い。添加薬には、[[アドレナリン|エピネフリン]]、[[クロニジン]]、[[デクスメデトミジン]]などがある。日本ではクロニジンやデクスメデトミジンは[[適応外使用]]となる。局所麻酔薬による[[血管収縮]]{{Efn|局所麻酔薬には[[リドカイン]]など、[[血管拡張]]作用を持つものもある。}}は、最も広く使用されている添加剤であるエピネフリンの添加により、相乗的にさらに増強される可能性がある。エピネフリンは、{{仮リンク|アドレナリンα1受容体|en|Alpha-1 adrenergic receptor|redirect=1}}の[[アゴニスト]]として作用することにより、鎮痛持続時間を延長し、血流を減少させる。デクスメデトミジンは、エピネフリンほど広く使用されてはいない。ヒトでの幾つかの研究では、ブロック効果発現時間の短縮と鎮痛持続時間の延長が示されている<ref>{{Cite journal |vauthors=Brummett CM, Williams BA |title=Additives to local anesthetics for peripheral nerve blockade |journal=International Anesthesiology Clinics |volume=49 |issue=4 |pages=104–16 |year=2011 |pmid=21956081 |pmc=3427651 |doi=10.1097/AIA.0b013e31820e4a49 }}</ref>。
神経ブロック療法は実績のある比較的安全な施術方法ではあるが、次のような場合は必ず事前に[[医師]]に申告しなければならない。


リドカインに加えてエピネフリンを使用することが手指や足指の神経ブロックに安全かどうかは、[[エビデンス (医学)|エビデンス]]が不十分なため不明である<ref>{{Cite journal|last1=Prabhakar|first1=H|last2=Rath|first2=S|last3=Kalaivani|first3=M|last4=Bhanderi|first4=N|title=Adrenaline with lidocaine for digital nerve blocks.|journal=The Cochrane Database of Systematic Reviews|date=19 March 2015|volume=3|issue=3|pages=CD010645|pmid=25790261|doi=10.1002/14651858.CD010645.pub2|pmc=7173752}}</ref>。2015年の別のレビューでは、余病を持たない人では安全であるとしている<ref>{{Cite journal|last1=Ilicki|first1=J|title=Safety of Epinephrine in Digital Nerve Blocks: A Literature Review.|journal=The Journal of Emergency Medicine|date=4 August 2015|pmid=26254284|doi=10.1016/j.jemermed.2015.05.038|volume=49|issue=5|pages=799–809}}</ref>。神経ブロックに[[デキサメタゾン]]を追加したり手術中に[[静脈内投与]]すると、上肢の神経ブロック期間は延長し術後のオピオイド消費量は減少する<ref>{{Cite journal|last1=Pehora|first1=Carolyne|last2=Pearson|first2=Annabel ME|last3=Kaushal|first3=Alka|last4=Crawford|first4=Mark W|last5=Johnston|first5=Bradley|date=2017-11-09|title=Dexamethasone as an adjuvant to peripheral nerve block|journal=Cochrane Database of Systematic Reviews|volume=2017|issue=11 |pages=CD011770|doi=10.1002/14651858.cd011770.pub2|pmid=29121400|pmc=6486015|issn=1465-1858}}</ref>。
*アレルギーがある場合(特に[[局所麻酔剤]]や薬剤など)
*[[血液]]が凝固しにくい体質の場合
*薬、特に[[抗凝固剤]]や市販の[[風邪薬]]や[[痛み止め]]を飲んでいる場合(血液が[[凝固]]しにくくなる場合がある)
*[[血液疾患]]、[[肝臓病]]がある場合
*[[血圧]]が高い場合
*[[皮膚炎]]があるなど皮膚が弱い場合
*[[糖尿病]]などで免疫機能が弱い場合
*大きな[[手術]]歴・病歴がある場合
*他の病院でも治療を受けている場合
*当日の体調が悪い場合


===持続時間===
また、施術直後の飲食、および当日の[[運動]]・[[入浴]]・[[シャワー]]などは必ず医師の指示に従うこと。
神経ブロックの持続時間は、使用する局所麻酔薬の種類と標的神経周辺に注入する量によって異なる。短時間作用型(45~90分)、中間時間作用型(90~180分)、長時間作用型(4~18時間)の麻酔薬が存在する([[神経ブロック#一般的な局所麻酔薬|上述]])。エピネフリンなどの血管収縮剤を使用すると、神経からの麻酔薬の拡散が減少し、ブロック時間を延長させることができる<ref name=Gadsden,Jeff />。


現在行われている神経ブロックには様々な種類がある。治療的ブロックは急性疼痛患者に、診断的ブロックは疼痛源を見つけるために、予後予測ブロックはその後の疼痛管理方法を決定するために、先制的ブロックは術後疼痛を最小限にするために、一部のブロックは手術の代わりに行われる<ref name="UCSD">{{Cite web|last1=Derrer|first1=David T.|title=Pain Management and Nerve Blocks|url=http://www.webmd.com/pain-management/guide/nerve-blocks#1|website=WebMD|access-date=July 31, 2017}}</ref>特定の手術では、術後2~3日間留置する[[カテーテル]]の設置が有益である。カテーテルは、予想される術後疼痛が15~20時間以上続く一部の手術が適応となる。最初のブロックが切れたときに痛みが急増するのを防ぐために、カテーテルから鎮痛剤を注入することもできる<ref name="Gadsden,Jeff">{{Cite web|last1=Gadsden|first1=Jeff|title=Local Anesthetics: Clinical Pharmacology and Rational Selection|url=http://www.nysora.com/local-anesthetics-clinical-pharmacology-and-rational-selection|website=NYSORA|access-date=July 30, 2017}}</ref>。神経ブロックは、術後数カ月で持続的な術後痛が発生するリスクを減らすこともできる<ref>{{Cite journal|last1=Weinstein|first1=Erica J.|last2=Levene|first2=Jacob L.|last3=Cohen|first3=Marc S.|last4=Andreae|first4=Doerthe A.|last5=Chao|first5=Jerry Y.|last6=Johnson|first6=Matthew|last7=Hall|first7=Charles B.|last8=Andreae|first8=Michael H.|date=20 June 2018|title=Local anaesthetics and regional anaesthesia versus conventional analgesia for preventing persistent postoperative pain in adults and children|journal=The Cochrane Database of Systematic Reviews|volume=6|issue=2 |pages=CD007105|doi=10.1002/14651858.CD007105.pub4|issn=1469-493X|pmc=6377212|pmid=29926477}}</ref>。
== 関連項目 ==

*[[交感神経遮断]]
===合併症===
*[[トリガーポイント]]
神経ブロックの合併症として最も多いのは、感染、出血、ブロックの失敗などである<ref>{{Cite book|title=Miller's anesthesia|others=Miller, Ronald D., 1939-|isbn=978-0-7020-5283-5|edition=Eighth|location=Philadelphia, PA|oclc=892338436}}</ref>。神経損傷は、およそ0.03~0.2%の確率で起こるまれな副作用である<ref>{{Cite web|url=http://www.anesthesiologynews.com/Review-Articles/Article/07-15/Nerve-Injury-After-Peripheral-Nerve-Block-nbsp-Best-Practices-and-Medical-Legal-Protection-Strategies/32991/ses=ogst|title=Nerve Injury After Peripheral Nerve Block: Best Practices and Medical-Legal Protection Strategies|last=Hardman|first=David|website=Anethesiology news|access-date=2019-12-01}}</ref><ref name="Hardman">{{Cite web|author1=David Hardman|title=Nerve Injury After Peripheral Nerve Block: Best Practices and Medical-Legal Protection Strategies|url=http://www.anesthesiologynews.com/Review-Articles/Article/07-15/Nerve-Injury-After-Peripheral-Nerve-Block-nbsp-Best-Practices-and-Medical-Legal-Protection-Strategies/32991/ses=ogst|publisher=Anesthesiology News|access-date=4 August 2017}}</ref>。近年は、超音波と神経刺激の併用により、神経ブロックが大幅に安全に実施できるようになっている。超音波の使用で0.0037%まで低下させられるという研究結果がある<ref name="Hardman" />。神経損傷の多くは、[[虚血]]、圧迫、麻酔薬による直接的な神経毒性、針による裂傷、および炎症から生じる<ref name="Hardman" />。

最も危険な合併症である[[局所麻酔薬中毒]]は、口の周りのしびれやピリピリ感、金属味、耳鳴りなどの症状で初めて発見されることが多い。さらに、[[痙攣]]や[[不整脈]]を引き起こし、[[心停止]]に至ることもある。局所麻酔薬中毒は近年では'''、局所麻酔薬の全身毒性(Local Anesthetic Systemic Toxicity: LAST)'''と呼ばれることもある<ref>{{Citation|title=Local Anesthetic Toxicity|last=Mahajan|first=Ajay|last2=Derian|first2=Armen|date=2023|url=http://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK499964/|publisher=StatPearls Publishing|pmid=29763139|access-date=2023-05-20}}</ref><ref>{{Cite web |title=Local Anesthetic Systemic Toxicity |url=https://www.openanesthesia.org/keywords/local-anesthetic-systemic-toxicity/ |website=OpenAnesthesia |access-date=2023-05-20 |language=en-US |last=openanesthesia}}</ref>。この反応は、アレルギー、過剰投与、または血管内注射に起因する可能性がある<ref name="ComRegNB">{{Cite web|title=Common Regional Nerve Blocks|url=http://prc.coh.org/ComRegNB.pdf|publisher=UWHC Acute Pain Service|access-date=8 August 2017}}</ref>。

{{Main|局所麻酔薬中毒}}

その他の副作用が、使用する薬剤そのものによって生じることがある。例えば、ブロック中に[[エピネフリン]]を投与した場合、一過性の[[頻脈]]が生じることがある。このような合併症の可能性はあるが、局所麻酔(静脈内鎮静法を伴う、または伴わない神経ブロック)による手術は、一般的には[[全身麻酔]]に比べて麻酔リスクが低い{{Efn|全身麻酔に耐えられないような術前状態の悪い患者に対しては、神経ブロックにも相応のリスクを伴う。}}。

==神経溶解ブロック==
[[ファイル:Pain-Doctor-Radiofrequency-Ablation-Procedure-7 copy.jpg|左|サムネイル|[[ペインクリニック]]専門医による、神経に対する[[ラジオ波焼灼術|ラジオ波焼灼]]]]
'''神経溶解ブロック'''(Neurolytic block)とは、凍結や加熱({{仮リンク|neurotomy|en|neurotomy|label=神経切除(neurotomy、物理的な切除というより熱変化による変性)}})、または化学物質の注入({{仮リンク|neurolysis|en|neurolysis|label=神経溶解(neurolysis)|redirect=1}})によって神経を意図的に傷つける神経ブロックの一形態である<ref name="FishmanBallantyne2010">{{Cite book|author1=Scott Fishman|author2=Jane Ballantyne|author3=James P. Rathmell|title=Bonica's Management of Pain|url=https://books.google.com/books?id=Pms0hxH8f-sC|access-date=15 August 2013|date=January 2010|publisher=Lippincott Williams & Wilkins|isbn=978-0-7817-6827-6|page=1458}}</ref>。これらの介入によって神経の線維が変性し、神経信号の伝達が一時的に妨げられる(通常数ヶ月間)。これらの処置では、神経線維の周囲の薄い保護層である{{仮リンク|基底板|en|basal lamina|redirect=1}}が保存されるため、損傷した線維が再生すると、基底膜の管内を移動して線維断端と再接続し、神経機能が回復することがある。手術で神経を切断する({{仮リンク|神経切断|en|neurectomy|label=神経切断(neurectomy)|redirect=1}})と、この基底板の管が切断され、再生した線維を失われた接続部に導くことができなくなり、時間の経過とともに痛みを伴う{{仮リンク|神経腫|en|neuroma|redirect=1}}や[[求心路遮断性疼痛症候群]]が発生することがある。これが、通常、外科的切断よりも神経溶解剤が好まれる理由である<ref name="Williams">{{Cite book | author = Williams JE | chapter = Nerve blocks: Chemical and physical neurolytic agents | editor = Sykes N, Bennett MI & Yuan C-S | title = Clinical pain management: Cancer pain | edition = 2nd | isbn = 978-0-340-94007-5 | publisher = Hodder Arnold | location = London | pages = 225–35 | year = 2008 }}</ref>。

神経溶解ブロックは、身体の一部の痛みを一時的に軽減・消失させる目的で行われることがある。他の治療法が成功しなかった重度の[[慢性疼痛]]や、不随意筋痙攣、[[多汗症]]などの状態に対して稀に行われるものである<ref name="McMahon">McMahon, M. (2012, November 6). What is a Neurectomy? (O. Wallace, Ed.) Retrieved from wise GEEK: http://www.wisegeek.com/what-is-a-neurectomy.htm#</ref>。通常、実際の神経切断術の前に、効果を判定し副作用を検出するための「テスト」局所麻酔神経ブロックが行われる。神経外科医が行う神経切除術は、通常[[全身麻酔]]下で行われる<ref name="McMahon" />。神経溶解ブロックの対象は以下の通りである<ref name="Atallah">{{Cite book |vauthors= Atallah JN | chapter = Management of cancer pain |veditors = Vadivelu N, Urman RD, Hines RL | title = Essentials of pain management | publisher = Springer | location = New York | pages = 597–628 | isbn = 978-0-387-87578-1 | doi = 10.1007/978-0-387-87579-8 | year = 2011 }}</ref>。
* {{仮リンク|腹腔神経叢|en|celiac plexus|redirect=1}}: 横行結腸までの消化管がん、[[膵臓がん|膵臓癌]]が最も多く、[[胃がん|胃癌]]、[[胆嚢癌]]、[[副腎腫瘍|副腎腫瘤]]、総胆管癌、[[慢性膵炎]]、[[急性間欠性ポルフィリン症]]も適応となる。
* {{仮リンク|内臓神経|en|splanchnic nerve|redirect=1}}: 後腹膜痛など、腹腔神経叢ブロックと同様の症状に用いるが、合併症の発生率が高いため、腹腔神経叢ブロックでは十分な効果が得られない場合にのみ行われる。
* {{仮リンク| 下下腹神経叢|en|Inferior hypogastric plexus|redirect=1}}: [[下行結腸]]、[[S状結腸]]、[[直腸]]、[[膀胱]]、[[尿道前立腺部]]、[[前立腺]]、[[精嚢]]、[[精巣腫瘍|精巣]]、[[子宮癌|子宮]]、[[卵巣腫瘍|卵巣]]、[[膣底]]の癌に対して。
* {{仮リンク|不対神経節|en|ganglion impar|redirect=1}}:[[会陰]]、[[外陰部]]、[[肛門]]、遠位直腸、遠位尿道、[[膣]]遠位3分の1の癌に対して。
* {{仮リンク|星状神経節|en|stellate ganglion|redirect=1}}: 通常、[[頭頸部癌]]、または[[交感神経系|交感神経]]を介する腕や手の痛みに対して。
* [[聴診三角]]: [[肋骨骨折]]や[[開胸術]]後の痛みに対して{{仮リンク|菱形肋間神経ブロック|en|rhomboid intercostal block|label=菱形肋間神経ブロック(rhomboid intercostal block)|redirect=1}}を行う。
* {{仮リンク|肋間神経|en|intercostal nerves|redirect=1}}: 胸部や腹部の皮膚の痛みに対して。
* [[後根神経節]]ブロックが[[クモ膜下腔|くも膜下腔内]]の[[神経根]]を対象として行われることがある。胸壁や腹壁の痛みに最も効果的だが、腕や手、脚や足の痛みなど、他の部位も適応となる。

==伝達麻酔==
===上肢===
[[ファイル:Gray808.png|thumb|Interscalene brachialplexus.]]{{Main|腕神経叢ブロック}}
腕神経叢は、肩と腕を支配する神経の束であり、実施する上肢の手術の種類に応じて、さまざまなレベルでブロックすることができる。[[肩]]、[[腕]]、[[肘]]の手術の前には、[[腕神経叢ブロック#斜角筋間ブロック|斜角筋間腕神経叢ブロック]]が行われる<ref name="Interscalene">{{Cite web|title=Interscalene Brachial Plexus Block|url=http://www.nysora.com/interscalene-brachial-plexus-block|website=NYSORA|access-date=4 August 2017}}</ref>。斜角筋間ブロックは、腕神経叢が前斜角筋と中斜角筋の間に出ている頸部で行う。まず[[局所麻酔薬]]である[[リドカイン]]を注射して皮膚を麻痺させる。神経のすぐ近くに針を刺すため、神経を損傷から守るために鈍針が使われる。針は3~4cmほど入り、局所麻酔薬を1回だけ注射するか、カテーテルを留置する<ref name="Interscalene" />。神経ブロックに頻用されている局所麻酔薬は、[[ブピバカイン]]、[[メピバカイン]]、[[クロロプロカイン]]である<ref name="Interscalene" />。日本では、[[レボブピバカイン]]や[[ロピバカイン]]も用いられている。[[横隔膜]]を支配する[[横隔神経]]がブロックされる可能性が非常に高いので、このブロックは[[呼吸補助筋]]が機能している患者にのみ行うべきである<ref name="Interscalene" />。このブロックは、手の一部を支配する[[第8頸神経]]と[[第1胸神経]]の根に効かないことがあるので、通常、手(手首より先)の手術の際には行われない<ref name="Interscalene" />。

上腕、肘、手の手術には、[[腕神経叢ブロック#鎖骨上ブロック|鎖骨上ブロック]]又は[[腕神経叢ブロック#鎖骨下ブロック|鎖骨下ブロック]]が行われる<ref name="upper">{{Cite web|title=Upper Extremity Nerve Blocks|url=http://www.nysora.com/files/2013/extremity-nerve-blocks/NYSORA_UpperExtremityPoster_PRF10aFINAL.pdf|publisher=NYSORA|access-date=4 August 2017}}</ref>。これらのブロックは同じ術式を[[適応 (医学)|適応]]とするが、神経へのアプローチ方法が異なるため、どちらのブロックを行うべきかは、個々の患者の解剖による。[[気胸]]はこれらのブロックのリスクであるため、ブロック中に肺に穴が開いていないことを確認するために、超音波で[[胸膜]]を確認する必要がある<ref name="upper" />。

[[腕神経叢ブロック#腋窩ブロック|腋窩ブロック]]は肘、前腕、手の手術が適応である<ref name="upper" />。[[正中神経]]、[[尺骨神経]]、[[橈骨神経]]が麻痺する<ref name="upper" />。このブロックは、斜角筋間アプローチ(脊髄または椎骨動脈穿刺のリスク)または鎖骨上アプローチ(気胸のリスク)よりもリスクが少ないので有用である<ref>{{Cite web|title=Ultrasound-Guided Axillary Brachial Plexus Block|url=http://www.nysora.com/ultrasound-guided-axillary-brachial-plexus-block|website=Upper Extremity|publisher=NYSORA|access-date=14 August 2017}}</ref>。

===下肢===
[[ファイル:Lumbar plexus.svg|thumb|[[腰神経叢]]は下肢を支配している。]]
{{仮リンク|腸骨筋膜下ブロック|en|fascia iliaca compartment block|redirect=1}}は、成人の[[股関節の骨折|股関節骨折]]<ref name=Steenberg>{{Cite journal|last1=Steenberg|first1=J.|last2=Møller|first2=A.M.|title=Systematic review—effects of fascia iliaca compartment block on hip fractures before operation|journal=British Journal of Anaesthesia|date=April 2018|doi=10.1016/j.bja.2017.12.042|pmid=29793602|volume=120|issue=6|pages=1368–1380|doi-access=free}}</ref>、小児の{{仮リンク|大腿骨骨折|en|femoral fractures|redirect=1}}<ref>{{Cite journal|last1=Black|first1=Karen JL|last2=Bevan|first2=Catherine A|last3=Murphy|first3=Nancy G|last4=Howard|first4=Jason J|title=Nerve blocks for initial pain management of femoral fractures in children|journal=Cochrane Database of Systematic Reviews|date=17 December 2013|doi=10.1002/14651858.CD009587.pub2|pmid=24343768|issue=12|page=CD009587}}</ref>の[[疼痛管理|疼痛緩和]]が適応となる。[[大腿神経]] 、[[閉鎖神経]]、{{仮リンク|外側大腿皮神経|en|lateral cutaneous nerve of thigh|redirect=1}}をブロックすることで効果を発揮する<ref name=Steenberg/>。

腰神経叢由来の大腿・閉鎖および外側大腿皮神経の同時ブロック('''3-in-1ブロック''')は、[[股関節の骨折|股関節骨折]]の疼痛緩和を適応としている。

{{仮リンク|大腿神経ブロック|en|femoral nerve block|redirect=1}}は、大腿骨、大腿前面、膝の手術が適応である<ref name="lower">{{Cite web|title=Lower Extremity Nerve Blocks|url=http://www.nysora.com/files/2013/extremity-nerve-blocks/NYSORA_LowerExtremityProof10aFINAL.pdf|website=NYSORA|access-date=4 August 2017}}</ref>。[[鼠径靭帯]]のやや下方で行われ、[[大腿神経]]は[[腸骨筋|腸骨筋膜]]の下にある<ref name="lower" />。

{{仮リンク|坐骨神経ブロック|en|sciatic nerve block|redirect=1}}は、膝上または膝下の手術のために行われる<ref name="upper" />。[[坐骨神経]]は[[大殿筋]]に位置する<ref name="lower" />。足首、[[アキレス腱]]、足の手術では[[膝窩神経]]ブロックが行われる。坐骨神経が[[総腓骨神経]]と[[脛骨神経]]に分かれ始める膝上の<ref name="lower" />下腿後面で行われる<ref name="lower" />。

膝下の手術では、[[伏在神経]]ブロックが膝窩神経ブロックと組み合わせて行われることが多い<ref name="lower" />。伏在神経は、大腿下部の内側で縫工筋の下で麻痺させる<ref name="lower" />。

腰神経叢ブロックは、股関節、大腿前面、膝関節の手術を適応とする高度な手技である<ref name="lumbar">{{Cite web|title=Lumbar Plexus Block|url=http://www.nysora.com/lumbar-plexus-block|website=NYSORA|access-date=5 August 2017}}</ref>。[[腰神経叢]]は、[[腸骨下腹神経]]、[[腸骨鼠径神経]]、[[陰部大腿神経]]、{{仮リンク|外側大腿皮神経|en|lateral cutaneous nerve of thigh|redirect=1}}、[[大腿神経]]、[[閉鎖神経]]などの[[第1腰神経]]~[[第4腰神経]]脊髄根に由来する神経で構成されている<ref name="lumbar" />。神経叢は深部に位置するため、局所麻酔薬の毒性が高まるリスクがあるため、クロロプロカインやメピバカインと、ロピバカインの混合物のような毒性の低い麻酔薬がしばしば推奨される<ref name="lumbar" />。曲型(コンベックス型)の超音波プローブが使用されるが、神経叢を可視化するのはしばしば困難なため、神経刺激装置を使用して位置を確認する<ref>{{Cite web|title=Lumbar plexus block|url=http://www.cambridgeorthopaedics.com/cambridgeanaesthetics/advancednerveblocks/lumbar%20plexus%20block.htm|publisher=Cambridge|access-date=5 August 2017}}</ref>。

=== 傍脊椎神経 ===
'''傍脊椎ブロック'''は汎用性があり、施行される脊椎レベルに応じて様々な手術に適応となる。頸部のブロックは[[甲状腺]]や[[頸動脈]]の手術に<ref name="paravertebral">{{Cite web|title=Regional anesthesia for surgery|url=https://www.asra.com/page/41/regional-anesthesia-for-surgery|publisher=ASRA|access-date=4 August 2017}}</ref>、胸部のブロックは乳房や胸部、腹部の手術に行われる<ref name="paravertebral" />。体幹の持続的傍脊椎ブロックを行った最初の事例のひとつは、[[ブラッドフォード (イングランド)|ブラッドフォード]]のサバナサンが率いる胸部チームによるものだった<ref>{{Cite journal|last1=Sabanathan|first1=S.|last2=Mearns|first2=A. J.|last3=Smith|first3=P. J. Bickford|last4=Eng|first4=J.|last5=Berrisford|first5=R. G.|last6=Bibby|first6=S. R.|last7=Majid|first7=M. R.|date=1990|title=Efficacy of continuous extrapleural intercostal nerve block on post-thoracotomy pain and pulmonary mechanics|url=https://bjssjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/bjs.1800770229|journal=BJS (British Journal of Surgery)|language=en|volume=77|issue=2|pages=221–225|doi=10.1002/bjs.1800770229|pmid=2180536|s2cid=73023309|issn=1365-2168}}</ref>。腰部の傍脊椎ブロックは、股関節、膝関節、大腿前面の手術が適応となる<ref name="paravertebral" />。傍脊椎ブロックは片側鎮痛となるが、腹部の手術には両側ブロックを行えばよい<ref name="Byram">{{Cite web|author1=Scott W Byram|title=Paravertebral Nerve Block|url=http://emedicine.medscape.com/article/2000541-overview#a1|website=Medscape|access-date=4 August 2017}}</ref>。片側ブロックであるため、両側[[交感神経切除術]]後などで[[低血圧]]に耐えられない患者には、血圧が下がりやすい[[硬膜外麻酔]]よりもこのブロックを選択することがある<ref name="Byram" />。傍脊椎腔は棘突起の数センチ外側に位置し、後方は[[上肋横突靭帯]]、前方は[[壁側胸膜]]に囲まれている<ref name="Byram" />。合併症には[[気胸]]、血管穿刺、低血圧、胸腔穿刺などがある<ref name="Byram" />。

== 脚注 ==


==脚注==
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=== 注釈 ===

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=== 出典 ===
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==参考文献==
==参考文献==
*{{cite book|和書|url=http://minds.jcqhc.or.jp/n/med/4/med0190/G0000683/0001 |title=インターベンショナル痛み治療ガイドライン|author=
日本ペインクリニック学会 インターベンショナル痛み治療ガイドライン作成チーム(編集)|publisher=真興交易医書出版部|date=2014年2月28日|ISBN= 978-4-88003-882-7 |ref = {{sfnRef|インターベンショナル痛み治療ガイドライン}}}}




{{cite book|和書 |url=http://minds.jcqhc.or.jp/n/med/4/med0190/G0000683/0001 |title=インターベンショナル痛み治療ガイドライン |author=日本ペインクリニック学会 インターベンショナル痛み治療ガイドライン作成チーム(編集) |publisher=真興交易医書出版部 |date=2014年2月28日 |ISBN=978-4-88003-882-7 |ref={{sfnRef|インターベンショナル痛み治療ガイドライン}}}}
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==関連項目==
* [[トリガーポイント注射]]



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{{麻酔}}{{Normdaten}}
<!-- {{Peripheral nervous system tests and procedures}} -->
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<!-- [[Category:Regional anesthesia]] -->

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[[Category:神経]]
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[[Category:診断と治療]]


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<!-- Wikipedia 翻訳支援ツール Ver1.32、[[:en:Nerve block]](2023年4月19日 15:30:10(UTC))より -->

2023年5月20日 (土) 03:51時点における版

神経ブロック
治療法
超音波ガイド下大腿神経ブロック
ICD-9-CM 04.81
MeSH D009407
テンプレートを表示

神経ブロック(しんけいぶろっく、: Nerve block or regional nerve blockade)とは、神経に沿って伝わる信号を意図的に遮断(ブロック)することであり、多くの場合、痛みの緩和を目的とするものである。伝達麻酔: conduction anesthesia[注釈 1]と表記されることも多い。局所麻酔神経ブロック: Local anesthetic nerve block)、単に「神経ブロック」と呼ばれることもある)は、局所麻酔薬コルチコステロイド、およびその他の薬剤を神経上または神経付近に注射することである。効果時間は通常数時間から数日の短期間のブロックである。神経破壊ブロック: Neurolytic block)は、化学物質、熱、または凍結によって神経線維[注釈 2]を意図的に一時的に変性させるもので、数週間、数ヶ月、または永続的に持続するブロックを生じさせることができる。神経切除英語版は、神経または神経の一部を切断または除去するもので、通常、永久的なブロックを生成する。感覚神経の神経切除は、数ヶ月後に新たな強い痛みが出現することが多いため、行われることは極めて稀である。

神経ブロックの概念には、硬膜外麻酔脊髄くも膜下麻酔を含む脊髄幹ブロックが含まれることがある[1]。これらを総称して、区域麻酔(: regional anesthesia or regional block)と呼ぶ[2][3]

局所麻酔神経ブロック

局所麻酔神経ブロック(単に神経ブロックと呼ばれることが多い)は、痛みを緩和するために、できるだけ神経の近くに局所麻酔薬を注射する短時間作用の神経ブロックである。局所麻酔薬は神経に作用し、その神経に支配される体の部位を麻痺させる。神経ブロックの目的は、患部からの痛み信号の伝達を遮断することで痛みを防ぐことである。神経ブロックによって生じる鎮痛作用を増強または延長するために、局所麻酔薬にしばしば他の薬剤が併用される。これらの補助剤には、エピネフリン(またはより特異的なαアドレナリン作動薬英語版)、コルチコステロイドオピオイドケタミンなどが含まれる[注釈 3]。これらのブロックは、1回の治療、一定期間にわたる複数回の注射、または連続注入のいずれも可能である。持続末梢神経ブロックは、手術中の手足に行うことも可能である。例えば、膝人工関節置換術英語版の痛みを防ぐために、大腿神経ブロック英語版を行う[4]

神経ブロックは、頭痛の治療や手術中の麻酔など、さまざまな適応で行われる[5]。ブロックによる痛みの軽減は、手術中だけでなく術後まで持続する。そのため、痛みのコントロールに必要なオピオイドの量を減らすことができる[6]。神経ブロックの利点は、全身麻酔よりも回復が早いこと、気管挿管を行わずにMonitored Anesthesia Care(MAC: 監視下麻酔管理)英語版を行えること、術後の痛みがずっと少ないことである[7]

手技

局所麻酔神経ブロックは、通常、外来患者または入院施設で行われる無菌処置である。この処置は、解剖学的ランドマーク超音波透視(リアルタイムX線撮影)、またはCTを、施術者が針を進める際のガイドとして行うことができる。probe positioning system(プローブ位置決めシステム)英語版は、超音波トランスデューサ英語版を安定させるために使用することができる。電気刺激により、針が標的神経に近づいたことを確認することができる[8]。歴史的には、神経ブロックは盲目的に、または電気刺激のみで行われていたが、現代の診療では、超音波または電気刺併用超音波が最も一般的に使用されている[要出典]

超音波ガイド下末梢神経ブロック

超音波ガイド下末梢神経ブロックは、麻酔に使用される手技で、標的とする神経、周囲の血管やその他の解剖学的構造の位置をリアルタイムで画像化できる[9]。この視覚的支援によりブロックの成功率が高まり、合併症のリスクを低減できる[10][11]。また、ブロックが効くまでの時間を短縮しながらも[12]、必要な局所麻酔薬の量を低減できる[13]。超音波の応用により、様々な筋膜面ブロックも飛躍的に増加している[14]

一般的な局所麻酔薬

エステル型(上)とアミド型(下)の化学構造。芳香族疎水性残基が親水性アミノ基と中間鎖(エステル又はアミド)で接続されている。

局所麻酔薬は、エステル型とアミド型に分けられる。エステル系には、ベンゾカインプロカインテトラカインクロロプロカイン英語版などがある。アミドには、リドカインメピバカインプリロカインブピバカインロピバカインレボブピバカインがある。クロロプロカインは短時間作用型(45~90分)、リドカインとメピバカインは中間時間作用型(90~180分)、ブピバカイン、レボブピバカイン、ロピバカインは長時間作用型(4~18時間)である[8]。末梢神経ブロックによく用いられる薬剤は、リドカインロピバカインブピバカインメピバカインである[15]

作用機序

局所麻酔薬は、電気インパルスを伝導し神経に沿った速い脱分極を媒介する電位依存性ナトリウムチャネルに作用する[16]。局所麻酔薬はカリウムチャネルにも作用するが、ナトリウムチャネルをより強く遮断する[17]

リドカインは電位依存性ナトリウムチャネルの不活性化状態に優先的に結合するが、in vitroではカリウムチャネル、Gタンパク質共役受容体NMDA型グルタミン酸受容体カルシウムチャネルにも結合することが確認されている[18]。ブロックの持続時間は、神経に麻酔薬が接している時間によってほとんど影響を受ける。麻酔薬の脂溶性、標的組織内の血流、麻酔薬に含まれる血管収縮剤の有無も持続時間に関与する[8]。脂溶性が高いほど麻酔薬は強力になり、作用時間が長くなるが、薬物の毒性も高くなる[8]

添加薬

局所麻酔薬は、鎮痛時間の延長や鎮痛効果の発現時間の短縮を目的として、互いの効果を高める薬剤である添加薬と併用されることが多い。添加薬には、エピネフリンクロニジンデクスメデトミジンなどがある。日本ではクロニジンやデクスメデトミジンは適応外使用となる。局所麻酔薬による血管収縮[注釈 4]は、最も広く使用されている添加剤であるエピネフリンの添加により、相乗的にさらに増強される可能性がある。エピネフリンは、アドレナリンα1受容体英語版アゴニストとして作用することにより、鎮痛持続時間を延長し、血流を減少させる。デクスメデトミジンは、エピネフリンほど広く使用されてはいない。ヒトでの幾つかの研究では、ブロック効果発現時間の短縮と鎮痛持続時間の延長が示されている[19]

リドカインに加えてエピネフリンを使用することが手指や足指の神経ブロックに安全かどうかは、エビデンスが不十分なため不明である[20]。2015年の別のレビューでは、余病を持たない人では安全であるとしている[21]。神経ブロックにデキサメタゾンを追加したり手術中に静脈内投与すると、上肢の神経ブロック期間は延長し術後のオピオイド消費量は減少する[22]

持続時間

神経ブロックの持続時間は、使用する局所麻酔薬の種類と標的神経周辺に注入する量によって異なる。短時間作用型(45~90分)、中間時間作用型(90~180分)、長時間作用型(4~18時間)の麻酔薬が存在する(上述)。エピネフリンなどの血管収縮剤を使用すると、神経からの麻酔薬の拡散が減少し、ブロック時間を延長させることができる[8]

現在行われている神経ブロックには様々な種類がある。治療的ブロックは急性疼痛患者に、診断的ブロックは疼痛源を見つけるために、予後予測ブロックはその後の疼痛管理方法を決定するために、先制的ブロックは術後疼痛を最小限にするために、一部のブロックは手術の代わりに行われる[23]特定の手術では、術後2~3日間留置するカテーテルの設置が有益である。カテーテルは、予想される術後疼痛が15~20時間以上続く一部の手術が適応となる。最初のブロックが切れたときに痛みが急増するのを防ぐために、カテーテルから鎮痛剤を注入することもできる[8]。神経ブロックは、術後数カ月で持続的な術後痛が発生するリスクを減らすこともできる[24]

合併症

神経ブロックの合併症として最も多いのは、感染、出血、ブロックの失敗などである[25]。神経損傷は、およそ0.03~0.2%の確率で起こるまれな副作用である[26][27]。近年は、超音波と神経刺激の併用により、神経ブロックが大幅に安全に実施できるようになっている。超音波の使用で0.0037%まで低下させられるという研究結果がある[27]。神経損傷の多くは、虚血、圧迫、麻酔薬による直接的な神経毒性、針による裂傷、および炎症から生じる[27]

最も危険な合併症である局所麻酔薬中毒は、口の周りのしびれやピリピリ感、金属味、耳鳴りなどの症状で初めて発見されることが多い。さらに、痙攣不整脈を引き起こし、心停止に至ることもある。局所麻酔薬中毒は近年では、局所麻酔薬の全身毒性(Local Anesthetic Systemic Toxicity: LAST)と呼ばれることもある[28][29]。この反応は、アレルギー、過剰投与、または血管内注射に起因する可能性がある[15]

その他の副作用が、使用する薬剤そのものによって生じることがある。例えば、ブロック中にエピネフリンを投与した場合、一過性の頻脈が生じることがある。このような合併症の可能性はあるが、局所麻酔(静脈内鎮静法を伴う、または伴わない神経ブロック)による手術は、一般的には全身麻酔に比べて麻酔リスクが低い[注釈 5]

神経溶解ブロック

ペインクリニック専門医による、神経に対するラジオ波焼灼

神経溶解ブロック(Neurolytic block)とは、凍結や加熱(神経切除(neurotomy、物理的な切除というより熱変化による変性)英語版)、または化学物質の注入(神経溶解(neurolysis)英語版)によって神経を意図的に傷つける神経ブロックの一形態である[30]。これらの介入によって神経の線維が変性し、神経信号の伝達が一時的に妨げられる(通常数ヶ月間)。これらの処置では、神経線維の周囲の薄い保護層である基底板英語版が保存されるため、損傷した線維が再生すると、基底膜の管内を移動して線維断端と再接続し、神経機能が回復することがある。手術で神経を切断する(神経切断(neurectomy)英語版)と、この基底板の管が切断され、再生した線維を失われた接続部に導くことができなくなり、時間の経過とともに痛みを伴う神経腫英語版求心路遮断性疼痛症候群が発生することがある。これが、通常、外科的切断よりも神経溶解剤が好まれる理由である[31]

神経溶解ブロックは、身体の一部の痛みを一時的に軽減・消失させる目的で行われることがある。他の治療法が成功しなかった重度の慢性疼痛や、不随意筋痙攣、多汗症などの状態に対して稀に行われるものである[32]。通常、実際の神経切断術の前に、効果を判定し副作用を検出するための「テスト」局所麻酔神経ブロックが行われる。神経外科医が行う神経切除術は、通常全身麻酔下で行われる[32]。神経溶解ブロックの対象は以下の通りである[33]

伝達麻酔

上肢

Interscalene brachialplexus.

腕神経叢は、肩と腕を支配する神経の束であり、実施する上肢の手術の種類に応じて、さまざまなレベルでブロックすることができる。の手術の前には、斜角筋間腕神経叢ブロックが行われる[34]。斜角筋間ブロックは、腕神経叢が前斜角筋と中斜角筋の間に出ている頸部で行う。まず局所麻酔薬であるリドカインを注射して皮膚を麻痺させる。神経のすぐ近くに針を刺すため、神経を損傷から守るために鈍針が使われる。針は3~4cmほど入り、局所麻酔薬を1回だけ注射するか、カテーテルを留置する[34]。神経ブロックに頻用されている局所麻酔薬は、ブピバカインメピバカインクロロプロカインである[34]。日本では、レボブピバカインロピバカインも用いられている。横隔膜を支配する横隔神経がブロックされる可能性が非常に高いので、このブロックは呼吸補助筋が機能している患者にのみ行うべきである[34]。このブロックは、手の一部を支配する第8頸神経第1胸神経の根に効かないことがあるので、通常、手(手首より先)の手術の際には行われない[34]

上腕、肘、手の手術には、鎖骨上ブロック又は鎖骨下ブロックが行われる[35]。これらのブロックは同じ術式を適応とするが、神経へのアプローチ方法が異なるため、どちらのブロックを行うべきかは、個々の患者の解剖による。気胸はこれらのブロックのリスクであるため、ブロック中に肺に穴が開いていないことを確認するために、超音波で胸膜を確認する必要がある[35]

腋窩ブロックは肘、前腕、手の手術が適応である[35]正中神経尺骨神経橈骨神経が麻痺する[35]。このブロックは、斜角筋間アプローチ(脊髄または椎骨動脈穿刺のリスク)または鎖骨上アプローチ(気胸のリスク)よりもリスクが少ないので有用である[36]

下肢

腰神経叢は下肢を支配している。

腸骨筋膜下ブロック英語版は、成人の股関節骨折[37]、小児の大腿骨骨折英語版[38]疼痛緩和が適応となる。大腿神経閉鎖神経外側大腿皮神経英語版をブロックすることで効果を発揮する[37]

腰神経叢由来の大腿・閉鎖および外側大腿皮神経の同時ブロック(3-in-1ブロック)は、股関節骨折の疼痛緩和を適応としている。

大腿神経ブロック英語版は、大腿骨、大腿前面、膝の手術が適応である[39]鼠径靭帯のやや下方で行われ、大腿神経腸骨筋膜の下にある[39]

坐骨神経ブロック英語版は、膝上または膝下の手術のために行われる[35]坐骨神経大殿筋に位置する[39]。足首、アキレス腱、足の手術では膝窩神経ブロックが行われる。坐骨神経が総腓骨神経脛骨神経に分かれ始める膝上の[39]下腿後面で行われる[39]

膝下の手術では、伏在神経ブロックが膝窩神経ブロックと組み合わせて行われることが多い[39]。伏在神経は、大腿下部の内側で縫工筋の下で麻痺させる[39]

腰神経叢ブロックは、股関節、大腿前面、膝関節の手術を適応とする高度な手技である[40]腰神経叢は、腸骨下腹神経腸骨鼠径神経陰部大腿神経外側大腿皮神経英語版大腿神経閉鎖神経などの第1腰神経第4腰神経脊髄根に由来する神経で構成されている[40]。神経叢は深部に位置するため、局所麻酔薬の毒性が高まるリスクがあるため、クロロプロカインやメピバカインと、ロピバカインの混合物のような毒性の低い麻酔薬がしばしば推奨される[40]。曲型(コンベックス型)の超音波プローブが使用されるが、神経叢を可視化するのはしばしば困難なため、神経刺激装置を使用して位置を確認する[41]

傍脊椎神経

傍脊椎ブロックは汎用性があり、施行される脊椎レベルに応じて様々な手術に適応となる。頸部のブロックは甲状腺頸動脈の手術に[42]、胸部のブロックは乳房や胸部、腹部の手術に行われる[42]。体幹の持続的傍脊椎ブロックを行った最初の事例のひとつは、ブラッドフォードのサバナサンが率いる胸部チームによるものだった[43]。腰部の傍脊椎ブロックは、股関節、膝関節、大腿前面の手術が適応となる[42]。傍脊椎ブロックは片側鎮痛となるが、腹部の手術には両側ブロックを行えばよい[44]。片側ブロックであるため、両側交感神経切除術後などで低血圧に耐えられない患者には、血圧が下がりやすい硬膜外麻酔よりもこのブロックを選択することがある[44]。傍脊椎腔は棘突起の数センチ外側に位置し、後方は上肋横突靭帯、前方は壁側胸膜に囲まれている[44]。合併症には気胸、血管穿刺、低血圧、胸腔穿刺などがある[44]

脚注

注釈

  1. ^ conductionは電気生理学では一般的に伝導、と訳されるが、麻酔科領域では伝達と訳される。
  2. ^ 医学分野では神経「線維」と表記されるが、生物学など他分野では神経「繊維」と表記される。本項では「線維」で統一する。
  3. ^ ケタミンは日本では神経ブロックでの使用は適応外使用
  4. ^ 局所麻酔薬にはリドカインなど、血管拡張作用を持つものもある。
  5. ^ 全身麻酔に耐えられないような術前状態の悪い患者に対しては、神経ブロックにも相応のリスクを伴う。

出典

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関連項目