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「プロトンポンプ阻害薬」の版間の差分

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副作用。書誌情報
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== 作用機序 ==
== 作用機序 ==
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== 適用 ==
== 適用 ==
プロトンポンプ阻害薬は以下の疾患の治療に用いられ、投与中は定期的に血液学的検査を行うことが望ましい。
プロトンポンプ阻害薬は以下の疾患の治療に用いられ、投与中は定期的に血液学的検査を行うことが望ましい。
*[[消化性潰瘍]](胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍)
* [[消化性潰瘍]](胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍)
*[[Zollinger-Ellison症候群]]([[:en:Zollinger–Ellison_syndrome|en]])
* [[Zollinger-Ellison症候群]]([[:en:Zollinger–Ellison_syndrome|en]])
*[[逆流性食道炎]]
* [[逆流性食道炎]]
*[[ヘリコバクター・ピロリ]]の除菌補助:[[抗生物質]]である[[クラリスロマイシン]](商品名:クラリスなど)と[[アモキシシリン]](商品名:サワシリンなど)と共に用いられる。
* [[ヘリコバクター・ピロリ]]の除菌補助:[[抗生物質]]である[[クラリスロマイシン]](商品名:クラリスなど)と[[アモキシシリン]](商品名:サワシリンなど)と共に用いられる。


== 相互作用・副作用 ==
== 相互作用・副作用 ==
=== 相互作用が報告されている薬剤等 ===
=== 相互作用が報告されている薬剤等 ===
[[水酸化アルミニウムゲル]]・[[水酸化マグネシウム]]含有の[[制酸剤]]、[[ジゴキシン]]、[[メチルジゴキシン]]、[[イトラコナゾール]]、[[ゲフィチニブ]]、[[アタザナビル]]硫酸塩、[[クロピドグレル]]との併用は注意また禁忌とされる。
[[水酸化アルミニウムゲル]]・[[水酸化マグネシウム]]含有の[[制酸剤]]、[[ジゴキシン]]、[[メチルジゴキシン]]、[[イトラコナゾール]]、[[ゲフィチニブ]]、[[アタザナビル]]硫酸塩、[[クロピドグレル]]との併用は注意また禁忌とされる。[[ニューキノロン]]系薬剤との併用で[[偽膜性腸炎]]の発生率が上昇する<ref>大野博司、「[https://doi.org/10.3143/geriatrics.48.451 高齢者における抗菌薬の考え方,使い方 経口薬編]」 『日本老年医学会雑誌』 2011年 48巻 5号 p.451-456, {{doi|10.3143/geriatrics.48.451}}</ref>

米国の退役軍人(PPI群の15万7625人と対照群の5万6842人)の医療記録を対象にしたコホート研究によれば、{{chem|H|2}}ブロッカーの長期間使用患者と比較し、心血管疾患、慢性腎臓病、上部消化管癌による死亡リスクが高かったとする報告がある<ref>[https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/bmj/201906/561302.html PPIの長期使用は死亡リスク上昇に関係する] 日経メディカル 記事:2019/6/20</ref><ref>"[https://doi.org/10.1136/bmj.l1580 Estimates of all cause mortality and cause specific mortality associated with proton pump inhibitors among US veterans: cohort study.]" BMJ. 2019;365:l1580, {{doi|10.1136/bmj.l1580}}</ref>。


=== おもな副作用 ===
=== おもな副作用 ===
* [[アナフィラキシー]]、血小板減少、[[溶血性貧血]]、[[横紋筋融解症]]、[[劇症肝炎]]、[[低ナトリウム血症]]、視力障害<ref>[https://doi.org/10.11405/nisshoshi1964.97.575 プロトンポンプ阻害剤により視力障害をきたした2症例] 日本消化器病学会雑誌 Vol.97 (2000) No.5 P575-579</ref>、血管浮腫
偽膜性大腸炎、薬物性肝障害、間質性腎炎、無顆粒球症、間質性肺炎、薬剤性貧血、スティーヴンス・ジョンソン症候群、中毒性表皮壊死融解症<ref>{{PDFlink|[http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/2329023F1071_1_14/ 添付文書:ランソプラゾールOD錠15mg「トーワ」/ランソプラゾールOD錠30mg「トーワ」]}}</ref>、[[アナフィラキシー]]、血小板減少、[[溶血性貧血]]、[[横紋筋融解症]]、[[劇症肝炎]]、[[低ナトリウム血症]]、視力障害<ref>河野通盛, 山田稔, 奥村剛清 ほか、[https://doi.org/10.11405/nisshoshi1964.97.575 プロトンポンプ阻害剤により視力障害をきたした2症例] 日本消化器病学会雑誌 2000年 97巻 5 p.575-579, {{doi|10.11405/nisshoshi1964.97.575}}</ref>、血管浮腫
* 胃酸による殺菌作用が抑制される結果、[[腸内細菌叢]]の変化を引き起こし小腸の炎症が増強される事が報告されている<ref>[https://doi.org/10.1272/manms.10.38 プロトンポンプ阻害薬は小腸の炎症を増強する] 日本医科大学医学会雑誌 Vol.10 (2014) No.2 p.38-39</ref>。
* 胃酸による殺菌作用が抑制される結果、[[腸内細菌叢]]の変化を引き起こし小腸の炎症が増強される事が報告されている<ref>藤森俊二, 坂本長逸、[https://doi.org/10.1272/manms.10.38 プロトンポンプ阻害薬は小腸の炎症を増強する] 日本医科大学医学会雑誌 2014年 10巻 2 p.38-39, {{doi|10.1272/manms.10.38}}</ref>。
* [[腹水]]を有する[[肝硬変]]患者で特発性細菌性[[腹膜炎]]のリスクが上昇する<ref>松本修一、滝澤直歩、金山泰成、宮井仁毅、児玉亘弘、松林直:[https://doi.org/10.2957/kanzo.55.530 腹水を有する肝硬変患者におけるプロトンポンプ阻害薬と特発性細菌性腹膜炎の関連(原著)] 肝臓 Vol.55 (2014) No.9 p.530-536</ref>との報告がある。
* [[腹水]]を有する[[肝硬変]]患者で特発性細菌性[[腹膜炎]]のリスクが上昇する<ref>松本修一、滝澤直歩、金山泰成、宮井仁毅、児玉亘弘、松林直:[https://doi.org/10.2957/kanzo.55.530 【原著】腹水を有する肝硬変患者におけるプロトンポンプ阻害薬と特発性細菌性腹膜炎の関連] 肝臓 2014年 55巻 9 p.530-536, {{doi|10.2957/kanzo.55.530}}</ref>との報告がある。
* 2004年、[[市中肺炎]]の発症リスクが上昇する可能性が報告された<ref name="sp07-01">木下芳一:[http://www.pariet.jp/alimentary/vol57/no586/sp07-01.html PPI長期投与は安全か?] パリエット</ref>が、肺炎の関連性を証明する十分なデータは不足している<ref name="sp07-01"/>。
* 2004年、[[市中肺炎]]の発症リスクが上昇する可能性が報告された<ref name="sp07-01">木下芳一:[http://www.pariet.jp/alimentary/vol57/no586/sp07-01.html PPI長期投与は安全か?] パリエット</ref>が、肺炎の関連性を証明する十分なデータは不足している<ref name="sp07-01"/>。


== プロトンポンプ阻害薬の例 ==
== プロトンポンプ阻害薬の例 ==
*[[オメプラゾール]](製品の代表的なもの:オメプラール・オメプラゾン)
* [[オメプラゾール]](製品の代表的なもの:オメプラール・オメプラゾン)
*[[ランソプラゾール]](製品の代表的なもの:タケプロン・タケプロン[[OD錠]], [[武田薬品工業]]製造販売)
* [[ランソプラゾール]](製品の代表的なもの:タケプロン・タケプロン[[OD錠]], [[武田薬品工業]]製造販売)
*[[ラベプラゾール]]ナトリウム(製品名:パリエット<ref>[http://www.pariet.jp/alimentary/speedy.html パリエット]</ref>, [[エーザイ]]製造販売)
* [[ラベプラゾール]]ナトリウム(製品名:パリエット<ref>[http://www.pariet.jp/alimentary/speedy.html パリエット]</ref>, [[エーザイ]]製造販売)
*[[エソメプラゾール]](製品名: ネキシウム, [[アストラゼネカ]]製造, [[第一三共]]販売)
* [[エソメプラゾール]](製品名: ネキシウム, [[アストラゼネカ]]製造, [[第一三共]]販売)


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
*[http://www.journalarchive.jst.go.jp/japanese/jnlabstract_ja.php?cdjournal=fpj1944&cdvol=87&noissue=4&startpage=351 プロトンポンプ阻害薬の胃液分泌および消化性潰瘍に対する効果] 日本薬理学雑誌 Vol.87、No.4(1986) pp.351-360
* 岡部進、[https://doi.org/10.1254/fpj.87.351 -総説-プロトンポンプ阻害薬の胃液分泌および消化性潰瘍に対する効果] 日本薬理学雑誌』 1986年 87 4号 p.351-360, {{doi|10.1254/fpj.87.351}}


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2019年6月20日 (木) 00:55時点における版

Proton-pump inhibitor
Drug class
PPIの一般的構造
クラス識別子
効用 胃酸生成の削減
ATC code A02BC
作用機序 酵素阻害剤
生物学的ターゲット H+/K+ ATPase
臨床データ
Drugs.com Drug Classes
WebMD MedicineNet 
External links
MeSH D054328
In Wikidata

プロトンポンプ阻害薬(プロトンポンプそがいやく、: PPI; Proton pump inhibitor)とはの壁細胞のプロトンポンプに作用し、胃酸の分泌を抑制する薬である。胃酸分泌抑制作用を持つ薬剤には他にヒスタミンH2受容体拮抗薬H2ブロッカー)があるがプロトンポンプ阻害薬はH2ブロッカーよりも強力な胃酸分泌抑制作用を持ち、分泌抑制作用は用量に依存する。H2ブロッカーよりも抑制作用が長時間持続する。

作用機序

プロトンポンプ阻害薬はプロドラッグであり、壁細胞内でスルフィンアミド型に変換されプロトンポンプ(H+,K+-ATPase)のシステイン残基とジスルフィド結合することで、プロトンポンプを不可逆的に阻害し胃酸の分泌を抑制する。

適用

プロトンポンプ阻害薬は以下の疾患の治療に用いられ、投与中は定期的に血液学的検査を行うことが望ましい。

相互作用・副作用

相互作用が報告されている薬剤等

水酸化アルミニウムゲル水酸化マグネシウム含有の制酸剤ジゴキシンメチルジゴキシンイトラコナゾールゲフィチニブアタザナビル硫酸塩、クロピドグレルとの併用は注意また禁忌とされる。ニューキノロン系薬剤との併用で偽膜性腸炎の発生率が上昇する[1]

米国の退役軍人(PPI群の15万7625人と対照群の5万6842人)の医療記録を対象にしたコホート研究によれば、H2ブロッカーの長期間使用患者と比較し、心血管疾患、慢性腎臓病、上部消化管癌による死亡リスクが高かったとする報告がある[2][3]

おもな副作用

偽膜性大腸炎、薬物性肝障害、間質性腎炎、無顆粒球症、間質性肺炎、薬剤性貧血、スティーヴンス・ジョンソン症候群、中毒性表皮壊死融解症[4]アナフィラキシー、血小板減少、溶血性貧血横紋筋融解症劇症肝炎低ナトリウム血症、視力障害[5]、血管浮腫

  • 胃酸による殺菌作用が抑制される結果、腸内細菌叢の変化を引き起こし小腸の炎症が増強される事が報告されている[6]
  • 腹水を有する肝硬変患者で特発性細菌性腹膜炎のリスクが上昇する[7]との報告がある。
  • 2004年、市中肺炎の発症リスクが上昇する可能性が報告された[8]が、肺炎の関連性を証明する十分なデータは不足している[8]

プロトンポンプ阻害薬の例

脚注

  1. ^ 大野博司、「高齢者における抗菌薬の考え方,使い方 経口薬編」 『日本老年医学会雑誌』 2011年 48巻 5号 p.451-456, doi:10.3143/geriatrics.48.451
  2. ^ PPIの長期使用は死亡リスク上昇に関係する 日経メディカル 記事:2019/6/20
  3. ^ "Estimates of all cause mortality and cause specific mortality associated with proton pump inhibitors among US veterans: cohort study." BMJ. 2019;365:l1580, doi:10.1136/bmj.l1580
  4. ^ 添付文書:ランソプラゾールOD錠15mg「トーワ」/ランソプラゾールOD錠30mg「トーワ」 (PDF)
  5. ^ 河野通盛, 山田稔, 奥村剛清 ほか、プロトンポンプ阻害剤により視力障害をきたした2症例 『日本消化器病学会雑誌』 2000年 97巻 5号 p.575-579, doi:10.11405/nisshoshi1964.97.575
  6. ^ 藤森俊二, 坂本長逸、プロトンポンプ阻害薬は小腸の炎症を増強する 『日本医科大学医学会雑誌』 2014年 10巻 2号 p.38-39, doi:10.1272/manms.10.38
  7. ^ 松本修一、滝澤直歩、金山泰成、宮井仁毅、児玉亘弘、松林直:【原著】腹水を有する肝硬変患者におけるプロトンポンプ阻害薬と特発性細菌性腹膜炎の関連 『肝臓』 2014年 55巻 9号 p.530-536, doi:10.2957/kanzo.55.530
  8. ^ a b 木下芳一:PPI長期投与は安全か? パリエット
  9. ^ パリエット

外部リンク