ソテツ

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ソテツ
保全状況評価[1]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類新エングラー体系
: 植物界 Plantae
: 裸子植物門 Gymnospermae
: ソテツ綱 Cycadopsida
: ソテツ目 Cycadales
: ソテツ科 Cycadaceae
: ソテツ属 Cycas
: ソテツ C. revoluta
学名
Cycas revoluta Thunb.[1][2][3]
シノニム

Cycas miquelii Warb., Cycas revoluta Thunb. Messeri, Cycas revoluta Thunb. Miq., Cycas revoluta Thunb. Sieb. & Zucc.[1]

和名
ソテツ
英名
Fern Palm, Sago Palm[1]
Cycas revoluta

ソテツ(蘇鉄 学名Cycas revoluta)は、裸子植物ソテツ科の常緑低木である。窒素固定能を持った生物と共生している植物としてはマメ科が有名だが、そのような能力がソテツにもあるため、窒素分の乏しい土地での生育も可能である。

概要

ソテツ類の中では日本列島に自生する唯一の種で、自然分布では日本列島の固有種である[4]。日本列島の九州南端、南西諸島[1]台湾中国大陸南部[5]分布する。主として海岸近くの岩場に生育する。なお、自生北限は宮崎県串間市都井岬である[6]

カナリーヤシ(フェニックス)やワシントンヤシ(ワシントニアパーム)などと共に、日本の九州南部・南西諸島の南国ムードを強調する為の演出として、映像素材に用いられる場合がある。九州南部・南西諸島の主要都市には大抵植えられている。

「蘇鉄」という名前は、枯れかかった時にを打ち込むと蘇るという伝承に由来する。

ところで、一般的な植物においてアミノ酸の合成は、光合成で合成した物質と、外来の窒素化合物を用いて合成している。しかし、地球の大気の主成分である窒素分子は反応性に乏しいため、一般的な植物は窒素分子そのままでは利用できず、一般的な植物が窒素分を利用するためには硝酸イオンやアンモニウムイオンなどの形である必要がある[7]。ところが、ソテツのには珊瑚状の根粒があり、そこに藍藻類を共生させており、それらが窒素固定能を持つため、窒素分の乏しい土地でも生育できる[8]。この窒素固定能のため、ソテツの周囲に多少のアンモニア臭が漂う事がある。また、本州中部以南の各地でも、を巻くなどして、冬季防寒をする事で植栽が可能である。記念樹として、公園や官公庁や学校などにも植えられる場合がある。またロータリーの真ん中などに植栽される場合もある。

生育は遅いが成長すれば樹高は8 m以上に達し、その際でも移植が可能な位に強健である。は太く、たまにしか枝分かれせず、細い枝は無い。幹の表面は一面に葉跡で埋まっている。はその先端に輪生し、全体としては幹の先に杯状にまとまって葉がつく。葉は多数の線状の小葉からなる羽状複葉で、葉先は鋭く尖り、刺さると痛い。雌雄異株である。雄花は幹と同じくらいの太さの松かさを長くして、幹の先端に乗せたような形で、松かさの鱗片に当たる部分の裏一面に葯がつく。雌花は茎の先端に丸くドーム状に膨らみ、雌しべを個々に見ると、上半分は羽状複葉の葉が縮んだ形で、下半分の軸には左右に胚珠が並ぶ。花は発熱することが知られている[4]種子は成熟すると朱色に色づく。この種子は緑化や鉢植え用の苗木を生産するために日本国外へも輸出され、主な出荷先は台湾、中米コスタリカなど)[9]

大島紬の泥染では、染まりが悪いと蘇鉄の葉を入れて化学的作用を強くする場合がある[10]

近年では、新芽を食害する熱帯アジア原産の蝶の1種であるクロマダラソテツシジミ Chilades pandavaが日本に帰化しており、問題となっている[11][12]

食用

奄美大島で作られる蘇鉄味噌

ソテツ属 (Cycas)のソテツ (Cycas revoluta)は有毒であるのにもかかわらず、ソテツには澱粉も多く含まれていることから、日本の南西諸島の島嶼域では中世から近代まで、救荒食物の1つとして食用にされてきた。

ソテツは、有毒発癌性のあるアゾキシメタンを含む配糖体であるサイカシン(Cycasin)を種子を含めた全草に含む[13]。サイカシンはメチルアゾキシメタノールに変化し、それを摂取後に体内でホルムアルデヒドに変化して急性中毒症状を起こす。また、メチルアゾキシメタノールや、その代謝産生物であるジアゾメタンには発がん性も指摘されている[14]

しかしソテツの有毒成分の水溶性は、デンプンよりも高いため、幹の皮を剥ぎ、あるいは種子の仁を細かく切ってから、水に晒してデンプンを分離した上で、さらに時間をかけて充分に水に晒し、発酵させ、乾燥するなどの処理を経てサイカシンを完全に除去すれば、このデンプンは食用にできる。

一方で、ソテツ澱粉を水に晒す時間が不充分だと、毒物が残留して有害である。実際に愛媛県の中学校でソテツ種子を食して生徒が中毒になる事故が起きた[14]。また、同じソテツ属でも revoluta 以外の種の可食性は未確認である。

また、ソテツ科植物からの加工ソテツ澱粉の長期間にわたる食用のため、グアム諸島の住民にALS/PDC(筋萎縮性側索硬化症/パーキンソン認知症複合、いわゆる牟婁病)と呼ばれる神経難病が多発しているとする説があるものの、一方で両者の因果関係は確定的でないとする説もある[15]。また、ソテツ科植物を長期食用したウシに脊髄軸索変性性麻痺の症状が起きる事が知られている[14]。しかし、毒性が明らかにされているサイカシンやメチルアゾキシメタノールがこれらの症状の原因では無いことも判っており、原因となる物質は特定されていない[14]

奄美・沖縄での文化

奄美群島沖縄県においては、救荒食物として、サゴヤシから取るサクサクのようにソテツの幹から澱粉を取り出して食する伝統がある[16]。また、種子から取った澱粉を煮て糊状の粥のようにしたり、より少ない量の水を使って加工して蘇鉄餅を作る他、奄美大島粟国島では毒抜き処理と微生物による解毒作用で無毒化したデンプンを加えた蘇鉄味噌を製造しており、蘇鉄味噌を用いたアンダンスーや魚味噌などの食材が作られることもある。

奄美大島では、珍しい食材として地域おこしに活用しようと、ソテツ澱粉を使った、うどん、天ぷら、餅、煎餅が製造された例もある[17]

救荒食とソテツ地獄

かつて琉球王国時代に、琉球の王が救荒食としてソテツの栽培を奨励したと言われる。奄美群島では、ソテツの種子(実)を「ナリ」と呼び、そこから採取した澱粉を煮た糊状の物を「ナリガイ」と称して救荒食とした[17]

このように奄美・沖縄地域では、飢饉の際にソテツを救荒食として飢えを凌いだ歴史があった。しかし正しい加工処理をせずに食べたことで食中毒により死亡する者もいた。特に、大正末期から昭和初期にかけて、農業や経済的状況、戦争関連恐慌、干魃や不作などにより一部地方や島では重度の貧困と食糧不足に見舞われた沖縄・奄美地域は、ソテツ食中毒で死者を出すほどの悲惨な状況にまで陥り、これを指して「ソテツ地獄」と呼ばれるようになった[18][17]

薬用

日本薬局方には収載されていないが、 中国では漢方薬として、葉・種子・茎・花・根が薬用になるとされている。葉には止血解毒・止痛の効果があるとされ、胃薬や血止めの薬にされる。種子は男性機能増進や腰痛、打ち身などに使われる場合があるが、前述の通り有毒であるため、素人判断での使用は危険である。根や花は血行を良くするとされ、喀血や打ち身などに効くとされる。根には、腎臓機能を高める効果もあるとされる[要出典]

大正期には実が薬用になるとして本土の大都市で販売されたが、誤った製法を用いたため中毒事故を起こす事もあった[19]

奄美大島では、食用に中身を抜いた殻を燃やした煙を除けにしたり、葉を緑肥にしたりした[17]

精子の発見

イチョウとソテツ類は種子植物でありながらシダ類などのように精子を形成することで知られる。それが最初に発見されたのはイチョウであるが、それに続くのがソテツでのことであった。1896年帝国大学農科大学(現 東京大学農学部)助教授であった池野成一郎は、鹿児島市で生育していたソテツの固定標本から精子を発見した。その時、標本を採取したソテツは、2008年4月22日に鹿児島県天然記念物に指定された。本株は、1983年10月小石川植物園にも株分けされた[20]。花粉は胚珠の先端に付着、発芽して花粉管を形成、その中に精子が作られる。精子は涙滴形で多数の鞭毛をもつ。

保全状況評価

LEAST CONCERN (IUCN Red List Ver. 3.1 (2001))[1]

IUCNレッドリストでは、2003年版で準絶滅危惧(Near Threatened)に評価され、その後、2009年版で軽度懸念に変更された[1]

1977年2月4日にワシントン条約附属書II類に指定された[2]

画像

脚注

  1. ^ a b c d e f g Hill, K.D. 2009. Cycas revoluta. In: IUCN 2011. IUCN Red List of Threatened Species. Version 2011.1. <www.iucnredlist.org>. Downloaded on 20 September 2011
  2. ^ a b c Cycas revoluta UNEP-WCMC. 24 September, 2011. UNEP-WCMC Species Database: CITES-Listed Species
  3. ^ 米倉浩司・梶田忠(2003-) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList) - ソテツ(2011年9月20日閲覧)
  4. ^ a b 裸子植物ソテツの花が発熱するしくみの一端を解明-ミトコンドリアの特徴的な形態と呼吸鎖バイパス経路の働きが発熱に関与-宮崎大学プレスリリース(2019年6月4日)同日閲覧。
  5. ^ 植物図鑑”. 国立科学博物館 筑波実験植物園. 2015年12月25日閲覧。
  6. ^ 【遺産を訪ねて】地域を守る人々(3)串間・御崎神社 人々の心安らぐ場に/宮崎毎日新聞』2016年1月6日(宮崎版)2019年11月24日閲覧
  7. ^ 幸田 泰則、桃木 芳枝 編著 『植物生理学 - 分子から個体へ』 p.80 三共出版 2003年10月25日発行 ISBN 4-7827-0469-0
  8. ^ 植物生態研究室. “ソテツ”. 岡山理科大学 生物地球学部 生物地球学科. 2013年11月3日閲覧。
  9. ^ ソテツの実で“外貨獲得” 収穫最盛期の奄美大島”. 47NEWS. 共同通信 (2008年12月26日). 2013年11月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年11月3日閲覧。
  10. ^ 大島紬の歴史
  11. ^ 平井規央「日本におけるクロマダラソテツシジミの発生と分布拡大」『植物防疫』63(6), 365-368,図巻頭1p, 2009-06, NAID 40016696621
  12. ^ 河名利幸、安田清作、鎌田由美子 ほか、千葉県におけるクロマダラソテツシジミの初発生確認後の分布拡大と越冬の可能性『関東東山病害虫研究会報』Vol.2010 (2010) No.57 P.101-103, doi:10.11337/ktpps.2010.101
  13. ^ 守田則一「天然発癌物質ソテツ毒サイカシンの研究と Health and Human Ecology」『民族衛生』Vol.76 (2010) No.6 P.235-236, doi:10.3861/jshhe.76.235
  14. ^ a b c d ソテツ”. 写真で見る家畜の有毒植物と中毒. 独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 (2018年2月8日). 2020年1月13日閲覧。
  15. ^ 牟婁病:筋萎縮性側索硬化症/パーキンソン認知症複合(ALS/PDC)難病情報センター) 2012-8-17閲覧。
  16. ^ 『日本の食生活全集46 聞き書 鹿児島の食』p296 ISBN 4-540-89005-0 農山漁村文化協会、1989 鹿児島県大島郡瀬戸内町諸鈍(加計呂麻島)の例
  17. ^ a b c d 【仰天ゴハン】ソテツ料理(鹿児島県・奄美大島)南国の民救った白いかゆ『読売新聞』日曜朝刊別刷り「よみほっと」1面(2019年7月14日)。
  18. ^ 「ソテツ地獄」と県民の暮らし”. 沖縄県立総合教育センター. 2013年11月3日閲覧。
  19. ^ 近代沖縄の新聞にみられる蘇鉄(ソテツ) (PDF)当山昌直、沖縄県教育委員会 2015 - 琉球大学リポジトリ
  20. ^ 下園 文雄 (2008年6月), “精子発見のソテツ”, 小石川植物園後援会 ニュースレター (35): 1-2, http://www.koishikawa.gr.jp/NLHP/NL35Web.pdf  2013年11月5日閲覧
  21. ^ a b 蘇鉄の怪異立命館大学

関連項目

外部リンク