脳震盪

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Concussion
mild brain injury, mild traumatic brain injury (MTBI), mild head injury (MHI), minor head trauma
Concussion mechanics.svg
分類および外部参照情報
診療科・
学術分野
神経科
ICD-10 S06.0
ICD-9-CM 850
MedlinePlus 000799
eMedicine aaem/123 sports/27
MeSH D001924

脳震盪(のうしんとう、: cerebral concussionbrain concussion)は、最も頻発する外傷性脳損傷のタイプであり、頭部に衝撃を受けた直後に発症する一過性および可逆性の意識や記憶の喪失を伴う症状で、一時的な機能停止あるいは一部が損傷や微少出血を受ける病態[1]

解説[編集]

脳震盪は回転加速度による衝撃により揺さぶられると生じるとされ[2]、損傷部位が特定できないびまん性の脳損傷)[3]で、軽度外傷性脳損傷(Mild traumatic brain injury ,MTBI)のうち軽度の病態に用いる概念。6時間以上の意識障害[4]を呈する場合には(びまん性軸索損傷(DAI:diffuse axonal injury)として分類される[1]。脳震盪を一度おこしすと2度目のリスクが2 - 5.8倍上昇し繰り返すほど症状は重くなる[2]。また、症状が残っている状態で(競技に復帰し)再度衝撃を受けた場合、セカンドインパクト症候群を発症し致死的な状態に陥ったり深刻な後遺障害が残ることがある[2][5]。なお、セカンドインパクト症候群の実態解明は不十分と報告されている[2]

「震盪」とは、激しく揺れ動かすという意味で、「盪」の漢字は使わず「脳震とう」と表記されることが多い。スポーツ時のものはスポーツ障害にも分類される。脳震盪を繰り返すと、将来になって、様々なダメージが出てくる事が明らかとなり、深刻に取り扱うべきとされている[6]

原因[編集]

比較的柔らかい物と頭部・顎付近に対する長時間の衝撃(含む回転性)により起こる、神経伝達物質の過剰放出による代謝の障害で脳機能障害。堅い物との短時間の衝撃では、「頭蓋骨骨折」「脳挫傷」「硬膜下出血」を発症する[1]

症状[編集]

警告サイン[7]
発作
頭痛の悪化
目覚めの困難
二重視
人や場所を認識するのが困難
繰り返される嘔吐
焦点神経の問題
普通の自分ではない

軽度の場合は意識消失を伴わず[8]、一般的な画像診断では異常が見られない場合が多い[9]。脳神経伝達物質の代謝異常により情報処理速度、注意力・集中力の低下、記憶の機能障害などの症状が生じる事があり代謝が正常に戻るまで、年齢、性別により差があり2週間から6週間必要とする報告がある[8]。女性は症状が強く出やすいとされる[8]

瞳孔の不均等は、脳震盪よりも深刻な頭部外傷のサインである
  • 意識喪失
軽度の一瞬程度のものから、重度のもので数時間に及ぶ場合もある。短時間の場合でも、当人は何が起こったか理解出来ない場合が多い。衝撃印加後、数時間してから意識喪失することもある[2]
意識喪失の後によく見られる。前後の記憶が混乱し、直後の記憶がはっきりしないことなどがある。
意識の混濁や、バランス感覚の麻痺による。
軽度のものでは発症しないこともあるが、重度の場合 数ヶ月間に渡り運動に伴い痛むこともある。

後遺症[編集]

6週間程度で脳神経伝達物質の代謝は正常化するが、正常化後も「注意・集中力の低下」「記憶障害」等の神経心理学的症状(認知機能障害)や目眩、疲労感、頭痛、睡眠障害など様々な脳震盪後症候群症状(IDC-10)が現れる事がある[10][2]

脳震盪を繰り返すことで、数年後に慢性外傷性脳症(chronic traumatic encephalopathy, CTE)に至る事がある[2]

診断[編集]

後述の外見的所見による診断では患者の主観的な訴えに頼るため、診断の正確性に欠け数時間の状態観察が行われ事が多いが、診断及び治療開始の遅れにより慢性的な不定愁訴や身体障害の後遺症に進展する事もある。この様な事情を背景として、血液検査により脳の損傷程度を把握する手法が 2016年に報告されているが臨床応用には至っていない[11]

鑑別診断[編集]

より重篤な疾患との鑑別を要する疾患は主に以下のものである。

スポーツにて[編集]

フットボール・ラグビーにおける脳震盪の扱い[編集]

「脳震盪を起こした場合」、「脳震盪の疑いのある場合」、「バランステストの異常」のいずれかひとつに該当する競技者(選手)は、即刻退場となり競技および練習を継続することはできない。また、医師の診察や医療機関受診が必須となる。更に、受傷後最低14日間は、いかなる運動も禁止して安静する。アスピリン鎮痛剤なども使用しないこと[12][13]などがガイドラインとして発表されている。

また、競技に復帰する際は、段階的競技復帰プロトコル(GRTP)に従って復帰することが求められている[14]

脳震盪の疑いの所見とは、
  • 意識消失
  • ぼんやりする
  • 嘔吐
  • 不適切なプレーをする
  • ふらつく
  • 反応が遅い
  • 感情の変化(興奮状態、怒りやすい、神経質、不安)
脳震盪の疑いの症状とは、
  • 頭痛(プレーを続けることができない程度)
  • ふらつき
  • 霧の中にいる感じ
  • 以下の質問に正しく答えられない(見当識障害・記憶障害)
    • 『自分のチーム名を言いなさい』、『今日は何月何日ですか』、『ここはどこの競技場ですか』、『今は、前半と後半のどちらですか』
バランステストとは、

『利き足でないほうの足を後ろにして、そのつま先に反対側の足の踵をつけて一直線上に立つ。両足に体重を均等にかけ、手を腰にして、目を閉じて20秒間じっと立つ。もしバランスを崩したら、目を開けて元の姿勢に戻してまた、目を閉じて続ける』を行う。

このとき、20秒間で、6回以上バランスを崩したら(下記のようなことが起こったら)、退場

  • 手が腰から離れる
  • 目を開ける
  • よろめく
  • 5秒以上、元の姿勢に戻れない

予防[編集]

頭部への衝撃を緩和する為の「ヘルメット」「ヘッドギア」「マウスガード」[15]などの装具装着は一定の効果があると報告されている[8]。また、頸部筋肉の強化もリスク軽減に効果があるとされている[8]。更に、指導者に対する講習会や知識の普及や啓発活動は有用である[16]

脚注[編集]

  1. ^ a b c 青村茂、脳震盪およびDAIにみる頭部外傷メカニズムの解明(キーノートスピーチ) その現状と課題 公益社団法人精密工学会 2015年度精密工学会春季大会 セッションID: O73, doi:10.11522/pscjspe.2015S.0_925
  2. ^ a b c d e f g 永廣信治、溝渕佳史、スポーツ頭部外傷を可視化する 脳神経外科ジャーナル Vol.23 (2014) No.12 p.957-964, doi:10.7887/jcns.23.957
  3. ^ 「脳損傷の生成機序に関する最近の進歩」、『可視化情報学会誌』第20巻No.1Supplement、2000年、 11-16頁、 doi:10.3154/jvs.20.1Supplement_11
  4. ^ 山口三千夫、スポーツにおける頭部外傷 軽度の頭部外傷による意識障害 体力科学 Vol.56 (2007) No.1 P.20-23, doi:10.7600/jspfsm.56.20
  5. ^ Cantu RC : Second-impact syndrome. Clin Sports Med 17 : 37-44, 1998., doi:10.1016/S0278-5919(05)70059-4
  6. ^ IRB脳震盪ガイドライン (PDF) 日本ラグビーフットボール協会
  7. ^ Guidelines for Diagnosing and Managing Pediatric Concussion (pdf)” (2014年6月). 2014年8月2日閲覧。
  8. ^ a b c d e 仲田和正、{{スポーツによる脳震盪の診断治療}}
  9. ^ ラグビーにおける脳震盪の取り扱い(2011年9月 5日) そめや内科クリニック
  10. ^ 先崎章、軽度外傷性脳損傷(MTBI)後の症状・障害と回復 The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine. Vol.53 (2016) No.4 p.298-304, doi:10.2490/jjrmc.53.298
  11. ^ 河合忠、世界臨床検査通信シリーズ - 8、振盪の鑑別診断に新しい血液検査 〜救急医療に役立つPOC機器開発へ〜 モダンメディア 2016年10月号(第62巻10号)
  12. ^ 「脳震盪/脳震盪の疑い」簡易判断表 日本ラグビーフットボール協会 (PDF)
  13. ^ 脳振盪が疑われたら 日本ラグビーフットボール協会
  14. ^ 脳振盪 ガイドライン等について
  15. ^ 住吉周平、南部敏之、本田武司 ほか、マウスガードのスポーツ外傷予防効果 オトガイ部打撲を想定した有限要素法解析 日本口腔外科学会雑誌 Vol.42 (1996) No.12 P.1192-1199, doi:10.5794/jjoms.42.1192
  16. ^ 大伴茉奈 ほか、「本邦における中学校教員とスポーツ指導者の脳振盪に関する知識、意識調査及び講習会の有用性検討 (PDF) 」 日本臨床スポーツ医学会誌 23(3), 577-583, 2015, NAID 40020587518

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]