組体操

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日本の学校での組体操
2009年11月29日にブラジル連邦共和国リオデジャネイロニテロイ市の創価学会合同大会で行われた組体操の演技。

組体操(くみたいそう) とは、体操を基礎にして、一般には道具を使用せず人間のを用いて行う集団芸術である。日本では学校運動会体育祭でしばしば披露されるマスゲームの一種である。別名は「組み立て体操」または略して「組み立て」。

呼称[編集]

チアリーダーによる演目

日本でも倒立や回転運動を含むものをタンブリングやピラミッド(ピラミッドビルディングの略。二人以上で行なうものを指す)と呼んでいた[1]。戦前には「回転運動、組み立て運動」と呼ばれるようになり、組体操の著書もありのちに日本体育大学体操部を創設した浜田靖一が明治神宮競技大会でその指揮にあたった[2]。こうしたタンプリング・ピラミッド・組み立て体操の類は、学校の運動会などでも披露される演目となっていたが、軽業的・奇術的に深入りしたものは毒々しく、教育的でないと警告されている[1]

床運動を基礎とした集団で行う近代リズム体操は、女子6人から30人位で行われ、この種の競技は日本語で「団体徒手体操」(aesthethic group gymnastics、AGG、美的集団体操の意味)と呼ばれることもあり、欧米ではスポーツクラブによる競技会が開かれている。日本で生まれ世界に広がった男子新体操 (日本英語でmens rhythmic gymnastic、欧米英語でJapanese group gymnastics) は、男子6人程度で行われるAGGに似た競技である。スタンツとは軽業を意味する米国俗語であり (スタントマンを参照) 、一人または数人で行われる小規模な演技である。四人程度でおこなわれるアクロバット体操 (acrobatic gymnastics) やチアリーディングの演目に含まれる5人程度で作るタワーに近い。

「組体操」に相当する統一された英語表現はまだない。「mass gymnastic」という表現がアメリカの一部のマスコミで使用されることがあるが、これは集団で行われる体操であり立体的な組み立てを必ずしも含まなのでマスゲームに近い表現である。北朝鮮のアリラン祭で披露される発展型のアクロバット体操も、日本語の「組体操」とは異なる。中国語ではかつて「団体操」とよばれたが、現代中国の「団体操」は組み立てを含まないので、mass gymnastics、mass gameに近い意味となる。他方、アメリカ、イギリス以外の英語圏の国々 (例えばマレーシア) では「gymnastic formation」という表現が使用される。この意味は日本語の「組体操」と同じである。ポルトガル語ではブラジル全土で通用する「ginástica montada」という表現があり、「組体操」を意味する。インドネシアではKumitaisoと呼ばれる。現在、世界で最も組み体操が盛んな国は日本である。

1949年ライプチヒ

歴史[編集]

初歩的な組体操は、紀元前2000年の古代エジプト文明の壁画に観察できる。中国では漢の時代の土偶にそれが見られる。ヨーロッパでは中世以後のイタリアで祭日などに披露された。19世紀にはドイツで近代的な組体操が盛んに行われた記録がある。国民主義の高まりをみせた19世紀半ばごろから、ドイツで国民の健康と軍事教練を兼ね、合同で行なう体操運動が盛んになり、第一次世界大戦を前に欧米諸国にも広まった[3]。これらは日本にも明治初期から導入されており、日本の体操教育の基礎となっている[4]。20世紀前半にはアメリカ体育連盟のカリキュラム研究会がタンブリングを全国で実施可能な種目として発表した。しかしながら、学校の体育授業としては採用されなかった。そのため、一部グループの努力にもかかわらず組体操は長い間成長できなかった。20世紀のチェコスロバキア(当時の国名)では、国民的行事で数千人規模な組体操がしばしば披露された。日本では現在でも学校における体育教育カリキュラムに含まれている。組体操は20世紀の終わりまでは世界各地で披露されたが、21世紀にはいると数千人規模の大規模な演技は見られなくなった。現在では日本における学校教育が最も盛んで、日本以外では香港マレーシアブラジル、で盛んである。チューク諸島(旧トラック諸島)では第一次世界大戦終結後の国際連盟決議にて大日本帝国の委任統治領となった時代に組み体操を含む運動会が持ち込まれ[5]、近年インドネシアでは組体操が急速に発達しつつある。 日本の学校下に於ける組体操については1951年度版の中学・高校用指導要領に3段ピラミッドなど図解が掲載されていたが、それ以降の記載は無くなっている[6]。また自治体などの判断で組体操の安全面を考慮し廃止するなど、行事から外す学校も出てきている[7]

慶応義塾体育会器械体操部の組体操。1932年

特色[編集]

組体操は一般にダンスマスゲームと同様に、得点を争うのでは無く演舞者の一糸乱れぬ団結を一般観衆に見せるために行うことが多い。日本の学校では来場者や保護者に向け(インターネットによる動画配信)、高度に統率、指導された集団教育の成果を発表する目的で行われる。そのため、赤組・白組ではなく男子・女子全員、5・6年生合同などといった団体分けをしたりする。古典的演技種目では十秒ほどの姿勢保持が必要である。そのため、バランスや筋力・筋持久力が発達した小学校高学年中学校高等学校で主に行い、それ以外の学年でもダンスのクライマックスの決め技に行うこともある。また、幼稚園遊戯でも、二段ピラミッド程度の簡単な技を行える。組体操の古典的な演技方法は、リーダー(一般には参加しない) が吹くの合図で形を作り出すのが日本では一般である。かけ声による同期も用いられる。日本の学校では教員や児童・生徒たちの選曲による (J-POP行進曲などの) 音楽、BGMを流して形を作り出す場合もある。「カリブ海の海賊」のテーマ音楽は好まれている。2010年フィラデルフィアで行われた東部アメリカのNGOでは太鼓がBGMとして使われた。笛や太鼓を用いず音楽にあわせて行う組体操は演技者の高度な訓練を必要とする。ブラジルマレーシアのNGOではこの方法がしばしばもちいられる。1998年日本の大阪で行われた演技では、3000人が音楽を唯一の同期信号として組体操を披露した。少数の学校だが、プールの中で組体操を行う学校もある[8][9]

1944年ドイツ

演技[編集]

文科省が定める学習指導要綱に無いものの日本の学校における体育授業で行う組み体操ではペアを決め、2人技から練習を行っていく。基本的に背の小さい人あるいは体重の軽い人が上になる(後者の場合、下の人よりも上の人の身長の方が高い、ということもありえる)。日本ではV字バランスや肩倒立等の個人技に始まり、ペアの人と行う倒立肩車とその一種の通称「サボテン」などの2人組技、3人組や6人組などの小集団技と続き、クライマックスにピラミッドやタワーなどの大技を用いることが多い。演目の性質として一糸乱れぬ統率力と集団行動が求められる。速やかな遂行が求められる事から負傷者が出た際には代替の生徒を参加させ、基の完成の為には苦を堪える必要があり恐怖や不平、激痛を露わにするのは好ましくなく禁句という風潮が普通である[10]。世界各地のNGOによる一般参加者の演技はきわめて多彩であり、二次元波、人間ロケット(大砲)、風車、ヘリコプター、歩行人間城壁、歩行ピラミッド、人間起こし(カタパルト)、三段壁、カタルーニャ式ピラミッドポセイドンの柱回転三段円塔瞬間直立三段円塔三段平面塔四段円塔、稀に五段円塔が披露される。開催国や地域によって演目は大きく異なる。1982年に日本で立ち上がった六段円塔ギネスブックに記載された。マレーシア香港ブラジルインドネシアフィリピンの演目は日本東ヨーロッパの技を基本としながらも独自の進化を遂げ、それぞれの地域の強い特色が見られる。かつては組み立て、姿勢を保持した状態での静止の繰り返しであったが、21世紀におけるマレーシア香港ブラジルの演技は極めて動的である。ブラジル国内でも、サンパウロリオデジャネイロニテロイの演技はスタイルが異なる。リオデジャネイロの演技は小規模ではあるが独創的であり芸術的完成度が高い。2011年10月のリオデジャネイロのヒバウタ劇場での舞台上演技では、五基の四段瞬間直立ピラミッドが一瞬で屹立した。インドネシアの回転式二段扇も動的な動きが取り入れられている。

1973年ベルリン

規模[編集]

組体操の規模はさまざまである。10人いれば基本的な技を一応披露できるが、通常は最低でも30人以上の演技者で行われる。演技の質の美しさも大切であるが、多数の参加者による集団美は観客に深い感動を与える。30人から100人程度の演技者の場合は、舞台や講堂で披露される。100人から500人の規模では、体育館で披露される。それ以上の場合は、グラウンドで行われる。スパルタキアーダ (東欧諸国総合体育大会) では、50人くらいの単位でグループを組み、同じ演技を100グループくらいで同時に行った。演技者は総数5000人を超えるので、参加者の数の点では世界最大であった。チェコスロバキアの首都プラハには1万人の演技者、22万人の観客を収容できるストラーホフ大競技場 (英語、Great Strahov Stadium、チェコ語 Velky strahovsky stadion) があり、組体操を含む大規模なマスゲームはそこでおこなわれた。1982年9月18日 - 19日に日本の西武球場で行われた3500人による演技は、巨大な単一組み上げとしては世界最大であったと考えられる。他方、ブラジルのリオデジャネイロは小規模な組体操を得意し、会場の大きさの都合などの場合によっては二十人未満の演技も行われた。

服装[編集]

日本の学校で行われる組体操の服装は基本的に体操服裸足という格好だが、踊りなどと組み合わせる場合はそれに合わせたユニフォームを着たり小道具を持つ事がある。指導教諭が生徒に強制する権限は無いものの上半身プライベートゾーンが無い男子は、一律上半身で行う事がある。裸足である理由として、

  • 摩擦力が増すため、サボテン、カタルーニャ式ピラミッド、ポセイドンの柱など人の上に乗る技では滑りにくくなること
  • ピラミッドなど人の上に乗る技の時に下段の人の負担が減ること
  • 紐がほどけたり、靴が脱げることから来るトラブルをなくせること
  • バラバラの靴を履くより統一感があること

などがある。男子参加者が多数で男子が上半身裸で無い場合、ユニフォーム購入のための費用が予算に負担を強いる場合がある。統一性を高めるため体操帽は赤か白のどちらかに合わせるほか、脱げる事を考えて最初からかぶらない場合もある。重量種目の最下段のメンバーは運動靴を履く場合がある。日本以外のNGOによる演技では個性的なユニフォームが用いられる。とりわけ、香港の金鷹体操隊のユニフォームは世界的に見ても大変特徴的である[1]

2008年スペインの祭における人間ピラミッド

世界の組体操[編集]

日本では組体操が大変盛んで主催当該校監督責任の下、強制に依らない生徒の自発的な参加が推奨されているが、そのような体制をとる国は稀有であり西側諸国では組体操は一般的ではなかった。2009年マレーシアで東南アジアパラリンピックが開催されその開会式に組体操がNGOによって披露されたが、現在では国際体育大会ですらこのような例は少ない。北京オリンピックの際には華麗なマスゲームが披露されたが、その中に組体操はなかった。中国では1960年代まで軍人による組体操が国家の慶日に行われていたが、現在は行われていない。朝鮮民主主義人民共和国アリラン祭では大型のアクロバット体操がマスゲームの一部として披露される。二基の三段四角塔の頂上を構成する二人が四段目一人を支え、その上に倒立した五段目を乗せる形式である。演技時間は組み立て開始から分解終了まで一分半ほどのごく短いものであり、演技は主としてサーカスの技法による。アリラン祭のマスゲームは規模は大きいが体操の扱いは小さい。主に組体操やマスゲーム(人文字)などは集団演舞として扱われる。アメリカ合衆国では大規模な組体操が行われなかったが、1983年1月9日ニューヨークの青年たちが五段円筒を披露した。2010年には約300名の青年による組体操がフィラデルフィアで行われ、続いて80人規模の組体操がニューヨークで披露された。20世紀に行われたスパルタキアーダ (東欧諸国総合体育大会) では、数千人規模の演技者による組体操が披露された。2008年にプラハで久々に開催されたときには、世界最大規模の組体操が披露された。

21世紀の現代においては、学校軍隊などの強制動員力によらない自発的な組体操が、NGO諸団体によって、ブラジルマレーシア香港韓国インドネシアフィリピンアメリカでおこなわれている。日本の学校以外で行われる大規模組体操はブラジルインドネシアフィリピンが盛んである。2008年に皇太子徳仁親王を臨席で開催されたブラジル日系移民百年祭はその一例である ただし、演技者の大部分は非日系ブラジル人であった 。2009年にはサンパウロ州の州都ではない一都市、サンマテウスの独立記念日のパレードで組み体操が披露された。2013年にはリオデジャネイロ州の一都市、ベウフォルドホショの独立記念日パレードで、人間歩行城壁、瞬間起立四段ピラミッド、三段円塔、カタルーニャ式六段ピラミッドが披露された。マレーシア、香港、インドネシア、ブラジルでは組体操が地域文化になりつつある。2012年以降インドネシアの組体操が大きく進展し、2013年現在では世界最大級のグループに成長した。これらの動画はYouTubeで閲覧できる。検索はポルトガル語のginástica montada、英語のgymnastic formation、日本語の(インドネシア語でもある)kumitaisoで行うのが望ましい。組体操はかつては男子だけの演技種目であったが、ブラジルのサンパウロでは2008年以男子に混じり多数の女子 (約3割) が参加するようになった。女子の部分的な参加はそれ以前の1998年、2005年にリオデジャネイロでも行われた。上記のサンマテウス市の路上演技では、半数が女子であった。

運動会の組体操で行なわれる人間ピラミッド

訓練[編集]

組体操には多人数の参加者が必要であり練習に多くの時間を割くという競技の性質から炎天下での長時間に及ぶ練習は疲労も早く集中力低下による事故、熱中症へのリスクが高まる。イベント当日に向けての常日頃からの負荷に耐えうるトレーニング、反復練習によるタイミングとバランスの体得が演舞者に求められる。日本スポーツ振興会には児童生徒に重大なインシデントを招くような巨大(高層)組体操は奨励しておらず、事故予防の注意喚起を行っている。

事故[編集]

組体操は危険が伴うため、開催者は細心の注意を払わなくてはならない。組体操は、演目上の性質として高所からの落下、及びその衝撃で上肢切断、歯牙障害、せき柱障害などの事故事例が多発していることがわかっている[11]。1983~2013年度の31年間に、学校の組体操において障害の残った事故が88件発生[12](そのうち2012年度までの10年間で後遺症が残る事故は20件発生[13])。2012年度に小学校で起きた組体操による事故は6533件[13]、2013年度での事故事例は8500件超となっている[14]。静岡県の中学では下敷きになった生徒が頚椎骨折し、両親が学校を相手に訴訟を起こした。ピラミッド以外の事故でも、福岡の県立高校の男子生徒が肩車された際に後頭部から落下して首の骨を折り障害を負ったケースや演目指導に当たっていた学校側が事実と異なる報告書を作成し裁判所から「被害児童に嘘の証言を強いた」など(後述)、各地で学校側の安全対策をめぐる裁判が行われた[15]

日本では国家賠償法に基づき、教員が国又は地方公共団体の公務員で、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に児童や生徒に損害を加えたときは、国又は公共団体が損害賠償責任を負う(国家賠償法第1条第1項)[16]。なお、学校が日本スポーツ振興センターと災害共済給付契約を締結し免責の特約をしているときは、日本スポーツ振興センターが災害を受けた者に災害共済給付を行った価額の限度で学校の設置者は損害賠償責任を免れる[16](独立行政法人日本スポーツ振興センター法参照)。

日本スポーツ振興センターによると、2013年度に組体操中の事故で災害共済給付制度で医療費が支給された件数は、全国の小学校で6349件、中学校で1869件、高校で343件となっている。学校側の責任問題にも発展するため、組体操を中止した学校も多い。 相次ぐ事故の報告を受け、2015年6月に文部科学省は全国の教育委員会に事故防止の対応を求める通知を出した[17]義家弘介文部科学副大臣は、文部科学省が組体操を規制することや調査を行うことは「地方分権に反する」として行わない考えを明らかにしてたが[18]、2016年2月に馳浩文部科学大臣は国会の答弁で「重大な関心をもって、このことについて文部科学省としても取り組まなければいけない」と回答[19]。2016年3月までに文部科学省は組体操の指針を策定する予定である[20]。2015年9月大阪市教育委員会は、市立小中高校などの運動会や体育大会での組み体操のひとつである「ピラミッド」の高さを5段まで、「タワー」を3段までとする規制を採択したが[21][22]、制限した9月以降も組体操の事故が減らないことを受け、ピラミッドとタワーを全面禁止することにした[23]西山豊は「ピラミッド」には平面型(従来の俵積み)と立体型(近年開発された三角錐)があり、それぞれの最大負荷量は10段(立体型)にもなると一番下の児童の荷重は200kg以上にもなるとしている[24]。また、組体操の事故件数を都道府県別に分析すると、地域によって極端な差があることを示している[25]

主な事故[編集]

  • 1983年、群馬県の小学校で人間タワー2段の練習中、2人の肩の上から転落して女子児童(当時6年生)が死亡[26]
  • 1988年、愛媛県の小学校で卒業アルバム撮影中に人間ピラミッドが崩れ男子児童(当時6年生)が圧死[27][28]
  • 1990年、福岡県の県立高校で3年の男子生徒が8段ピラミッド(平面型8段を目標にして、5段目までが完成して6段目にとりかかるとき)の崩落により首の骨を折り脊髄損傷の後遺症を負う。一審で福岡地裁は5段ピラミッドは危険であり学校側に過失があると認めたが、福岡県側は「重要部分に疑問があり、今後の学校でのスポーツ・体育の推進に少なからず影響を及ぼすため」として控訴した。二審で福岡高裁は一審判決をほぼ支持し、5段以上のピラミッドは危険であり学校側に過失があると再び認め結審した[29][30][31]
  • 1990年、神奈川県相模原市立鵜野森中学校にて体育祭の予行練習中、教員8人が補助にあたっていた「人間タワー」がリフトアップの際に崩れ、男子生徒(当時3年生、2段目担当)が首を骨折し、搬送先にて死亡[32]。死亡生徒の両親が、市に対し約七千万円の損害賠償請求[33]
  • 1993年、和歌山県和歌山市の公立小学校で小学6年生の体重44kgの女児が自身より30kg以上の体重差のある同級生とペアを組まされた以降、腰痛を患うようになった。2006年12月、和歌山地裁は学校の過失を認め、和歌山市に約400万円の賠償を命じた[34]
  • 2006年、福岡県の県立高校で、体育祭に向けて柔道場で組み体操の自主練習中、男子生徒(高2)が同級生に肩車をしてもらった際にバランスを崩して後方に転落し、首を骨折。胸から下がまひし、身障者手帳1級の交付を受けた。2011年4月に福岡地裁小倉支部は学校側に事故の責任があることを認め、福岡県に約622万円の賠償を命じた[35][36]
  • 2012年、兵庫県の伊丹市立天王寺川中学校にてTV番組企画収録中、新記録の11段人間ピラミッド練習途中に支え役の生徒一人が足を骨折[37][38]。2012年度に小学校で起きた組体操による事故確認事例は約6500件[39]
  • 2014年5月、熊本県の菊陽町立菊陽中学で体育館にけが防止のためのマットを敷き、2〜3年の男子生徒約140人で10段ピラミッドを作る練習中に一部がバランスを失い崩落。教諭8人が現場指導にあたっていたが、うち生徒の一人が腰の骨を折る重症[39]。同年、伊丹市立天王寺川中学校で11段ピラミッドの練習中に土台に加わっていた教師がケガをしたため、11段の挑戦を中止した[40]
  • 2015年5月、松戸市の小学校で3段タワーの練習中に、1番上にいた男子児童が落下。頭と腹を強く打ち開頭手術を行った。幸い出血が少なく、一命を取り留めたが後遺症で左耳が難聴になった[41][42][43]。同年12月8日、事故に遭った児童からの組体操中止を訴える手紙が松戸市議会の一般質問で読み上げられ、翌9日に松戸市教育委員会は「組み体操をやる、やらないも含めて見直す」と、2016年度以降の廃止も検討していることを明らかにした[44]。なお当初、松戸市教育委員会は市議による「嫌がっている子に組体操をやらせるのは虐待にあたるのではないか?」という質問に対し、「 子どもたちの8割は楽しみにしている。何よりも地域や保護者からの要求が強い」、「嫌がる子が参加しない、となったら、例えば参加合唱コンクールだって、イヤな子が参加しなかったらどうなりますか?歌がイヤな子達に取っては非常にストレスなんですよ」と回答していた[45]
  • 2015年9月27日、八尾市立大正中学校で行われた体育大会で、10段ピラミッドが崩れ、下から6段目の男子生徒が右腕を骨折した[46]

法的責任(安全配慮義務違反)[編集]

2006年8月1日、東京地方裁判所は小学6年生の児童が組体操の練習中に転落して負傷した事故について、担当の教諭について「児童に対し適切な指示を与え、それぞれの児童がその役割を指示どおりに行えるようになるまで補助役の児童を付けるなどしながら段階的な練習を行うなど、児童らの安全を確保しつつ同技の完成度を高めていけるように配慮すべき義務」を負っていると判断した(東京地裁平成18年8月1日判例時報1969号75頁)[47]

2007年9月20日、名古屋市立柳小学校で6年生の男子児童が4段ピラミッドの練習中に最上段から転落。男子児童は左上腕骨外顆骨折の傷害を負った。2008年12月25日に名古屋地裁は名古屋市に児童に対して110万1360円の支払いを命じた[16]。この裁判では、被告は児童に対して落ちそうになったときには、しゃがんで下の者にしがみつくこと等の指示をしていた旨を主張したが、裁判所はしゃがむよう指導があったことは認められるが、しがみつくように指導を受けたとの証言はないと認定し、また落下事故の際にも児童はしゃがんでしがみつくことができないまま落下していることから口頭の注意だけでは児童の落下の危険を回避・軽減するのに不十分であることは明らかと判断している[16]。また、この事故の裁判では、被告が複数の教員を補助につけられない旨を主張したが、裁判所は人員不足のために安全の確保を図る必要がなくなるわけではないとこの主張を退けた[16]。 そして学校が災害報告書に「3段タワーの練習をしていた」と事実と異なる記載をしたり、教頭が被害児童と一緒に組体操を行っていた児童たちからの事情聴取の際に発言の誘導を行ったりしたことを「教員らの保身のために、本件事故の状況について、学校側の責任が軽くなるように意図的に工作している」と認定した[16]。慰謝料について裁判所は「本件においては、本来信用できる存在であるべき学校側(被告)が、教員らの保身のために殊更に虚偽の事実を主張するなど誠意のない対応をとっているのであって、これらの一連の被告の対応は本件負傷による原告の精神的苦痛を増大させた」と認定した[16]。同小教頭は「学校として考え得る限りの指導、対策をしている。児童に精神的苦痛を与えたという判決は残念だ」とコメントした[48][49]

対策[編集]

大阪市教育委員会は、2016年度からピラミッドやタワーを全面禁止とすることを決めた。同教委は前年度9月に段数を制限したが、その後も骨折事故が多発したためである[50]

脚注[編集]

個人名などは伏字としています。

  1. ^ a b タンブリングとピラミッド『新要目に基く運動会催し物選集』小学校体育研究会編、 (三友社, 1936)
  2. ^ 『昭和スポーツ史論: 明治神宮競技大会と国民精神総動員運動』入江克己、不昧堂出版, 1991
  3. ^ 『ドイツ体操祭─ドイツ体操運動の構築』ドイツ体操連盟編、晃洋書房、2003年
  4. ^ 「大正期」における「武官教師」(体操科担任教員)創出の試み安藤豊、北海道大學教育學部紀要、1977-10
  5. ^ 運動会の「組み体操」高さ制限!見せ場だけど事故は後絶たず 大阪市教委産経WEST 2015年9月1日
  6. ^ 組み体操、揺れる現場 高さ制限や中止、支持も根強く 朝日新聞デジタル 2010年10月8日
  7. ^ 組み体操は危険? 達成感も…見直しに賛否両論
  8. ^ 倉敷市立船穂小学校・六年生のページ・プール開き
  9. ^ 浜松市立大平小学校・水泳選手を励ます会!
  10. ^ 「痛い」は禁句 組体操の指導法 ▽組体操リスク(12) Yahooニュース2015年9月27日
  11. ^ 学校事故事例検索データベース 学校安全WEB
  12. ^ 組体操事故の死角 ピラミッド型よりタワー型で障害事故が多発BLOGOS, 2015年05月19日
  13. ^ a b “組み体操で事故多発…「人間ピラミッド」高層化”. YOMIURI ONLINE (読売新聞社). (2014年9月23日). http://www.yomiuri.co.jp/national/20140922-OYT1T50139.html 2014年9月24日閲覧。 
  14. ^ 組み体操事故相次ぎ縮小の動き NHK東海NewsWeb2015年9月10日
  15. ^ 巨大化する組体操ピラミッド、最大200キロの負荷 大学准教授「これのどこが『教育』なのか」と指摘J-CASTニュース 2014年09月16日
  16. ^ a b c d e f g 損害賠償請求事件 名古屋地方裁判所 裁判例情報
  17. ^ 組み体操事故相次ぎ文科省通知」、東海 NEWS WEB、2015年6月17日
  18. ^ <組み体操 事故なくせ> 義家文科副大臣に聞く 東京新聞 2016年1月29日
  19. ^ 組体操 文部科学省が突然の方針転換 低い段数でも重大事故内田良(名古屋大学大学院教育発達科学研究科・准教授)、 Yahooニュース、2016年2月7日
  20. ^ 組み体操に指針 国が年度内にも策定へ 読売新聞 2016年2月10日
  21. ^ 「ピラミッド」5段まで 大阪市教委が組み体操規制スポーツニッポン、2015年9月1日
  22. ^ タワー3段、ピラミッド5段=組み体操、安全確保で上限-大阪市教委時事通信、2015/09/01
  23. ^ 大阪市教委 組み体操「ピラミッド」など禁止へNHK、2016年2月9日
  24. ^ 西山豊大阪経済大学教授)人間ピラミッドの荷重計算 2015年9月
  25. ^ 西山豊大阪経済大学教授)都道府県別 組体操の事故分析 2015年12月
  26. ^ 朝日新聞、1983年9月27日
  27. ^ 山本健治 『年表子どもの事件 1945~1989』 柘植書房新社、1989年。ISBN 978-4-80-680195-5
  28. ^ 毎日新聞、1988年3月4日
  29. ^ S. Takeda「子どもに関する事件【事例】」『日本の子どもたち』 2000年。
  30. ^ 体育の事故における訴訟と判例に関する研究広島大学教育学部紀要. 第二部 42, 131-138, 1993
  31. ^ 福岡地裁 平成5年5月11日判決は判例タイムズ822号251頁または判例時報1461号121頁, 福岡高裁 平成6年12月22日判決は判例タイムズ879号236頁または判例時報1531号48頁
  32. ^ 毎日新聞、1990年9月26日
  33. ^ 朝日新聞、1995年3月
  34. ^ 日刊スポーツ、2006年12月20日
  35. ^ 体育大会の組体操の練習中の落下事故につき公立高校の責任が認められる」、北九州第一法律事務所、2011年8月15日
  36. ^ [http://www.jca.apc.org/praca/takeda/number4S/S060831.html 子どもに関する事件【事例】
  37. ^ ありえへん∞世界テレビ東京 2012年9月25日放送
  38. ^ 四人同時骨折 それでも続く大ピラミッド 巨大化ストップの決断を ▽組体操リスク(4)内田良(名古屋大学大学院教育発達科学研究科・准教授)、Yahooニュース、2014年9月19日
  39. ^ a b 社説:組み体操の事故 高さを競うのは危険だ毎日新聞 2014年5月
  40. ^ 毎日放送VOICE 2014年10月3日放送回 特集gooテレビ番組
  41. ^ 組み体操の事故多発で安全対策は | 健康 | NHK生活情報ブログ NHK 2015年7月1日
  42. ^ 相次ぐ事故 どうする?組み体操 | 災害・防災・安全 | NHK生活情報ブログ NHK 2015年10月15日
  43. ^ 組み体操 千葉の中3骨折、入院 全国で事故、年8500件超 東京新聞 2015年10月10日
  44. ^ 骨折事故相次ぐ組み体操 松戸市が廃止も検討 東京新聞 2015年12月10日
  45. ^ 松戸市内の小中学校で行われる運動会・体育祭のけがの件 増田かおる通信 2015年10月15日
  46. ^ 組み体操「ピラミッド」で事故 中1男子生徒が崩れて骨折 大阪 産経WEST 2015年9月30日
  47. ^ 信頼ある学校を創る2 京都府教育委員会
  48. ^ [http://www.jca.apc.org/praca/takeda/number4S/S070920.html 子どもに関する事件【事例】
  49. ^ 組み体操 小6骨折 学校側に賠償命令「保身図りうそ」アサヒ・コム 2009年12月28日
  50. ^ “組み体操「ピラミッド」など禁止へ…大阪市教委”. YOMIURI ONLINE. (2016年2月9日12時31分). http://www.yomiuri.co.jp/national/20160209-OYT1T50094.html?from=yrank_ycont 2016年2月9日閲覧。 

参考文献[編集]

  • 浜田靖一 『イラストで見る組体操・組立体操』 大修館書店、1996年、305p。ISBN 978-4-469-26349-7
  • 浜田靖一 『イラストと写真で見るマスゲーム』 大修館書店、1998年、268p。ISBN 4-469-26384-2

関連項目[編集]