「御用達」の版間の差分
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2012年6月11日 (月) 02:38時点における版
御用達(ごようたつ・ごようたし)
- 江戸時代に、幕府・大名・旗本・公家・寺社などに立入あるいは出入する特権的な御用商人の格式のひとつ。類似の御用聞よりも格上であった。さまざまな御用に応じて商品などを納入するほか、御用金を調達するなど財政にも深く関わった。
- 宮中、官庁、公権力等に物品等を納めること。また、それを名乗ることは物品、店舗にステータスを与える。
日本
江戸時代
江戸幕府の御用商人としては貨幣鋳造、大奥を中心とする呉服の調達、糸割符仲間など幕府への物品調達を独占的に行う特権を与えられた。呉服師の茶屋四郎次郎は呉服御用にとどまらず朱印船貿易の特許、長崎貿易の利権を付与されるに至った。御用商人は身分は町人であるが苗字、帯刀を許された。
幕府成立前の戦国時代には軍事物資の調達に加え隠密として敵陣に探りを入れたり講和の内使、人夫の徴集など各種の用向きを達した[1]。
各藩においても呉服屋など物品の調達、金融など藩の経済の担い手となる御用商人が存在した。
宮内省、宮内府、宮内庁御用達
「宮内省御用達」は大日本帝国憲法下において正式に許可されたものが名乗れる制度であり、その選定には厳しい審査があった。日本国憲法下においては宮内府時代を経て宮内庁ではそのような物品等購入の選定が認可制でなくなり、いわゆる「宮内庁御用達」の呼称は単に「宮内庁が購入している」という事実関係を示す(法的根拠のない)俗称に過ぎなくなった(宮内庁への御用達制度自体も1958年(昭和33年)に廃止された)。「宮内庁」という官公庁の名称が含まれているため(仮に現実に宮内庁へ物品献上・納入等をしている場合であっても)その俗称を根拠もなく自社製品等に表示して営利活動等に利用する行為については問題性を指摘する声もあり、また宮内庁側が調達に関し「宮内庁御用達に相当する業者等」のリストを公表しないこともあって当該業者等の側でも必ずしも積極的に誇示・公表しておらず噂が先行する結果となっている。現在は株式会社松喜屋、株式会社小牧、雪印パーラー、山本海苔店など200社・団体ほどが存在するとされる。日本たばこ産業(旧・日本専売公社)と恩賜のたばこは御用達であった事が確認されている数少ない例である。
宮内庁御用達には2種類存在する。献上と納入である。献上は皇室に宛てて無料で送られる物、これに対し納入は官公需として宮内庁の契約担当官や支出負担行為担当官などの会計官吏を窓口として調達する物品であり、他の中央省庁への納品と何ら変わりない。随意契約、指名競争入札も制限され一般競争入札が基本となる。献上は無料であるが誰でも出来る訳ではない。厳正な審査を通って初めて献上されるのである(厳密には皇室への献上は日本国憲法第8条及び皇室経済法により国会の承認を必要とする)。皇室祝賀行事で献上される物の多くが返品される。
「宮内庁御用達」が戦前認可制であって現在それを使用する事を憚るためか、宮内庁献上(品)は日ごろよく食品等に付く事がある。また宮中に招かれた祝賀参列者に飲食を賜わる祝宴料理、「賜饌料理」(紀文食品など)等もある。因みにキムラヤのあんパン(明治天皇も食していた)も戦前献上されている。納入は更に難しくそして公表もされにくい。祝賀行事にて使用されている品を丹念に調べて予想する。よってテレビのワイドショー等で発表されて初めて分かるのである。
現在、従来から名乗っている業者を罰する規則がないため宮内庁では取り締まることはできないが悪質な場合は注意する事もある。
納入業者については毒物混合や食中毒を防止するために厳しい選定が行われ、警察庁警備局公安課(=公安警察)を通しての社員の思想調査や保健所を通しての検便などが頻繁に行われる。
なお、品物としての本来のステータスは皇室御用達または「―御用」である。“質素を旨とする”とされてはいるものの、その品位を保つ為に天皇・皇后・皇族の使用品には全て日本一の最高級品が用いられている。
イギリス王室
イギリス王室御用達は許可制である。王族個々人がそれぞれ気に入った製品の生産者に対して、王室から御用達リストに加える申し出が出される。これに応じた生産者は王室御用達を示す紋章をつける権利を得る。現在およそ800の企業と個人が英国王室御用達の栄誉を得ている。洋食器のウェッジウッド、紅茶のトワイニング、アパレルのバーバリーなどが有名である。一方で庶民的なお菓子、日用雑貨など地味な製品も数多く御用達とされているところが日本の皇室の御用達品とは違うところである。
- おもな王室御用達リスト
- Aboyne & Ballater - 花
- Alden & Blackwell - 本
- Anderson & Shepard - 仕立て屋
- A & F Pears LTD - 透明石鹸
- アクアスキュータム - 衣料品
- A Nash - 箒
- Angostura Limited - 苦味酒
- Akzo Nobel - 塗装屋
- アストンマーチン - 車
- ローバー - 車
- ランドローバー - 車
- Auto Glym - 車手入れ商品
- バブアー - 野外防水衣料品
- ベンソン&ヘッジス - タバコ(1999年取り消し)
- Bronnley - トイレタリー(トイレまわり)
- バーバリー - 衣料品
- British Gas Services - ガス灯点火とメンテナンス
- Britvic Soft Drinks - フルーツジュース
- Carr - クラッカー
- キャドバリー・シュウェップス - チョコレート菓子
- カストロール - エンジンオイル
- Charbonnel et Walker - チョコレート
- Charles Frodsham and Co - 時計、腕時計
- Cobb of Knightsbridge - 肉
- Colmans of Norwich - マスタード(辛子)
- Cope & Timmins - 真鍮
- Corney & Barrow - ワイン
- D R Harris - 薬局
- Dacrylate Paints Limited - ペイント、アクリル装飾
- ETTINGER - 皮革小物
- Fairfax Meadow Farm — ソーセージ
- Farina gegenüber - オーデコロン
- フォード - 車
- フォートナム・アンド・メイソン - 食料、雑貨
- スマイソン - 文房具
- Gallyon & Sons - 銃
- Gieves & Hawkes - 仕立て屋
- Hatchards - 本
- ハロッズ デパート(取り消されたり返上したりしている)
- Harvey Nichols - 呉服屋
- Hayter - 芝刈り機
- Hazlitt Gooden & Fox - 芸術とクラフト
- Holland & Holland - 競技用銃
- Howgate Dairy Foods - チーズ
- ジャガー - ジャガーとダイムラー(車)
- James Baxter & Son - えび
- James Cocker & Sons - バラ
- Jenners - 室内装飾品
- John Broadwood and Sons - ピアノ
- John Lobb - 靴メーカー
- Johnson Brothers - カジュアル食器類
- ラフロイグ - シングルモルトスコッチ・ウイスキー
- Linn - エンターテイメイントHiFiシステム
- Lock & Co. - 帽子屋
- Mansour - アンティークカーペット
- Penhaligon's - 化粧用品
- Petersfield Book Shop - 額縁
- Plowden & Smith — 修復点検
- Price's Patent Candles Ltd - キャンドル
- R E Tricker - 靴
- R G Hardie & Company - バグパイプ
- リッツ・ロンドン - ホテル・宴会
- Spink - オークション
- スポード - 陶磁器
- Stanley Gibbons - スタンプ
- Suttons Seeds - 球根と種
- Tom Smith Group - クリスマスクラッカー
- Truefitt & Hill - 理容店
- トワイニング - 茶とコーヒー
- Waitrose - 食料品雑貨
- ウェッジウッド - 陶磁器
- William Crawford & Sons - ビスケット
- William Sanderson & Son - スコッチ・ウイスキー
- Wolsey - 手製衣料品
- Yardley - トイレタリーと個人生産
- ロイヤルウースター - 陶磁器
ベルギー王室
ベルギー王室御用達も、イギリス同様許可制となっている。日本では、ベルギー王室御用達と称された洋菓子(特にチョコレート)をよく見かけることができる。この分野の主要な企業としてゴディバ、ヴィタメール、ガレー、ノイハウス、メリー(メリーチョコレートカムパニーは無関係)が存在する。
認定を受けた企業のリストは公開されており[2]日本企業としてはトヨタ、キヤノン、ニコン、セイコー、ソニーのベルギー法人が御用達として認可されている。
参考書籍
- 入江敦彦/著 『女王陛下のお気に入り』 WAVE出版(2001年12月、ISBN 978-4-87290-116-0) - カラー写真と饒舌なエッセイで、英国王室御用達品を楽しく解説。
- 長谷川喜美/著 『英国王室御用達 知られざるロイヤルワラントの世界』 平凡社新書(2011年6月、 ISBN 9784582855937)
脚注
- ^ 中田易直 『国史大辞典』5巻「御用商人」、吉川弘文館、1985年
- ^ Les Fournisseurs Brevete de la Cour de Belgique(the Belgian Royal Warrant Holders)(Fournisseurs de la Cour、英語)