アクアスキュータム

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アクアスキュータムのクラブチェックのマフラー

アクアスキュータム(Aquascutum)は、イギリスロンドンの中心地リージェント通り106番地に旗艦店を構える高級被服老舗店。(2019年現在)

歴史[編集]

ロンドン万国博覧会の1851年に、仕立て人ジョン・エマリーリージェント通り100番地で創業。

ブランド名の由来はラテン語」を表すaquaと「」を表すscutumの2語を組み合わせた造語で

防水」を意味する。

また、同社の紋章に描かれているラテン語の「IN HOC SCUTO FIDEMUS」とは「この盾の中を信ずる」と言う意味である。(英国紋章院公式登録)

クリミア戦争時にイギリス軍が上級将校用(将官,佐官を中心とした当時の貴族将校、及び裕福な家庭出身の将校)のコートにこの防水生地で作ったコートを採用した。

その後「サービスキット」として下士官以下に支給され、その機能性と品質の高さから知名度が飛躍的に上がった。

1939年から始まった第二次世界大戦では、冬季ヨーロッパ戦線を中心にした戦いにおいて、

王立海軍王立空軍の将兵が同社のコートを着て戦っていた。そして終戦後に生まれたのが、

同社のトレンチコートの型として有名である「キングスゲート」の基となった「キングスウェイ」である。[1]

続いて、当時の皇太子(後のエドワード7世)はプリンス・オブ・ウェールズ・チェック(グレンチェックに青や赤等の格子を配した柄)

のコートを注文し、アクアスキュータム初の王族の顧客となった。

1897年にアクアスキュータムは王室御用達(Royal Warrant Holder)となる。

このエドワード7世の影響もあって、家庭向け・ファッション向けにも広められた。

1900年には婦人服部門を設立し、撥水性のケープコートを売り出した。これは婦人参政権論者の間で広く使われるようになった。

1980年代にアメリカカナダフランス香港シンガポールの各国に対し市場を展開した。

   ※日本は先駆けて、既に1970年代に横浜信濃屋等の洋品店にて取引が行われていた。[2]

1994年のリレハンメルオリンピック大会で、イギリス代表公式ユニフォームの提供スポンサーに選ばれていた。[3]

1996年のアトランタオリンピック大会においても同国のユニフォーム公式スポンサーとなっている。[4]

製品[編集]

・製品の種類全般はネクタイスーツシャツコート革靴などの服飾品である。

 これらの製品にシンボルとしてあしらわれているのがアクアスキュータムのハウスチェックである「クラブチェック」である。

 本来、イギリスにおいて貴族的スポーツとされるハンティングスタイルにおいてのスポーツコートに多用されるチェック柄を採用している。

・コート(トレンチ/オーバー類)の物に関しては非常に有名かつ、高品質な生地を扱った物である。

 特にトレンチコートは有名で、その原型として世界で初めて防水ウールの開発に成功した。

 防水加工を施した生地を使用したコートを次々に生み出すと同時に、第一次世界大戦で兵士に提供した防水コートは、

 その抜群の防水性と保湿性が塹壕(トレンチ)で戦う兵士を守ったことが、現在のトレンチコートの原型となった。 

 ピーター・セラーズや、ハンフリー・ボガートレディ・マーガレット・サッチャーサー・ウィンストン・チャーチルが着用していた。 

紳士服が多いが婦人服も取り扱っており、品質の高さに関しては後に1977年「Drake`s」(高級服飾店)として独立する、

 マイケル・ドレイクス氏を中心として、ジェレミー・ハル,イザベル・ディックソンの三名が勤めていた事からも窺い知れる。[5]

 その事もあってか、アクアスキュータムが「Royal Warrant Holder」であった時代にカシミア,シルク,ウールを素材にしたスカーフや小物は

 非常に高品質な物として有名だった。

 また日本市場においてのライセンス品では財布毛布食器などもある。

 変わったところでは1980年代に自動車の内装部品を製作したこともあり、ロータス・エスプリロータス・エクセル三菱・デボネアV

 アクアスキュータム仕様がラインナップされていた。

コートの型(防水生地)[編集]

同社で、各防水生地のトレンチコートにおいては独自の名称が付けられている。(※下記参照)

「Kings,way」:後のキングスゲート(kingsgate)の原型ともされた物がこの型である。(※現在は取り扱い無し)

「Kings,gate」:同社におけるトレンチコートの基本とされている物がこの型である。[6]

         生地こそ戦間期の物とは違うものの、この型においてはその時期に扱われた物と凡そ同じである。

         特徴:本来のトレンチコートに必要なパーツが全て揃っている。(諸説あるが、このコートの発祥の内の一社である為。)

            つまり、戦間期の型を極力変えずに「Dカン」や「貫通式ポケット」等を備えた、本格的な物である。

「Prince,gate」:上記のキングスゲートをモダンに解釈したとした物。[7]

          捉え方としてはキングスゲートを「仕事の場でも日常でも着れる型」として柔軟性を持つ。

         特徴:「ラグランスリーブ」では無く「セットインスリーブ」にし、着丈は若干短く、

             ストームフラップの下ではなく上にボタンを配した所である。

「Sandhurst」:名称は「英国陸軍サンドハースト王立士官学校」から取って名付けられた物とされる。[8]

         特徴:従来の合わせ型であった「ダブルブレステッド」では無く「シングルブレステッド」であり、

            かつ、トレンチコートの「ヨーク」部分を全面と背面のそれぞれに配している。

            また、エポーレット部分は取り払われている。

            ※150周年記念時に、本国イギリスも含め限定150着で販売された物が市販化された物と伺える。

「Travel Road」:名称からも分かるように本来、旅行用のコートとして想定された型である。[9]

          これも同社が王室御用達の時代から持っている型である。

         特徴:シングルブレステッドで比翼仕立て、かつ「ラグランスリーブ」である。

            エポーレット部分は取り払われている。

   ・その他の型:現行の物であれば「Nigel」「Kingswalk」「Curtis」…。といった様々な種類がある。

          また、王室御用達時代に販売されていた物なども含めると、確認出来る限りでも多種多様である。

          しかし、同社において特筆して主眼を据えている型は上記の5種類であると言える。

コートの生地(防水生地)[編集]

有名なトレンチコートステンカラーコートに扱われている生地についてだが、いくつかの種類が存在する。(※下記参照)

また、これら生地による評価も様々あるが、同社における「防水性の向上」としては一貫しておりその名の通りである。※【Aqua(水)/Scutum(盾)】

「Aqua5」:「Royal Warrant Holder」の時代を中心として扱われていた生地である。

 (綿100%の防水加工生地)

「NewAqua5」:1900年代後半から現在に至るまで扱われている生地であり、従前の「Aqua5」より防水性に重きを置いた作りとされる。

 ※「Royal Warrant Holder」の時代も含む

 (綿半分とポリエステル繊維半分の防水加工生地、又は綿100%の生地)

「Aqua Tech」:コンセプトを「機能的だけでなく,伝統的かつ高級志向」とした生地。撥水だけでなく生地自体の軽量化を施した物とされる。

※現行の商品に扱われている生地である。

 (綿半分とポリエステル繊維半分の防水加工生地)

「AquaLene」:1970年代辺りに扱われたと考えられる生地。化学繊維による防水性の向上を目指した物とされる。

 (綿半分とビスコース半分の混紡生地)

「Wyncol.D711」:エベレスト登頂を成し遂げ、大英帝国勲章受章につき「サー」の称号を得た際、エドモンド・ヒラリーが着用していたコート生地。

 (アクアスキュータム独自開発の綿とナイロンの混紡生地)

・その他:確認できる範囲では「ナイロンやポリエステル繊維のみの生地」、「シルクを撥水加工したAqua5生地」が挙げられる

 ※「シルクを撥水加工したAqua5生地」に関しては現在かなり珍しいが、当時の英語表記で下記の様に記されている。

  "Aqua5:THIS COAT MADE FROM 100% SILK IS PERMANENTLY PROOFED AND EXCLUSIVE TO Aquascutum,,

生産拠点[編集]

・現在の生産拠点は明確にされていないが、上記のトレンチコート等の類に関してはイングランド中東部、ノーザンプトンに近接した

 「コービー(corby)」にて1909年から2012年まで「アクアスキュータム直営工場」として操業及び生産を行っていた。

 現在はOEMを中心に生産活動を継続している。

 ※同工場は2012年にスウェイン・アドニー・ブリッグ・グループ傘下として参入され、社名を「The clothing works」に変更する。[10]

経営状態[編集]

1990年に日本企業のレナウンが買収。2009年にレナウンは全株式を英国Broadwick Group Limitedに譲渡(ライセンス製造は継続)。

2012年4月17日、アクアスキュータムは会社更生を決断し、破産管財人による法的管理の手続きに入った。

当時、管財人が新たなスポンサー企業を探し、事業を継続する方針であった[11]

その後香港YGM貿易YGMトレーディング)に渡り、2017年3月にレナウン親会社の中国の山東如意グループに買収された[12]

国内の商標権に関してはレナウンが取得している[13]

※現在のレナウンにおいてはイギリス本国の製品(主にトレンチコート)とライセンス物の両方を扱っている。

評判[編集]

王室御用達承認時代の評価[編集]

「Royal Warrant Holder」の当時、著名人のアクアスキュータムに対する評価は非常に良いものであった。

中でも首相であり一代貴族でもあった、レディ・マーガレット・サッチャーの同社に対する評価は非常に高かった様だ。

当時の彼女の政治手法と大衆に対しての印象付け方に関し、イギリス・テレグラフ紙は下記の様に載せている。(要約)

  • 「マーガレット・サッチャーのスタイル、アクアスキュータムと彼女の勝負服を決めるスタイリスト」

  (原題:Margaret・Thatcher:Style, Aquascutum and the original power dresser)[14]

  この紙面において保守党政権から首相として選出された後、サッチャーはアクアスキュータムのスーツを愛用し、

  新自由主義の政治的メッセージと共に彼女自身の世間への「売り込み」に際して活かされたとしている。

  • この理由として、彼女の好む洋服は保守的で「マスキュリン(男性的)」の様な印象が全くもってなく、

 「エグゼクティブ(責任ある立場)」であるという印象をもとに選んでいたと捉えている。

  (her working wardrobe, although ‘executive’, was never masculine. )[15]

  この人物こそが「典型的なサッチャーのスーツ姿」を作り出したとしている。

  (Mrs King who became Mrs Thatcher’s dress adviser, and who created what became recognised the world over [16]

  as the quintessential Thatcher look.)

上記の印象から受ける様に、アクアスキュータムは従来から「老舗としての品格」や「見せつけるより、品質の高さを知る者が持つ」と言う

印象を持つ顧客達が多く、同社もそれに見合った印象を持たれていた様である。

現在の評価[編集]

同社の売却以後に、その評価に関して百家争鳴していた事が、国内外問わず多くあった。

実際に本国においてもBBCの場合、売却情報のみに注目して報道する場合[17]もあれば、ガーディアン紙の様にかなり厳しい意見[18]

を載せる紙面もあった。

しかし、ヘッドデザイナーであるアンドレ・ハケット氏によればインタビューで下記の様なブランドコンセプトを掲げている。

  • 「アクアスキュータム社の伝統と精神は変わらず受け継いでいく。その考え方を基にデザインチームによって変えていく」

  (The Aquascutum ethos and heritage remains unchanged; it continues to be transformed by the design team.)[19]

  ※過去数年の内に何度もオーナー企業が変わっていったのに対し、どの様にデザインチームは対応しているのか聞かれた際。

  •  「清潔感と現代性に焦点を置いたコレクションにしたい。」

 (Modernity and integrity were my main focus for this collection.)[20]

 ※14年のコレクションにおいて、以前よりプリント模様が多かった事を質問した際。

  • 「アクアスキュータムのトレンチコートや他の防水生地のコートはDNAだ。これは同社の全てのコレクションで脈々と続いている。」

 ( It is a natural part of the brand’s DNA./ It is the pulse of any Aquascutum collection.)[21]

   ※同社の防水生地コートをどのコレクションにおいても考えに入れるのはプレッシャーではないかと聞かれた際。 

・全体を通して言えることは「伝統と革新」に基づいて、従来の商品を好む顧客層に新しい気風の若年層を取り込みつつ、

 今までの伝統的評価も受け継いでいきたいとする物である。

王家御用達(Royal Warrant)[編集]

1897年
プリンス・オブ・ウェールズ、後のエドワード7世
1903年
プリンス・オブ・ウェールズ、後のジョージ5世
1911年
ジョージ5世
1920年
プリンス・オブ・ウェールズ、後のエドワード8世(ウィンザー公)
1947年
エリザベス王妃ジョージ6世夫人
1952年
エリザベス王太后

※なお、現在は王室御用達(Royal Warrant)の認証は受けていない

脚註[編集]

  1. ^ Kollewe, Julia (2009年9月8日). “Aquascutum: History of a trendsetter” (英語). the Guardian. 2018年10月11日閲覧。
  2. ^ うんちく | SHINANOYA lifestyle Web Shop|横浜信濃屋”. shinanoya-lifestyle.com. 2018年10月1日閲覧。
  3. ^ “Aquascutum - the fashion retailer that clothed Crimean officers” (英語). The Independent. https://www.independent.co.uk/life-style/fashion/news/aquascutum-the-fashion-retailer-that-clothed-crimean-officers-7654619.html 2018年10月1日閲覧。 
  4. ^ “Aquascutum - the fashion retailer that clothed Crimean officers” (英語). The Independent. https://www.independent.co.uk/life-style/fashion/news/aquascutum-the-fashion-retailer-that-clothed-crimean-officers-7654619.html 2018年10月1日閲覧。 
  5. ^ “Permanent Style” (英語). Permanent Style. https://www.permanentstyle.com/2012/03/the-history-of-drakes.html 2018年9月28日閲覧。 
  6. ^ アクアスキュータム公式サイト”. aquascutum.jp. 2018年10月11日閲覧。
  7. ^ アクアスキュータム公式サイト”. aquascutum.jp. 2018年10月11日閲覧。
  8. ^ Modern Military Dictionary by Aquascutum Vol.2 Inspired by Army -SANDHURST | BLOG | Aquascutum アクアスキュータム” (英語). aquascutum.jp. 2018年10月11日閲覧。
  9. ^ アクアスキュータム公式サイト”. aquascutum.jp. 2018年10月11日閲覧。
  10. ^ “Old Aquascutum factory is reinvented as The Clothing Works” (英語). Make it British. (2013年4月21日). http://makeitbritish.co.uk/uk-manufacturing-2/old-aquascutum-factory-reinvented-as-the-clothing-works/ 2018年9月28日閲覧。 
  11. ^ アクアスキュータムが破綻 英老舗ブランド、販売不振で Archived 2012年4月17日, at the Wayback Machine. 産経新聞 2012年4月18日閲覧
  12. ^ “China's Shandong Ruyi expands fashion empire with Bally”. ロイター. (2018年2月9日). https://www.reuters.com/article/bally-ma-shandongruyi/chinas-shandong-ruyi-expands-fashion-empire-with-bally-idUSL8N1PZ61T 2018年2月22日閲覧。 
  13. ^ “レナウン、「アクアスキュータム」の国内商標権取得”. 日本経済新聞. (2017年12月26日). https://www.nikkei.com/article/DGXMZO25100000W7A221C1000000/ 2018年2月22日閲覧。 
  14. ^ Alexander, Hilary (2013年4月12日). “Margaret Thatcher: style, Aquascutum and the original power dresser” (英語). ISSN 0307-1235. https://www.telegraph.co.uk/news/politics/margaret-thatcher/8521433/Margaret-Thatcher-style-Aquascutum-and-the-original-power-dresser.html 2018年9月30日閲覧。 
  15. ^ Alexander, Hilary (2013年4月12日). “Margaret Thatcher: style, Aquascutum and the original power dresser” (英語). ISSN 0307-1235. https://www.telegraph.co.uk/news/politics/margaret-thatcher/8521433/Margaret-Thatcher-style-Aquascutum-and-the-original-power-dresser.html 2018年9月30日閲覧。 
  16. ^ Alexander, Hilary (2013年4月12日). “Margaret Thatcher: style, Aquascutum and the original power dresser” (英語). ISSN 0307-1235. https://www.telegraph.co.uk/news/politics/margaret-thatcher/8521433/Margaret-Thatcher-style-Aquascutum-and-the-original-power-dresser.html 2018年9月30日閲覧。 
  17. ^ “Raincoat maker Aquascutum sold for £97m” (英語). BBC News. (2016年12月22日). https://www.bbc.com/news/business-38404407 2018年9月30日閲覧。 
  18. ^ Moulds, Josephine (2012年4月17日). “Aquascutum falls into administration” (英語). the Guardian. 2018年9月30日閲覧。
  19. ^ “Above the Trench” (英語). The Glass Magazine. (2014年6月17日). http://www.theglassmagazine.com/above-the-trench/ 2018年9月30日閲覧。 
  20. ^ “Above the Trench” (英語). The Glass Magazine. (2014年6月17日). http://www.theglassmagazine.com/above-the-trench/ 2018年9月30日閲覧。 
  21. ^ “Above the Trench” (英語). The Glass Magazine. (2014年6月17日). http://www.theglassmagazine.com/above-the-trench/ 2018年9月30日閲覧。 

外部リンク[編集]