町人
町人(ちょうにん)は、戦国時代[1]・江戸時代に城下町など大きな都市に住んでいた職人、商人の総称である。または当時の都市在住の庶民階級の総称であり、昔ながらの農地に住む庶民階級の百姓や都市在住の武士階級と区別して用いられた。
略歴・概要
[編集]16世紀後期から17世紀前期に、社会的分業に基く身分制度(武士・百姓・町人)が成立した。各大名は楽市・楽座政策を行い、免税特権や営業の自由の承認などによって商工業者を城下町に誘致した。このことにより職業的に農業との分離が促進され、より専門性が高まった。
誘致された商工業者は、城下町では武家地・寺社地と区分された町人地に集住し、町人の社会的位置はこうした都市空間の編成とも結び付いていた。近世都市研究では、町人地は単なる身分名の反映ではなく、都市の形態と内部構造を規定する空間単位として扱われており、町屋敷や長屋を含む高密度の市街地が形成されたことが論じられている[2][3]。
とくに江戸や大坂の町人地については、街路網と水路網が組み合わさった町割りの設計論理が検討されており、町人地が流通と居住の双方を担う近世都市の基盤として論じられている[4]。また、江戸の土地利用変化や福岡城下町の借地借家研究からは、町人地は武家地や寺社地とは異なる高密度の再編を受けつつ、実際には領域を越えた居住者の混在も見られたことが示されており、制度上の区分と生活実態が必ずしも一致しないこともうかがえる[3][5]。
優れた技術力と豊富な資金量は武士を圧倒する面も見せ、独自の都市文化(町人文化)の形成発展に寄与した。
町人は特に家屋敷を所有する家持層で表通りに店を構えるブルジョワ階級である旦那衆から、裏通りの
また富裕町人としての社会的役割のひとつに、賃貸しの長屋を持ち、わずかな
都市には富裕・下層町人のほか没落した都市下層民をはじめとする様々な階層の人間が居住しており、落語などに出てくる八つぁん・熊さんなどは借家人であるため町人にはあたらない[6]。徳川幕府の定義としては地主家主、最低でも居宅を自己所有している者のみ、後期はこれに大家(差配。上記のとおり家主代理であり居宅は家主から無料で貸与されている)までを加えて町人と呼んだが、いずれにしても町方人口の1割に満たず、江戸の庶民の圧倒的多数はこれに属していない。したがって、現代の視点、時代劇などでは厳密な制度上の用語とは別に、借家人も町人と呼ぶ場合もある。
戦後の実証主義的歴史研究においては町人・職人・商人など近世の社会集団に関する研究が進展する。1975年には中井信彦『町人』小学館「日本の歴史」において体系的な町人論が展開され、1980年代以降には中世史分野における網野善彦や桜井英治らの商職人研究とも相互に関係して、吉田伸之、塚田孝らの都市史研究の進捗に伴い町人研究が進展した。
女性
[編集]町女房(まちにょうぼう)は、江戸時代の都市(町方)、町人の家(町家)に住む女性の総称である[7]。
町方とは、村方・山方・浦方に対する「都市性」、武家・社寺に対する「民間性」、遊里に対する「現世性」を意味する語であり[8]、町女房とはつまり、江戸時代の都市の民間に住む一般女性を指す[7][8]。山岸荷葉の小説『町女房』(1906年)は、江戸時代の都市生活の延長線上にある明治時代の都市女性を描いたものである[9]。
脚注
[編集]- 1 2 棚橋信明「わが国における「市民」の用語の歴史的起源―福沢諭吉の役割に関する再検討を中心に―」横浜国立大学教育学部紀要Ⅲ(社会科学) ( 8 ) 23 - 44 2025年2月
- ↑ 玉井, 哲雄「町屋敷内部の構造と町人地の変質 : 江戸町人地の研究 (4)」『日本建築学会論文報告集』第255巻、1977年5月30日、117-123頁、doi:10.3130/aijsaxx.255.0_117。
- 1 2 田中, 麻衣、古田, 悦造「明暦大火前後における江戸の土地利用変化」『東京学芸大学紀要 人文社会科学系II』第61巻、2010年、61-77頁。
- ↑ 阿部, 貴弘、篠原, 修「近世城下町大坂,江戸の町人地における城下町設計の論理」『土木学会論文集D2(土木史)』第68巻第1号、2012年、69-81頁、doi:10.2208/jscejhsce.68.69。
- ↑ 箕浦, 永子、宮野, 弘樹、重久, 幸子、八嶋, 義之「近世城下町における二元的構造と土地利用に関する研究 : 借地借家と居住者の具体的解明を通して」『住総研研究論文集・実践研究報告集』第46巻、2020年、119-130頁、doi:10.20803/jusokenronbunjisen.46.0_119。
- ↑ 司馬遼太郎1990『この国のかたちニ』2頁
- 1 2 デジタル大辞泉『町女房』 - コトバンク、2012年8月9日閲覧。
- 1 2 大辞林 第三版『町方』 - コトバンク、2012年8月9日閲覧。
- ↑ 山岸、p.1-2.