写ルンです

写ルンです(うつルンです)は、富士フイルムが1986年7月1日[1]より販売開始したレンズ付きフィルムの登録商標(第2110978号ほか)で、同ジャンルのパイオニア的製品である。世界ではQuickSnap(クイックスナップ)の商品名(登録商標第2236896号)で販売されている。『別冊宝島』には1986年のサブカル・流行の1つとして紹介されている[2]。
2012年11月以降、デジタルカメラやカメラ付き携帯電話の普及などにより、大幅な生産縮小が行われた。2020年現在は「シンプルエース」の1タイプのみが継続して生産・販売されている(ラインアップを参照)。
歴史[編集]
- 1963年 - 使い捨てカメラ「fimera」などが試作されるが、商品化されなかった。
- 1986年7月1日 - 2年近い開発期間を経て発売。初代モデルはISO感度100の110フィルムとカートリッジを使用。
- 1987年 - 2代目に当たる「写ルンです Hi」よりISO400の135フィルムに変更。初のフラッシュ搭載モデル(有効距離1〜3m)の「写ルンです Flash」を発売。
- 1989年 - 焦点距離140mmの「写ルンです 望遠」、パノラマ写真の「写ルンです パノラミックHi」、接写40cmまでの「写ルンです 接近」を発売。
- 1991年 - 水深3mまでの「写ルンです 防水」を発売。
- 1992年 - 小型化により3コマ増量を図った、実質3代目の「エコノショット」シリーズを発売[3][4]。
- 1995年 - 4代目に当たる「スーパー写ルンです」発売。フラッシュの起動が高速化する。
- 1996年4月22日 - APSカートリッジ採用の「写ルンです スーパースリム」、モノクロフィルムの「写ルンです Black&White」を発売。以後、1998年に至るまで「スーパースリム」シリーズとしてラインナップが展開される。
- 2001年 - 世界で1億本以上を売り上げる(最盛期)。12月、現行(2022年現在)モデルの「写ルンです シンプルエース」が発売される。
- 2003年 - 夜景モード搭載の「写ルンです Night&Day」を発売。
- 2008年 - 生産をアメリカ合衆国サウスカロライナ州の工場のみとする[5]。
- 2013年 - 「写ルンです Room&Day Super」・「写ルンです シンプルエース スティッチ」・「写ルンです シンプルエース ハローキティ レッド」・「写ルンです COLORS」の出荷を終了[6][7]。
- 2014年 - 「写ルンです Night&Day Super」・「写ルンです 400エクストラ」の出荷を終了[6]。
- 2016年 - 誕生30周年を記念して、初代「写ルンです」の外観を模した「アニバーサリーキット」を数量限定販売。同年7月15日の発売30周年に合わせ、第2弾も投入。
- 2018年 - 3月、「写ルンです シンプルエース」のデザインを変更[8]。5月、「写ルンです 1600 Hi・Speed」の出荷を完全に終了[6]。
- 2019年12月 - 「水に強い写ルンです New Waterproof」の出荷を終了[6]、「写ルンです シンプルエース」1種のみのラインアップとなる。
ラインアップ[編集]


現行[編集]
- スタンダード(ISO400)
過去[編集]
出典:[9]
スタンダード[編集]
初代を除きISO400。
- 初代。ISO100の110フィルムを使用。フラッシュは非搭載。
- Hi(1987年 - 1992年)
- 後述の「Flash」「接近」「望遠」「パノラミックHi」「パノラミックFlash」「防水 Dolphin」と併せて、実質2代目となるシリーズ。SUPER HR400を採用したことで、ISO400の135フィルムとなる。標準小売価格は1,000円。デザインは(1989年のロゴ変更も含めて)複数回変更されている。
- Flash(1987年 - 1992年)
- 初のフラッシュ搭載モデル。
- 接近(1989年 - 1992年)
- 望遠(1989年 - 1992年)
- パノラミックHi(1989年 - 1992年)
- パノラミックFlash(1991年 - 1992年)
- 防水 Dolphin(1991年 - 1992年)
- 水に強い写ルンです New Waterproof(2000年6月 - 2019年12月)
- New 望遠(2001年3月 - 2007年7月)
- 最後までフラッシュを搭載しなかったモデル。
「エコノショット」シリーズ[編集]
実質3代目となるシリーズ。本体の小型化が為され、撮影可能枚数が従来の24枚/36枚から27枚/39枚へと増えた。下記のものに加え、高画素モデルの「Hi Super800」「望遠 Super800」が発売されるなど、多彩なラインナップが展開された。「Hi」が付くものはフラッシュ非搭載モデル。
- 16:9での撮影を可能にしたモデル。
- エコノショット 迫力ビジョンFlash(1992年 - 1996年)
- 「エコノショット 迫力ビジョンHi」にフラッシュが搭載されたもの。
- エコノショット パノラミックHi(1992年 - 1998年)
- エコノショット パノラミックFlash(1992年 - 1998年)
- エコノショット 水中 Dolphin(1992年 - 1998年頃)
- 「エコノショット」のラインナップとして発売された為、撮影可能枚数は「防水 Dolphin」より3枚増えている。
- スーパー写ルンです(1995年6月 - 1998年)
- 4代目であるが、シリーズ展開は行われなかった。本モデル以降、フラッシュ搭載が(「Hi」が付されるごく一部のモデルを除き)標準仕様となった。また従来に比べ、フラッシュの起動時間が大幅に短縮された。
- Newエース フラッシュ(1996年 - 2008年頃)
- 「スーパースリム」シリーズと併せて、実質5代目となるシリーズ。スタンダードモデルがAPSフィルムの採用により小型・軽量化を行なった一方で、こちらは従来の135フィルムを用いたエントリー・モデルとして展開された。10年以上に渡り製造されたロングセラー商品であり、1999年10月には39枚撮りがラインナップに加わった。現行の「シンプルエース」の前身に当たる。
- 再び135フィルムへと戻った。「シンプルエース」とは使用しているフィルムのみが異なる。
「スーパースリム」シリーズ[編集]
APSフィルムを初採用した、実質5代目となるシリーズ。小型・軽量化に成功したことで大ヒット商品となる。派生製品のラインナップが数多く展開された。
- Golfと併せて、数少ないフラッシュ非搭載モデル。25枚撮りのみ。
- スーパースリム Flash(1996年4月22日 - 2002年[頃)
- スーパースリム ハイビジョンタイプ(1996年12月6日 - 2002年頃)
- 「エコノショット 迫力ビジョンFlash」の後継モデル。25枚撮りのみ。
- 「エコノショット 迫力ビジョンFlash」「エコノショット パノラミックFlash」の後継モデル。一台で標準・パノラマ・ハイビジョン(16:9)を切り替えて撮影することが可能となっている。
- スーパースリムスター(1998年7月10日 - 2000年頃)
- レンズカバーを搭載した。25枚撮りのみ。標準小売価格は1,600円。
- スーパースリムスター キャラクターシリーズ(1998年9月)
- スーパースリムエース(1998年10月10日 - 2002年頃)
- 「スーパースリム Flash」の後継モデル。25枚撮りのみ。
- スリムエースU(2002年3月 - 2006年10月)
- 「シンプルエース」(135フィルムを採用)と併せて、実質6代目となるモデル。「スーパースリムエース」の後継モデルとして引き続きAPSフィルムを採用することで「世界最小」を謳っていた。
高機能モデル[編集]
- ISO800
- Hi Super800(1993年4月 - 1998年頃)
- 初の高感度モデル。
- Super800 パノラマ切替Flash(1993年 - 1998年頃)
- 望遠 Super800(1994年 - 1999年頃)
- エース800(1997年10月 - 2001年頃)
- スーパーEye800(2000年7月 - )
- ISO1000
- スリム1000(2004年3月 - 2010年頃)
- デート1000(2004年11月 - 2010年11月)
- 「スリム1000」に日付写し込み機能が搭載されたもの。
- ISO1600
その他[編集]
- Golf Hi(1996年2月23日 - 2001年頃)
- Black&White Flash(1996年6月1日 - 2001年頃)
- 1997年8月には「Black&White Flash ハローキティ」(27枚撮り)が発売された。
- 写ルンです 8コマ写真(1997年10月7日 - 1999年頃)
- スケルトン写ルンです(1999年9月 - 2003年頃)
- 接写もできる写ルンです(1999年 - 2003年頃)
- 写ルンです COLORS(ラインナップ非掲載。ISO400)
- デート(2000年4月 - 2003年頃)
- 日付写し込み機能を初めて搭載した。25枚撮りのみ。
キャラクターモデル[編集]
逸話[編集]
開発当初、ネーミング案として「フィルマー」「カメルム」「パットリくん」「西麻布」「写るんです」「チョンパッ」という名前が候補に挙がっていた。この中の「写るんです」と「ルンルン気分」とを合わせ、最終的に「るん」を片仮名表記とした「写ルンです」という名前に決定した[10]。
初代モデルはメカ好きの男性をターゲットとした「フォトジャック」、若者向けを意識した「ピッコ」、写真フィルムのパッケージ風のデザインの「スーパーHR100」の、パッケージデザインが異なる3タイプが同時に発売された。結果的には「スーパーHR100」が他に対して圧倒的な売上を記録し、以後のモデルのパッケージデザインは「スーパーHR100」が基本となった[10]。
2017年現在使用されている「写ルンです」のロゴは3代目である(初代:1986年制定、2代目:1989年制定、3代目:2000年制定)。初代ロゴは「しゃるんです」と誤読されることを防ぐため、「写」の文字にルビが振られていた[11]。
1980年代まで、常用されるカラーネガフィルムの感度は400までで、800はラインナップにはなく、1600は粒子が荒い特殊用途用といった位置付けであった。富士フイルムは、写ルンですで撮影された写真から失敗写真の原因を調査し、感度800のフィルムで撮影されていたなら救えたであろうコマが一定の割合で存在することを把握、感度400のフィルムと比べて遜色なく、写ルンですの固定露出にも堪え、粒子荒れが少なくラティテュードの広い、感度800のフィルムを写ルンです専用として開発し、1993年4月にそれを装填した「写ルンですスーパー800」として発売した。
スーパー800は発売されるやいなや、写真業界誌でフィルム新開発の情報を知ったプロカメラマンたちにより、暗室で「写ルンです」を分解して装填フィルムを巻き取り、パトローネを取り出して、通常の一眼レフカメラに詰めるという買われ方をした。1993年後半 - 1994年前半の報道写真には、このフィルムを用いて撮られたものがある(皇太子徳仁親王と小和田雅子の結婚の儀など)[12]。
これを見て、富士フイルムはフィルム単体で商品化することに踏み切り、1994年9月、スーパーG ACE800として発売した[13]。このフィルムはその後も、日本雑誌協会の大相撲取材の指定フィルムとされる(土俵上の光量で、F2.8の望遠レンズで撮影時、動きを止めるぎりぎりの1/500秒で撮影できる[12])など人知れず活躍した。その後も富士フイルムは「写ルンです」での使用を念頭に置いた、常用利用を前提とした粒子荒れの少ないISO感度1600のフィルムを開発するなどしている。
オリオンから、「写ルンです」をもじったラムネ菓子「食ベルンですHi」が発売されている(1990年発売開始)。「写ルンです」の景品に採用されたこともある[14]。
その他パロディ的名称は数多い。
初代の「写ルンです」から7月1日に新製品が発売されることが多く、社内では7月1日を「写ルンですの日」と呼んでいる。夏の8月が「写ルンです」の最需要期ということも踏まえているという[3]。
テレビCM出演者[編集]
- 1987年 新発明編(フィルムが写ルンですになる)
- 1988年 昼のケンタウロス編(竹中直人)[15]
- 1989年 ビーチ、ディスコ編(唐沢寿明、鈴木一真)
- 1990年 水玉編(井森美幸)
- 1991年 お正月を写そう 初スマイル編(観月ありさ、後に七福神と共演)
- 1992年の鏡編よりデーモン小暮閣下
- 幼い娘を持つ父親(母親つまり妻役の女性は未登場)で、サラリーマン(役職は課長)という設定のデーモンが娘を前に乗せて歌いながら土手沿い自転車を走らせる「いい日旅立ち編」などの、コミカルな演技が話題となった。聖飢魔IIのビデオCD『SEIKIMANIA』(1995年)に「吊り橋編」「忘れ物編」「トンボ採り編」が収録されている。同タイトルは2003年にDVD化。
- シリーズ終了後、後述のヒット曲パロディシリーズで当時の聖飢魔IIメンバー全員が出演した戦国時代の合戦風のCMも存在する。内容は、本陣で待機する敗色濃厚な軍勢(軍旗は総赤、及び白地に赤い三日月)の総大将(演:稲垣吾郎)のもとに矢を受けた赤切裂指物使番が転げこんできて絶望的な戦局を報告、暗に引き上げを進言、総大将が聖飢魔IIの来援を信じてこれを却下、反論しかけた重臣を制してNAI NAI 16のサビを歌うとデーモン以下の聖飢魔IIが(前述のデーモン単独出演以来ということで)「久々!」と登場するというもの(後述の「NAI NAI 16篇」)。
その他は富士フイルムのコマーシャルメッセージ#写ルンですを参照。1999年末のザ・ドリフターズが七福神に扮した「お正月を写そう2000年」は、荒井注を含む夢の「ドリフ6人全員集合」であり、2000年2月の荒井の急逝により「最後の全員集合」にもなってしまった。
参考文献[編集]
- 『31年目の「写ルンです」』枻出版社、2017年。ISBN 978-4-7779-4477-4。
脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
- ^ 『31年目の「写ルンです」』60頁。
- ^ 別冊宝島2611『80年代アイドルcollection』p.93.
- ^ a b “読売ADリポート ojo:adv.yomiuri 2000年2月号”. 2020年5月14日閲覧。
- ^ 『昭和40年男』Vol. 16、2012年。
- ^ a b 「オトナファミ2012年3月号」 p069 - 073 誕生25周年!フジカラー写ルンです
- ^ a b c d “写ルンです 出荷終了品”. 2020年1月24日閲覧。
- ^ 『「フジカラー 写ルンです COLORS」 販売終了のご案内』(プレスリリース)富士フイルムイメージングシステムズ株式会社、2013年9月6日 。2020年1月24日閲覧。
- ^ 『「フジカラー写ルンです シンプルエース27枚撮」価格改定およびパッケージリニューアルならびに「フジカラー写ルンです シンプルエース39枚撮」販売終了のご案内』(プレスリリース)富士フイルムイメージングシステムズ株式会社、2018年1月19日 。2020年1月24日閲覧。
- ^ “FUJIFILM:ニュースリリース一覧”. 2001年8月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年6月18日閲覧。
- ^ a b 『31年目の「写ルンです」』59頁。
- ^ 『31年目の「写ルンです」』61頁。
- ^ a b 『撮るライカ 1』(ISBN 4-7698-1165-9) p. 153 / 『写真工業』誌の連載では第24回、同誌 Vol. 61, No. 9(通巻653, 2003年9月号) pp. 95 - 99、該当の記述はp.96
- ^ 『カラーネガフィルムの技術系統化調査』§10.1.1
- ^ 激動の時代に 関西企業トップストーリー(52) オリオン社長 小西 靖介氏 子どもの「憧れ」形に/駄菓子にこだわり63年、神戸新聞社、2011年10月2日。
- ^ TV-CM index FUJIFILM
関連項目[編集]
- レンズ付きフィルム
- 伝染るんです。 - 吉田戦車のギャグ漫画。この作品のタイトルの由来となった。
- こちら葛飾区亀有公園前派出所 - 63巻で「写ルンです」に対抗したレンズ付きフィルム「てめえ!!じたばたすると写すぞ」を、88巻で高級レンズ付きフィルム「ブーメランくん」を題材にした話があった。
- JR東日本209系電車 - リサイクルを前提とした簡素な構造、車両の減価償却期間の13年を車体寿命とした設計などが報道され、1993年のデビュー当時、鉄道マニアの間で「走ルンです」という俗称で呼ばれた。また、同社の701系電車も209系と同様の構想でデビューしたため、こちらも同じく「走ルンです」と呼ばれている[1]。しかしデビューから30年目を迎えた2023年現在も、両車種とも改造・更新工事や他社譲渡などを経て現役で運用されている。
外部リンク[編集]
- ^ 高橋政士(編)『深迷怪鉄道用語辞典』海拓舎、2001年4月、252頁。ISBN 4-907727-18-6。