ラストワンマイル (運輸)

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交通分野のラストワンマイル問題を緩和する方法として自転車シェアリングなどが挙げられる

ラストワンマイルとは、サプライチェーン・マネジメント及び交通計画において、交通結節点から最終目的地までの人や物の移動を表す用語である[1]

「ラストワンマイル」は、個々の家庭を主流の遠距離通信ネットワークへと接続する課題に直面した通信業界から取り入れた用語である。同様にサプライチェーン管理のラストワンマイルとは、人や荷物の輸送においてハブ(集積拠点・結節点)から最終目的地までの、課題の多い最終区間をいう。ラストワンマイルの配達は、企業と消費者間(B2C)の配達数が増加するにつれ、特に貨物輸送のEコマース企業や個人輸送のシェアライド企業によってますます研究されている分野である。ラストワンマイル配達の課題には、コストの最小化、透明性の確保、効率性の向上、インフラの改善などがある[2]

歴史[編集]

「ラストワンマイル」の用語はもともと、末端利用者の家庭や企業を主要な遠距離通信ネットワークに接続することの難しさを説明するのに通信業界で使われていた。ケーブルやワイヤの最後「1マイル」は、顧客1人だけに使用される。したがって、このインフラの導入および保守の費用は加入者1人だけで償却可能である。

サプライチェーン管理におけるラストワンマイルは、人や荷物を輸送する際の同じ問題を指すものである。配送ネットワークにおいて、複数の小包は(一括して)船や電車ほかの手段を経由して効率的に中央ハブまで輸送可能だが、それらを個々の顧客に配達するには小型車両に積み込む必要がある。交通網における「ラストワンマイル」は、空港や鉄道駅などの交通結節点から人々を最終目的地まで連れて行くための限界費用の上昇を指す。

物流ネットワークにおけるラストワンマイル[編集]

貨物鉄道網やコンテナ船による輸送はしばしば最も効率的で費用対効果に優れた出荷方法である。しかし、容量の大きい貨物駅 または港に到着した物は、その後最終目的地に輸送しなければならない。サプライチェーンにおいてこの最終区間は効率性に劣ることが多く、物流にかかるコスト全体の28%までを占める。このことが「ラストワンマイル問題」として知られるようになった[3][4]。 ラストワンマイル問題は都市部における配送の課題を含むことがある。中心業務地区の小売店、飲食店、及びその他の業者への配送はしばしば混雑や安全性の問題の原因となる[5]

関連するラストワンマイルの問題に人道支援が必要な地域への物資輸送がある。被災地域の輸送拠点まで救援物資が届いても、自然災害による損害あるいはインフラストラクチャーの欠如が原因で分配できないことがある[6]東日本大震災でも物流の停滞は問題となり[7]ヤマト運輸などがこの問題を解決している[8]

原因[編集]

配達需要の増加[編集]

物流業界では以前から工場からの発送も自動化が推進され、倉庫もロボットなどによる自動化が推進されてきた[9]自動倉庫)。ところが、配送物を各顧客に届ける最終接点(ラストワンマイル)は今でも配送員頼みの状況が続いている[9][10]

オンラインショッピングを使うことが当たり前になり、配送物の数が非常に増加した。更に、近年のオンラインショップ利用者は、昔の宅配便利用者とは異なり、都合の良い時刻に、望みの方法で配達して欲しいと願っている[9]。翌日配達や当日配送というサービスも設定され、それを望む利用者もでてきた[11][10]

電子商取引(EC)が成長を続ける中、消費者の家や企業に至る輸送の最終区間はより挑戦的な問題となっている。多くの消費者は配達が一般的に行われる時間に留守であることが多いため、不在配達は UPSFedExUSPSDHLなどの配送業者の間で大きな問題となっている。不在配達された小包を放置することは商品を風雨に晒され、無防備な顧客の玄関や入口付近から荷物を盗み出す(ポーチ・パイレーツ)など盗難のリスクに晒されることになる[12]

再配達[編集]

荷物を届けようとしても、受取人が不在で配達できない状況、再配達しなければならない確率も上昇しており、その率はおよそ平均20%、5件に1件の割合になっている[10]。その結果、再配達に労力を充てる必要が出てきて、人員不足に拍車をかけている[10]。再配達の発生のせいで配達の効率が下がってしまっている[11]、とも言える。 配達員を増員すればするほど人件費(配達員たちに支払う給料の総額)が膨張し、運送会社の利益率は悪化している[10]。忙しいのにあまり儲からない状態に陥ってしまっているのである。別の角度で言うと、宅配業者に支払われる配送料金の設定が、その業務負荷や潜在的コストに見合ったものになっていない、とも言える[11]

ドライバー不足[編集]

世界的なEC需要の伸びに対し小口配送(宅配)のインフラ整備が追い付いておらず、ただでさえ荷物の個数が増えたうえに細やかなサービスを提供するとなると以前よりも大量の配達員が必要になってしまうが、その必要に応えるためのドライバーは不足しており、高齢化も起きており、労働環境が悪化してしまう状況になっている[9]

日本では労働に従事できる年齢の人口は減少しているのに、近年では物流業界の労働環境が悪化している、という状況になると、物流業界に就職・転職する人がますます減ってしまう(人員不足の悪循環)[11]少子高齢化による労働人口減、それ以前に改正された道路交通法における中型免許制度の新設による影響や[13]、労働環境の悪さから7割の陸運企業で運転手が不足するなど[14]、配送ドライバー不足は深刻となっており[15][16][17][18][19]、2024年から時間外労働の上限が年間960時間に制限される働き方改革関連法が施行されることから運輸関係者から崩壊を危惧する声が挙がっている[20][21]

対策[編集]

再配達対策[編集]

北京市海淀区の住宅街に設置された顔認証式スマートロッカー

再配達対策としては、宅配ボックスの普及の推進[9]、コンビニエンスストアや駅などで荷物を受取とれるサービスの導入[9]、荷物受取のためのロッカー設置の推進[9](マンション、アパートなどの共同スペース、駅構内など)などがある。日本でも年間1.8億時間、人数にして9万人相当にあたる労働力が再配達に費やされており[22]、配送時の不在(再配達問題)を解決する取り組みが各種行われている[23]。近年ではAIと電力データを用いた在宅判定アルゴリズムを構築し、配送用アプリとして配達員に表示することで不在配送率を20%削減することに成功している[24]

国土交通省では物流DX化への対応などを進めている。

ドローン[編集]

アメリカではドローンを利用したドローン宅配便が発案され[25]中国では物流崩壊が起こったことでドローンのほかに無人搬送車(AGV)を使用した配送や倉庫の自動化[26]、スマートロッカーの設置などが国策として開始されている[27]。アマゾンやツァイニャオでは荷物を配達する手段として都市部などにスマートロッカーを設置しており、自動運転車による配送も一般的なオプションとなりつつある。中国やヨーロッパはこれを率先して行っており、ドイツ英国ポーランドがこれらのサービスの最初の市場となっている。

交通網におけるラストワンマイル[編集]

スペインの企業Hirikoが開発した折り畳み式の超小型モビリティ電気自動車。駅から目的地に移動する問題を解決するためドイツ鉄道の各駅に設置された[28]

「ラストワンマイル」はまた、交通結節点、特に鉄道駅、バス停、船着き場から最終目的地への移動の困難を指す。出発地点から交通網への移動に困難がある場合、この状況は代わりに「ファーストワンマイル問題」と呼ぶことがある[29]。これらの問題は、米国では職場や人が郊外、それもしばしば既存の公共交通機関まで歩いていける距離にない場所に移転するような土地利用形態である場所では特に深刻である。それ故、このような地域での輸送機関の利用は実用的でないことが多い。批評家はこのことがクルマ依存を進め、混雑、公害、スプロール現象を助長すると主張している[30][31]

公共交通におけるラストワンマイル問題の伝統的な解決法には、フィーダーバスの利用、自転車のためのインフラ、都市計画の修正が含まれる[30][32]。ラストワンマイル問題を軽減する他の方法として自転車シェアリング[29]カーシェアリング[33]個人用高速輸送システム(Pod Car)[34]、電動式ローラーシューズ(Motorized shoes)[35] などが提案されているが、採用具合は様々である。2015年末、フォード・モーターが「乗り物としての利用に堪える自立安定一輪車」の特許を取得した。これはラストワンマイルの通勤ソリューションを意図したものである[36]。しかしながら、自転車シェアリングはヨーロッパとアジアで広く成功を収めており、北米でも大規模に実施され始めている[37][38][39]。2017年末からマイクロモビリティサービスとなる電動キックスクーター(Dockless)[40]および電動アシスト自転車シェアリング[41]が市場に参入し、人気とシェアを獲得している。都市部の渋滞削減などの解決法としてモビリティ・アズ・ア・サービス(Mobility as a Service、移動のサービス化)という概念で移動手段を捉え、移動方法を変える手法である[9](乗り物というモノを購入してしまうのではなく、移動というサービスをもっと便利に利用できるようにする)。

ラストワンマイルの基盤テクノロジー[編集]

小売業者や製品メーカーに迅速な(当日や翌日の)配達をさせる需要も一端となり、それを技術的に可能にするラストワンマイルの基盤テクノロジーが登場している。ラストワンマイルの遂行を求める高い需要は、従来の荷物配達業から宅配便や請負業者を利用した「Uber配送」モデルを実施する即時サービス事業者に至るまでの、様々な種類の運送会社を管理するよう荷主に圧力をかけている。

配達の供給と荷主から生じた需要とを調整するマッチングは、ラストワンマイルの基盤テクノロジーの幾つかで取り組みがなされている課題である。これらの企業は、荷主と配送サービス事業者を繋ぐことで最終的な配達を容易にしている。これらラストワンマイルの基盤テクノロジーによって、荷主と受取人がリアルタイムのデータをやりとり可能になり、配達の遅れ、住所間違い、製品損傷といった異例な事案が発生した場合に管理者が直ちに対応できるようになっている。

Amazon社がラストワンマイルの物流能力を強化するにつれて、競合する小売業者は競争するためのラストワンマイル技術にこれまで以上に関心を寄せている。Amazonの脅威のため、大手輸送・物流会社の経営陣は代替戦略の模索を余儀なくされている。

脚注[編集]

  1. ^ Goodman, R W (December 2005). “Whatever You Call It, Just Don’t Think of Last-Mile Logistics, Last”. GLOBAL LOGISTICS & SUPPLY CHAIN STRATEGIES: 84-86. https://www.kn-portal.com/fileadmin/_public/documents/material/KNUCLRP_LastMile_Logistics.pdf. 
  2. ^ 5 Ways to Overcome Last Mile Delivery Challenges”. 2017年9月10日閲覧。
  3. ^ Scott, Martia (2009年11月). “Improving Freight Movement in Delaware Central Business Districts”. Institute for Public Administration, University of Delaware. 2011年10月24日閲覧。
  4. ^ Rodrigue, Jean-Paul; Claude Comtois; Brian Slack (2009). “The "Last Mile" in Freight Distribution”. The Geography of Transport Systems (2nd ed.). Routledge. p. 212. ISBN 978-0-415-48323-0 
  5. ^ Allen, Brigitte (2012) Improving freight efficiency within the ‘last mile’: A case study of Wellington’s Central Business District (Thesis, Master of Planning). University of Otago.
  6. ^ Balcik, Burcu; Benita M. Beamon; Karen Smilowitz (2009). “Last Mile Distribution in Humanitarian Relief”. Journal of Intelligent Transportation Systems (Taylor & Francis Group, LLC) 12 (2): 51–63. ISSN 1547-2442. https://ozyegin.academia.edu/BurcuBalcik/Papers/322500/Last_Mile_Distribution_In_Humanitarian_Relief 2011年10月24日閲覧。. 
  7. ^ 東日本大震災と物流…なぜ届かなかったのか?”. Response (2011年9月11日). 2021年3月21日閲覧。
  8. ^ インフラ復旧 危機対応の物語(1)ヤマト運輸”. Wedge Infinity (2011年5月20日). 2021年3月21日閲覧。
  9. ^ a b c d e f g h [1]
  10. ^ a b c d e KANTSU ラストワンマイルとは
  11. ^ a b c d 大和物流、ラストワンマイル
  12. ^ Jolly, Jennifer (2016年10月9日). “Protect your online purchases from 'porch pirates'”. USA Today. 2016年12月11日閲覧。
  13. ^ 運転者不足が深刻化 中型免許制度の影響”. 物流Weekly (2012年2月22日). 2022年5月26日閲覧。
  14. ^ 最近の物流政策について (PDF)”. 国土交通省 (2021年1月22日). 2022年2月20日閲覧。
  15. ^ 物流業界の現状と今後:一連のヤマト運輸報道から考える”. SmartDrive Fleet. 2021年3月27日閲覧。
  16. ^ ヤマト運輸の運賃値上げ…物流業界の再配達問題とは?”. excite ニュース (2017年3月11日). 2021年3月27日閲覧。
  17. ^ 物流の現状と課題 (PDF)”. 国土交通省 (2021年1月19日). 2021年3月31日閲覧。
  18. ^ 「10時間以上待機強いて対価支払わず」「料金はいまだ数十年前の水準」”. Logi-biz online (2022年5月25日). 2022年5月26日閲覧。
  19. ^ (令和4年5月25日)荷主と物流事業者との取引に関する調査結果について”. 公正取引委員会 (2022年5月25日). 2022年5月26日閲覧。
  20. ^ なぜ? ヤマト、JALと貨物専用機 背景に「物流の2024年問題」”. ITmedia (2022年1月21日). 2022年2月20日閲覧。
  21. ^ 【特集】崖っぷちの物流、迫り来る「2024年問題」”. 東洋経済 online (2022年5月24日). 2022年5月26日閲覧。
  22. ^ 「再配達がドライバーを苦しめる」は誤解?運送業界の課題の本質とは”. ビジネスIT (2019年4月26日). 2021年3月27日閲覧。
  23. ^ 「こうすれば宅配便の再配達は減る!」55人の関係者と消費者が考えた再配達削減策”. Impress (2018年4月3日). 2021年3月27日閲覧。
  24. ^ 不在配達20%減、佐川と東大など5者が実証”. Logistics Today (2021年3月26日). 2021年3月27日閲覧。
  25. ^ https://news.yahoo.com/alibaba-deploys-drones-deliver-tea-china-094423625.html
  26. ^ 中国郵政のスマート無人配達車、商用運行開始”. AFP (2019年9月10日). 2021年3月27日閲覧。
  27. ^ 物流を制するものが中国ECを制す――火花散る〝再配達ゼロ〟競争”. Wedge Infinity (2018年10月29日). 2021年3月27日閲覧。
  28. ^ Danny King (2012年12月21日). “Hiriko 'folding' EV will be produced for German car-sharing project next year”. Autoblog Green. 2012年12月21日閲覧。[リンク切れ]
  29. ^ a b Using Bicycles for the First and Last Mile of a Commute”. Mineta Transportation Institute (2009年9月). 2011年10月24日閲覧。
  30. ^ a b In Focus: The Last Mile and Transit Ridership”. Institute for Local Government (2011年1月). 2018年10月6日閲覧。
  31. ^ First steps toward livable communities”. Fast Lane. U.S. Department of Transportation (2009年3月22日). 2011年10月24日閲覧。
  32. ^ FHWA grant funds East Coast's largest bike center; DC transport hub may crack the "last mile" problem”. Fast Lane. U.S. Department of Transportation (2009年10月5日). 2011年10月24日閲覧。
  33. ^ Kuang, Cliff (2009年4月16日). “Convenience Is King”. GOOD Magazine. 2011年10月24日閲覧。
  34. ^ Zax, David (2011年8月17日). “Can Driverless Pod Cars Solve the 'Last-Mile Problem'?”. Technology Review. Massachusetts Institute of Technology. 2011年10月24日閲覧。
  35. ^ Yvkoff, Liane (2010年7月15日). “Are motorized shoes the last-mile transport answer?”. CNet. 2011年10月24日閲覧。
  36. ^ Read, Richard (2015年12月29日). “Ford Patent Could Transform Your Car Into A Unicycle”. The Car Connection (Internet Brns Automotive Group). http://www.thecarconnection.com/news/1101614_ford-patent-could-transform-your-car-into-a-unicycle 2016年9月10日閲覧。 
  37. ^ DeMaio, Paul (2009). “Bike-sharing: History, Impacts, Models of Provision, and Future”. Journal of Public Transportation 12 (4): 41–56. http://www.nctr.usf.edu/jpt/pdf/JPT12-4DeMaio.pdf 2011年10月24日閲覧。. 
  38. ^ Shaheen, Susan; Guzman, S., and H. Zhang (2010). “Bikesharing in Europe, the Americas, and Asia: Past, Present, and Future”. Transportation Research Record: Journal of the Transportation Research. オリジナルの10 June 2012時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20120610155608/http://76.12.4.249/artman2/uploads/1/Bikesharing_in_Europe__the_Americas__and_Asia.pdf. CS1 maint: Multiple names: authors list (link)
  39. ^ Shaheen, Susan; Stacey Guzman (2011). “Worldwide Bikesharing”. Access Magazine. オリジナルの26 March 2012時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20120326063609/http://www.uctc.net/access/39/access39_bikesharing.shtml. 
  40. ^ Raphelson, Samantha (2018年8月29日). “Dockless Scooters Gain Popularity And Scorn Across The U.S.” (英語). NPR.org. https://www.npr.org/2018/08/29/643058414/dockless-scooters-gain-popularity-and-scorn-across-the-u-s 2018年9月16日閲覧。 
  41. ^ Greenfield, John (2018年9月11日). “Jump’s Cheaper, Dockless Electric Rides Seem to Be Winning Over Far-South-Siders” (英語). Streetsblog Chicago. https://chi.streetsblog.org/2018/09/11/jumps-cheaper-dockless-electric-rides-seem-to-be-winning-over-far-south-siders/ 2018年9月16日閲覧。 

関連項目[編集]