マジックマッシュルーム

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マジックマッシュルーム(シロシベ・メキシカーナ)メキシコ、ハリスコ州

マジックマッシュルーム(Magic mushroom, Psychedelic mushroom, Psilocybe mushroom, Psilocybin mushroom)は、幻覚剤であるトリプタミン系のアルカロイドシロシビンシロシンを含んだ、菌類キノコ。200以上の種が存在し、世界中の様々な場所で自生している。毒キノコだが、その毒は主に幻覚作用であり、重症や死亡はまずない[1]

もともとは、古代メキシコなどでシャーマンが神託を得るために食べるものであった。アステカ族テオナナカトルと呼び、神聖なる物として扱っていた[2]。日本では1931年に菌類分類学者の川村清一の著書『食菌と毒菌』にて逸話が掲載されている。1950年代になると、アメリカの菌類研究者のロバート・ゴードン・ワッソンらの実地調査によって西洋においてキノコの存在が明らかにされ、1959年ごろアルバート・ホフマンが幻覚成分を特定し、成分にシロシビンとシロシンと名をつけた。栽培されるなどしてLSDなどと共に「サイケ」の原動力となった。

欧州でも合法であったり、抜け道があったり規制は様々である[3]。日本では2002年より規制されている。

歴史[編集]

紀元前からあるとみられるキノコ石。グアマテラやサルバドール、メキシコの山岳地帯にて発見されている[4]。12世紀過ぎにはキノコに宗教的、儀式的な要素が加わってキノコが用いられれるようになった[4]
乾燥マジックマッシュルーム(シロシベ・クベンシス)。シロシンやシロシビンが酸化により青紫に変色する。

メソアメリカ先住民は、先コロンブス時代から数世紀にわたり、マジックマッシュルームを宗教儀式や病気の治療などに用いてきた。グアテマラのマヤ遺跡では、キノコの形をした小型石像がいくつも発掘されている。14-16世紀に栄えたアステカ王国では、ナワトル語で「神の肉」を意味する「テオナナカトル」と呼ばれ、キノコを食べる先住民の姿などが描かれた写本 (Magliabechiano Codex) も残っている。またアステカの花の神ショチピリ像には、幻覚キノコや幻覚性植物の彫刻が身体にほどこされている。スペインによる征服とカトリック布教に伴い、幻覚キノコや植物の使用は弾圧されたが、人里離れた地域では現在でも用いられている。

16世紀のスペインの歴史家などによって、儀式で用いられていることが紹介され、ほどなくしてスペインに持ち込まれ、フランシス修道会の修道士ベルナンディーノ・デ・サハガンの当時の史書『最新スペイン事情の歴史的総論』にて、商人が祝賀会で祝う時にキノコを用いたことが記載されている[4]

日本では、『今昔物語』の28巻28話は「女たちが山に入りて舞茸を食う話」(尼共入山食茸舞語)であり、山で道に迷った女の人たちがお腹をすかせて見つけたキノコを食べたところ、踊りたくてしょうがなくなったという逸話があるが、当時の舞茸でもそんなことは起こらないと記している。この物語は、近年の菌類学にてワライタケのことだとして言及されている。1931年には、菌類分類学者の川村清一の著書『食菌と毒菌』にて、1917年の石川県における玉田十太郎とその妻の逸話が掲載されており、採取したキノコを調理して食べたところ、妻が裸で三味線を弾きだしたということである。

古い古代史にはこのキノコについて記載されておらず、想像だとみなされていた[4]。1915年にはアメリカの植物学者のW・E・サフォードが植物学会で発表し、その元となったスペインの年代記の作者がメスカリンを含んだサボテンだと思っていたという誤解もあったが、その謎に挑んだことに大きな意味がある[4]

1938年、テナナナカトルの正体についての著作が出版された。著者の2人は、趣味で植物標本を集めていたオーストリアのレコ医師とハーバード大学の民族植物学リチャード・エヴァンズ・シュルテス英語版の2人は、当時の植物学では実態がはっきりしていなかった「テオナナカトル」を特定するためメキシコに赴き、オアハカ周辺に住むマサテコ族と交流、数種類の標本を手に入れる。

第二次世界大戦にて研究が一時中断した[4]。1955年、銀行の副頭取だったゴードン・ワッソンは、シュルテスが発表した論文を読んで興味を持ち、メキシコのマサテコ族のマジックマッシュルームを用いた治療儀式に白人として初めて参加した。LSDを合成、発見したスイスのサンド社の化学者アルバート・ホフマンは、幻覚を生じさせるサボテン以外にそうした植物は知らなかったため、ワッソンに関する新聞記事を読んで興味を持っていたが詳細がわからなかった[4]。翌年の訪問に同行したフランスの菌学者ロジェ・エイムは、が勤めるパリのサンド社を介してメキシコのキノコの化学的研究を行ってくれるかという問い合わせが来てホフマンが研究を開始することとなった[4]

ホフマンは幻覚成分の特定、抽出に成功し、2種類の分子構造をシロシビンとシロシンと名付けた。サンド社はシロシビンの錠剤商品「インドシビン」を製造。ワッソンの発見は、1957年にアメリカの雑誌『ライフ』誌にて『魔法のきのこを求めて』(Seeking the Magic Mushrooms)として掲載される。「マジックマッシュルーム」という用語は、『ライフ』の編集者が考えたものであった。

1960年代にはハーバード大学で大規模なシロシビン実験が行われる。1960年にメキシコでマジックマッシュルームを食べた心理学教授のティモシー・リアリーは、神秘体験をして衝撃を受け、オルダス・ハクスリーやリチャード・アルパートらと共に研究を開始。刑務所の囚人での研究や、400人ものハーバード学生らにシロシビンの錠剤を投与した結果、前向きな変化が現れることを確認。神学校の学生に投与した研究では、10人中9人が本物の宗教的な体験をしたと報告した。

1970年代に入ると、LSDの規制に伴いナチュラルな幻覚剤の人気が上昇する。マジックマッシュルームが登場するカルロス・カスタネダの『呪術師と私―ドン・ファンの教え英語版』や、テレンス・マッケナ、デニス・マッケナ兄弟による、『マジックマッシュルーム栽培ガイド』が出版され、『ハイ・タイムズ』などのカウンターカルチャー雑誌は、自宅でマジックマッシュルームを簡単に栽培するための菌糸や栽培キットの販売を行うようになった。

アメリカのテルユライド地域(Telluride)では、こうしたキノコ祭典であるテルユライド・マッシュルーム・フェスティバルが毎年開催されている[5]

日本では、露店でも「観賞用」と称して構わず販売されていたが、2001年に俳優の伊藤英明が摂取して警察が出動する騒ぎを起こすなど社会問題化したため、2002年に規制された。

第3次小泉内閣時の2005年10月に、首相官邸の植栽にヒカゲシビレタケが生えているのが発見された[注 1]。胞子はどこかから飛んで来たか、持ち込んだ土に含まれていたと考えられる。ちなみに、ヒカゲシビレタケの菌は日本に自生している。よって、このような場所での発生が確認されること自体は特に不自然なことではない。

2010年代に入りシロシビンによる心理療法の研究から、マジックマッシュルームに期待を込めて言及されることがある[6]

種類[編集]

マジックマッシュルームの多くは、シビレタケ属やヒカゲタケ属に属する。多くの種が存在し、その大きさや形態、生育地、シロシビン含有率は様々である。高熱や圧迫感などを受けると表面に青色をおびる種が多い。

代表的なマジックマッシュルーム

ミナミシビレタケ Psilocybe cubensis(熱帯、亜熱帯地方で、雨期に動物の糞上に発生する。成長が早く、最長15-30cmの高さになる)
シロシベ・キアネセンス Psilocybe cyanescens(最もシロシビン含有率が高い。大きなカサを持つ6-8cm程度のキノコ。硬材に発生)
ワライタケ Panaeolus papilionaceus
ヒカゲシビレタケ Psilocybe argentipes
アイゾメシバフタケ Psilocybe subcaerulipes
センボンサイギョウガサ Panaeolus subbalteatus

作用[編集]

こうしたキノコには、催幻覚性のシロシンシロシビンが0.03-1.5%の濃度で含有され、熱にも安定しているため破壊除去されないため、調理して摂取されることもある[1]。発作などの重症はきわめてまれで、死亡例もほとんどない[1]

  • 肉体的作用
脱力感、悪寒、瞳孔拡散、嘔気、腹痛などが挙げられる。一般的には、嘔気、腹痛、悪寒は摂取後より1時間ほどで収まる。脱力感は使用時の状況により感じない場合も多いが、多量摂取時には多くの場合それを感じる。
  • 知覚的作用
視覚の歪み、色彩の鮮明化(瞳孔拡散に起因する場合もある)、皮膚感覚の鋭敏化、聴覚の歪みなどが挙げられる。閉眼時にも視覚的な認識があり、何らかの模様や色彩的な変化を感じる。LSDの知覚的作用に良く似ているが、一般的に視覚的な変化はLSDを上回る。
  • 感情的作用
感情の波が激しくなり、摂取者の経験に因る部分もあるが自身での感情のコントロールが難しく、偏執に捕らわれることも多い。基本的には多幸感が伴うが、感情の波がネガティブな方向に向かってしまう薬物経験(いわゆるバッド・トリップ)になるとパニック症状を起こしたり、ネガティブな偏執に捕らわれたりする。効果が消えてからも、摂取経験からくる何らかの偏執に捕らわれることもある。

摂取より1時間ほどで効果が現れ、5時間から6時間ほど持続する。ほかの薬物摂取と同様に摂取時の周りの環境や自分自身の精神状態(セットとセッティング)の良、不良により、経験する内容も大きく変わる。

作用としては、LSDと区別できない。

身体依存はないが、大麻と同程度の精神依存がある[1]。(なおアメリカ国立薬物乱用研究所(NIDA)の評価では、大麻はカフェインより低い依存性である[7]

法規制[編集]

成分のシロシビンとシロシンは、1971年の向精神薬に関する条約にて最も厳しいスケジュールIに指定されている。その延長で、シロシビンを含有するキノコについての規制は、国の法律により様々である。シロシビン、シロシンを含んでいない胞子に関してはさらに曖昧になっている。

日本
日本ではシロシンおよびシロシビンを含有するキノコを、「麻薬、麻薬原料植物、向精神薬及び麻薬向精神薬原料を指定する政令[8]の第2条で麻薬原料植物として規制対象にしている。
麻薬及び向精神薬取締法では厚生労働大臣の許可なく栽培することが禁じられており、同時に同法では麻薬成分を自然に含む植物を麻薬として扱わない規定が、麻薬原料植物の指定を受けて適用されなくなる。許可なく「輸入し、輸出し、製造し、製剤し、小分けし、譲り渡し、譲り受け、交付し、施用し、所持し、又は廃棄してはならない」と定められ、違反すれば罰せられる。
1990年代より、サブカルチャー向け雑誌等で脱法ドラッグの一種として紹介されていた。当時は栽培等を規制する法律がなく、またヒカゲタケ属などに属する腐生菌が多いため栽培も容易であり、野放し状態であった。薬として、また食品として販売することはそれぞれ薬事法、食品衛生法に触れるため、「観賞用」等の名目で販売されることが多かった。雑誌の通販などでほそぼそと販売されていたが、インターネットの普及でより広範に販売されるようになった。
2001年には、有名俳優がマジックマッシュルームを摂取して入院するという騒動が発生、社会問題化しつつあった。その際に、販売者は摂取した人の体験談を掲載し「このような症状に陥るため、間違っても食べないようにしてください」と、危険性を訴えているかのように見える表現をしながら、興味を煽るような態度をとった。マジックマッシュルームを摂取すると、人によっては重篤な精神異常が現れて治療が必要になる例も見受けられた。
2002年6月6日に施行された「麻薬、麻薬原料植物、向精神薬及び麻薬向精神薬原料を指定する政令」(※公布は5月7日)により麻薬原料植物に指定され非合法化された(この時点では、シロシビン及びシロシンの抽出のみを禁止していた)。しかし、日本国内に自生している種をいくつも含むため、そのような種は人里や山野に自生しているものを容易に観察することができる。一方、キノコの研究者の間からは、
  1. 調査研究用に、自然に生えているものの標本や胞子紋を採集することも不可能になること
  2. ベニテングタケなどのイボテン酸を含むキノコは規制対象になっていないこと
の2点を疑問視する声もある。
現在では、麻薬取扱者のうち麻薬研究者免許の所持者のみがキノコの標本および胞子紋などを取り扱うことができ、彼らは厳重に管理することが義務付けられている。

欧州では、スペインとチェコでは完全に合法である[3]

オランダ
2001年に乾燥マジックマッシュルームの所持、使用が違法化されたが、加工されていない生のマジックマッシュルームは合法のままであった。2007年、オランダ政府は、旅行者などによる事故による、マジックマッシュルームの所持や栽培の違法化を検討し、2008年にマジックマッシュルームの生産と販売を禁止した。代わって、マジック・トリュフが合法的に販売されている[3]
イギリス
2005年に販売が違法となる。(自生するため)新鮮なキノコについてはいまだ合法である[9]。店頭では新鮮なマジックマッシュルームが販売されている[6]
チェコ共和国
胞子は幻覚成分を含まないため合法。2010年に麻薬取締法が緩やかになり、マジックマッシュルーム(40本以下)の所持・栽培が軽罪として罰金を課されるのみになった。
オーストリア
2016年に非犯罪化された。販売は違法である。
アメリカ、カナダ
一部の州では、胞子の所持に限り合法。

注釈[編集]

  1. ^ 正確には、内閣総理大臣官邸玄関脇にあるシラカシに、マジックマッシュルーム数本が発生しているのが発見された。詳しくは、ヒカゲシビレタケを参照。

出典[編集]

  1. ^ a b c d 上條吉人 『臨床中毒学』 相馬一亥(監修)、医学書院、2009年10月、233-236頁。ISBN 978-4260008822
  2. ^ G.C.エインズワース、小川眞訳 『キノコ・カビの研究史』京都大学学術出版会、2010年10月20日発行、ISBN978-4-87698-935-5。p.202.
  3. ^ a b c Tom Mulvihill (2015年6月2日). “Eight things you didn't know about magic mushrooms”. Telegraph. http://www.telegraph.co.uk/gardening/grow-to-eat/eight-things-you-didnt-know-about-magic-mushrooms/ 2017年4月12日閲覧。 
  4. ^ a b c d e f g h A.ホッフマン 『LSD-幻想世界への旅』 (監訳)福屋武人、(翻訳)堀正、榎本博明訳、新曜社、1984年 LSD-MEIN SORGENKIND, 1979.
  5. ^ ユージニア・ボーン 「第10章 マジックマッシュルームの誘惑」『マイコフィリア―きのこ愛好症―知られざるキノコの不思議世界』 (監修)吹春俊光、(翻訳)佐藤幸治、田中涼子訳、パイインターナショナル、2016年ISBN 978-4-7562-4405-5
  6. ^ a b Malcolm Ritter (2016年12月1日). “Magic mushrooms may ease anxiety and depression in cancer patients, studies find”. Independent. 2017年4月12日閲覧。
  7. ^ Relative Addictiveness of Drugs, 1994.
  8. ^ 麻薬、麻薬原料植物、向精神薬及び麻薬向精神薬原料を指定する政令 (法令データ提供システム)
  9. ^ Robert Dickins (2010年8月19日). “A UK Magic Mushroom Flashback”. Psychedelic Press UK. http://psypressuk.com/2010/08/29/a-uk-magic-mushroom-flashback/ 2017年4月12日閲覧。 

参考文献[編集]

  • 長沢栄史『日本の毒きのこ』 ISBN 4054018823
  • Stafford, Peter. Psychedelics Encyclopedia, Third Expanded Edition. Ronin Publishing, Inc., 1992

関連項目[編集]