マーシュ礼拝堂の実験

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バラ窓、ボストン大学のマーシュ礼拝堂の祭壇の上にある。

マーシュ礼拝堂の実験 (Marsh Chapel Experiment) は、ボストン大学マーシュ礼拝堂英語版にて1962年の聖金曜日、すなわち4月20日に行われた実験である。聖金曜日の実験 (Good Friday Experiment) とも呼ばれる。

ハーバード神学校英語版の神学の大学院生であったウォルター・パンケ英語版は、ハーバード・シロシビン計画ティモシー・リアリーの監督のもとで実験を計画した。[1]パンケによる実験はシロシビンマジックマッシュルームの成分)が、信頼できるエンセオジェン(神聖さを強調する幻覚剤の呼び方)として作用するかを、信心深い被験者で調査した[2]

実験[編集]

聖金曜日に向けて、ボストン地区の神学院生のボランティアは、無作為に2つのグループに分けられた。二重盲検法にて、半分にはシロシビンが、対照群は高用量のナイアシンが与えられた。ナイアシンには生理学的な作用があり、活性プラセボとして用いられた。ナイアシンを受け取った一部は、当初は向精神薬だと考えた。[3]:5 しかし、ナイアシンによる顔面紅潮の感覚は約1時間後におさまった。一方で、シロシビンの効果は最初の数時間で増大した。

実験グループの参加者の大半は、幻覚剤が宗教体験を促すという見解を実験的に裏付ける、深遠な宗教体験を報告した。比較宗教学の教科書の著者であるヒューストン・スミス英語版も参加しており、後に彼の体験について、体験したことのない、最も強力な宇宙的な回帰であったことを述べた[4]

ドブリンによる継続調査[編集]

実験から25年後、シロシビンを受け取った参加者はその体験について、真の神秘的な性質があり、スピリチュアルな生活の要点だと位置づけた[3]:13。幻覚剤の研究者であるリック・ドブリンによれば、パンケの研究には二重盲検の手順に誤りがあり、神秘体験についての質問票にも不明確な質問があった。それでもドブリンは、パンケの研究は、薬物による神秘体験が薬物によらない神秘体験に劣るという主張に疑問を投じていると述べた。[3]:24 同様の感想を、臨床心理学者のウィリアム・A・リチャーズが2007年に述べており、彼によれば、(マジック)マッシュルームが似たような啓示体験を引き起こすための技術のひとつになるが、同様でなくとも、脳内化学に自発的な変化が生じて起こるということである[5]

グリフィスの研究[編集]

2002年(出版は2006年)、ジョンズ・ホプキンズ大学のローランド・R・グリフィスによって、より厳しく制御したこの実験が実施され、同様の結果を得た[6]。14か月後に追跡され、参加者の過半数は人生において5つに入る重要なスピリチュアルな体験だと評価し、幸福と生活満足度を高める体験だとみなした[7]

関連項目[編集]

出典[編集]

  1. ^ Pahnke WN. (1966). “Drugs and mysticism”. International Journal of Parapsychology 8 (2): 295–315. http://www.erowid.org/entheogens/journals/entheogens_journal3.shtml. 
  2. ^ Pahnke, Walter Norman, Drugs and Mysticism: An Analysis of the Relationship between Psychedelic Drugs and the Mystical Consciousness. A thesis presented to the Committee on Higher Degrees in History and Philosophy of Religion, Harvard University, June 1963. See also MAPS collected commentary, reviews, and recordings of the sermon.
  3. ^ a b c Doblin R. (1991). “Pahnke's "Good Friday Experiment": a long-term follow-up and methodological critique” (PDF). Journal of Transpersonal Psychology 23 (1): 1–25. http://www.neurosoup.com/pdf/doblin_goodfriday_followup.pdf. 
  4. ^ Smith H. (2000). Cleansing the Doors of Perception: The Religious Significance of Entheogenic Plants and Chemicals. New York, New York: Jeremy P. Tarcher/Putnam. p. 101. ISBN 978-1-58542-034-6 
  5. ^ Richards WA. (2008). “The phenomenology and potential religious import of states of consciousness facilitated by psilocybin”. Archive for the Psychology of Religion 30 (1): 189–199. doi:10.1163/157361208X317196. 
  6. ^ “Psilocybin can occasion mystical-type experiences having substantial and sustained personal meaning and spiritual significance” (PDF). Psychopharmacology 187 (3): 268–83. (2006). doi:10.1007/s00213-006-0457-5. PMID 16826400. http://www.hopkinsmedicine.org/bin/s/m/GriffithsPsilocybin.pdf. 
  7. ^ “Mystical-type experiences occasioned by psilocybin mediate the attribution of personal meaning and spiritual significance 14 months later” (PDF). Journal of Psychopharmacology 22 (6): 621–32. (2008). doi:10.1177/0269881108094300. PMC 3050654. PMID 18593735. http://www.csp.org/psilocybin/Hopkins-CSP-Psilocybin2008.pdf. 

参考文献[編集]

  • Roberts, T. B. (editor) (2001). Psychoactive Sacramentals: Essays on Entheogens and Religion. San Francosco: Council on Spiritual Practices.
  • Roberts, T. B., and Hruby, P. J. (1995-2002). Religion and Psychoactive Sacraments An Entheogen Chrestomathy. Online archive. [1]
  • Roberts, T. B. "Chemical Input—Religious Output: Entheogens." Chapter 10 in Where God and Science Meet: Vol. 3: The Psychology of Religious Experience Robert McNamara (editor)(2006). Westport, CT: Praeger/Greenwood.

外部リンク[編集]