フランケンシュタインの怪物

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フランケンシュタインの怪物
フランケンシュタインのキャラクター
Frontispiece to Frankenstein 1831.jpg
1831年版『フランケンシュタイン』の挿絵
初登場 フランケンシュタイン』(1818年)
作者 メアリー・シェリー
#俳優リスト参照
詳細情報
別名 フランケンシュタイン、クリーチャー、アダム、惨めな者
性別 男性
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フランケンシュタインの怪物(Frankenstein's monster)は、メアリー・シェリーの小説『フランケンシュタイン』に登場する怪物[1]。名前のない怪物は創造者であるヴィクター・フランケンシュタインに由来して「フランケンシュタイン」と呼ばれることが一般的である。

怪物は化学錬金術を複合したヴィクターによって創造され、外見は8フィート(2.4メートル)、醜い姿だが感情豊かな存在として描写されている。ジョゼフ・キャロル英語版は怪物の存在について、「主人公と敵対者を定義付けるための境界線」と表現している[2]

作中の活躍[編集]

1922年版『フランケンシュタイン』の挿絵

生命の創造に魅了された学生ヴィクター・フランケンシュタインは、盗み出した死体を使い独自の方法で「理想の人間」を創造する。しかし、怪物の醜い容貌に絶望したヴィクターは研究所を放棄する。取り残された怪物は山の中を彷徨い、途中で人間の言葉を理解するようになり、教養を身に付けていく。怪物は盲目の老人の元で人間性を学ぶが、彼の家族に見付かり、その姿に恐怖を感じた彼らによって追い出されてしまう。追い出された怪物は川で溺れる少女を助けるが、少女を襲っていると間違われ銃で撃たれてしまう。怪物は研究所に戻り、そこでヴィクターの名前が書かれたジャケットを見付け、彼を探しに向かう。

怪物はヴィクターの弟ウィリアムを殺した後、ヴィクターに接触して「自分の伴侶を創造して欲しい。願いを叶えてくれれば姿を消し、二度と人間の前には現れない」と依頼する。ヴィクターは依頼を引き受けたものの、怪物の増加を恐れて創造を放棄してしまう。怪物は報復としてヴィクターの婚約者エリザベスや友人ヘンリーを殺し、訃報を聞いたヴィクターの父はショック死する。ヴィクターは復讐のために怪物を追い求めて北極圏に向かい、そこで海に転落して深刻な肺炎にかかってしまう。探検隊のウォルトンに救助されたヴィクターは全てを語り息を引き取り、船に乗り込んできた怪物はヴィクターの遺体を前に絶望する。怪物は自ら命を絶つことをウォルトンに告げ、北極点に向かい姿を消す。

設定[編集]

名無しの怪物[編集]

トーマス・クークの怪物

シェリーは小説の中で怪物の名前を設定しておらず、怪物はヴィクターとの会話の中で自らを「あなたの労働者アダム」と呼んでいる。これに対して、ヴィクターは怪物を「クリーチャー」「悪霊」「幽霊」「悪魔」「惨めな者」「悪魔」「物」「存在」「オーガ」などと呼んでいる[3]。一般的な通称である「フランケンシュタイン」「怪物」といった呼び方は、小説の中では登場しない[4]

『フランケンシュタイン』は、初版発行から数十年の間にロンドンパリなどの舞台で演劇の題材になっていった。1823年には小説の初舞台作品をシェリー自身が観賞しており、「演者リストにある「 ________:トーマス・クーク英語版」の表記は、私をとても興奮させてくれました」「名前のない名前という表記方法は、とても良いものです」と友人のライト・ハント英語版に手紙を書いている[5]

小説の出版から10年以内の間に、怪物をヴィクターの名前を借りて「フランケンシュタイン」と表現することはしばしば見られたが、定着するほどの頻度ではなかった。小説は1927年にペギー・ウェブリング英語版によって舞台化され[6]、この舞台ではヴィクターが怪物に名前を与えている。しかし、ウェブリングの舞台を踏襲したユニバーサル映画の作品では、ボリス・カーロフ演じる怪物は再び「名無しの怪物」に戻った[7]。1931年公開の『フランケンシュタイン』では小説同様に怪物を扱い、オープニング・クレジットでは「The Monster」と表記している(演者カーロフの名前も伏せられ、エンド・クレジットで表記されている)[8]。しかし、ユニバーサル映画の公開以降、怪物は「フランケンシュタイン」と呼ばれることが一般化していった。この呼び方について誤りだという指摘があるが、「フランケンシュタインという呼び方は既に確立されたものであり、誤用ではない」という反論もある[9][10]

容貌[編集]

小説の描写に基いた怪物のメイクアップ

シェリーは怪物の容貌について、「身長8フィート、薄く光る眼、黒っぽい髪と唇、目立つ白い歯、醜い外見で半透明の黄色い肌をしており、動脈と筋肉の動きはほとんど見えない」と表現している。怪物の姿は1831年版の小説の挿絵に描かれ、その際は青い肌をしており、19世紀の間は容貌に大きな変化は見られなかった。

大衆文化における怪物のイメージが確立したのは、ユニバーサルの『フランケンシュタイン』における怪物の姿である[11]。この「四角い頭部、全身に縫い目がある身体、首からボルトが突き出ている」というデザインは、監督のジェイムズ・ホエールの指示に基づき、メイクアップアーティストジャック・ピアース英語版が施したメイクである。ユニバーサル映画で、カーロフに続き怪物を演じたロン・チェイニー・ジュニアベラ・ルゴシグレン・ストレンジ英語版も彼の怪物を踏襲した姿で演じている。この容貌は、ハルクにも影響を与えている[12]

ユニバーサルのイメージ以外の姿も見られ、『真説フランケンシュタイン』では怪物は元々美男子だったが実験の過程で醜い容貌に変化したという描写がされており、1994年公開の『フランケンシュタイン』では白髪で血まみれの縫い目という描写となっている。『ヴァン・ヘルシング』ではカーロフの演じた怪物のイメージを踏襲しているが、知的で非暴力的な心優しい存在として描かれている。2004年公開の『フランケンシュタイン』と2014年のテレビシリーズ『ナイトメア〜血塗られた秘密〜』では小説の描写に近い教養のある怪物として描かれている。

人格[編集]

一般的なイメージとして定着したボリス・カーロフの怪物

シェリーは怪物を感情豊かな人格として描いており、怪物は自分と同じ存在と人生を分かち合うことを目的としている。その存在は『失楽園』『対比列伝』『若きウェルテルの悩み』と共通している。怪物は人間社会へ適合しようと努力するが、出会う全ての人間に拒絶されて絶望する。怪物は創造者であるヴィクターすら自分を拒絶する存在であるということを、作中で「一つの手が伸びてきて私を捕らえようとした。しかし、私はそれから逃げた」と表現している[13]:Ch.5。怪物は自らを愛する者を見付けることを願うようになるが、それを拒否されたことでヴィクターに復讐心を抱くようになる。

後年の映画作品とは異なり、小説の怪物は雄弁に言葉を話している。怪物は誕生から11か月間でドイツ語とフランス語を理解するようになり、終盤までの間に英語も話せるようになる。1931年公開の『フランケンシュタイン』では発話障害を思わせる描写がされているが、これは創造の際に犯罪者の異常な脳を移植したためという設定になっている。続編である『フランケンシュタインの花嫁』ではたどたどしい形であるが言葉を話せるようになったが、『フランケンシュタインの復活』では再び言葉が話せなくなっている。『フランケンシュタインの幽霊』では怪物の身体にせむし男イゴールの脳を移植したため、彼の人格を身に付けて行動した。『フランケンシュタインと狼男英語版』でも会話ができる設定だったが、公開前に会話ができない設定に変更された。

メタファーとしての怪物[編集]

アイルランド国立蝋人形博物館英語版に展示されている怪物の蝋人形

研究者は小説を読み解く中で、怪物を「母親のいない子供」のメタファーであると捉えた。これは、作者シェリーの母親が彼女を出産後に死去したことが影響していると推測している[14]。また、抑圧された階層のメタファーとも考えられ、シェリーは怪物を「莫大な富と貧弱な貧困の分裂」と認識していたという[14]。この他に、「制御不可能なテクノロジーの悲劇的な末路」という捉え方もされている[15]

創造者であるヴィクターについては、「現代のプロメーテウス」とも呼ばれたベンジャミン・フランクリンをイメージしたと言われている。この説によると、ヴィクターが創造した怪物は「フランクリンが創造に関わった新国家=アメリカ合衆国」を意味するという[16]。シェリーは怪物創造の実験で「縄と糸を用いて凧を作り、雲から雷を抜き取った」という描写をしており、これはフランクリンの凧の実験を意図して書かれたものだと指摘されている[16]

俳優リスト[編集]

チャールズ・オーグルの怪物
グレン・ストレンジの怪物
クリストファー・リーの怪物
ドン・メゴワンの怪物
フレッド・グウィンの怪物(正確にはハーマン・マンスター英語版。二人ともグウィンが演じている)
俳優 公開年 作品名
トーマス・クーク英語版 1823年 Presumption; or, the Fate of Frankenstein英語版
チャールズ・オーグル英語版 1910年 フランケンシュタイン
パーシー・スタンディング英語版 1915年 Life Without Soul英語版
ウンベルト・グアラシーノ 1920年 The Monster of Frankenstein英語版
ボリス・カーロフ 1931年 フランケンシュタイン
1935年 フランケンシュタインの花嫁
1939年 フランケンシュタインの復活
デール・ヴァン・シッケル英語版 1941年 Hellzapoppin'英語版
ロン・チェイニー・ジュニア 1942年 フランケンシュタインの幽霊
ベラ・ルゴシ 1943年 フランケンシュタインと狼男英語版
グレン・ストレンジ英語版 1944年 フランケンシュタインの館英語版
1945年 ドラキュラとせむし女英語版
1948年 凸凹フランケンシュタインの巻英語版
ゲイリー・コンウェイ英語版 1957年 I Was a Teenage Frankenstein英語版
クリストファー・リー フランケンシュタインの逆襲
ゲイリー・コンウェイ 1958年 How to Make a Monster英語版
マイケル・グウィン英語版 フランケンシュタインの復讐
マイク・レーン英語版 Frankenstein 1970英語版
ハリー・ウィルソン英語版 Frankenstein's Daughter英語版
ドン・メゴワン英語版 Tales of Frankenstein英語版
キウィ・キングストン英語版 1964年 フランケンシュタインの怒り
フレッド・グウィン マンスターズ英語版
古畑弘二 1965年 フランケンシュタイン対地底怪獣
アレン・スウィフト英語版 1967年 Mad Monster Party?英語版
スーザン・デンバーグ フランケンシュタイン死美人の復讐英語版
デヴィッド・プラウズ 007 カジノロワイヤル
フレディ・ジョーンズ 1969年 フランケンシュタイン 恐怖の生体実験
デヴィッド・プラウズ 1970年 The Horror of Frankenstein英語版
ジョン・ブルーム 1971年 ドラキュラ対フランケンシュタイン英語版
アレン・スウィフト 1972年 Mad Mad Mad Monsters英語版
キロ・パパス Frankenstein 80英語版
ホセ・ビリャサンテ 1973年 ミツバチのささやき
マイケル・サラザン 真説フランケンシュタイン
シュルツァン・ゼレノビッチ 1974年 Andy Warhol's Frankenstein英語版
デヴィッド・プラウズ フランケンシュタインと地獄の怪物英語版
ピーター・ボイル ヤング・フランケンシュタイン
ピア・オスカーソン英語版 1976年 Terror of Frankenstein
クランシー・ブラウン 1985年 ブライド英語版
トム・ヌーナン 1987年 ドラキュリアン英語版
クリス・サランドン Frankenstein(テレビ映画)
ジム・カミングス 1988年 Scooby-Doo! and the Reluctant Werewolf英語版
ニック・ブライムブル英語版 1990年 Frankenstein Unbound英語版
ランディ・クエイド 1992年 フランケンシュタイン英語版
ロバート・デ・ニーロ 1994年 フランケンシュタイン
フランク・ウェルカー ページマスター
ディラン・マクビー英語版 1995年 Monster Mash: The Movie英語版
ピーター・クロンビー英語版 1997年 House of Frankenstein英語版
フランク・ウェルカー 1999年 Alvin and the Chipmunks Meet Frankenstein英語版
シュラー・ヘンズリー英語版 2004年 ヴァン・ヘルシング
ルーク・ゴス フランケンシュタイン
ヴァンサン・ペレーズ フランケンシュタイン英語版
ジュリアン・ブリーチ英語版 2007年 フランケンシュタイン英語版
シュラー・ヘンズリー ヤング・フランケンシュタイン英語版
スコット・アドシット 2010年 Mary Shelley's Frankenhole英語版
ベネディクト・カンバーバッチ 2011年 フランケンシュタイン英語版
ジョニー・リー・ミラー
トム・クルーガー Frankenstein: Day of the Beast英語版
ケヴィン・ジェームズ 2012年 モンスター・ホテル
ロジャー・モリシー 2013年 The Frankenstein Theory英語版
チャド・マイケル・コリンズ ワンス・アポン・ア・タイム
アーロン・エッカート 2014年 アイ・フランケンシュタイン
ロリー・キニア ナイトメア〜血塗られた秘密〜
ケヴィン・ジェームズ 2015年 モンスター・ホテル2
スペンサー・ワイルディング英語版 ヴィクター・フランケンシュタイン
ハビエル・バルデム 2019年 Bride of Frankenstein

出典[編集]

  1. ^ 'It's Alive'”. 2017年7月31日閲覧。
  2. ^ Caroll, Joseph et al. Graphing Jane Austen: The Evolutionary Basis of Literary Meaning, p. 30 (Palgrave Macmillan, 2012).
  3. ^ Baldick, Chris (1987). In Frankenstein's shadow: myth, monstrosity, and nineteenth-century writing. Oxford: Clarendon Press. ISBN 9780198117261. 0198117264. 
  4. ^ “10 Facts You Need To Know About Frankenstein (And His Monster)” (en-US). Screen Rant. (2015年11月27日). http://screenrant.com/best-facts-victor-frankenstein-monster-trivia-movies-books/ 2017年7月13日閲覧。 
  5. ^ Haggerty, George E. (1989). Gothic Fiction/Gothic Form. University Park: Pennsylvania State University Press. pp. 37. ISBN 9780271006451. 0271006455. http://knarf.english.upenn.edu/Articles/haggerty.html. 
  6. ^ Hitchcock, Susan Tyler (2007). Frankenstein: a cultural history. New York: W. W. Norton. ISBN 9780393061444. 0393061442. 
  7. ^ Young, William and Young, Nancy. The 1930s, p. 199 (Greenwood Publishing Group 2002).
  8. ^ Schor, Esther. The Cambridge Companion to Mary Shelley, p. 82 (Cambridge U. Press 2003).
  9. ^ Evans, Bergen (1962). Comfortable Words. Random House: New York. 
  10. ^ Garner, Bryan A. (1998). A dictionary of modern American usage. New York: Oxford University Press. ISBN 9780195078534. 0195078535. 
  11. ^ ザ・マミー/呪われた砂漠の王女 映画パンフレット』 東宝、2017年、9頁。
  12. ^ Weinstein, Simcha (2006). Up, Up, and Oy Vey!: how Jewish history, culture, and values shaped the comic book superhero. Baltimore, Maryland: Leviathan Press. pp. 82–97. ISBN 978-1-881927-32-7. 
  13. ^ Shelley, Mary Wollstonecraft. “Frankenstein, or the Modern Prometheus”. Project Gutenberg. 2012年11月3日閲覧。
  14. ^ a b Milner, Andrew. Literature, Culture and Society, 227, 230 (Psychology Press, 2005).
  15. ^ Coghill, Jeff. CliffsNotes on Shelley's Frankenstein, p. 30 (Houghton Mifflin Harcourt, 2011).
  16. ^ a b Young, Elizabeth. Black Frankenstein: The Making of an American Metaphor, p. 34 (NYU Press, 2008).