非常口

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非常口のピクトグラム
両用型タイプの 避難口 誘導灯

非常口(ひじょうぐち)とは、なんらかの非常事態が発生した場合に備えて設置された出口の事である。

概説

ビル地下街劇場ホテルなど不特定多数の人が集まる場所では、火災地震事故その他、なんらかの非常事態が発生した場合に、迅速かつ安全に退避する必要がある。そのために非常用出口と、最寄の非常口へ誘導する案内板、および緑色と白色で描かれた非常口の誘導灯が設置されている。

設置されているところとして、上記施設などのほか、構内・トンネル鉄道車両バス航空機などの乗り物にも設置されている。

非常口には、緊急時にのみ使用をすることを目的に作られた出口の他、恒常的に使用する出入口(正面玄関など)も指定される。緊急時のみに使用する非常口は、誤用を防ぐためや緊急通報と兼ねるため、非常ベルを押さなければ非常口が使えなかったり、開閉ハッチ自体が開けることで非常通報の代わりとなる機能を備えていることがある。

誘導灯のデザイン

日本では、非常口を示すピクトグラム消防法施行規則に基づいた消防庁告示「誘導灯及び誘導標識の基準」で定められている[1]。 これとのダブルスタンダードを回避するため、案内用図記号を定めたJIS Z 8210[2] や,安全標識を定めたJIS Z 9104[3] では規定されておらず、参考として記載されている。

ピクトグラムの周囲が緑地の標識と、白地の標識の2種類があり、緑地のものが「非常口そのもの」に設置される。

白地のものは廊下・通路に設けられるもので、「非常口がある方向」を示しているにすぎないため、すぐ近くに出口があるとは限らない。ピクトグラムが制定されたばかりの頃は、すべて(右矢印の場合でも)ピクトグラムの人型は左向きであったが、現在は非常口のある方向が直観的にわかるよう、ピクトグラムを左右反転させて、人型が非常口の方向に向かうように表示される。左右両側矢印の場合は人型は左向きである。(東西線大手町の連絡通路のように右向きの誘導灯も存在する)

設置から36年が経過している 明朝体タイプの 避難口 誘導灯

現在のピクトグラムが制定される前日である1982年3月31日以前に落成した建物では、「非常口」・「非常出口」・「非常階段」の文字のみの表記であったが、例外として、1980年(昭和55年)に南海電気鉄道難波駅に設置された非常口誘導灯には、現在使われているものと同じ(後に制定されることになる)ピクトグラムが使用されている。(この非常口誘導灯は2015年11月現在も使用されている。)

1972年千日デパート火災1973年の熊本の大洋デパート火災では、非常口誘導灯のサイズが小さかったために非常口の場所が火災による煙などで分からず、逃げまどう人たちで混乱した結果、とても多くの死傷者を出したため、消防法が改正された。 しかし、2つの火災事故を教訓に、非常口誘導灯の「サイズを大型化」・「フォントのサイズを大型化」などを行った結果、新たな問題が生まれてしまった。それは、大きな明朝体の文字は明朝体の特徴から、見るものに威圧感を与えたり、子供を怖がらさせてしまうなど、新たな問題が浮き彫りになってしまった。また、その場のイメージを壊してしまったり、病院などでは ( 誘導灯の大型化により ) 夜間に患者の安眠を妨げてしまったり、手術前の緊張を増大させたりといったことから、非常に不評であった。また、文字表記では、非常口誘導灯を大型化しても、文字盤が「薄い煙」の中で見えなくなってしまう欠点も見つかった。そのため、1982年の新ピクトグラム制定後は、急速にこの漢字表記は姿を消した(出典pdfファイル)。 「非常口」などの字体や英語表記の有無は誘導灯の製造会社間で統一はされていなかった。(字体は誘導灯製造会社により異なっていた。また、「非常口」・「非常出口」・「非常階段」のどれを使用するかや、英語表記の有無は、設置者が選択する方式であった。つまり種類がこれだけ多かった。)

誰にでもわかる標識を目指しデザインが1979年に公募され、およそ3300人の応募の中から図案評価実験等を経て小谷松敏文の作品が入選。太田幸夫による改良を経て1982年1月20日に消防庁告示、同年4月1日に国内で施行された。このピクトグラムは1987年に国際規格ISO 6309:1987(Fire protection--Safety signs)に組み込まれ、国際標準になった。ISO 7010:2003 (Graphical symbols -- Safety colors and safety signs -- Safety signs used in workplaces and public areas)にも規定されている。

1994年頃からは冷陰極蛍光灯を使用した小型の高輝度型(小型化に伴いピクトグラムのみのデザインとなった)が登場した後、2005年頃まで製造・販売された。現在は1999年頃から製造・販売が始まったLED光源のものが冷陰極蛍光灯の後継として、現在も製造・販売が行われいる。

世界的に実際に用いられているものは、デザインに若干の違いが見られ、ヨーロッパでは出口と人が分かれて描かれている。

アメリカ合衆国ではピクトグラムを用いず、白地に赤か緑で大きく「EXIT」という文字があるのみである。(en:Exit sign も参照してほしい)

LEDタイプの 避難口 誘導灯
台湾国内で使われている白地のピクトグラム

交通機関における非常口

旅客機

ボーイング767の非常口の例。客室部の先頭部分にはタイプA非常口、客室中央部にはタイプIII非常口が設置されている ボーイング737のタイプIII非常口(外側)
ボーイング767の非常口の例。客室部の先頭部分にはタイプA非常口、客室中央部にはタイプIII非常口が設置されている
ボーイング737のタイプIII非常口(外側)
ボーイング737のタイプIII非常口(内側)

旅客機では、アメリカ連邦航空局(FAA)および欧州共同航空当局(JAA)によって、不時着時の緊急脱出口を設置することが義務付けられている。非常時の脱出の際には、片側の非常口から90秒以内に乗客全員を脱出させなければならない。非常口の大きさは以下のように決められている[4]

  • タイプA(最小寸法幅106.7cm×高さ182.9cm)…ボーイング747から採用された。
  • タイプI(最小寸法幅61cm×高さ122cm)
  • タイプII(最小寸法幅50.8cm×高さ111.8cm)
  • タイプIII(最小寸法幅50.8cm×高さ91.4cm、機内の床から下辺まで50.8cm)…主翼の上
  • タイプVI(最小寸法幅48.3cm×高さ66cm、機内の床から下辺まで91.4cm)…主翼の上

タイプA、タイプIおよびタイプIIの非常口の内側には脱出用シュート(すべり台)が取り付けられており、非常時にドアを開けた場合、自動的に展開するようになっている。

航空機において、非常口の数と大きさは、航空機の最大定員にも影響する。例えば、ボーイング737において、-800型と-900型では全長が2.6mも異なるが、最大旅客定員は同じ189名となっている。これは、非常口の数と仕様が、-800型と-900型で変わらないことによるものである。つまり、飛行機の最大定員は、「90秒以内に脱出できる最大人数」ということになる。

非常口の数は運行に必要な客室乗務員(客室保安要員)の人数などにも関わってくる。例えば、ボーイング777-300で満席の際には、客室乗務員は10名乗務させることになる。これは、片側5箇所の非常口があり、通路が2本あるため、乗客の誘導に必要な人数として5×2=10名必要と算出されるからである。

船舶

船舶ではSOLAS条約において、脱出口についても定められている。

この条約によると、救命胴衣を着用した乗員・乗客が迅速に脱出できるように、十分な数の脱出口を備えなければならないことになっている。船舶内から脱出口までの順路には堅固な構造の足場やはしごを恒久的に固定していなければならない。また、各乗員・乗客に対しては、少なくとも2組の脱出経路を確保しなくてはならないことともされている。

バス

屋根上の非常口の例(黒い四角の部分)

バス車両は普通乗用車などと比較し車高が高く、構造上出入口が片側にしかない事に加え、変形した乗降扉を内側からこじ開けたり、窓ガラスを割って脱出しようとすると転落などの二次災害の原因にもなりかねないため、乗降用の扉とは反対側の側面または後部において脱出口を設置する必要がある。

欧州では、窓の寸法を大きめに設定し、非常時にはガラスをハンマーで破って脱出口とする例が一般的である。ガラスの中心を非常用ハンマーにより叩くと、ガラス全面が細かく破砕され脱出口となり、座席を踏み台として窓から車外へ脱出することになる[5]。この場合、ガラス破片が尖らないようにする必要があるため、強化ガラスを使用することになる。

一部の車種では、屋根上に脱出口がオプションで設置できるようになっており、換気口を兼ねた構造となっているものもある。

日本のバス車両の保安基準においては、幼児専用車と30人以上の定員を有する自動車においては、座席ごとに乗降口がある場合を除いて、必ず非常扉を設置しなくてはならない[6]。輸入車においても例外ではなかったが、近年の輸入車においては、実証試験を行なったうえで、先に記述した窓ガラスを脱出口として使用する仕様も認められるようになっている。バスの非常口表記も以前は窓ガラスに赤文字で「非常口」と記載してあったが(バス事業者により横書きと縦書きの違いも見られた)、現在はピクトグラムを使用している。

日本の基準に合わせたため車道側に非常口扉が設置されているネオプラン・セントロライナー 欧州の基準をそのまま適用したため非常口扉が車道側にないメルセデス・ベンツ・シターロ 非常口のドアを開けて座席を倒した状態(日野ブルーリボンシティハイブリッド)
日本の基準に合わせたため車道側に非常口扉が設置されているネオプラン・セントロライナー
欧州の基準をそのまま適用したため非常口扉が車道側にないメルセデス・ベンツ・シターロ
非常口のドアを開けて座席を倒した状態(日野ブルーリボンシティハイブリッド

鉄道

ICE車内に備えられている非常用ハンマーの例。赤い丸の部分をハンマーで叩くとガラスが破砕する アムトラックのスーパーライナー展望車。窓上部の赤く示された把手を引くと、窓枠を支えるゴムが外れ、窓ガラスを取り外せるようになっている。
ICE車内に備えられている非常用ハンマーの例。赤い丸の部分をハンマーで叩くとガラスが破砕する
アムトラックスーパーライナー展望車。窓上部の赤く示された把手を引くと、窓枠を支えるゴムが外れ、窓ガラスを取り外せるようになっている。
都営地下鉄12-000形電車の正面非常口を開放した様子。 階下普通車の乗客に非常口(1階窓の左隣にある、縦長のパッキン)を設置した小田急20000形。共通運用の371系にも同様の設備がある。
都営地下鉄12-000形電車の正面非常口を開放した様子。
階下普通車の乗客に非常口(1階窓の左隣にある、縦長のパッキン)を設置した小田急20000形。共通運用の371系にも同様の設備がある。

欧州では、バスと同様、窓の寸法を大きめに設定し、非常時にはガラスをハンマーで破って脱出口とする例が一般的である[7]

現代のアメリカの鉄道では、窓枠ごと外せるようになる形で非常口を備えている場合が多く、アムトラックや各地の通勤鉄道でみられる。アムトラックでは航空機のような避難の手引を客席に用意し、非常時に備えている。

日本の鉄道車両においては、普通鉄道構造規則により、乗降用の扉が少なく、非常の際に旅客の脱出に支障がある可能性がある場合は、非常口を設置することが義務付けられている。非常口のサイズは幅40cm以上、高さは120cm以上と定められており、外開き戸か引き戸のいずれかとされている。地下鉄の場合は、側方への退避が困難な場合が多いため、編成最前部と最後部の妻面に非常口が用意される。新幹線においては0系で採用されていたが、2000番台以降の後期の製造車では廃止され、他の形式も一切採用されていない[8]。また、前方から強い衝撃を受けた際に貫通扉が開いたり脱落することで、前面に大きな損傷を受けた際にも非常口としての機能を維持できる構造になっているものもある[9]

脚注

  1. ^ 誘導灯及び誘導標識の基準、第四の三の(二)、および別図第1。平成十一年三月十七日消防庁告示第二号、改正 平成一三年八月消防庁告示第三九号。
  2. ^ JIS Z 8210:2002、附属書表3 標準案内用図記号(安全)、p.31、日本工業標準調査会
  3. ^ JIS Z 9104:2005、附属書表2 ISO 7010 図記号集、p.12、日本工業標準調査会
  4. ^ 航空実用事典内「非常口ドア」の記述より。
  5. ^ 非常口に係る日本の基準と当該連節バスの非常口の仕様比較表の記載より。
  6. ^ 道路運送車両の保安基準第26条による。
  7. ^ 日本においても、20系客車などでハンマーが用意されていた。
  8. ^ 非常口がある0系は、鉄道博物館に保存されているのでそちらを参照されたい。
  9. ^ JR東日本701系電車近鉄5200系電車山陽電気鉄道5030系電車など。

関連項目

外部リンク

NPO法人サインセンター