日本工業標準調査会

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日本工業標準調査会(にほんこうぎょうひょうじゅんちょうさかい、英称:Japanese Industrial Standards Committee、略称:JISC)は、工業標準化法(昭和24年6月1日法律第185号)第3条第1項の規定により経済産業省に設置される審議会

概要[編集]

  • 業務
工業標準化法によりその権限に属させられた事項を調査審議するほか、工業標準化の促進に関し、関係各大臣の諮問に応じて答申し、又は関係各大臣に対し建議することができる(工業標準化法第3条第2項)。
  • 委員
調査会の委員は、30人以内で組織され、学識経験のある者のうちから、関係各大臣の推薦により、経済産業大臣が任命する。委員の任期は、2年である。会長は委員の互選により選出され、調査会の事務を総理する(工業標準化法第4条、第5条)
  • 臨時委員
特別の事項を調査審議するため必要があるときは、臨時委員を置くことができ、学識経験のある者のうちから、関係各大臣の推薦により、経済産業大臣が任命する。臨時委員は、当該特別の事項の調査審議が終了したときに退任する。(工業標準化法第6条)
  • 専門委員
調査会には、専門委員を置くことができ、会長の命を受け、専門の事項を調査する。専門委員は、会長の申出により、経済産業大臣が任命し、当該専門の事項の調査が終了したときは、退任する。(工業標準化法第8条)
  • 委員の手当および旅費
調査会の委員、臨時委員及び専門委員は、予算に定める金額の範囲内において、手当及び旅費が支給される(工業標準化法第8条)。
  • 国際標準化機関の加盟団体
国際標準化機構(ISO)に昭和27(1952)年[1]、国際電気標準会議(IEC)に昭和28(1953)年[2]に加入。平成21年度に、調査会が加盟するISOに148百万円を[3]IECに81百万円を[4]、それぞれ分担金として政府の一般会計から支出した。
  • 事務局
経済産業省産業技術環境局基準認証ユニット(基準認証政策課・工業標準調査室・基準認証振興室・基準認証広報室・産業基盤標準化推進室・環境生活標準化推進室・情報電子標準化推進室・認証課・管理システム標準化推進室・相互認証推進室・製品認証業務室・知的基盤課・計量行政室)[5]

平成13年中央省庁再編前後の動向[編集]

調査会は平成13年中央省庁再編前には、旧通商産業省工業技術院の付属機関で、事務局は同院標準部標準課が行っていた[6]。平成13年の中央省庁再編の際には、工業技術院の独立行政法人化(産業技術総合研究所)と併せて、行政組織の減量・効率化の観点から同院標準部各課及び調査会の位置づけが問題になった。この点、中央省庁等改革大綱で「通商産業省の工業技術院標準実施部門について、一部民間で対応できない規格作成等を除き、民間移譲」することとし[7]、中央省庁等改革の推進に関する方針で「通商産業省の工業技術院標準実施部門(標準部材料機械規格課、消費生活規格課、情報電気規格課)について、民間等では規格作成ができない等の理由から国が行わざるを得ない業務を除き規格作成業務の民間移譲を進める 」とされた。結局、規格制定部門については国営を維持することとし、併せて平成11年当時は特別の機関である工業技術院に置かれる合議制の機関であった調査会が、府省再編に伴い、審議会と位置づけられることとなった[8]

その後調査会は『21世紀に向けた標準化課題検討特別委員会報告書』(平成12年5月29日)44頁で、民間主導のJISの原案作成の更なる推進を提言した上で、「我が国では、規格原案作成を専業として行っている民間団体はなく、規格作成・普及だけで独立に採算を立てられる状況にはほとんどないものと考えられる」ことから「今後規格作成における民間の役割を更に強化するためには、引き続き民間における規格原案作成を支援していく一方、民間提案((注:工業標準化法)12条提案)に係る規格原案作成者に著作権を残す等、規格作成に係るインセンティブを高める方策を探る」とした。

調査会の民営化に関する議論[編集]

上記の省庁再編以降、日本の標準化行政における調査会の位置づけ、役割、存廃、民営化の可否などについて議論がしばしば行われるようになった。調査会の民営化推進論と国営維持論の主な内容は、次の表のとおりである。民営化推進論者にはメーカー等の出身者が、国営維持論者には経済産業省(旧通商産業省出身者を含む)の関係者が多い傾向にある。

表:調査会の組織に関する議論の概要

会議名・資料名 民営化推進論 国営維持論
21世紀に向けた標準化課題検討特別委員会

(2000年)

「先進国の中で大臣が規格を制定しているのは日本だけであると聞いている。工業標準化法制定当初は国がイニシアティブを取ることによりかなりの成果をあげたのであろうが、現在はそのような時代ではない。今後は、国が引っ張るより民間の活力を引き出す仕組みを作るべきであろう」「時代が変わっているのだから、いつまでも国が引っ張るのではなく、民間が引っ張って行くようにするべきではないか。」[9]
「『民間にできる』といっても、能力面・品質面・時間面という様々な評価軸があり、その上で受益者である企業が負担すべきであるという考え方ができるのではないか。」「そうした場合にJISCに何が残るかということが問題となるが、まずは国家規格として承認するという役割が残っている。」[10]
「『民間中心の標準化』という方向性は結構である。一方で、民間には500近い標準化団体があるが、資金的・人材的・ノウハウ的には皆ご苦労されていると思うので、引き続き政府の支援も期待したい。民間で作れということになると、これまで工業技術院に蓄積されてきた標準化のノウハウも拡散してしまうのではないか?国際的な標準化委員会に対応するための国が持っていたノウハウなども、継続的に蓄積していくことが重要であろう。」「規格は作成するのみならず、社会に浸透していくということが重要というのもそのとおり。著作権の問題にも関係するが、規格はJISのみならず、ISOASMEASTMなどといった国際規格も実際に使われているということを踏まえるとなると、ある場所でそうした規格を一括して管理し、常に提供可能な体制を整えることが必要となるのではないか?」[11]
『21世紀に向けた標準化課題検討特別委員会報告書案』パブリックコメント

(2000年)

  • 吉木健日本プラスチック工業連盟規格部ISO/TC61国内審議委員会事務局及びISO/TC61/SC11/プラスチック/製品 国際幹事(当時)
今後の標準化システムの完全な民営移管

「今後の日本の標準化システムは、主要規格先進国のシステムである『国家標準化機関が政府機関でない国』(注:下記『主要国の政府と国家標準化機関の状況』の米国、英国、ドイツ、フランス等参照)の形態をとるべきであるとの考えにいたっている。(注:工業標準化)法第12条による民間の自主的な規格が、いまだに担当する大臣の名において制定されているのは、もはや時代にかなった方式ではない。」[12]

  • 日本工業標準調査会21世紀に向けた標準化課題検討特別委員会事務局
「我が国の場合、欧米において存在するような中立性及び財政的自立性をもった標準化団体(SDO)が我が国に存在しない代わりに、民間団体が作成した原案に対し、幅広く民間の有識者を集めたJISCの議決を得た上で、利害関係者のバランスや非差別性の有無に関し主務大臣が最終チェックを行う体制をとっています。これにより実質的に相当程度民間の意見を採り入れつつ、規格の中立性や非差別性を国が最終的に認証するバランスのとれた策定方式といえるというのが当委員会の評価であります。一方、民間団体に著作権を残す等、民間による規格作成インセンティブを一層高めるような政策が(注:『21世紀に向けた標準化課題検討特別委員会報告書案』)第4章第2節(1)において提言されています。」[13]
情報処理学会情報規格調査会 NEWSLETTER

(1998/2010年)

標準化は政府の仕事なのか? 国家規格とは?」

「『国家規格』とは 本来 "International Standard" に対応する "National Standard" であって、少なくとも欧米先進諸国では "National Standard" は政府制定の規格ではない。米国のANSIを始め先進国の多くの標準化団体は経費を企業メンバーの会費、規格文書の売り上げなどによって賄っており、政府からは助成金さえもらっていない。…政府が制定していること自体が間違っていて、是正が必要だというのが筆者の考えである。 」「我が国が経済大国になってからも、発展途上国と同様に官庁が加盟していることは許されないのではないか。行財政改革や規制緩和が叫ばれているときに、なぜこれを産業界に戻そうとしないのか。それは官僚が一度手にした権限を自ら放棄することは絶対にないからである。…一方産業界の方も通産省が嫌がることは言い出したがらないし、近視眼的にはISOIECの国際分担金を政府が税金から払ってくれるならその方が得だと考えるに相違ない。 」「政府が標準化に口を出すことを止めてもらい、委託金のようなものも徐々に当てにしないようにして、その間に本当にボランタリーな標準化団体を確立すべきであろう。」[14]

  • 山中豊経済産業省産業技術環境局情報電子標準化推進室課長補佐
「現在有効な法令約7,400件の中で、JIS規格を引用した法令は約360件(5%)もあります。…さらに法令の中には、数は少ないのですが、ISO規格やIEC規格を直接引用したものも23件あります。このようにデジュール標準は、単なる技術標準としてだけでなく、行政制度とのつながりも深いものとなっています。」「国の機関とするかしないかの違いは、経済発展過程だけでなく、ルールに対する欧米と日本の考え方の違いにも根ざしているように思えます。…標準化の世界でも、欧米はルールを変えることを考えるのに対し、日本はルール内での改善を考えるといわれます。このような状況は、『お上』に対する信頼でもあり、ある意味では依存といえるのかもしれません。」「JISCの機能としては、国内のJIS制定だけではなく、ISOおよびIECへの登録メンバとしての国際標準化活動も含まれます。具体的な標準を作成するTC(注:技術専門委員会)やSC(注:技術専門委員会・分科会)では、情報規格調査会などの各種団体が主体となった活動となりますが、組織運営にかかわる上層の委員会では、JISCからの委員が活動を支えています。時には、国と国の交渉ごととなる場合もありますので、この部分では,国の機関である方が有益かと思われます。」[15]
その他

(2006/2007/2009年)

「諸外国を見ると、欧米の先進諸国では、殆どの国が国家規格の作成を覚書や契約により民間に委ねている。政府は、作成された規格の利用に関して政策的な活用を図る立場だ。…日本の標準化体制は後進国ということが出来るかもしれない。」[16]
標準化先進国では民営の標準化団体および認証機関のビジネスになっている。日本は中途半端な状態で、行政から民間への移行ができていない。…富裕の時代には、規制ビジネス・認証ビジネスおよび市場ビジネス・知財ビジネスが全部民営化され、これら4種類のビジネスが融合することになる。行政の仕事の多くが民営化されている欧米では、これらすべてのビジネスが民間企業主体で行われている。やがて日本も、それにならうことになるだろう。」[17]
「世界の中でJISCというのは、国が事務局をやっているかけがえのない組織です。標準の分野は公共財的な性格を持った財を提供する分野でもあって、私はその意味でJISCについて、国がタッチしていることによるいろいろなやり方は世界的にも評価してもらえるし、世界に貢献できると思っています。」[18]

以上の議論においては、①国家標準化機関としての国の役割はJISCが設立された第2次大戦直後と比べて変化があったのか、ある場合は民営化すべきなのか、②民間団体が国家標準化機関である欧米先進国と同様にすべきであるのか(下記の表参照)、③国際標準化活動においては政府機関が中心的な役割を担うべきなのか、④JISの公共財的な性格と民間団体の利益の関係が、主な論点になっている。

このうち④については、民間団体にJIS原案の著作権を残すことを以って対処する旨の見解を調査会事務局が示しているが、JISのように主務大臣が制定し、その普及の徹底を目的とする規格については著作権法第13条第2号が適用されることから、JIS本文は著作権法で保護されない著作物であるとの指摘がある[19]。これに対して調査会事務局側は、規格本文が官報に掲載されていないこと、また必ずしも官公庁自らが作成したものではないことを理由として、否定的な見解を示しているが[20]、官報への本文掲載や官公庁自らの作成が著作権法第13条第2号の適用の要件となっていないことから、その妥当性に疑問があるとの批判がある[21]

調査会は現在、『21世紀に向けた標準化課題検討特別委員会報告書』(平成12年5月29日)の提言に基づいて「日本工業規格等に関する著作権の取扱方針について」(平成14年3月28日 日本工業標準調査会標準部会議決・平成14年4月24日適合性評価部会議決)を定め、財団法人日本規格協会はこれらに基づく運用により、JIS規格票、JISハンドブック等の販売で1,574,901,508円の収入(平成21年度)を得た[22]。しかしJIS本文が著作権法により保護されなければ、このような販売や標準化活動の資金源などについて見直す必要がある。さらに、平成13年の中央省庁再編の際に問題となった調査会の民営化について再度検討する可能性がある状況となっている。

主要国の政府と国家標準化機関の状況比較[編集]

国名 日本 米国 カナダ 英国 ドイツ フランス
政府における標準化管理部署 経済産業省産業技術環境局基準認証ユニット 商務省国家標準技術研究所 (NIST) 産業省消費者問題局 (OCA)など ビジネス・イノベーション・技能省 (BIS) 経済技術省 (BMWi) 経済産業雇用省 (MEIE)
国家標準化機関 日本工業標準調査会 (JISC) 米国国家標準協会 (ANSI) カナダ標準委員会 (SCC) 英国規格協会 (BSI) ドイツ標準協会 (DIN) フランス規格協会 (AFNOR)
上記機関の法的地位 政府審議会 非営利団体 政府から独立した連邦公社[23] 非営利団体 登録社団 公益性承認非営利社団

【出典】鳥澤孝之「国家規格の著作権保護に関する考察 ―民間団体が関与した日本工業規格の制定を中心に―」知財管理 Vol.59 No.7 (2009年7月号)798-799頁参照

脚注[編集]

  1. ^ 「国際標準化機構に日本工業標準調査会を加入せしめることについて」(昭和27年4月18日閣議了解)
  2. ^ 「国際電気標準会議分担金支払に必要な経費に昭和二十八年度一般会計予備費使用方の件」(昭和28年12月15日閣議決定
  3. ^ 経済産業省産業技術環境局基準認証政策課「行政事業レビューシート 国際標準化機構分担金」(平成22年8月31日)
  4. ^ 経済産業省産業技術環境局基準認証政策課「行政事業レビューシート 国際電気標準会議分担金」(平成22年8月31日)
  5. ^ 日本工業標準調査会:事務局の組織と役割
  6. ^ 日本工業標準調査会:審議会(中央省庁再編前)
  7. ^ 「VI 国の行政組織等の減量、効率化等に関する大綱」『中央省庁等改革に係る大綱・推進本部決定』(平成11年1月26日中央省庁等改革推進本部決定)
  8. ^ 『中央省庁等改革の推進に関する方針』(平成11年4月27日中央省庁等改革推進本部決定)
  9. ^ 日本工業標準調査会21世紀に向けた標準化課題検討特別委員会(第5回)(平成12年4月6日)〔野村堯雄発言〕
  10. ^ 日本工業標準調査会21世紀に向けた標準化課題検討特別委員会(第5回)(平成12年4月6日)〔増田優発言〕
  11. ^ 日本工業標準調査会21世紀に向けた標準化課題検討特別委員会(第6回)(平成12年5月10日)〔齋藤紘一発言〕
  12. ^ 日本工業標準調査会標準会議21世紀に向けた標準化課題検討特別委員会事務局「『21世紀に向けた標準化課題検討特別委員会報告書案』に対する意見募集の結果について 頂いた御意見及び御意見に対する対応」(平成12年6月)7頁〔吉木健提出〕
  13. ^ 日本工業標準調査会標準会議21世紀に向けた標準化課題検討特別委員会事務局「『21世紀に向けた標準化課題検討特別委員会報告書案』に対する意見募集の結果について 頂いた御意見及び御意見に対する対応」(平成12年6月)7頁〔事務局回答〕
  14. ^ 高橋茂「情報技術標準化についての私見」情報処理学会情報規格調査会 NEWSLETTER No.39 (1998-09)4-7頁
  15. ^ 山中豊「事業仕分けと標準化」情報処理学会情報規格調査会 NEWSLETTER No.85 (2010-03) 2-3頁
  16. ^ 江藤学「産業政策としての標準化」日本知財学会誌 Vol.4 No.1 (2007.12)15頁
  17. ^ 原田節雄「民間企業の事業戦略と国際標準化の現実」一橋ビジネスレビュー Vol.57 No.3 2009.Winter 40頁
  18. ^ 高柳誠一・田中正躬・松本隆太郎「座談会【国際標準化100年を記念して】」経済産業ジャーナル No.426(2006年10月号)13頁参照
  19. ^ 鳥澤孝之「国家規格の著作権保護に関する考察 ―民間団体が関与した日本工業規格の制定を中心に―」知財管理 Vol.59 No.7 (2009年7月号)800頁
  20. ^ 経済産業省産業技術環境局基準認証ユニット(江藤学編)『標準化実務入門(試作版)』(平成22年7月)185頁〔長谷亮輔執筆〕
  21. ^ 南亮一「教えて!著作権 第1回 著作権とは? 著作物を利用する,とは? 」情報管理 53(7) (2010.10)386-387頁。なお著作権法第13条第2号では国等が「発する」告示、訓令、通達等について規定しているのに対して、同条第4号では国等が「作成する」法令等翻訳物及び編集物について著作権法の保護の対象にならないと規定している。
  22. ^ 財団法人日本規格協会「平成21年度収支計算書」
  23. ^ なお増田優通商産業省工業技術院標準部長(当時)は日本工業標準調査会21世紀に向けた標準化課題検討特別委員会(第5回)(平成12年4月6日)で「カナダは日本と状況が似ており独立行政法人であるSCCが権限を持っている」と説明しているが、SCC(カナダ標準委員会)のSenior program officer and managerのGary C. Hysert=Marc Archambaultは、SCCは政府機関ではなく、政府から運営も、政策も、手続も独立した機関であると述べている(Harvey Schock, Harvey E. Schock,Accreditation practices for inspections, tests, and laboratories, ASTM Committee,1989,p.104.)。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]