花
花(はな、華とも書く。花卉-かき=漢字制限のため、「花き」と書かれることが多い)とは植物が成長してつけるもので、多くはきれいな花びらに飾られる。花が枯れると果実ができて、種子ができる。多くのものが観賞用に用いられる。生物学的には種子植物の生殖器官である。なお、植物の花を生花(せいか)、紙や布・金属などで作られた花を造花(ぞうか)という。
生物学的「花」
花の定義
花は雌蕊や雄蕊を含む(ないものもある)、一個の有限の茎頂に胞子葉(花葉)と不稔の付属物などから構成された、種子植物の生殖器官である。
しかし、その厳密な定義については複数の考え方が存在する。
花は、胞子葉が枝先に固まった構造から生じたと見られるが、この意味を広く考えれば、普通の被子植物の花以外に、裸子植物における松ぼっくりなどの元になる構造や、さらにはスギナの胞子葉であるツクシのようなものまでが花と言えてしまう。2は、松ぼっくりまでは花だというもので、3は、ツクシも花だという立場と言える。
1はアメリカの研究者に多く、2はヨーロッパの研究者に多い。19世紀は3の考え方が主流だったが、現在では一番合理的とされる2が主流になりつつある。
構造
花全体の構造は、1本の枝に、先端の方から大胞子葉、小胞子葉、不実の葉が並んだ構造が、ごく短くつまったものと見なせる。
典型的な花は、枝から伸びた柄の先につき、中心に雌蕊をもち、その周囲を雄蕊が囲む。その周囲には、花びらや萼などが配置する。雄蕊では花粉が作られ、雌蕊には胚珠が入っている。この両者の働きで種子が作られる。
裸子植物においては、雌雄異花が普通で、軸を中心に胞子葉由来の鱗片状の構造が並んだ形を取るのが普通である。
被子植物では、花びらや萼といった装飾的な構造が多数加わることが多い。したがって、その構造は中心に大胞子葉由来の雌蕊、その外側に小胞子葉由来の雄蕊、そしてその外側に葉由来の花弁、そしていちばん外側にやはり葉由来の萼が取り巻くという形になる。花弁、萼はまとめて花被と呼ばれる。ただし、すべての花がこのような構造を持っているわけではなく、花びらや萼などがない花も多い。特に、風媒花などでは、花びらがかけていたり、退化しているものが多い。イネ科の場合このような花を小穂という。
また、1つの花に雄蕊と雌蕊を備える花が多いが、どちらかだけを持つ、雌雄異花のものもある。雄蕊と雌蕊が両方備わっていても、片方が機能していない例、どちらかが先に熟し、同時には熟さないようになっている例も多い。
花の配列状態を花序という。花序は花によって異なるが、ある一定の方式にしたがって並ぶ。
苞は、花や花序の基部につく葉のことをいう。包葉ともいう。通常は、小型であるが花弁状になるものもある。
生殖様式
花粉により受粉をさせ、生殖を行う。受粉には花の構造により、自家受粉と他家受粉にわけられる。通常、他家受精であることが望ましいので、種類によっては自家受精を妨げるようなしくみが見られる。例えば、雄蕊と雌蕊のどちらか先に成熟するようになっているのもそのひとつである。どちらが先かで雄性先熟、雌性先熟とよばれる。
花の進化
種子植物がシダ植物から進化するに伴い、雄蕊は小胞子のうをつける胞子葉、雌蕊は大胞子のうをつける胞子葉が変化してできたと考えられる。また、花びら、萼も葉が起源のものと思われる。
被子植物の花が、どのようにして進化したかについては、大きく2説がある。
- 1雄蕊1雌蕊1花被1の花を原始的なものと見なし、次第に複雑な構造のものが出現したとする説で、新エングラー体系の根拠となっている。
- 軸を中心に多数の雄蕊、雌蕊、花被が螺旋状に並んだ花を原始的なものと見なし、次第にその形が整理されてきたと見なすもので、クロンキスト体系はこれを基礎とする。
クロンキスト体系によれば、双子葉植物綱ではキク目を最も進化したものとし、単子葉植物綱ではラン目が最も進化しているとする。
花が美しいわけ
花は人目を引く魅力がある。一般的な概念での花は、それ以外の部分が緑などの地味な中にあって、それとは対照的に鮮やかな色合いの花弁などを並べてよく目立つようになっており、目を引かれる。これは、そもそも花の存在が、他者の目を引くことを目的としているからである。ただし、本来はヒトの目ではなく、昆虫や鳥などの目を引くためのものである。これは、植物が固着性の生活様式を持つため、繁殖時の生殖細胞、具体的には花粉の輸送に他者の力を借りなければならない。被子植物の多くがその対象を昆虫や鳥などの小動物とし、彼らを誘うために発達した構造が美しい花びらで飾られた花なのである[1]。
したがって、無生物によって花粉を運搬する植物の花は目立たなくてもいい。裸子植物は風媒なので、花弁などを持たない。被子植物でもイグサ科やイネ科などは虫媒花から進化して二次的に風媒となったもので、イグサ科では花弁はあるがきわめて地味になっており、イネ科では花弁は完全に退化し、開花時にも全く目立たない。
用語
花の構成要素に関して
- 柱頭
- 花柱
- 子房
- 外珠皮
- 内珠皮
- 胚嚢
- 葯
- 花糸
- 花冠
- 萼
- 花床
- 花柄
- 雄蕊
- 雌蕊
- 花被
- 距(きょ)
- 花冠の基部が後ろに飛び出たもの。スミレ、ツタバウンランなど。
- 副花冠
- 花冠と雄蕊の間にある花冠に似たもの。副冠ともいう。スイセンなど。
雌雄に関して
- 両性花
- 一つの花に雌蕊、雄蕊が両方あるもの。
- 単性花
- 一つの花に雌蕊、雄蕊の一方しかないもの。雌蕊だけの花を雌花、雄蕊だけの花を雄花という。
- 中性花
- おしべとめしべが退化した不稔性の花。アジサイやキク科など。それでは役に立たないので、普通は完全な形の花との組み合わせで見られる。たとえばアジサイでは装飾花が中性花になっている。
花粉媒介に関して
花の形態に関して
- 完全花
- 萼、花弁、雌蕊、雄蕊が全部揃っている花。両性花の意味で使うこともある。
- 不完全花
- 萼、花弁、雌蕊、雄蕊 のひとつ以上が欠けている花。単性花の意味で使うこともある。
- 無花被花
- 花被の無い花。裸花ともいう。ヤナギ、ドクダミなど。
- 単花被花
- 萼はあるが花冠の無い花。萼が花冠に見えるものが多い。シュウメイギクなど。なお、「萼は無いが花冠はある」ということは考えない。萼と雌蕊または雄蕊の間にあるものを花冠と考えるのが正しい。このため「萼は無いが花冠はある」と見える花があれば、「花冠のように見えるのが萼で、花冠は存在しない。」ということになる。(花の基部の緑のところが萼で、その内側のカラフルな部分を花冠と考えてはならない。)
- 両花被花
- 萼と花冠のある花。多くの花がこれにあたる。
- 合弁花
- 花弁同士が全部または一部くっついている花。アサガオ、ツツジなど。
- 離弁花
- 花弁同士がくっついていない花。バラ、ナタネなど。
- 同花被花
- 萼と花冠の区別がつきにくい花。チューリップなど。普通のチューリップの花の基部を観察すると、萼片に相当する外花被片3枚、花弁に相当する内花被片3枚とわかる。しかし、多くの人は花弁6枚と考える。
- 閉鎖花
- 花冠が開かずに終わる花。例えばホトケノザの花はその一部が閉鎖花。
- 開放花
- 花冠が開く花。ほとんどの花がそうである。
- 異形花
- 同一の種で複数の花の形があることをいう。例えば、雄花、雌花のある植物などが典型例である。花の形の個数により二形花、三形花などということがある。
- 装飾花
- 花弁が大きく発達した花のことで、小さい両性花を囲むように存在し、昆虫の誘引のためと言われている。アジサイなど。
- 八重咲き
- 一種の奇形である。雄蘂や雌しべが花弁化し、花弁がよけいに重なっている花形。
- 唇形花
- 花弁が上下に分かれて発達した花。下側の受ける花弁を唇弁という。
- 蝶花
- マメ科の花。
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黄色い部分が副花冠(スイセン属の一種)
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花冠の基部より後ろ(写真で左)に飛び出たものが距(ツタバウンラン)
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黄色い部分全体が花穂で、個々の黄色い部分が無花被花。白いものは総苞(ドクダミ)
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単花被花。一見すると花弁であるが裏を見ると萼とわかる(シュウメイギク)
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シュウメイギクの花の裏側
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合弁花(アサガオ)
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離弁花(バラ属の一種)
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よく見ると花被片3枚、内花被片3枚の同花被花(チューリップの一種)。
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手前のツボミのようなものが閉鎖花(ホトケノザ)
利用
花は魅力的な姿をしているため、それを鑑賞することは世界中で古くからおこなわれてきた。世界各地、古今東西の遺跡や壁画、紋章などにおいても、花の絵柄は普遍的に見かけられるもののひとつである。
また、花を摘み集めて装飾とする風習も広く見られる。茎から切り取った花を切り花というが、これを花を方向をそろえて束ねたものを花束(ブーケ)、組み合わせて輪にした花輪などもさまざまなものが見られ、子供の遊びから冠婚葬祭の飾りに至るまで、各地の風俗や風習の中でそれぞれ独特の役割を担っている場合もある。発掘された時、ツタンカーメンのミイラに花束が供えられていたのは有名な話である。日本の華道、いわゆる生け花もこの方向で高度に発達したものである。なお、切り花を使う理由に、見かけの美しさ以外に、その香りを重視する場合もある。
花の種類によってそれぞれに意味を持たせることもよくおこなわれ、日本では葬式にキクの花というような定番がある。また、花言葉というのもこのようなもののひとつである。
花を育てて楽しむことも古くからおこなわれた。庭園を飾るために花を育てる例は広く見られる。花を中心とする庭を花園、花畑などという。観賞用の植物の栽培を園芸と言うが、特に草の花を目的とする栽培を花卉園芸という。長い歴史の中で、多くの観賞用の花が選別栽培され、後には人工交配などによる品種改良も行われた。現在では、切り花を生産することが産業として成立している。なお、花卉園芸で実際に扱う対象は花に限らず、いわゆる枝もの、実ものも含む。
なお、品種改良がおこなわれる場合、それを支える市場の要求が高い場合がある。ヨーロッパにおいても、日本においても、花の栽培の歴史の中では何度か特定の花のブームがあり、新品種が考えられないような高値で取引されたことがある。ヨーロッパではチューリップが17世紀にオランダで大ブームを起こし、ひどいときは球根一個が豪邸より高かったと伝えられる。この事例についてはチューリップ・バブルを参照。
料理
食用花としては、キク、ナノハナなどが用いられてきたが、一方、欧米のエディブル・フラワーとしてナスタチウム、コーンフラワー、バラ、パンジー、キンセンカ、スイートピー、キンギョソウなどが挙げられる。伝統的な日本料理においては、盛りつけの技法としてアジサイの花などをあしらうことがある。
文化的「花」
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日本では奈良時代から平安初期まではウメの花を、平安時代初期以降はサクラの花を指し、花見といえば一般的にはこれらの花を観賞することである。雪の花、花火など、形状が似ているものを花と称する場合もある。
花とは、まさに美や生命力の象徴である。特にその場合には「華」と書くことも多い。「華やか」「社交界の花」「華がある」など、「花」の語を使った表現は多い。
日本では少し違った意味合いを付けられることもあり、もののあはれなどといった無常観や四季の変化の元でその儚さが愛でられてきた。それは散華など死へも近似するが生命力と矛盾するわけでもない。短い命であるからこそ、つかの間の栄華・華やかさが美しく感じられるのである。これは平家の栄華とその後の没落を描いた『平家物語』などにも見てとることができる。梅からすぐに散る桜へと花の代名詞が変わったことは、美意識の変化を物語っているともいえよう。
関連項目
総覧
生物関連
文化関連
出典
- ^ 種生物学会編(2001)p.1-6
参考文献
- 種生物学編、『花生態学の最前線 美しさの進化的背景を探る』、(2001)、文一総合出版