シダ植物

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成長したワラビ

シダ植物(シダしょくぶつ、羊歯植物、歯朶植物)は、維管束植物かつ非種子植物である植物の総称、もしくはそこに含まれる植物のことで、胞子によって増える植物である。側系統群であることがわかっている。

側系統群を認める分類では、シダ植物はシダ植物門として、ひとつの分類群にまとめられることもあるが、単系統群のみを分類群とする体系では、シダ植物門とヒカゲノカズラ植物門の2群に分かれる(加えて、トクサ植物門を独立門として置くこともあった)。

非単系統群であるが、共通する点も多く、ここでは、これらを総合して説明する。より一般的なシダについてはシダ綱を、それ以外については各群の項目を参照。

特徴[編集]

各シダ植物は、それぞれに性質の違う点もあるが、共通の性質はおおよそ次のようなものである[1]

  1. 維管束植物である。
  2. 種子を形成しない。
  3. 配偶体(有性世代)と胞子体(無性世代)という2つの世代があり、世代交代を行う。
  4. 胞子体が生活史の中心を占めており、胞子形成が主な散布手段となっている。
  5. 胞子体が主な生活形態だが、配偶体(前葉体)も胞子体から独立して生活している。

これらは、植物界にあって胞子体を発達させて維管束を持つようになった群のうち、種子植物以前の性質を共有するグループと言ってもよいものである。

系統関係[編集]

陸上植物車軸藻類と姉妹群の関係にある。陸上植物の中ではコケ植物がまず現れ、苔類蘚類ツノゴケ類の順に古い起源を持つ。維管束植物は、ツノゴケ類と同一の起源から進化してきたと考えられる。

初期の維管束植物は、が発達する一方で、の未発達な段階があったと考えられ、そこから小葉シダ類と大葉シダ類が別々に葉を発達させてきた。大葉シダ類からは、種子植物が現れる。小葉シダ類からヒカゲノカズラ植物門が生き残り、大葉シダ類からシダ植物門の各種が生き残った。

シダ植物門には高木になるものが含まれるが、それ以外の類はいずれも小柄な植物である。しかし、それぞれに古生代には大きな樹木のようになった先祖があり、いずれも多くの種を抱えていたとされる。したがって、現在の状態はいくつかの系統の、それぞれごく一部のものが小型化して生き延びた姿とも見られる。

下記の分類は、米倉(2009年)による[2]

伝統的な分類[編集]

伝統的には、「シダ類」(Fern)は、葉を持つもののみを含め、近縁の種は「シダ様植物」(Fern ally)と呼んだ。前者には、真嚢シダ類と薄嚢シダ類とが含まれ、後者には、トクサ類マツバラン類等が含まれる。シダ類とシダ様植物を合わせたものをシダ植物と言い、これらは言い分けられていた。

下記の分類は、加藤編(1997年)による[3]

生活環[編集]

シダ植物の生活環は典型的な単複世代交代型であり、胞子体と前葉体の2期があり、それぞれが生活を営む。前葉体は雌雄同体(ひとつの体に造卵器と造精器を持つ)が一般的であるが、イワヒバ科や水生シダは雌雄異体である。この場合、胞子に雌雄の別がある。

前葉体と発芽したばかりの本体(コウヤワラビ
名称 胞子体
(もしくは造胞体)
前葉体
(もしくは配偶体)
核相 複相 (2n) 単相 (n)
光合成 する する
体制 根、茎、葉を持つ 一般に0.5 - 2cmのハート型の葉状体で、仮根を持つ
生殖 無性生殖によって胞子 (n) を作る (精子と卵細胞を作り)
有性生殖によって受精卵 (2n) を作る
次世代 胞子は発芽して前葉体となる 受精卵は成長して胞子体となる

体制について[編集]

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葉の構造は、大きく大葉小葉に分かれる。前者は大きく広がった葉で、葉脈がその中で枝分かれする。シダ植物門のものと、種子植物はこれである。小葉は、小さく単純で、葉脈は主脈のみで枝分かれはない。ヒカゲノカズラ植物門のものがこれである。トクサ綱は当初は小葉であるとされたが、現在では大葉の1つと見られている。

茎の構造[編集]

シダ植物の茎は、ほとんどが肥大成長を行わない。維管束の配置は種子植物の真性中心柱(木部と師部のセットが同心円に並ぶ)ではなく、中心に木部、それを師部が囲むという原生中心柱か、その変形、あるいはそれが同心円的になった網状中心柱という形を取る。ただ、ハナヤスリ類だけで真性中心柱が見られる。

胞子をつける胞子葉と、栄養葉の間であまり変わらないものから、連続的に、極端に2型性を持つものまである。後者では、栄養葉の上に胞子葉が乗っかっているように見えるハナワラビや、胞子葉がそれと見て分かるイヌガンソク、シシガシラクサソテツなどが観察しやすい。

胞子嚢[編集]

胞子嚢は、これらの植物の生殖器官である。基本的には柄を持つ嚢状の構造で、その内部に減数分裂によって胞子を形成する。この胞子嚢の形成の様式に大きく2つある。

薄嚢性
単独の細胞から始まり、完成した胞子嚢は単一の細胞層に包まれる。普通のシダ類はこの型。
真嚢性
数個の細胞が起源となって、垂直方向に分裂して、胞子嚢を形成する。完成した胞子嚢は、複数層の細胞層に包まれている。ヒカゲノカズラ類、ミズニラ類、クラマゴケ類、マツバラン類、トクサ類、ハナヤスリ類、それにリュウビンタイ類がこの型である。

胞子の二形[編集]

シダ植物のほとんどは1種類の胞子を造り、それが発芽すれば、前葉体には精子が形成され、受精が行われる。しかし、種子植物では花粉と胚嚢というように前葉体に雌雄の別があり、異なった部位で異なった形の胞子が形成されている。このような配偶体の明らかな二形性は、その元となる胞子の大胞子と小胞子の二形性に基づくものである。このような胞子の二形が見られるのは、現生のシダ植物ではクラマゴケ類、ミズニラ類と水生シダ類だけである。

前葉体[編集]

一般のシダ類では前葉体は薄膜状で、ややゼニゴケを思わせる姿をしている。しかし、まったく異なった姿のものもいくつかある。やや異なった形のものとして、細長いリボン状やひも状のものがあり、普通のシダ類の一部に見られる。

塊状
地中性で塊のような姿の前葉体を作るものに、ヒカゲノカズラ類、マツバラン類とハナヤスリ類がある。この型の前葉体は、菌類と共生関係を持つ。
内生型
前葉体が胞子の膜外に伸び出さずに形成されるもので、クラマゴケ類がこれである。この形は種子植物の場合にやや近い。

特殊な体制[編集]

シダ植物は維管束植物であり、いわゆる根・茎・葉があると言われる。しかし、この点から見直さねばならない例もある。

根も葉もないもの
マツバラン類は、ほぼ全体が茎のみからなり、分化した根も明らかな葉もない。そのため、かつてはそれらが分化する前の原始的なものの生き残りと考えられた。現在では、より発達した群から退化的に生じたとの説もある。
担根体
クラマゴケ類とミズニラ類に見られる構造で、茎に似ているが、葉を生じず、地中に向かって伸び、その上に根を生じる。クラマゴケ類ではほぼ根に見える細長いものであるが、ミズニラ類では短く詰まった形である。
担葉体
ハナヤスリ類に見られる構造で、茎に見えるが限定成長を行い、その上に胞子葉と栄養葉をつける。

人との関わり[編集]

日本ではワラビゼンマイクサソテツなど、山菜として利用されるものがいくつかある。その一部は、商品として流通するほど、広く利用される。ジュウモンジシダナチシダなども食用とされることがある。東南アジアなどでは、オオタニワタリやミズワラビも使われる。ただし、それらの中には毒性を有するものも多く、ワラビなども生で摂取すると中毒症状が出る。過食とするためには「あく抜き」などと称する処理を行わなければならない。例えばブータンではイワデンダ科の Diplazium maximumナチシダランダイワラビなどを食用とする。これらはいずれも毒性があって家畜が食べない。そのために肥沃な放牧場にはこれらがよく繁茂し、地元民は良質な食材を入手できるというシステムが成立している[4]

ヘゴなどの木性シダ類の幹やゼンマイ類の根塊が、洋ラン栽培など園芸用資材として利用される。

また、オオタニワタリなど、鑑賞価値の高いものは、古くから栽培されてきた。広くシダ植物の範囲では、イワヒバとマツバランが、日本では古典園芸植物として、江戸時代より栽培が行われた。ただし、そのための採取により、これらはその個体数が減少し、絶滅に瀕している地域もある。

脚注[編集]

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  1. ^ 田川(1959)p.1-2
  2. ^ 米倉浩司、「高等植物分類表」、2009年
  3. ^ 加藤雅啓編、「植物の多様性と系統」、1997年
  4. ^ 松本(2009)

参考文献[編集]

  • 田川基二 『原色日本羊歯植物図鑑』 保育社〈保育社の原色図鑑〉、1959年ISBN 4586300248
  • 岩槻邦男編『日本の野生植物 シダ』,(1992),平凡社
  • 松本定、(2009)、「ブータンのシダ植物調査」、信州大学農学部紀要、第45巻1・2号