環境税

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環境税(かんきょうぜい、environmental tax)とは環境負荷の抑制を目的とし、かつ、課税標準が環境に負荷を与える物質に置かれているである。温室効果ガスの抑制のために化石燃料に課税をする環境税については、炭素税を参照のこと。

2種類の環境税

経済的手法としての環境税

課税そのものによる削減効果を活用した手法。従来主流であった規制的手法ではなく、経済的手法で環境問題を解決するために導入される税の総称である。環境税によって外部不経済が経済の内部に取り込まれることが期待される(課税による外部不経済を市場内部へ取り込むことを主張したのは、アーサー・セシル・ピグー(1920年)であり、ピグーの提唱した税制をピグー税とよぶ)。欧州の税制中立の炭素税の場合、財源使途は環境に限らず、経済的手法としての環境税にあたる。

環境財源としての環境税

森林環境税産業廃棄物税水源環境保全税など、地方環境税が導入されているが、これらは上記の経済的手法としての面だけでなく、財源使途を環境対策にした目的税としての側面がある。これらの地方環境税は、地方分権一括法により新設された法定外目的税を活用して、創設されている。

採用動向

世界

地球温暖化の対策として最も本質的な手法とも言われ、欧州のいくつかの国々でその導入が検討されている。スウェーデンオランダドイツイギリスなどでは既に導入されており[1]、これらの国はいずれも温室効果ガス排出量削減を実現している(京都議定書#各国の取組状況を参照)ことから、導入を検討中の国においても高い効果が期待されている。これらの国では化石燃料に課税することが一般的だが、1990年代より様々な環境税を実施しているスウェーデンでは再生可能エネルギーに対する減免・還付等を行っている[2]

また、直接的に温室効果ガスに課税する方法でなくとも、ガソリン軽油などの自動車燃料や原油石炭など特定の商品(化石燃料)に物品税(個別消費税)として課税することで、事実上の環境税として機能しているものもある。

なお、得られた税金を地球温暖化対策に用いる(特定財源とする)方法もあるが(日本の環境省はこの方式による炭素税導入を提案している[3])、財政の柔軟性を削ぐことや、そもそもの要件(公平・中立や財源安定など)にそぐわないという問題もあることから、たとえばドイツでは環境税(炭素税)導入時に税収の 9割を雇用にかかる人件費抑制に充てる(具体的には社会保険料の縮減。残り 1割は環境対策に充てられている)ことで税制中立に配慮しつつ雇用環境改善・失業率抑制も実現する工夫がされる[4]、イギリスでは税 (Tax) ではなく環境負荷に対する課徴金 (Levy) と位置付け (en:Climate Change Levy) 一般財源に組み入れる、といった工夫がされている。また両国ではガソリン税についても継続的に引き上げるとともに、公共交通機関などに減免措置を設けるといった運用がされている。

一方、アメリカでは導入への検討はほとんどされておらず、ガソリン税も安い。

環境税、およびそれを含めた地球温暖化への対策の影響には、エネルギー集約型産業などへ悪影響を与える面と、環境対応型の産業の拡大を促す面があり、全体的な影響を算出するには非常に多くの要素を考慮する必要がある。これを踏まえてドイツの産業界は炭素の価格に応じた影響を分析したレポート[5]を作成し、政策提言を行っている[6]。エネルギーコストの増加など様々な影響に対する配慮を求めてはいるものの、政府の挑戦的目標を「はっきりと」(expressly) 支持する、と表明している (P.45) 。

日本

日本でも導入が提唱され[3]、与野党で、温度差はあるものの、議論は進められている。[7]

日本経団連では、エネルギー課税は既に過重である等として新規の環境税の導入は反対している[8]。一方で、既存エネルギー課税の環境対策への転用を認めている。2008年9月には、道路特定財源の一般財源化に伴い、既存のエネルギー課税と組み合わせて、使途を環境対策に組み替える考えを示し、容認に転じている。[9]

日本商工会議所[10]は、環境と経済の両立を阻害するという理由により、「導入に当たっては極めて慎重な検討が必要である」として、「まず環境税ありきとする議論には絶対反対」との姿勢を取っている。

こうした政財界の対応に対して、NGOなどから批判的意見が出されている。[11][12]

一方、日本税制改革協議会(JTR)は「税で環境をよくすることはできない」として環境税に対して批判的である。 なお、経済同友会のように税制中立や関連税例の一括見直しといった条件付きで導入に含みを持たせているところもある[13]

2011年度の政府税制大綱では、「地球温暖化対策税」の導入が閣議決定された[14]石油石炭税を、燃料の環境負荷分に応じて2011年度から段階的に増税する処置が骨子である。なお、自動車の燃料費高騰を避けるため、軽油引取税ガソリン税の暫定税率を、石油石炭税増税に応じ低減させる処置も案の中に入っている。

脚注

  1. ^ 温暖化防止のための環境税「炭素税」とは(NGO「環境・持続社会研究センター」(JACSES)によるまとめ)
  2. ^ NEDO海外レポート NO.1000, 2007.5.23
  3. ^ a b 環境税について(環境省)
  4. ^ 日独気候政策シンポジウム2005 の資料(PDF)Germany's Ecotax Reform 1999 - 2003: Implementation, Impact, Future Development(英語)などを参照。
  5. ^ Costs and Potentials of Greenhouse Gas Abatement in Germany, McKinsey&Company, Inc., September 2007
  6. ^ BDI Annual Report 2008
  7. ^ 追加対策の減税実施、環境税見送り 自民党税調が骨格案2008/12/02 iZa! 、民主党環境政策大綱「民主党環境ビジョン」2008/09/16 民主党、「地球温暖化防止のための環境税資料集~適正な制度設計に向けて~」のご紹介「環境・接続社会」研究センター
  8. ^ 日本経団連意見書:「環境税」の導入に反対する (2003-11-18)日本経団連の主張/エネルギー・環境政策
  9. ^ 経団連、環境税容認へ 道路財源衣替えで、新税は反対2008/09/06 朝日新聞
  10. ^ 政府税制調査会の「中期答申」に対するコメント(6/17)
  11. ^ 地球温暖化防止へ向けての建設的な議論を望む、気候ネットワーク、2003年11月18日
  12. ^ 日経エコロミー、2008年4月23日
  13. ^ 「環境税の具体案」について(経済同友会 代表幹事 北城恪太郎)代表幹事の発言 記者会見発言要旨(未定稿):経済同友会などを参照。
  14. ^ http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=13274

関連用語

外部リンク