旅大型駆逐艦

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旅大型駆逐艦 (051型)

旅大III型(051G2型)「珠海」(166)
艦級概観
艦種 駆逐艦
就役期間 1971年 - 現在
前級 鞍山級駆逐艦 (6607型)
次級 旅滬型駆逐艦 (052A型)
性能諸元
排水量 軽荷:3,250トン
基準:3,670トン
満載:3,960トン
全長 132.0 m
垂線長 127.50 m
全幅 12.80 m
吃水 4.39 m
(ソナードーム下で5.30 m)
機関 ボイラー 4缶
蒸気タービン
(36,000馬力)
2基
スクリュープロペラ 2軸
速力 最大35ノット / 定格32ノット
航続距離 5,000海里 (18 kt巡航時)
乗員 士官27名+下士官兵275名

旅大型駆逐艦(るだがたくちくかん、: Luda-class destroyer)は、中国人民解放軍海軍駆逐艦の艦級に対して付与されたNATOコードネーム。中国人民解放軍海軍での名称は051型駆逐艦中国語: 051型驱逐舰)[1][2]

中華人民共和国が初めて開発した水上戦闘艦であり、江滬型フリゲートとともに、1970年代以降の中国海軍の主力艦として活躍した。20年にわたって17隻という多数が建造されており、一部艦が近代化改修を受けたこともあり、その艦容は非常に多彩となっている[1]

来歴

人民解放軍海軍は、1950年代中期にソビエト連邦から7号計画型駆逐艦(グネフヌイ級)4隻の供与を受け、鞍山級駆逐艦として運用することで、駆逐艦戦力の整備に着手した。以後、長期にわたって、同級は人民解放軍海軍最大の水上戦闘艦として活躍することになった[3]が、その活動範囲はおおむね渤海に限定されており、外洋での活動能力は極めて限定的であった[2]

このことから、人民解放軍海軍として初めて、太平洋で行動しうる駆逐艦として開発されたのが本型である[2]1950年代末からの中ソ対立を受けてソ連からの技術援助を絶たれたために、設計面では、一世代前のソ連海軍の主力艦にあたるコトリン型(56型)をモデルとしている[3]

まず1967年から1971年にかけて8隻が建造された。これらの多くは、1980年に行われた大陸間弾道ミサイル発射実験の一環として、観測艦隊に参加してフィジー沖の南太平洋に派遣されて、本格的な外洋作戦行動を行っており、もともとこの任務のために建造されたとする見方もある。また1980年代前半に更に7隻が建造されたほか、1990年代初頭には、次世代駆逐艦向けの西欧系技術を試験的に適用した改良型2隻が追加建造された[2][3]

装備

旅大I型 (051型): 「西安」(106)
旅大I型 (051Z型): 「大連」(110)
旅大II型: 「済南」(105)
旅大III型 (051DT型): 「開封」(109)

初期建造艦(旅大I型; 051型)

メインセンサーとなる対空・対水上捜索用の354型レーダーは前檣上に、また遠距離警戒用の515型レーダーは後檣直後に備えられた[4]ソナーとしては、捜索用の「ペガス2M」と攻撃用の「タミール2」が搭載された。また電波探知装置(ESM)はRW-23-1(NATO名「ジャグ・ペア」; ソ連製「ウォッチ・ドッグ」の中国版)であった[2]

主砲として58口径130mm連装砲を2基、艦首甲板と艦尾甲板に備えていた。また高角砲・機銃としては、当初建造艦では57mm連装砲を、改良型の051D型では60口径37mm機銃を備えていたほか、60口径25mm機銃も搭載していた。基本的には砲装型駆逐艦であり、砲熕兵器の合計数は20門に及んでいた[2]。火器管制レーダーとしては、主砲用には343型レーダー(NATO名「ワスプ・ヘッド」; ソ連製「サン・バイザー」の中国版)を艦橋構造物上に備えていた。また高角機銃用の341型レーダー(NATO名「ライス・ランプ」)は、艦橋構造物上の343型レーダー直前と、後部甲板室上に1基ずつ備えられた[4]

原型艦との最も大きな違いが艦対艦ミサイルの艦対艦ミサイルの装備であり、HY-1かHY-2の3連装発射機を1・2番煙突の後方に1基ずつ備えていた。その射撃指揮用としては、後檣上に352型レーダー(NATO名「スクエア・タイ」)を設置した[4]

防空指揮艦(051Z型)

1980年7月、当時建造途上にあった「大連」(110)はZKJ-1戦術情報処理装置の搭載改修を受けた。これは、673-II型コンピュータを中核として第709研究所(武漢数字工程研究所)および第724研究所(南京船舶雷達研究所)で開発されたもので、海神1号と称されていたものであった。1983年には、さらに「合肥」(132)も同仕様に改装された[5]。これらの艦は、いずれも指揮艦として活動していたこともあり、381A型3次元対空捜索レーダーも装備している[6]

航空実験艦(旅大II型)

1987年、051型の1番艦である「済南」(105)は航空艤装を追加する改修を受け、旅大II型のNATOコードネームを付与された。船尾の130ミリ砲と高角機銃は撤去され、かわりにヘリコプター甲板哨戒ヘリコプター2機分のハンガーが設置された。また戦術情報処理装置として、フランス製のトムソンCSF社(現タレス社)の TAVITAC(旧称 Vega IIIC)も搭載されたほか、ソナーも更新されたと考えられている[2]

技術実証/改良型(旅大III型; 051DT/G型)

1991年、051D型の1隻である「開封」(109)は、フランスから輸入したクロタル8MS個艦防空ミサイル・システム(8連装発射機とカストールII火器管制レーダー)を搭載する改修を受けた。またこれを活用するため、戦術情報処理装置として「済南」(105)と同じくTAVITACを搭載したほか、対空捜索レーダーDRBV-15「シー・タイガー」に換装されて、実用試験に供された[5]。また高角機銃も、スウェーデン・ボフォース社とイタリア・ブレダ社のコンパット・フォーティ 40mm連装機銃の技術を導入した76A型37mm連装機関砲に変更された。これらの改修を受けて051DT型と称されるようになっており、また同年、051Z型であった「大連」(110)も同様の改修を受けた[2]

更に、これらの改修艦と同様の欧米系装備を施した新造艦として、1987年より2隻が建造されており、1991年には051G1型として「湛江」(165)が、また艦対艦ミサイルや対潜戦システムに改良を加えた051G2型として「珠海」(166)が、それぞれ就役した[7]。これらは、個艦防空ミサイル・システムとしてクロタルの国産化版であるHHQ-7を搭載したほか、特に051G2型では、ソナーを船首装備のDUBV-23および可変深度式のDUBV-43の組み合わせに変更するとともに[2]、イタリア製のB515をベースとした3連装短魚雷発射管が搭載されており、Yu-7短魚雷A244およびMk.46短魚雷の山寨版)を発射できる[7]。また051G2型では、後檣上に051Z型と同型の3次元レーダーである381型レーダーを備えている[4]

また艦対艦ミサイルは、051G1/2型ではYJ-8の4連装発射機を4基備えていたが、新型のYJ-83に後日換装しており、051DT型でも同様の換装を行っている[1]

諸元表

旅大I型 旅大II型 旅大III型
051型 051D型 051Z型 051DT型 051G型
兵装 76型58口径130mm連装砲 × 2基 76型58口径130mm連装砲 × 1基 76型58口径130mm連装砲 × 2基 79A式56口径100mm連装砲PJ33A× 2基
66式57mm連装砲 × 4基 61型37mm連装機銃 × 2基 76A型37mm連装機銃 × 3基
61式25mm連装機銃 × 4基
- クロタル短SAM 8連装発射機 × 1基 HQ-7短SAM 8連装発射機 × 1基
HY-2 SSM 3連装発射筒 × 2基 YJ-8 SSM 連装発射筒 ×4基
※YJ-83に後日換装
YJ-83 SSM 4連装発射筒 ×4基
75式12連装240mm対潜ロケット砲(FQF-2500) × 2基
BMB-2 爆雷投射機 × 4基 3連装短魚雷発射管 × 2基
艦載機 - Z-9C 哨戒ヘリコプター× 2機 -
C4I CIC非設置 ZKJ-1戦術情報処理装置 TAVITAC戦術情報処理装置 ZKJ-4戦術情報処理装置
+ HN-900データ・リンク
FCS 343型 主砲用× 1基 343G型/344型 主砲用× 1基
341型 機銃用× 2基 347型 機銃用×2基
352型 SSM用 × 1基 345型 短SAM用 × 1基
レーダー 354型 対空・対水上捜索用 × 1基 363型 対空・対水上捜索用 × 1基
515型 対空捜索用 × 1基 381A型 3次元式 × 1基 517A型 対空捜索用 × 1基
※051G2型のみ381A型
751型 航海用 × 1基 RM-1290 航海用 × 1基
ソナー ペガス2M 捜索用 SJD-2 捜索用 DUBV-23
船首装備式
タミール2 攻撃用 SJD-4 攻撃用
- DUBV-43
可変深度式
電子戦 RW-23-1電波探知装置 HZ-100電波探知妨害装置
946型チャフ発射機 ×2基
※初期建造艦では後日装備

同型艦

106~110号艦は大連造船廠で建造されて北海艦隊に配属、131~134号艦は中華造船所で建造されて東海艦隊に配属、160~166号艦は広州造船所で建造されて南海艦隊に配属されていた。

当初
仕様
# 艦名
(英語表記)
進水 就役 退役 備考
051 105 済南
(Jinan)
1968年
12月25日
1971年
12月31日
2007年
11月15日
1987年に航空艤装などを追加、旅大II型のNATO名を付与
106 西安
(Xian)
1970年
3月7日
1974年
11月28日
2007年
9月29日
107 銀川
(Yinchuan)
1970年
6月19日
1976年
6月28日
2012年
10月18日
051D 108 西寧
(Xining)
1976年
10月31日
1980年
1月29日
2013年
9月25日
109 開封
(Kaifeng)
1977年
10月28日
1982年
12月25日
1991年、051DT型として改装
051Z 110 大連
(Dalian)
1979年
6月25日
1984年
12月26日
1991年、051DT型に準じて改装
n/a 111 建造中止
051 131 南京
(Nanjing)
1970年
12月20日
1977年
2月6日
2012年
9月26日
海警部隊に移籍され、海警船として再就役
051Z 132 合肥
(Hefei)
1977年
4月5日
1980年
3月18日
2012年
11月16日
051D 133 重慶
(Chongqing)
1978年
5月23日
1983年
12月30日
2014年
9月26日
134 遵義
(Zunyi)
1978年
11月19日
1984年
12月28日
2013年
n/a 135 建造中止
051 160 廣州
(Guangzhou)
1970年
3月1日
1974年
6月30日
1978年
3月9日
1978年3月9日
爆発事故によって大破、退役
161 長沙
(Changsha)
1970年
5月26日
1975年
12月31日
2008年
8月26日
標的艦に改装
162 南寧
(Nanning)
1970年
12月26日
1979年
3月23日
2012年
9月
海警部隊に移籍され、海警船として再就役
051D 163 南昌
(Nanchang)
1977年
12月28日
1982年
11月15日
2013年
164 桂林
(Guilin)
1980年
5月19日
1987年
7月10日
2013年
051G1 165 湛江
(Zhanjiang)
1986年
8月
1989年
12月30日
051G2 166 珠海
(Zhuhai)
1987年
10月31日
1991年
11月21日

脚注

  1. ^ a b c 「写真特集 今日の中国軍艦」『世界の艦船』第816号、海人社、2015年5月、21-51頁、NAID 40020406561 
  2. ^ a b c d e f g h i James C. Bussert、Bruce A. Elleman『People's Liberation Army Navy: Combat System Technology, 1949-2010Naval Institute Press、2011年。ISBN 978-1612510323https://books.google.co.jp/books?id=ERwSQC8r868C 
  3. ^ a b c 梅野和夫「ソ連式から西側志向へ 中国駆逐艦の変針」『世界の艦船』第587号、海人社、2001年10月、98-99頁。 
  4. ^ a b c d Eric Wertheim (2013). The Naval Institute Guide to Combat Fleets of the World, 16th Edition. Naval Institute Press. pp. 118-119. ISBN 978-1591149545 
  5. ^ a b 陸易「中国軍艦のコンバット・システム」『世界の艦船』第748号、海人社、2011年10月、94-97頁、NAID 40018965309 
  6. ^ Norman Friedman (1997). The Naval Institute guide to world naval weapon systems 1997-1998. Naval Institute Press. ISBN 9781557502681. http://books.google.co.jp/books?id=l-DzknmTgDUC 
  7. ^ a b 051G2旅大Ⅲ型166珠海号导弹驱逐舰” (中国語) (2012年5月31日). 2015年5月6日閲覧。

外部リンク