企業コンプライアンス

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企業コンプライアンス(きぎょうコンプライアンス、corporation compliance)は、コーポレートガバナンスの基本原理の一つで、企業法律内規などのごく基本的なルールに従って活動すること。ビジネスコンプライアンスという場合もある。コンプライアンスは「企業が法律に従うこと」に限られない「遵守」「応諾」「従順」などを意味する語だが、以下では主にこの語を使う。

今日ではCSR(corporate social responsibility の略。企業の社会的責任履行)と共に非常に重視されている。

近年[いつ?]法令違反による信頼の失墜や、それを原因として法律の厳罰化や規制の強化が事業の存続に大きな影響を与えた事例が繰り返されているため、特に企業活動における法令違反を防ぐという観点からよく使われるようになった。こういった経緯から、日本語ではしばしば法令遵守と訳されるが、法律や規則といった法令を守ることだけを指すという論もあれば、法令とは別に社会的規範や企業倫理モラル)を守ることも「コンプライアンス」に含まれるとする論もある(後述の「コンプライアンスとモラル」参照)。また、本来、「法的検査をする」といった強い実行性をもっている。

関連法規

会社法は条数のみ記す。

株式会社においては、商法会社法)上取締役ないし執行役の義務(法定責任)として規定されている。理論的には善管注意義務330条)ないし忠実義務355条)の発現とされ監査役なども同様の義務を負っている(330条)。

企業も社会の構成員の一人として商法会社法)だけでなく民法刑法労働法といった各種一般法、その他各種業法をすべて遵守し、従業員一同にもそれを徹底させなければならないとされ(348条3項4号、362条4項6号)、特に大会社については、内部統制システム構築義務が課されている(348条4項、362条5項)。

コンプライアンス違反

このコンプライアンスに違反することをコンプライアンス違反と呼び、コンプライアンス違反をした企業は、損害賠償訴訟(取締役の責任については株主代表訴訟)などによる法的責任や、信用失墜により売上低下などの社会的責任を負わなければならない。

企業の犯す企業犯罪の1つでもあり、発覚した場合は不祥事として報道されることが多い。またその不祥事の原因となる比率が高い要素でもある。

コンプライアンスとモラル

一部でモラルと混同されることがあるが、コンプライアンスはあくまで「法令遵守」であるため、モラルとは別に扱うべきだとする考え方がある。

この考え方によれば、コンプライアンスを純粋に「法令遵守」と考えると、法令がモラルに反している(あるいはモラルが法令に反している)場合、法令を遵守すればコンプライアンスは成立する。言い方を変えると、その行動がモラルに合致していても、法令に則っていなければコンプライアンス違反となる。また、法令に定められていない範囲で行われるモラル違反(いわゆる法律の不備による抜け穴」を突く行為など)はコンプライアンスの範疇に属さない。

したがって、たとえコンプライアンス違反に問われる行為を行っていなくても、モラルに反する行動をしたことにより、社会からの信用を失い、結果的に損失を負う企業が存在する。 もちろん、モラル違反による信用失墜はリスク・マネージメントの中で管理して回避・防衛すべきものであり、コンプライアンスと混同すると混乱を招く恐れがある。しかし、リスクの大きさとしてはどちらも経営上の重要な要素であるため、あえて総合的に扱おうという考え方(「フルセット・コンプライアンス論」を参照)もある。

コンプライアンスマネージメント

組織内において、コンプライアンスを遵守できるよう経営管理し、事業活動を行うこと。 コンプライアンスプログラムや、行動指針、コンプライアンス規定、事業部門から半独立したコンプライアンス組織、コンプライアンス監査が実施・設置されることが求められる。

コンプライアンスプログラム

組織機能として、コンプライアンスを実現させる仕組みを指す。 専門部門やコンプライアンス監査などの機能が設置され、日々変化がある社会情勢や法令に対して、組織がコンプライアンス対応ができる態勢のことを指す。

フルセット・コンプライアンス論

名城大学教授郷原信郎らが提唱する、「コンプライアンス=法令遵守ではなく、法令の遵守を含めた『社会的要請への適応』である」という考え方である。

企業の存在には、利潤の追求だけでなく、食品メーカーであれば「安全な食品を供給してほしい」、放送局であれば「歪曲されていない、良質な番組を流してほしい」など、社会からの潜在的な要請があり、各種法令にも、制定に至るまでには社会からの要請がある。法令は常に最新の社会の実情を反映できているわけでなく、司法もまた万能ではない。ゆえに、単に法令のみの遵守に終始することなく、社会からの要請に応えることこそがコンプライアンスの本旨であるというのがフルセット・コンプライアンス論の趣旨である。

フルセット・コンプライアンス論では、法令を単純に条文通りに解釈し、「法の抜け穴」を突いたり、過剰に法律を振りかざしたりすることはコンプライアンスに背くこととしており、上記「コンプライアンスとモラル」の項とは矛盾する部分もある。

コンプライアンス違反例

2000年以降の主なもの)

一旦コンプライアンス違反を引き起こすこととなれば、企業イメージの低下に繋がるだけでなく、同業者全体の信用と評判を落とすことは避けられず、不買運動など今後の企業活動に大きなダメージを与える現象が起こりうる。

コンプライアンス違反が起きやすい環境および体質

これらは必ずしもコンプライアンス違反を起こす要因となるとは限らず、また法令に違反するとは限らないが、その要因となる可能性が高いとされているものである。

※参考サイト コンプライアンス違反を引き起こしやすい組織の特徴ビジネスコーチ(株)代表取締役 細川馨、日経BP社「ヒューマンキャピタルOnline」2009年4月13日

  • 拝金主義(金儲け主義)(消費者や安全を軽視し、利益を最優先する)。
  • 秘密主義(隠蔽体質、閉鎖的な体質、バレなければいいという規範意識の欠如。部外者は内部(工場、オフィスなど)を知ることはできないという認識に由来する)。
  • 一族(同族)経営、ワンマン経営(上層部が絶対的な権力を持っている。独裁的な体質。しかし全ての一族経営企業がそうとは限らない。経営者の性格によっては逆に違反が起きにくいこともある)。
  • 努力義務」を遵守する意識の欠如(違反に対する罰則や処分がないのをよいことに、規範意識が欠如する)。
  • 自己中心的な幹部、社員、職員が多い。
  • 善悪の区別が付かない幹部、社員、職員が多い。
  • 殿様商売(自社と商品のブランド力が大手だから、と奢り高ぶっている)。
  • 縁故採用または天下り幹部が多い。
  • 不祥事を起こした該当者に対する処分が甘い(信賞必罰精神がない)。
  • 精神論に終始したり、当該個人にのみ責任を追及し、組織的・構造的な問題の解決に取り組まない。
  • 未上場企業(上場企業のコンプライアンス違反も多い)。
  • 体育会系企業(本質が高圧的態度で、精神論重視)。
  • 行き過ぎた成果主義(ノルマや成果を達成しても、それに見合った手当が支給されない)。

など。

誤記

日本語上の表記において、「コンプライアンス」と書かれている事例が多い。同一文書内でコンプライアンスと混用していることがあり、企業がインターネットで公表しているコンプライアンス条項などでも混同して記載されていることがある。

アライアンス」には同盟・提携という意味があるので、「企業提携」などの全く違った意味に取られる可能性もある。

脚注

  1. ^ プリンスホテルに約3億円賠償命令 日教組集会使用拒否アサヒコム、2009年7月29日

関連項目