ドレッドノータス

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ドレッドノータス
生息年代: 白亜紀後期, 70 Ma
復元図
地質時代
白亜紀後期
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
亜綱 : 双弓亜綱 Diapsida
下綱 : 主竜形下綱 Archosauromorpha
上目 : 恐竜上目 Dinosauria
: 竜盤目 Saurischia
亜目 : 竜脚形亜目 Sauropodomorpha
下目 : 竜脚下目 Sauropoda
階級なし : ティタノサウルス類 Titanosauria
: ドレッドノータス属 Dreadnoughtus
学名
Dreadnoughtus
Lacovara et al.2014
下位分類(

ドレッドノータスDreadnoughtus)は、竜脚類ティタノサウルス類に属する恐竜である。2017年6月現在、ドレッドノータス・スクラニ D. schrani 一種のみが知られている。D. schraniアルゼンチンサンタクルス州にあるカンパニアンからマーストリヒチアン(8400万-6600万年前)の地層で発見された2つの部分骨格に基づいて記載された。陸棲脊椎動物史上最大級の体の大きさを持つものの一つであり、信頼に足る確かさで大きさが推定できる陸上動物の中で最も巨大かつ最も保存状態が良好である。D. schraniはいかなる大型竜脚類よりも完全な骨格が知られている。

記載[編集]

ドレッドノータス・スクラニ Dreadnoughtus schrani の発見は大型ティタノサウルス類の大きさと解剖学についての知見を深めるものである。上腕骨肩甲骨骨盤については著しい。ドレッドノータスの骨の偉大性はその良好な保存状態にある。変形や風化が極めて少なく、特に上腕骨が良好である。細部が観察可能で、筋肉の付着部などが非常によく確認できる。ドレッドノータスの背中には外側に伸びる大きなスパイク状の皮骨が何本か備わっていた可能性がある[1]。ドレッドノータスはまた体の大きさのわりに例外的に長い首をもっており、全長の半分ほどもあった。

大きさ[編集]

模式標本とヒトとのサイズ比較

骨格の既知の部分の測定値に基づき、唯一の既知の個体は全長約26 m、全高12.2 mと推定されている[2]肩甲骨は1.74 mで、他の既知のティタノサウルス類の肩甲骨よりも長い。腸骨も他のどの恐竜のそれよりも大きく、長さは1.31 m[3]。上腕骨は、ティタノサウルス類において以前に知られていたものよりも長く、より軽い構造をしていた。ブラキオサウルスパラリティタンのそれよりは短い。ティタノサウルス類の各種はわずかに異なる比率を有すると思われるが、これらの測定はドレッドノータスの体の大きさを物語っている。3D骨格を使用して作成された模式標本の体重および容積の現在の推定値は、22.1〜38.2 tの範囲と導出されている[2][4]

完全性[編集]

完全性は様々な方法で評価することができる。竜脚類の骨格は、頭骨要素がほとんどないか全くない状態で回収されることが多いため、頭骨を考慮しない完全性(すなわち、頭骨を除いた骨格の完全性)に関して完全性が検討されることが多い。化石動物の解剖学を理解するための最も重要な指標は、骨の種類である。ドレッドノータスの完全性統計は以下のとおりである。

  • 骨格全体(頭骨を含む)で256のうち116の骨 = 45.3% 完全
  • 骨格全体(頭骨を除く)で196のうち115の骨 = 58.7% 完全
  • 142種類の骨(頭骨を除く)のうち100種類の骨 = 70.4% 完全

ドレッドノータスの完全性は、他の超巨大(全長40 m以上)竜脚類のそれをはるかに超える[5]

学名 Skeletal Completeness Total Mirrored Postcranial Completeness
(i.e. 骨の種類)
ドレッドノータス・スクラニ 45.5% 70.4%
トゥリアサウルス・リオデヴェンシス 44.1% 45.8%
フタロンコサウルス・ドゥケイ 15.2% 26.8%
パラリティタン・ストロメリ 7.8% 12.7%
アルゼンティノサウルス・フインクレンシス 5.1% 9.2%
アンタルクトサウルス・ギガンテウス 2.3% 3.5%
プエルタサウルス・レウイリ 1.6% 2.8%

[2]

発見と研究[編集]

ケネス・ラコバラとドレッドノータスの上腕骨

ドレクセル大学のケネス・ラコバラはアルゼンチン・パタゴニア・サンタクルスのセロフォルタレーサ累層で2005年に化石を見つけた。骨は非常に大きい上、離れた場所に散在していたため、チームが完全に掘り起こすのに4年かかった。最終的にフィールドジャケットにくるまれた骨をトラックに積載するために更に多くの人員を要した。

2009年、その化石は倍出と研究のためにフィラデルフィアの海洋学研究所へ運ばれた。化石は補修され、ドレクセル大学とカーネギー自然史博物館によって分析された。その後、ドレッドノータス・スクラニの化石はリオガレゴスの Museo Padre Molina という博物館へ収蔵された。

2点のドレッドノータスの標本は、3Dレーザースキャナーでスキャンされた[2]。ソフトウェアAutodesk Mayaを使用して、各骨のスキャンを3D空間に配置してデジタル関節骨格を作成し、GeoMagicというソフトウェアを使用して3D PDFファイルに変換された。スキャンの精密性は高く、また重すぎる化石の取り扱いを効率化し、長距離間での共同作業も可能にした。

ホロタイプMPM-PV 1156は、部分骨格で成る。元の形状のままで保存されており、以下のものを含んでいる。:上顎骨の断片、歯、頚椎頸肋骨 、複数の胴椎および肋骨仙椎、前部から中部尾椎とそれらに対応する血道弓、左肩甲骨、そして手首より先以外の前肢要素。両方の胸骨、すべての骨盤要素、左後肢、右脛骨等はまるごと欠けている。

パラタイプ MPM-PV 3546は部分的に関節した体骨格で、同じ場所で見つかったホロタイプよりわずかに小さい。それは一番後ろの頚椎、複数の胴椎、肋骨、骨盤、尾椎、血道弓、ほぼ完全な上腕骨、そして左大腿骨で構成される[2]

ドレッドノータスの名前の由来であるドレッドノートとは、英語弩級戦艦のことで、20世紀初頭の戦艦の種類の一つで、単語のもともとの意味は dread(恐怖)+ nought(無い)から来ている。ドレッドノータスが成長すると巨大さゆえに捕食者に狙われることもなく無敵の恐れ知らずだっただろうというイメージ、それと20世紀前半、弩級艦を造っていた2つの会社がドレッドノータスが見つかった町の近くにあったことから命名されたらしい。種小名スクラニ 'schrani' は、プロジェクトに出資したアメリカの実業家アダム・シュラン Adam Schran への献名である[2]

姿勢[編集]

すべてのティタノサウルス類は、ワイドゲージ姿勢(足が正中線から離れた姿勢)で、派生的なティタノサウルス類ほど祖先的なものよりもワイドゲージ姿勢の度合いが強いとされる[6][7]。ドレッドノータスの姿勢は明らかにワイドゲージであったが、大腿骨の関節丘が面取りされているのではなく棒状で垂直であるためサルタサウルス程にはならなかった。このことと、関節丘の末端がサルタサウルス類のように体の方に向けられていないという事実は、ドレッドノータスがサルタサウルス類ではないという系統学的結論を支持している[2] [6] 。幅広い胸骨はまた、広い胸腹部を示す。古生物学者のケネス・ラコバラ(Kenneth Lacovara)は、ドレッドノータスの歩行を『スターウォーズ』のインペリアルウォーカーに例えた[8]

またドレッドノータスの前腕骨は他のいかなるティタノサウルス類よりも長いが、後肢と比べて長くはない。したがって、ラコバラはブラキオサウルスのように前傾しているのではなく、より水平に保持されるように首を復元した[9]

固有派生形質[編集]

ドレッドノータス・スクラニ Dreadnoughtus schrani の尾には、種の診断に使えるいくつかの特徴がある。第1尾椎は、その腹面に竜条と呼ばれる尾根を有する。尾の最初の3分の1では、神経脊柱の基部は気嚢(呼吸器系の一部)との接触によって形成される空洞に広範囲に細分される。さらに、これらの神経脊椎の前方境界および後方境界は、それらを前および後坐骨関節(神経弓の関節点)に接続する明確な隆起(脊椎前および脊椎後)を有する。尾の中央において、椎骨は前部の各椎骨に向かって中柱の上に延びる三角形のプロセスを有する。

このような骨は、脊柱の腹側表面に接し、前方に見ると「Y」形をしている。"Y"の下の部分は広くなっており、筋肉の付着部である可能性が高い[2]

D. スクラニの肩甲骨と前肢にもユニークな特徴がある。傾斜した隆起部は、肩甲骨の内側面を横切り、肩甲骨の遠端近くの頂部側から基部近くの底部側に延びる。最後に、半径の各端部は独特の形状を呈する。頂部または近位端は、その後面に明確な凹状のソケットを有し、一方、底部または遠位端は、広範に拡張される代わりにほぼ正方形である[2]

分類[編集]

ラコバラらによる2014年の分岐分析の結果、ドレッドノータスは非常に「派生的な」基盤的ティタノサウルス類のようで、リトストロティア類とは別系統であるとされた。 その骨格には比較的進化的な特徴と原始的な特徴がともに多く存在し、現在知られているティタノサウルス科メンバーとの類縁関係は不確かである[2]

マクロナリア

カマラサウルス科

エウロパサウルス

エウヘロプス

ティタノサウルス形類

ブラキオサウルス科

ティタノサウルス類

アンデサウルス

アルゼンティノサウルス

フタロンコサウルス

ドレッドノータス

リトストロティア類

マラウィサウルス

ラペトサウルス

イシサウルス

サルタサウルス科

アラモサウルス

オピストコエリカウディア

サルタサウルス亜科

ネウケンサウルス

サルタサウルス

しかし、その後の四肢の骨の解析では、ウルマンとラコバラは、ドレッドノータスがリトストロティア類の特徴の多くを持っていることを発見し(特にアエオロサウルスゴンドワナティタンとの多くの特性を共有している)、アエオロサウルス科に近縁であると改めた。新しい系統発生解析は行われていないが、ウルマンらは今後の分岐分析ではドレッドノータス、アエオロサウルス、そしてゴンドワナティタンの系統関係を洗うべきであると述べている[10]

古生態[編集]

個体発生[編集]

正基準標本は、死亡した時点で完全に成長しきっていなかった可能性が高い。上腕骨の一次線組織骨に外部基本系(完全に成長した脊椎動物にのみ見られる骨の外層)が見られず、また成長線も速い周期で層を描いているため、ホロタイプはまだ成長途中の個体であったと考えられる。最終的にドレッドノータスがどれだけ大きく成長したかはわかっていない[2][11]

化石化の過程[編集]

フィールドの堆積物に基づいて、2つのドレッドノータスの標本は、河口から海に放り出されてすぐ海底の泥に埋もれたか、または洪水によって運ばれた土砂に埋もれたものと思われる。このイベントは、2体の恐竜を埋葬した堤防決壊堆積物を生成した。これによってドレッドノータスのタイプ標本は迅速かつ比較的深く埋められ、驚異的な完全性を保ったまま保存された。骨の中に見いだされるいくつかの小さなスカベンジャーの歯はメガラプトル類(おそらくオルコラプトル)のものである可能性が高い[2]

出典[編集]

  1. ^ Dodson, P; Vidal, D; Ortega, F; Sanz, J L (2014). “Titanosaur Osteoderms from the Upper Cretaceous of Lo Hueco (Spain) and Their Implications on the Armor of Laurasian Titanosaurs”. PLoS ONE 9 (8): e102488. doi:10.1371/journal.pone.0102488. 
  2. ^ a b c d e f g h i j k l Lacovara, Kenneth J.; Ibiricu, L. M.; Lamanna, M. C.; Poole, J. C.; Schroeter, E. R.; Ullmann, P. V.; Voegele, K. K.; Boles, Z. M. et al. (September 4, 2014). “A Gigantic, Exceptionally Complete Titanosaurian Sauropod Dinosaur from Southern Patagonia, Argentina”. Scientific Reports 4: 6196. doi:10.1038/srep06196. PMID 25186586. https://doi.org/10.1038/srep06196. 
  3. ^ Smith, J. B.; Lamanna, M. C.; Lacovara, K. J.; Dodson, P.; Smith, J. R.; Poole, J. C.; Giegengack, R.; Attia, Y. (2001). “A Giant sauropod dinosaur from an Upper Cretaceous mangrove deposit in Egypt”. Science 292 (5522): 1704–1706. doi:10.1126/science.1060561. PMID 11387472. 
  4. ^ Bates, K. T.; Falkingham, P. L.; Macaulay, S.; Brassey, C.; Maidment, S. C. R. (2015). “Downsizing a giant: re-evaluating Dreadnoughtus body mass”. Biol. Lett. 11 (6): 20150215. doi:10.1098/rsbl.2015.0215. PMC 4528471. PMID 26063751. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4528471/. 
  5. ^ Benson, Roger B. J.; Campione, Nicolás E.; Carrano, Matthew T.; Mannion, Phillip D.; Sullivan, Corwin; Upchurch, Paul; Evans, David C. (May 6, 2014). “Rates of Dinosaur Body Mass Evolution Indicate 170 Million Years of Sustained Ecological Innovation on the Avian Stem Lineage”. PLOS Biology 12: e1001853. doi:10.1371/journal.pbio.1001853. PMC 4011683. PMID 24802911. http://www.plosbiology.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pbio.1001853. 
  6. ^ a b Wilson, Jeffrey A.; Carrano, Matthew T. (June 1999). “Titanosaurs and the origin of "wide-gauge" trackways: a biomechanical and systematic perspective on sauropod locomotion”. Paleobiology 25 (2): 252–267. doi:10.1666/0094-8373-25.2.252. http://www.psjournals.org/doi/abs/10.1666/0094-8373-25.2.252 2014年8月31日閲覧。. 
  7. ^ Wilson, J. A. (February 2006). “An Overview of Titanosaur Evolution and Phylogeny”. III Jornadas Internacionales sobre Paleontología de Dinosaurios y su Entorno: 169–190. 
  8. ^ Supermassive Dinosaur Would Have 'Feared Nothing'” (mp3). Science Friday. Public Radio International (2014年9月5日). 2014年9月6日閲覧。
  9. ^ Christian; Dzemski (2011). “Neck posture in sauropods.”. Biology of the sauropod dinosaurs: understanding the life of giants: 251–260. 
  10. ^ Ullmann, P.V.; Lacovara, K.J. (2016). “Appendicular osteology of Dreadnoughtus schrani, a giant titanosaurian (Sauropoda, Titanosauria) from the Upper Cretaceous of Patagonia, Argentina.”. Journal of Vertebrate Paleontology in press: e1225303. doi:10.1080/02724634.2016.1225303. http://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/02724634.2016.1225303. 
  11. ^ Schroeter, Elena; Boles, Zachary; Lacovara, Kenneth (November 2011). “The Histology of a Massive Titanosaur from Argentina and Implications for Maximum Size”. Journal of Vertebrate Paleontology 31 (Program and Abstracts Supplement): 189. doi:10.1080/02724634.2011.10635174. http://vertpaleo.org/PDFS/24/243c77ce-dbdd-44d5-ba84-a4cc52ea6c56.pdf.