オタネニンジン

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オタネニンジン
オタネニンジン
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
階級なし : コア真正双子葉類 core eudicots
階級なし : キク類 asterids
階級なし : キキョウ類 campanulids
: セリ目 Apiales
: ウコギ科 Araliaceae
: トチバニンジン属
Panax [1][2]
: オタネニンジン
P. ginseng [2]
学名
Panax ginseng C.A.Mey. (1842) [3][4]
和名
オタネニンジン[1][2]
チョウセンニンジン[3]
英名
Chinese ginseng[5][6][7]
Korean ginseng[6][7]

オタネニンジン(御種人蔘) は、ウコギ科多年草。原産地は中国遼東から朝鮮半島にかけての地域といわれ、 中国東北部ロシア沿海州にかけて自生する。

薬用または食用に用いられ、チョウセンニンジン朝鮮人蔘)、コウライニンジン高麗人蔘)、また単に人蔘とも呼ばれる。

一方、野菜のニンジンセリ科であり、本種の近類種ではなく全く別の種である。

名称

本種は元来「人蔘」と呼ばれ、中国、朝鮮半島、および日本では古くからよく知られた薬草だった。枝分かれした根の形が人の姿を思わせることが、その名称の由来といわれている。

「御種人蔘」の名は、八代将軍徳川吉宗対馬藩に命じて朝鮮半島で種と苗を入手させ、試植と栽培・結実の後で各地の大名に「御種」を分け与えて栽培を奨励したことに由来する。これ以前の「人蔘」は朝鮮半島からの輸入に依存していた。

中国東北部では「棒槌」(bàngchuí、「木槌」「洗濯棒」の意)とも呼ばれる[8]

人蔘とニンジン

このように「人蔘」の語は元来本種を指すものだったが、日本においては、江戸時代以降、セリ科の根菜“胡蘿蔔”[9](こらふ、現在のニンジンのこと)が舶来の野菜として知られるようになると、本種と同様に肥大化した根の部分を用いることから、これを類似視して、「せりにんじん」などと呼んだ[10]

時代が下るにつれて“せりにんじん”は基本野菜として広く使われるようになり、名称も単に「にんじん」と呼ばれることが多くなったが、一方本種はといえば医学の西洋化につれて次第に使われなくなっていったことから、いつしか「人蔘」と言えば“せりにんじん”のことを指すのが普通となった。

その後、区別の必要から、本種に対しては、明示的に拡張した「朝鮮人蔘」の名が使われるようになった(レトロニム)。

戦後になると、日本の人蔘取扱業者は輸入元の韓国に配慮し、「朝鮮」の語を避けて「薬用人蔘」と称してきたが、後に「薬用」の名称が薬事法に抵触するとする行政指導を受け呼称を「高麗人蔘」へ切り替えた。[11]

以上2種類の植物について、各国語の呼び名を対照すると以下のとおりである。

日本語 中国語 繁体字/簡体字 満州語 朝鮮語 英語
本種 高麗人蔘、朝鮮人蔘 人蔘/人参 [rénshēn、ジェンシェン] ᠣᠷᡥᠣᡩᠠ (人參) [orhoda、オルホダ] (草の長の意) 인삼 (人蔘) [insam、インサム] ginseng [ジンセン] (中国語より)
ニンジン にんじん (人参) 胡蘿蔔/胡萝卜 [húluóbo][9]
紅蘿蔔/红萝卜 [hóngluóbo] など
ᡶᡠᠯᡬᠢᠶᠠᠨ ᠮᡠᡵᠰᠠ (紅蘿蔔) [fulgiyan mursa、フルギャン・ムルサ] 당근 (唐根) [danggeun] carrot

ただし韓国産の土産物用・輸出用の人蔘製品については、最大の顧客が日本(人)であることから、単に「人蔘」とはせずに「高麗人蔘」(고려인삼 [Goryeo insam、コリョインサム])を名乗る場合が非常に多い。また、「高麗はかつて朝鮮に存在した統一王朝の名称であり、その頃から栽培が始まったためにこの名がある」といった旨の説明がしばしば添えられている。しかし、実際は日本から逆輸入された名称である。

産地

樹齢500年の高麗人蔘(由志園にて)

現在、全体の70%以上が韓国と中国で栽培されているが、日本でも江戸時代から栽培されている。

古くから薬効が知られ珍重されていたが、栽培は困難で、18世紀はじめの李氏朝鮮で初めて成功した。韓国では忠清南道錦山郡仁川広域市江華郡北朝鮮では開城市が産地として有名。中国では長白山(白頭山)の麓で「長白山人蔘」として栽培される。日本では福島県会津地方長野県東信地方島根県松江市大根島(旧八束町)の由志園などが産地として知られる。

栽培にはおよそ四年ほどの月日を掛けた上で収穫されるが六年根も存在する。

栽培物より天然物の方が薬効が強いが、野生の人蔘の採取は非常に困難で、産地でも高値で取引されている。

利用法

韓国のマーケットにて

生薬

主要な薬用部位は根で有用成分はジンセノサイドとよばれるサポニン群で、糖尿病、動脈硬化、滋養強壮に効能があり、古くから服用されてきた。血圧を高める効能があるため、高血圧の人は控えるべきだと言われてきた。しかし、血圧の高い人が飲むと下がるという報告もあり、実際は体に合わせて調整作用があるともいわれている。また、自律神経の乱れを整える作用もある。炎症がある時(風邪などの感染症の発熱時、体にせつ(おでき)ようなどの大きな腫れものある時など)は避けること[12]

漢方では他の漢方の薬効を強める働きがあるといわれ、単体だけでなく他の漢方と併用する場合もある。

皮を剥ぎ、根を天日で乾燥させたものを白参(はくじん、ペクサム、백삼)、皮を剥がずに湯通ししてから乾燥させたものを紅参、(こうじん、ホンサム、홍삼)ということもある。なお、日本薬局方においては、根を蒸したものを紅参としている。他に、濃い砂糖水に漬け込んでから乾燥させる糖参もあり、白参に分類される。

江戸時代には大変に高価な生薬で、庶民には高嶺の花だった。このため、分不相応なほど高額な治療を受けることを戒める「人蔘飲んで首括る」のことわざも生まれた[13]。「人参で行水」は医薬のかぎりを尽くして治療をすること。[14]

その他の利用

紅参
現在では入手不可能な天然物のお種人参

韓国では煎じたものを人蔘茶(インサムチャ)として飲用したり、サムゲタンなどの料理にも利用するほか、乾燥させる前の「水参」(スサム、수삼)をスライスして蜂蜜につけて食べたりもする。人蔘入りの栄養ドリンクガム石鹸なども市販されている。日本においては、韓国料理の材料として用いられる他、天ぷらの材料とすることがある。

北朝鮮では開城の人蔘酒が主要な輸出品となっており、韓国でも京畿道坡州市烏頭山統一展望台などで購入できる。

保護の現状

その他

ウコギ科の薬用植物には他にアメリカニンジン(花旗参)、トチバニンジン(竹節人蔘)、サンシチニンジン(田七人蔘)、エゾウコギなどがある。

一部ではこれらから抽出し精製したものを『ジンセン』などと呼称している。が、『ジンセン』とは本来、朝鮮人蔘から抽出されたエキスを指す。

  • 独参湯:人蔘のみで構成された漢方方剤。通常、漢方では複数の生薬を組み合わせて用いるため、人蔘を単独で用いる本方は、特異な処方である。

脚注

  1. ^ a b 大場秀章(編著)『植物分類表』(第2刷)アボック社、2010年。ISBN 978-4-900358-61-4 
  2. ^ a b c 米倉浩司『高等植物分類表』(重版)北隆館、2010年。ISBN 978-4-8326-0838-2 
  3. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Panax ginseng C.A.Mey.”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2012年8月13日閲覧。
  4. ^ "'Panax ginseng C.A. Mey.". Tropicos. Missouri Botanical Garden. 2200621. 2012年8月13日閲覧
  5. ^ "Panax ginseng C.A. Mey" (英語). Integrated Taxonomic Information System. 2012年8月13日閲覧
  6. ^ a b "Panax ginseng" - Encyclopedia of Life
  7. ^ a b "Panax ginseng". National Center for Biotechnology Information(NCBI) (英語).
  8. ^ 昆明植物研究所. “人蔘”. 《中国高等植物数据库全库》. 中国科学院微生物研究所. 2009年2月24日閲覧。
  9. ^ a b 中国語: 蘿蔔 は「大根」を意味し、「胡蘿蔔」はいわば「南蛮大根」、また「紅蘿蔔」は「赤大根」といった意味になる。
  10. ^ 貝原益軒『菜譜』に「胡蘿蔔」の項目あり、「せりにんじん」と訓じている。明治時代の刊本が国会図書館近代デジタルライブラリー[1] で閲覧できる。
  11. ^ http://kinsam.jp/insam/
  12. ^ 吉林インポート商品一覧 朝鮮人蔘 > 紅参”. 吉林インポート. 2012年11月20日閲覧。
  13. ^ http://www.sanabo.com/kotowaza/arc/2002/10/post_725.html
  14. ^ 広辞苑第5版

関連項目

外部リンク