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DSG

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DSG(独:Direkt-Shalt Getriebe,英:Direct-Shift Gearbox)は、米国ボルグワーナー社によって開発され、フォルクスワーゲングループにライセンスされているデュアルクラッチトランスミッションDCT)である。アウディではSトロニック(S-tronic)の名称を使用している。ベースとなった技術は、1980年代に行われていたグループCマシンによるレースに参戦していた、ポルシェ・962PDKである。

本稿ではフォルクスワーゲングループの車種に搭載されているDCTについて述べる。DCT全般の説明についてはデュアルクラッチトランスミッションを参照。

6速DSGのシフトノブ
通常のATとほとんど変わらない操作系である
6速DSGのカットモデル

動作

従来のセミオートマ(オートメイテッドMT、ロボタイズドMT)は、マニュアルトランスミッションクラッチ操作ならびに変速動作をコンピューター制御等によって自動化したものだった。DSGを含むデュアルクラッチトランスミッション方式は、単なるコンピューター制御による自動変速ではなく、奇数段のギアを受け持つ出力軸と、偶数段のギアを受け持つ出力軸を同軸に配し、それぞれにクラッチを配置することで高速な変速を行う。

加速時における1速から2速への変速を例にとると、従来のセミオートマティックでは、

  1. 1速で走行。
  2. クラッチを切る。
  3. ギアを1速から2速に変える(このときに次に選択するギアのシンクロ・エンゲージがなされる)
  4. クラッチをつなぐ。
  5. 2速で走行。

となるが、DSGでは、

  1. 1速で走行。このとき偶数側の出力軸はクラッチが切れている状態で2速をシンクロ・エンゲージさせ、待機させている。
  2. 奇数側(1速)のクラッチを切ると同時に偶数側(2速)のクラッチをつなぐ。
  3. 2速で走行。このとき奇数側の出力軸では、3速を待機させている。(減速時は1速を待機させている)

となる。従来型ではクラッチが切れている間に変速動作が入るため、ある程度の時間(上記の工程2から4の間)を要するが、DSGではあらかじめ変速を済ませておいてクラッチを繋げ変えることになり、駆動力が途切れる時間が非常に短い(上記の工程2でのわずかな時間、VWによれば0.03秒)。つまり二つの変速機が交互に働くような仕組みになっている。 非常に早い変速制御ができることで、例えばフォルクスワーゲン社公表のデータでは、同じゴルフV GTiの0 - 100km/h加速の場合、マニュアル・トランスミッションが7.2秒なのに対し、DSGでは6.9秒と上回る結果となっている。

2008年現在で市販されている車種では主に6段のDSGが採用されている。ギアボックスの大きさは一般的な6段マニュアルトランスミッションのギアボックスとほば同等で、コンパクトな設計に仕上がっているが、重量は40kgほど重くなっている。また車種やグレードによってはステアリングのパドルで任意のギアを選択可能である。

フォルクスワーゲン・ゴルフアウディ・A3などの1.4Lモデル、フォルクスワーゲン・ポロアウディ・A1には7速DSGを搭載。 この乾式単板式デュアルクラッチは潤滑用のオイルがMTと同等で少量で済み、変速作動システム(メカトロニクス)の作動オイルを独立封入させることで軽量化に成功しているが、単板クラッチのため大トルクのエンジンには対応できない。

構造上偶数段用のクラッチ2は小径になるので単板では大トルクには厳しい上に、乾式7速ではメカトロニクスの油圧ピストンで偶数側/奇数側 双方のクラッチを圧着させるため(MTのクラッチとは逆の制御)などの制約がある。ただし、伝達効率では湿式多板を数%上回りMTと同等であり、スリップロスの多いトルコンATCVTより10%以上高い位置にある。

現状では低トルクエンジンは乾式単板式(奇数段、偶数段シャフトに一枚ずつ)、大トルクのものは湿式多板式という使い分けになっている。 最大の利点は伝達効率が高く、燃費・ドライバビリティをMTと同等としながらもATの簡便さを持ち合わせていることである。

欠点はクラッチの制御によっては変速時にショックが出ることがある(多くは制御装置ECUの再学習リセットで解消する)。 また、渋滞が多くクリープ現象に頼るユーザーが多い日本市場に多い問題として、擬似クリープ機能の長時間使用によりクラッチが発熱し、クリアランスやストローク制御が不安定となったり、接続時の違和感(ギクシャク感や異音)やジャダーによる振動が発生することがある。このためユニットを交換される事例があるなど、激しい渋滞環境では課題が残るとされる。

クリープ走行

初期のDSGでは、完全に停止した状態からはオートマチックトランスミッション車のようなクリープ走行は出来ず[1]、少しアクセルを踏んでやらない限り車は停まり続ける。1速とニュートラルを繰り返すようなごく低速時の走行では動きがギクシャクすることがあり、クラッチが過熱する場合もあった。

現在もDSGの制御プログラムは改良が続けられており、現在のモデルはブレーキを離すだけでクリープをする、坂道発進で下がらない(『ヒルホールド機能』)、出だしの動作が以前よりスムーズ、などの改良点がある。


主な搭載車種

フォルクスワーゲン・ポロ
2009年10月 フルモデルチェンジ。5代目モデルより、乾式クラッチ7速DSGの、1.4L Comfortlineのみ日本で発売。
2010年6月発売 1.2L TSI Comfortline/Highline 乾式クラッチ7速DSGのみ。
2010年6月 クロスポロ 2代目モデル発売。1.2L TSI 乾式クラッチ7速DSGのみ。(エンジン・ミッションとも、ポロと共通。)
2010年9月発売 1.4L GTI 乾式クラッチ7速DSGのみ。(GTIには、ドイツ本国などでも、MT仕様は用意されない。)
フォルクスワーゲン・ゴルフ
4代目モデルのR32で採用(DSGモデルは日本未導入)
5代目モデルのGTI、GT TSIで湿式クラッチ6速DSGが採用されたのを皮切りに各グレードへ普及している。
5代目モデルヴァリアント最終モデルMY2009から乾式クラッチ7速DSGが採用された。
フォルクスワーゲン・ジェッタ
ゴルフ同様、5代目モデルの2.0Tで初採用。
フォルクスワーゲン・シロッコ
3代目モデルのRと2.0TSIで湿式クラッチ6速DSGと、TSIで乾式クラッチ7速DSGが搭載、市販車採用された。
フォルクスワーゲン・パサート
6代目より採用。搭載グレードが拡大しつつある。
フォルクスワーゲン・ゴルフトゥーラン
当初のトルコン式ATからマイナーチェンジで6速DSGに変更された。2009年9月のマイナーチェンジで7速DSGとなった。
フォルクスワーゲン・ティグアン
2010年9月、特別仕様車ティグアン ライストンにおいて、それまで採用していたトルコン式ATではなく湿式7速DSGを搭載した。
アウディ・TT
初代の3.2quattroに6速DSGを初搭載。その後2代目にモデルチェンジすると名称をS-tronicと変えてFFモデルにも採用される。
アウディ・A1
初代より採用。乾式クラッチ7速DSG(S-tronic)。
アウディ・A3
2代目より採用。こちらも搭載グレードが拡大しつつある。
アウディ・Q3
初代より採用。7速DSG(S-tronic)。2011年6月より、本国で発売。
アウディ・A4/Q5等
5代目A4、およびその派生車種より採用。縦置きエンジン用に新開発した7速DSG。
ブガッティ・ヴェイロン
初の7速DSGを搭載。縦置きミッドシップエンジンとの組み合わせも初めてである。

脚注

  1. ^ そのかわり、トルクコンバータを使ったオートマチックトランスミッションのようにトルクコンバータによる損失はない

外部リンク