可積分系

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数学や物理学では、可積分系 (integrable systems) と名付けられた様々な考え方が知られている。

微分可能な系の一般論では、フロベニウス可積分性 (Frobenius integrability) が過剰な決定系として知られている。ハミルトン力学系の古典理論では、リウヴィル可積分性 (Liouville integrability) がある。より一般的には、微分方程式の可積分性は、相空間の不変部分多様体による葉層英語版 (foliation) の存在に関係している。これらの考え方の各々は、葉層のアイデアを応用しているが、同じではない。量子力学や統計力学モデルの設定には完備可積分性 (complete integrability) や完全可積分性 (exact solvability) という考え方もある。可積分系は、微分作用素代数幾何学へ引き戻して考える場合もある。

フロベニウス可積分性 (過剰決定微分方程式系)[編集]

微分方程式系は、定義された空間の上に最大積分多様体により葉層英語版を持つとき、フロベニウスの意味で、可積分 (completely integrable) であると言う。フロベニウスの定理英語版は、系が完全に積分可能であることと、系が外微分形式英語版(exterior differentiation)の下に閉じていることをは同値であることを言っている(微分方程式系の可積分条件 (integrability conditions for differential systems) の記事には最大積分多様体の葉層について詳しいことがあるので参照)。

一般の力学系[編集]

微分可能な力学系では、可積分 (integrable) の考え方は不変な、正規な葉層の存在を意味する。つまり、その葉層は可能な限りの最も小さな次元のフロー英語版に対して不変である埋め込まれた多様体英語版である。このように、可積分性の度数という変数の考えは、不変な葉層の葉の次元に依存している。この考え方は、以下で説明するようにリウヴィルの意味で完全可積分性として知られる、ハミルトン力学系の場合に精密化されている。この可積分性が最もこの脈絡では頻繁に使われる。

可積分の考え方を拡張すると、格子の離散系へも応用可能である。この定義は微分方程式有限の差分方程式の系である発展方程式へ適用することができる。

可積分と非可積分な力学系の違いは、規則的な運動カオス運動 の数値的な意味付けを持つので、系が明らかに完全形式に積分することができるどうかという問題を超えた本質的な性質を持っている。

ハミルトニアン系とリウヴィル可積分性[編集]

ハミルトン力学系の特別な設定では、リウヴィルの意味で可積分性の考え方がある。リウヴィル可積分性 (Liouville integrability) の意味とは、葉層不変量に付随するハミルトンのベクトル場が接空間をはるような相空間の正規な葉層が存在することを言う。言い換えると、ポアソン可換な(つまり、系のハミルトニアンとポアソンの括弧が互に可換であり、従って互いに掛け合うと消滅するものが存在する相空間の上の函数である)不変量の最大集合が存在することを言う。

有限次元では、相空間シンプレクティックな場合(すなわち、ポアソン代数の中心が定数のみからなる)、偶数次元 2n と(ハミルトニアン自身を含む)べき零なポアソン可換不変部分の最大数が n となっているはずである。葉層の葉は、シンプレクティック形式の観点から全等方英語版(totally isotropic)であり、そのような最大で等方な葉層をラグラジアン部分多様体(Lagrangian submanifold|Lagrangian)と呼ばれる。全ての主動 (autonomous) なハミルトン系(つまり、ハミルトニアンもポアソンの括弧も明確には時間依存ではないような系であり、ハミルトニアン自体がフローに沿ったエネルギーを持っている)は少なくとも一つは不変量を持っている。もしエネルギーレベルがコンパクトであれば、ラグラジアン葉層の葉はトーラスとなり、この葉の上の自然な線型座標は「角度」変数と呼ばれる。標準的な 1-形式のサイクルを作用変数と呼び、結果として得られる標準座標を作用角変数英語版 (action-angle variables) と呼ぶ(以下を参照)。

超可積分性英語版 (superintegrability) と最大超可積分性の考え方の間の差異のように、リウヴィルの意味の完全可積分性部分的可積分性の間にも差異がある。本質的には、これらの差異は葉層の葉の次元に対応している。不変量と可換な独立したポアソンの括弧の数が最大よりも小さなとき(しかし、自律係の場合は 1 よりも大きい)、この系を部分的可積分という。さらに汎函数として独立な不変量がポアソンの括弧と交換可能な最大数を超えているとき、従って葉層構造の不変量の葉の次元が n よりも小さいとき、超可積分という。1 次元の正規な葉(曲線)があると、この系は最大超可積分 (maximally superintegrable) という。

作用角度変数[編集]

有限次元のハミルトン系が、リユーヴィルの意味で完全可積分系であり、エネルギーレベル集合がコンパクトのとき、フローと不変葉層の葉は、トーラスとなる。従って、上に述べたように、相空間正準座標英語版(canonical coordinate)の特別な集合は、不変トーラスが作用変数の結合レベル集合であるような作用角度変数英語版(action-angle variable)として知られている。従って、これらのハミルトニアンフローの完全集合(運動は固定)をもたらし、角度変数は自然なトーラス上の周期座標である。不変トーラス上のこれらの正準座標で表された運動は、角度変数では線型である。

ハミルトン–ヤコビのアプローチ[編集]

正準変換 (canonical transformation) 理論では、ハミルトン-ヤコビの方法があり、そこではハミルトン方程式の解は付随するハミルトン-ヤコビ方程式の第一番目の完全解と考えられる。古典的なことばでは、このことは完全に無視できる変数 (completely ignorable variables) となる座標の正準な集まりへの変換を決定すると記述することができる。

ソリトンと逆散乱法[編集]

1960年代の遅く、KdV方程式(Korteweg–de Vries equation)(浅い水の流れで 1次元非散逸流体力学を記述する)のように、強い安定性を持ったソリトン(soliton)が偏微分方程式の局所化された解として発見された。この発見により、これらの方程式を無限次元可積分であるハミルトン系として見なすことで、古典可積分係への関心が復活した。これらの研究は、そのような「積分する」系に非常に豊富なアプローチをもたらし、逆散乱変換英語版(inverse scattering transform)やより一般的には逆スペクトルの方法として(しばしばリーマン・ヒルベルト問題英語版(Riemann–Hilbert problem)に還元されて)研究された。付属する積分方程式の解ではあるが、この方法はフーリエ解析のような局所線型な方法を非線型な方法へ一般化するものである。


量子可積分系[編集]

量子可積分系(quantum integrable systems)という考え方もある。量子論的な設定では、相空間上の函数がヒルベルト空間上の自己共役作用素に置き換わり、ポアソン可換な函数(Poisson commuting functions)が可換な作用素(commuting operators)へ置き換わる。

量子可積分系を説明するために、自由粒子の設定を考えるとよい。ここに全ての力学は一体(問題)となる。量子系は力学が二体(問題)に還元されるときに積分できると言われる。ヤン・バクスター方程式英語版(Yang-Baxter equation)は、この還元性の結果であり、保存量の無限個の集まりを与えるトレースで同一視することをもたらす。このアイデアの全ては、明白な解を得る代数的ベーテ仮設英語版(Bethe Ansatz)を使うことができる量子逆散乱法英語版(Quantum inverse scattering method)の中に組み込まれている。量子可積分モデルの例は、リーブ・リンガーモデル英語版(Lieb-Liniger Model)やハバードモデル(Hubbard model)や、ハイゼンベルグモデル英語版(Heisenberg model)のいくつかの変形がる。[1]

完全可解モデル[編集]

物理学では、完全可解系は、本質的には無限次元の設定であり、完全可解モデル(exactly solvable models)と呼ばれる。このことは、ハミルトニアンの意味での可積分性とより一般的な力学系の意味との間の区別を不明確なものにしている。

完全可解モデルの考え方は統計力学の中にもあり、量子可積分系と古典可積分系の間にはより密接な関係がある。2つの密接に関連する方法:現代的な意味ではヤン・バクスター方程式英語版に基づいたベーテ仮設英語版によるアプローチと、量子逆散乱法英語版は、逆スペクトル法の量子的な類似物である。これら 2つのアプローチは、統計力学での可解モデルの研究においては、等しく重要である。


よく知られている古典可積分系のリスト[編集]

1. 古典力学系(有限次元相空間):

2. 可積分格子モデル

3. 1 + 1 次元のPDEの可積分系

4. 2 + 1 次元のPDEの可積分系

5. 高次元のPDEの可積分系

脚注[編集]

  1. ^ V.E. Korepin, N. M. Bogoliubov, A. G. Izergin (1997). Quantum Inverse Scattering Method and Correlation Functions. Cambridge University Press. ISBN 978-0-521-58646-7. 

参考文献[編集]

外部リンク[編集]