内部留保

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内部留保(ないぶりゅうほ)とは、株式会社等の営利法人が経済活動によって得た利益出資者に配当や、税金を支払った後に残った剰余金を蓄積した資金を指す。これは、資金の使途を示す借方に、現金・預金や有価証券、建物、機械などの勘定で使用用途が表されている。

一般に、貸借対照表上では、資産の調達方法を示す貸方の利益剰余金勘定を指す。 これは、株式発行や債券発行、借金などの調達方法と違い、配当金や返済などの義務を負わない為、「余裕資金」と呼ばれる事もある。その為、借金経営が批判され、金融機関の貸し渋り・貸しはがしが起きた90年代以降、この「内部留保」が多い企業ほど「優良企業」と認識されている。

企業によっては、業績に比例した被雇用者への給与賞与設備投資・維持運営に必要な経費など、利益の額に対して支出がそれほど困難でない程度の適切な費用を削ってまで内部留保を確保したり、出資者に対する配当に回すべき利益まで内部留保としたりすることで過度に「余裕資金」を蓄積している企業もある。(例えば、マイクロソフト社は2003年まで創業以来配当を行っていない。[1]) 昨今では投機目的の一部の株主等がこれを「余剰資金」として、株主配当にまわすよう経営陣に求めるケースも増えている。

目次

[編集] 内部留保に関する論争と議論

[編集] 「内部留保=現金」とは限らない

利益剰余金と現金・預金の推移。
利益剰余金(内部留保)は近年大幅に上昇しているが、現金・預金は逓減している。
また、バブル崩壊後、10億円以上の規模の企業の利益剰余金と現金・預金が大幅に乖離していっていることが分かる。2007年度時点では、全規模・製造業(ともに規模10億円以上)の企業の現金預金は、1989年の半分程度になっている。

例えば、ある企業で一期間中において以下の取引があったと仮定しよう。

  • (1) 1億円の商品を仕入れた。
  • (2) 2億円でその商品を売って、2億円の現金を得た。
  • (3) 1億円で建物を購入した。

この場合、利益は1億円であって、0円ではない。なぜならば、

  • まず、(1)の取引により企業は1億円の費用が掛かった。
  • 次に、(2)の取引により企業は2億円の収益を得た。
  • ここまでの取引(2億円-1億円)の結果、企業はその差分1億円を利益として得た。
  • そして、(3)の取引で、企業は1億円で建物を購入している。

しかし、この「建物の購入」は損失ではない[2]為、費用として計上されない。つまり、利益額1億円は減らないのである。これは、損益計算と現金計算が別物であることを示す。

参考:計算過程
  • 損益計算:2億円(商品の売上)-1億円(商品の仕入れ)=1億円(利益)
  • 現金計算:-1億円(商品の仕入れ)+2億円(売上で得た現金)-1億円(建物の購入)=0(現金)

つまり内部留保とは、自由に使える手元資金(現金・預金)とは違い、「いくらあっても現金があるわけではない」(福井威夫ホンダ社長)のである。[3]

[編集] 内部留保は雇用に活かされていないか

企業はその投資活動(下請け会社への発注や工場の建設など)を通して、雇用や労働、賃金を拡大している。内部留保はその投資活動の為の単なる資金調達方法の一つであるため、内部留保が大きくても、全く雇用に貢献していないということはない。[4]

内部留保を賃金に回すべきとの意見がある[5]が、

――内部留保は、過去の利益の蓄積であり、その多くは生産設備などに再投資されている。これを使うには、設備を売却し現金化する必要がある。仮に工場を売却するならば、そこで働く従業員をクビ切りしなければならず、逆に雇用を不安定化させる――。[6][7]

なお、内部留保は利益の積み立てなので、たとえ人件費を上げたとしても、利益が費用を上回ってる限りは、減ることはない。

本来、内部留保は株主に配当するべき利益で、そうしないならば再投資を行い利潤をより最大化する原資である。「内部留保を取り崩して、非正規社員の雇用維持に回す」ということは、「利益剰余金の取り崩し」を意味するが、株主の同意があれば可能であるが、そうでなければ背任行為となる。[8]

[編集] 「内部留保=自己資本及び純資産」ではない

よく混同されるが、自己資本は内部留保に加え、出資者の払込金(資本金)等も含まれるため、自己資本を内部留保と扱うことは間違いである。

[編集] 内部留保課税

内部留保は、税を掛けられた後の余剰金であるので、内部留保に課税すれば、二重課税となるので、特殊な例[9]を除いて認められない。

[編集] 内部留保を投機に回したのではないか?

内部留保を投機に回したのではないか、という意見がある。[10]企業の資産勘定の一つである投資有価証券が増えているのは事実である。ただし、この投資有価証券とは、分類上、1年以上の保有を目的とした債券や、関連会社や子会社の株式・債券、株式の持合などによるものである。[11]

また、仮に投機に回していたのならば、売買目的有価証券となり、流動資産の部に計上される。しかし、ここ10年で規模10億円以上の製造業の「株式」「公社債」の保有残高を見ると、

株式
6兆3248億4500万円(1997)→2342億円(2007)
公社債
4兆7157億9100万円(1997)→2兆1688億6900万円(2007)[12]

大幅に減っており、逆に投機を手控えているといえるだろう。また、全体を通してみても『法人企業統計調査』によると

株式
17兆9873億300万円(1997)→4兆3270億9500万円
公社債
8兆9888億9000万円(1997)→5兆1878億4300万円

となっており、傾向として投機を手控えているといえるだろう。

[編集] 脚注

  1. ^ スラッシュドットジャパン 米マイクロソフトが創業以来初の配当を開始
  2. ^ これは、会計上1年度(つまり決算の対象期間)を越えて使用するためである。その為、厳密に言えば減価償却により長期的には費用(つまり損失。損益計算上では減価償却費によって処理される。)となっていく。
  3. ^ 2009年1月19日付毎日新聞 09春闘:企業の内部留保、「雇用に活用」が争点に[1]1月25日確認
  4. ^ 仮に、内部留保が全く投資活動に回されていないなら、東海地域の求人倍率があれほど上がるはずがない。

    また、家計で例えても、仕事で貯めたお金で家を購入した場合、内部留保での購入であるが、不動産会社や建設会社は仕事を得るのだから、雇用に貢献している。(ただし家計の場合は会計期間がなく、一般に現金の支出を損失と認識(現金主義)するので、相違に注意すべきである。)

  5. ^ しんぶん赤旗12月31日付 賃金に内部留保使え[2]
  6. ^ 週刊ダイヤモンド 【第63回】 2009年02月23日 労働者派遣法の改正めぐり、 厚労省と経産省がつば迫り合い
  7. ^ また、企業が資産売却や債券発行などにより、一斉に現金を調達すれば、市中の現金価値が上がり、資金調達能力で劣る企業などは資金繰りに行き詰まり倒産が増える。つまり、クラウディングアウトに似た現象が発生する。 さらに、企業の保有する資産の中には特殊な機械や、売れ残り商品など、換金の難しい資産もあるため、このような資産を保有する企業はいくら内部留保が多くても、現金が少ない場合はやはり雇用を維持するのは難しいといえるだろう。
  8. ^ SMBCコンサルティング
  9. ^ 財務省-特定同族会社への留保金課税 [3]
  10. ^ 赤旗2/13付 内部留保 雇用のため使えないのか 大企業の言い分を検証する-なお、有形固定資産は減価償却で損失として処理されるため、この記事中の設備投資は本来の設備投資とは異なる。そのため、注意する必要がある。ちなみに、国民総生産の形成要素の民間企業設備投資は、78兆7681億円(1997)、68兆8294億円(2001)、82兆6553億円(2007)という推移である。
  11. ^ 野村證券 証券用語解説集『投資有価証券』
  12. ^ 『法人企業統計調査』より

[編集] 関連項目

  • 霞が関埋蔵金
  • 貸借対照表
  • 自己資本比率
  • 発生主義 - 費用の認識に関しては、この会計基準が取り入れられている。
  • 実現主義 - 利益の認識に関しては、この会計基準が取り入れられている。
  • 現金主義 - 現金収支によって利益を測る会計基準。この会計基準は、長期で使用するもの(建物等)と短期で使用するもの(商品等)が同等に扱われるため、また、現在では現金取引の割合が低いため、その採用は認められていない。
  • 黒字倒産 - 現金が少なく、帳簿上で自己資本の割合が低い場合、利益(黒字)が出ていても、金融機関の融資打ち切りなどにより、倒産することがある。