ヴォルタースドルフ軌道

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ヴォルタースドルフ軌道
シンボルマーク
ヴォルタースドルフ軌道の主力車両・ゴータカー(2013年撮影)
ヴォルタースドルフ軌道の主力車両・ゴータカー2013年撮影)
基本情報
ドイツの旗 ドイツ
ブランデンブルク州の旗 ブランデンブルク州
所在地 ヴォルタースドルフドイツ語版
種類 路面電車[1][2][3]
路線網 1系統(2022年現在)[4]
停留場数 10箇所(2022年現在)[4]
開業 1913年 [2][3][5]
所有者 ヴォルタースドルフ軌道有限会社[1]
運営者 シェーンアイヘ/リューダースドルフ軌道有限会社[1]
使用車両 ゴータカー2022年現在)[2][5][6]
路線諸元
路線距離 5.6 km[2][5]
軌間 1,435 mm[1][2][3]
電化区間 全区間
電化方式 直流600 V
架空電車線方式[3]
路線図
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ヴォルタースドルフ軌道ドイツ語: Straßenbahn Woltersdorf)は、ドイツの都市・ヴォルタースドルフドイツ語版路面電車東ドイツ時代の2軸車が現役で使用される路線として知られており、2022年現在はヴォルタースドルフ軌道有限会社(Woltersdorfer Straßenbahn GmbH)が施設を所有し、シェーンアイヘ/リューダースドルフ軌道有限会社(Schöneicher-Rüdersdorfer Straßenbahn GmbH、SRS)が列車の運営を行っている[1][2][3]

歴史[編集]

19世紀後半から20世紀初頭にかけて、ヴォルタースドルフを始めとするベルリン郊外の地域は労働者の居住地や観光地として注目され、人口が増加していた。それに伴い、ベルリンとこれらの地域を結ぶ公共交通機関が求められるようになり、乗合馬車蒸気船などが運行されるようになった。その中で、1905年以降鉄道駅とヴォルタースドルフを結ぶ路面電車の建設が検討されるようになり、複数の案から経路が決定した後、1912年ラーンスドルフ駅ドイツ語版からヴォルタースドルフへ向かう路面電車の建設が認可された。そして1913年5月17日、10両(電動車4両、付随車6両)の電車を用いた営業運転が始まった[3][5][7]

1917年にはミュッゲルゼー屋外プール(Freibad Müggelsee)への延伸が計画されたが資金不足のため実現せず、1929年にも大規模な延伸が計画されたもののこちらも資金不足や運河を越える橋梁の建設が困難だったことから、ヴォルタースドルフ軌道の路線長は開業時のまま維持されることとなった。一方で駅や線路の整備や新型車両の導入、既存の車両の更新工事といった近代化は順次行われ、第二次世界大戦中の1944年には年間利用客数が史上最多の290万人を記録した。だが、翌1945年にはベルリン周辺での戦闘の影響で4月に運行が休止する事態となり、復旧は戦後の7月となった[3][8]

戦後、東ドイツの路面電車となったヴォルタースドルフ軌道は公営組織による運営に転換され、幾度かの変遷を経て1963年にシェーンアイヘ/ヴォルタースドルフ交通人民公社(VEB (K) Verkehrsbetrieb Schöneiche-Woltersdorf、VSK)の管理下に置かれた後、1971年に他の人民公社と共にフランクフルト(オーダー)動力交通コンビナート人民公社(VEB Kombinat Kraftverkehr Frankfurt/Oder)に統合された。車両については既存の車両の近代化が継続して行われた一方、車両の増備については東ドイツ各地の路面電車路線からの譲渡によって賄われた。その中でも1977年以降は東ドイツの企業が生産した2軸車(ゴータカー)が導入されるようになり、以降のヴォルタースドルフ軌道の主力となった。また、運賃の徴収方法については人員不足もあり1969年以降信用乗車方式に切り替えられ、1976年には不正乗車防止のためバリデーターが導入されている[3][9][10][11]

ドイツ再統一後の1991年1月1日、ヴォルタースドルフ軌道の運営権は新たに設立されたヴォルタースドルフ軌道有限会社(Woltersdorfer Straßenbahn GmbH)に移管された。これらを含む旧:人民公社が所有していた他の公共交通機関と共に当初全株とも信託公社を介してフュルステンヴァルデ/シュプレー動力輸送有限会社(Kraftverkehr Fürstenwalde/ Spree GmbH)が所持していたが、1993年6月にフュユステンヴァルデ郡(同年12月以降はオーダー=シュプレー郡)とヴォルタースドルフ市へと譲渡された。一方、同年代以降は車両や施設の更新が継続して行われてている他、開業時の車両を始めとした旧型車両の保存活動も精力的に行われている[2][3][5][12]

その後、2020年シェーンアイヘ/リューダースドルフ軌道を運営するシェーンアイヘ/リューダースドルフ軌道有限会社はヴォルタースドルフ軌道の路線の5年分の運営権を獲得しており、以降は同社が列車の運営や施設の管理を行う一方でヴォルタースドルフ軌道有限会社は引き続き車両や施設を所有する形がとられている[1]

系統[編集]

2022年現在、ヴォルタースドルフ軌道はベルリンSバーンと接続し、ヴォルタースドルフへ向かう全長5.6 kmの路線となっている。同路線はベルリン州ブランデンブルク州の路面電車をはじめとする公共交通機関と共にベルリン・ブランデンブルク運輸連合ドイツ語版(VBB)に加入しており、「87号線」という系統名が付けられている。以下、87号線の電停を始めとする主要情報を記す[2][4][5]

電停名 接続交通機関 備考・参考
Berlin-Rahnsdorf, S-Bhf ベルリンSバーン
Goethestraße
Eichendamm
Lerchenstraße
Berliner Platz
Fasanenstraße
Thälmannplatz 路線バス
Blumenstraße
Krankenhaus 路線バス
Schleuse 路線バス

車両[編集]

ヴォルタースドルフ軌道の車庫(2012年撮影)

現有車両[編集]

2022年現在、ヴォルタースドルフ軌道で使用されているのは以下の車両である。同年時点の営業用車両は全てドイツ各地の路面電車から譲渡された2軸車で、大半の車両は1990年代に更新工事が行われているが、全車ともバリアフリーには適合しておらず、後述する新型電車導入決定の要因となっている[2][6][4][5][13][14]

車両番号 車種 譲渡元 製造年 営業開始年 備考
27 電動車 シュヴェリーン市電 1960年 1977年 1978年までの車両番号は「13」
28 デッサウ市電 1959年 1978年 現在の車両番号は2代目
1987年までの車両番号は「30」
29 シュヴェリーン市電 1961年 1978年
30 シュヴェリーン市電 1960年 1977年 現在の車両番号は2代目
1978年までの車両番号は「12」
1987年までの車両番号は28
31 ドレスデン市電 1959年 1986年
32 デッサウ市電 1960年 1987年 導入当初の車両番号は「38」
33 ドレスデン市電 1957年 2015年 1997年以降は劇場の背景として使用
2008年に譲受後大規模修繕の上で2015年から運用開始[15]
89 付随車 シュヴェリーン市電 1960年 1977年
90

動態保存車両[編集]

導入予定の車両[編集]

2022年、ヴォルタースドルフ軌道を運営するシェーンアイへ/リューダースドルフ軌道有限会社は、ブランデンブルク州やオーダー=シュプレー郡からの支援を受け、2軸車の置き換えやバリアフリーの促進を目的としてポーランドの鉄道車両メーカーであるモダトランス(Modertrans)との間に新型車両に関する契約を交わし、同社が展開する超低床電車ブランドのモデルス・ガンマ(Moderus Gamma)を導入する事を決定した[26][27][28][13]

ヴォルタースドルフ軌道に導入されるモデルス・ガンマは1両でも走行可能な両運転台のボギー車LF 10 AC BD」で、車内全体がバリアフリーに適した低床構造となっており、車内中央部には車椅子自転車、ベビーカー用のフリースペースが設置される。また、制動装置として電力を回収可能な回生ブレーキが搭載される他、充電池により短い区間なら架線からの集電なしで走行する事も可能となる[26][27][28][13]

2024年に最初の車両が完成しており、試運転を経て同年5月19日に実施されるヴォルターズドルフ軌道開通111周年の式典でのお披露目が予定されている[注釈 1]。また、製造が確定した3両に加え1両をオプションとして追加発注することも契約上可能となっている。以下、「LF 10 AC BD」の主要諸元を記す[26][27][28][13][29][30][31]

主要諸元
両数 車両番号 車種 運転台 全長 全幅 重量 着席定員 車両定員 低床率 出力 備考・参考
3両+オプション1両 41 - 43 ボギー車 両運転台 14,910mm 2,400mm 20.5t 22人 76人 100% 200kw [26][27][28]

その他[編集]

19(2012年撮影)

ヴォルタースドルフ軌道には高所作業車や雪かき車を始めとした複数の事業用車両が在籍しており、そのうち19はベルリン市電から譲渡された車両(REKO形)である[32][33]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 計画当初は2023年秋季の営業運転開始を予定していた。

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f DIE SCHÖNEICHER-RÜDERSDORFER STRASSENBAHN”. Schöneicher-Rüdersdorfer Straßenbahn GmbH. 2022年5月30日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i Wie alles begann...”. Woltersdorfer Straßenbahn GmbH. 2020年12月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年5月30日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i Unsere Historie in Stichpunkten”. Woltersdorfer Straßenbahn GmbH. 2020年12月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年5月30日閲覧。
  4. ^ a b c d Fahrplan Tram 87”. Schöneicher-Rüdersdorfer Straßenbahn GmbH. 2022年5月30日閲覧。
  5. ^ a b c d e f g Stefan Vockrodt. “Die »Kleene« ins »Jrüne«”. Strassenbahn Magazin. GeraMond Verlag GmbH. 2022年5月30日閲覧。
  6. ^ a b Uebersicht-Fuhrpark-Linienfahrzeuge”. Woltersdorfer Straßenbahn GmbH. 2020年12月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年5月30日閲覧。
  7. ^ Berliner Fahrgastverband IGEB e.V. 1992, p. 8-15.
  8. ^ Berliner Fahrgastverband IGEB e.V. 1992, p. 18-21.
  9. ^ Fahrzeughistorie”. Woltersdorfer Straßenbahn GmbH. 2020年12月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年5月30日閲覧。
  10. ^ Berliner Fahrgastverband IGEB e.V. 1992, p. 22-26.
  11. ^ Berliner Fahrgastverband IGEB e.V. 1992, p. 31-43.
  12. ^ Berliner Fahrgastverband IGEB e.V. 1992, p. 27-30.
  13. ^ a b c d Libor Hinčica (2022年2月19日). “Polský Modertrans uspěl poprvé v Německu”. Československý Dopravák. 2022年5月30日閲覧。
  14. ^ Berliner Fahrgastverband IGEB e.V. 1992, p. 74-77.
  15. ^ Anke Beißer. “Hohlem Körper wird Leben eingehaucht”. MOZ.de. 2022年5月30日閲覧。
  16. ^ a b c d Historische Fahrzeuge (Sonderfahrten)”. Woltersdorfer Straßenbahn GmbH. 2020年12月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年5月30日閲覧。
  17. ^ Wagen 2”. Woltersdorfer Straßenbahn GmbH. 2020年12月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年5月30日閲覧。
  18. ^ Triebwagen 2 der Woltersdorfer Straßenbahn”. Denkmalpflege-Verein Nahverkehr Berlin e.V.. 2020年2月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年5月30日閲覧。
  19. ^ Wagen 7”. Woltersdorfer Straßenbahn GmbH. 2020年12月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年5月30日閲覧。
  20. ^ Triebwagen 7 der Woltersdorfer Straßenbahn”. Denkmalpflege-Verein Nahverkehr Berlin e.V.. 2014年12月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年5月30日閲覧。
  21. ^ Wagen 22(2)”. Woltersdorfer Straßenbahn GmbH. 2020年12月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年5月30日閲覧。
  22. ^ Beiwagen 22 der Woltersdorfer Straßenbahn”. Denkmalpflege-Verein Nahverkehr Berlin e.V.. 2020年2月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年5月30日閲覧。
  23. ^ Wagen 24”. Woltersdorfer Straßenbahn GmbH. 2020年12月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年5月30日閲覧。
  24. ^ Beiwagen 24 der Woltersdorfer Straßenbahn”. Denkmalpflege-Verein Nahverkehr Berlin e.V.. 2020年2月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年5月30日閲覧。
  25. ^ Joachim Eggers. “Woltersdorfer Straßenbahn feiert 100. Geburtstag”. MOZ.de. 2022年5月30日閲覧。
  26. ^ a b c d Moderus Gamma dla Woltersdorf bei Berlin!”. Modertrans. 2022年5月30日閲覧。
  27. ^ a b c d Erik Buch (2022年2月17日). “Woltersdorf’s new tram”. Urban Transport Magazine. 2022年5月30日閲覧。
  28. ^ a b c d Berlin: Moderne Niederflurfahrzeuge für die Straßenbahn Tram 87 in Woltersdorf”. LOK Report (2022年2月17日). 2022年5月30日閲覧。
  29. ^ Libor Hinčica (2024年2月24日). “První tramvaj Moderus Gamma pro Woltersdorf zahájila zkoušky v Poznani”. Československý Dopravák. 2024年2月25日閲覧。
  30. ^ Jakub Rösler (2024年2月19日). “Gamma dla Woltersdorfu na pierwszych zdjęciach”. Transport Publiczny. 2024年2月25日閲覧。
  31. ^ First Polish Modertrans low-floor tram arrives in Woltersdorf (near Berlin)”. Urban Transport Magazine (2024年4月3日). 2024年4月3日閲覧。
  32. ^ Sonstige Fahrzeuge”. Woltersdorfer Straßenbahn GmbH. 2020年12月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年5月30日閲覧。
  33. ^ Wagen 19”. Woltersdorfer Straßenbahn GmbH. 2020年12月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年5月30日閲覧。

参考資料[編集]

  • Berliner Fahrgastverband IGEB e.V. (1992). Berliner Umlandbahnen. Woltersdorfer Straßenbahn.. Berlin 

外部リンク[編集]