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== 形態 ==
== 形態 ==
全長はオスで約125センチメートル<ref name="fn3"/>、翼長20.5-23.5センチメートル<ref name="fn4"/>。メスは約55センチメートル<ref name="fn1"/><ref name="fn2"/><ref name="fn4"/>、翼長19.2-22センチメートル<ref name="fn4"/>。体重はオスでオス0.9-1.7キログラム、メスで0.7-1キログラム<ref name="fn4"/>。尾はオスのほうがかなり長く、尾長はオスが41.5-95.2cm、メスが16.4-20.5cm<ref name=Takano81>{{Cite book|和書 |author=高野伸二 |date=1981 |title=カラー写真による 日本産鳥類図鑑 |publisher=[[学校法人東海大学出版会|東海大学出版会]] |pages=248-249}}</ref>。尾羽の数は18-20枚<ref name="fn4"/>。オスの羽色は極彩色の[[キジ]]と異なり、金属光沢のある赤褐色を呈す。およそ頭部の色が濃く胴体から脚にかけて薄くなる傾向があるが、その程度は亜種により様々である。よく目立つ鱗状の斑がある。目立つ冠羽はないが、興奮すると頭頂の羽毛が逆立ち冠状に見えることもある。顔面にキジ同様赤い皮膚の裸出部がある。尾は相対的にキジよりも長く、黒、白、褐色の鮮やかな模様がある。脚には蹴爪を持つ。メスの羽色は褐色でキジのメスに似るが、キジのメスより相対的に尾が短い。{{要出典|date=2012年7月}}
全長はオスで約125cm <ref name="fn3"/>、翼長20.5-23.5cm <ref name="fn4"/>。メスは約55cm <ref name="fn1"/><ref name="fn2"/><ref name="fn4"/>、翼長19.2-22cm <ref name="fn4"/>。体重はオスでオス0.9-1.7 Kg 、メスで0.7-1 Kg <ref name="fn4"/>。尾はオスのほうがかなり長く、尾長はオスが41.5-95.2cm、メスが16.4-20.5cm<ref name=Takano81>{{Cite book|和書 |author=高野伸二 |date=1981 |title=カラー写真による 日本産鳥類図鑑 |publisher=[[学校法人東海大学出版会|東海大学出版会]] |pages=248-249}}</ref>。尾羽の数は18-20枚<ref name="fn4"/>。オスの羽色は極彩色の[[キジ]]と異なり、金属光沢のある赤褐色を呈す。およそ頭部の色が濃く胴体から脚にかけて薄くなる傾向があるが、その程度は亜種により様々である。よく目立つ鱗状の斑がある。目立つ冠羽はないが、興奮すると頭頂の羽毛が逆立ち冠状に見えることもある。顔面にキジ同様赤い皮膚の裸出部がある。尾は相対的にキジよりも長く、黒、白、褐色の鮮やかな模様がある。脚には蹴爪を持つ。メスの羽色は褐色でキジのメスに似るが、キジのメスより相対的に尾が短い。{{要出典|date=2012年7月}}


== 生態 ==
== 生態 ==
和名の「ヤマドリ」は山地に生息することに由来する<ref name="fn1"/>。主に標高1,500メートル以下の[[山地]]にある[[森林]]や藪地に生息し、[[渓流]]の周辺にある[[スギ]]や[[ヒノキ]]からなる[[針葉樹林]]や下生えがシダ植物で繁茂した環境を好む<ref name="fn2"/>。冬季には群れを形成する<ref name="fn2"/><ref name="fn3"/>。
和名の「ヤマドリ」は山地に生息することに由来する<ref name="fn1"/>。主に標高1,500メートル以下の[[山地]]にある[[森林]]や藪地に生息し、[[渓流]]の周辺にある[[スギ]]や[[ヒノキ]]からなる[[針葉樹林]]や下生えがシダ植物で繁茂した環境を好む<ref name="fn2"/>。冬季には群れを形成する<ref name="fn2"/><ref name="fn3"/>。


食性は植物食傾向の強い[[雑食]]で、植物の葉、[[花]]、[[果実]]、[[種子]]、[[昆虫]]、[[クモ]]、[[甲殻類]]、陸棲の[[腹足綱|巻貝]]、[[ミミズ]]などを食べる<ref name="fn2"/><ref name="fn3"/><ref name="fn4"/>。
食性は植物食傾向の強い[[雑食]]で<ref>[https://www.jstage.jst.go.jp/article/jyio1952/5/4/5_4_351/_article/-char/ja/ 小笠原暠、冬期のキジとヤマドリの生息環境と食性について] 山階鳥類研究所研究報告 Vol.5 (1967-1969) No.4 P351-362, {{DOI|10.3312/jyio1952.5.4_351}}</ref>、植物の葉、[[花]]、[[果実]]、[[種子]]、[[昆虫]]、[[クモ]]、[[甲殻類]]、陸棲の[[腹足綱|巻貝]]、[[ミミズ]]などを食べる<ref name="fn2"/><ref name="fn3"/><ref name="fn4"/>。


オスは鳴くことはまれだが、繁殖期になるとオスは翼を激しくはばたかせ、オートバイのエンジン音に似た非常に大きな音を出す([[ドラミング]]、ほろ打ち)ことで縄張り宣言をし、同時にメスの気を惹く。また、ドラミング(ほろ打ち)の多くは近づくものに対する威嚇であるともされる<ref name=kawaji />。木の根元などに窪みを掘り木の葉や枯れ草、羽毛を敷いた直径20センチメートル、深さ9センチメートルに達する巣に、4月から6月にかけて6-12個の卵を産む<ref name="fn2"/><ref name="fn4"/>。卵は長径4.8センチメートル (4.4-5.15cm<ref name=Takano81/>) 、短径3.5センチメートル (3.3-3.65cm<ref name=Takano81/>) で、殻は淡黄褐色<ref name="fn4"/>。メスのみが抱卵し、抱卵期間は24-25日<ref name="fn3"/>。
オスは鳴くことはまれだが、繁殖期になるとオスは翼を激しくはばたかせ、オートバイのエンジン音に似た非常に大きな音を出す([[ドラミング]]、ほろ打ち)ことで縄張り宣言をし、同時にメスの気を惹く。また、ドラミング(ほろ打ち)の多くは近づくものに対する威嚇であるともされる<ref name=kawaji />。木の根元などに窪みを掘り木の葉や枯れ草、羽毛を敷いた直径20cm 、深さ9cm に達する巣に、4月から6月にかけて6-12個の卵を産む<ref name="fn2"/><ref name="fn4"/>。卵は長径4.8cm (4.4-5.15cm<ref name=Takano81/>) 、短径3.5cm (3.3-3.65cm<ref name=Takano81/>) で、殻は淡黄褐色<ref name="fn4"/>。メスのみが抱卵し、抱卵期間は24-25日<ref name="fn3"/>。


婚姻形態は[[一夫多妻]]であると推定されていたが、実際は[[一夫一妻]]であることが三重県津市の獣医師によって突き止められた<ref>{{リンク切れ|date=2012年7月}}{{cite web|url=http://www.chunichi.co.jp/s/article/2012030790160908.html |title=CHUNICHI Web ヤマドリ、実は「一夫一妻」 津の獣医師が発見|publisher=[[中日新聞]] |format= |page= |date=2012-03-07 |accessdate=2012-03-07 }}</ref>。
婚姻形態は[[一夫多妻]]であると推定されていたが、実際は[[一夫一妻]]であることが三重県津市の獣医師によって突き止められた<ref>{{リンク切れ|date=2012年7月}}{{cite web|url=http://www.chunichi.co.jp/s/article/2012030790160908.html |title=CHUNICHI Web ヤマドリ、実は「一夫一妻」 津の獣医師が発見|publisher=[[中日新聞]] |format= |page= |date=2012-03-07 |accessdate=2012-03-07 }}</ref>。

丸猶丸ほか(1968)によれば

48個体の飼育環境下での産卵数は 5 - 40個、産卵期間は、10 - 97日と個体差が大きかったとしている<ref name=10.2141/jpsa.5.96>[https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpsa1964/5/2/5_2_96/_article/-char/ja/ 丸猶丸、一戸健司、斉藤臨、平林忠、ヤマドリ ('''Phasianus soemmerringii scintillans''') の増殖に関する研究 I. 人工授精による繁殖成績] 日本家禽学会誌 Vol.5 (1968) No.2 P96-101, {{DOI|10.2141/jpsa.5.96}}</ref>。また、繁殖適齢期は、3 - 4歳。雌雛の発生は雄雛よりも多いと報告されている<ref name=10.2141/jpsa.5.96 />。


== 分布と亜種 ==
== 分布と亜種 ==
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: 太く長い尾羽を持ち、全身の羽色は濃色<ref name="fn4"/>。腰の羽衣が白く、肩羽や翼に白色斑が入らない<ref name="fn4"/>。
: 太く長い尾羽を持ち、全身の羽色は濃色<ref name="fn4"/>。腰の羽衣が白く、肩羽や翼に白色斑が入らない<ref name="fn4"/>。
: 東京帝国大学教授であった[[飯島魁]]の送った標本から、1902年にイギリスのドレッサーによって、飯島の名を種小名として記された<ref name=kawaji />。
: 東京帝国大学教授であった[[飯島魁]]の送った標本から、1902年にイギリスのドレッサーによって、飯島の名を種小名として記された<ref name=kawaji />。

=== 交雑 ===
野生状態で[[キジ]]との交雑が生じる<ref>[https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjo1915/13/62/13_62_40/_article/-char/ja/ 蜂須賀正氏、キジとヤマドリの雜種について] 鳥 Vol.13 (1950-1955) No.62 P40-43, {{DOI|10.3838/jjo1915.13.62_40}}</ref>が、交雑個体に対し科学的な分析を行った文献記録は少なく<ref>[https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbba/26/1/26_00052/_article/-char/ja/ 風間辰夫、キジ科鳥種の雑種の増殖と識別について] 日本鳥類標識協会誌 Vol.26 (2014) No.1 p.11-22, {{DOI|10.14491/jbba.00052}}</ref>繁殖力の有無等は明かでは無い。


== 人間との関係 ==
== 人間との関係 ==
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<!--民話への登場はキジほど多くない。これはヤマドリの住環境が主に鬱蒼とした森林の奥で、猟師以外にヒトの目につく事が少なかったからだろうと思われる。-->ヤマドリに関する俗信としては、年老いて尾が十三節になったヤマドリは人を騙したり、また夜に人魂のように光るなどの言い伝えがあり<ref>東洋大学民俗研究会 『南部川の民俗 ―和歌山県日高郡南部川村旧高城・清川村―』昭和55年度号、1981年、474頁</ref><ref>長沢利明 「塩原の民俗知識および俗信」『常民文化研究』通巻12号、常民文化研究会、1988年、8頁</ref>、[[長野県]]に伝わる「[[八面大王]]」という鬼を[[坂上田村麻呂]]が退治する物語では、「三十三節あるヤマドリの尾羽で矧いだ矢で無ければ鬼を退治出来ない」という描写がある<ref>[[臼井健二]] 「[http://www.ultraman.gr.jp/shalom/sinaninominnwa.html 八面大王と穂高の地名]」 「信濃路のエンジョイライフ」1980年10月</ref>。
<!--民話への登場はキジほど多くない。これはヤマドリの住環境が主に鬱蒼とした森林の奥で、猟師以外にヒトの目につく事が少なかったからだろうと思われる。-->ヤマドリに関する俗信としては、年老いて尾が十三節になったヤマドリは人を騙したり、また夜に人魂のように光るなどの言い伝えがあり<ref>東洋大学民俗研究会 『南部川の民俗 ―和歌山県日高郡南部川村旧高城・清川村―』昭和55年度号、1981年、474頁</ref><ref>長沢利明 「塩原の民俗知識および俗信」『常民文化研究』通巻12号、常民文化研究会、1988年、8頁</ref>、[[長野県]]に伝わる「[[八面大王]]」という鬼を[[坂上田村麻呂]]が退治する物語では、「三十三節あるヤマドリの尾羽で矧いだ矢で無ければ鬼を退治出来ない」という描写がある<ref>[[臼井健二]] 「[http://www.ultraman.gr.jp/shalom/sinaninominnwa.html 八面大王と穂高の地名]」 「信濃路のエンジョイライフ」1980年10月</ref>。


=== 狩猟と保護 ===
キジと共に狩猟対象とされている。日本では[[鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律|鳥獣保護法]]における狩猟鳥獣であるが、環境省令により[[2017年]](平成29年)9月14日までメスヤマドリの捕獲が禁止されている<ref>{{cite web|url=http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=15362 |title=記者発表資料 鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律施行規則の一部を改正する省令について(お知らせ) |publisher=[[環境省]] |date=2012-06-15 |accessdate=2011-07-18 }}</ref>。
キジと共に狩猟対象とされている。日本では[[鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律|鳥獣保護法]]における狩猟鳥獣であるが、環境省令により[[2017年]](平成29年)9月14日までメスヤマドリの捕獲が禁止されている<ref>{{cite web|url=http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=15362 |title=記者発表資料 鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律施行規則の一部を改正する省令について(お知らせ) |publisher=[[環境省]] |date=2012-06-15 |accessdate=2011-07-18 }}</ref>。

人工授精<ref>[https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpsa1964/3/2/3_2_83/_article/-char/ja/ 丸猶丸、一戸健司ほか、ヤマドリ, キジの人工授精に関する研究] 日本家禽学会誌 Vol.3 (1966) No.2 P83-87, {{DOI|10.2141/jpsa.3.83}}</ref>による養殖技術が確立され<ref name=gunmaryoyu />、野生個体の増加を目論んだ幼鳥や成鳥の放鳥が各地の民間団体や<ref name=gunmaryoyu>[http://gunmaryoyu.jp/index.php?事業活動 猟鳥増殖事業] 群馬県猟友会</ref>自治体<ref>{{PDFlink|[http://www.pref.shizuoka.jp/kankyou/ka-070/wild/documents/jigyoukeikau_henkou.pdf 第11次鳥獣保護管理事業計画] 静岡県}}</ref>により行われている<ref name=foresternet>{{PDFlink|[http://www.foresternet.jp/app/srch3/get_file/3466 養殖ヤマドリ放鳥後のテレメトリー調査] 東京都}}</ref>。放鳥に用いるのは人工授精により養殖育成した個体<ref>[http://www.torihiko.jp/original.html 日本キジ・ヤマドリ養殖センター]</ref>であるが、放鳥後の寿命は10日程度と短かいと報告されている<ref>[https://www.jstage.jst.go.jp/article/jyio1952/34/1/34_1_80/_article/-char/ja/ 川路則友、山口恭弘、矢野幸弘、栃木県において野外個体群の回復のために放鳥されたヤマドリの運命] 山階鳥類研究所研究報告 Vol.34 (2002-2003) No.1 P80-88, {{DOI|10.3312/jyio1952.34.80}}</ref>、主な消耗原因として「天敵食害」<ref>[https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjaez1957/16/2/16_2_75/_article/-char/ja/ 大津正英、テンの冬期の食性] 日本応用動物昆虫学会誌 Vol.16 (1972) No.2 P75-78, {{DOI|10.1303/jjaez.16.75}}</ref>「衰弱死」「溺死」「射殺(狩猟)」「交通事故」があげられている<ref name=foresternet />。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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=== 注釈 ===
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== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
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== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
* [https://www.jstage.jst.go.jp/article/jyio/43/1/43_33/_article/-char/ja/ 高橋松人、ヤマドリの繁殖スケジュールと配偶システム] 山階鳥類学雑誌 Vol.43 (2011) No.1 p.33-46, {{DOI|10.3312/jyio.43.33}}
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2016年1月7日 (木) 07:22時点における版

ヤマドリ
コシジロヤマドリ
亜種コシジロヤマドリ
Syrmaticus soemmerringii ijimae
保全状況評価[a 1]
NEAR THREATENED
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 鳥綱 Aves
: キジ目 Galliformes
: キジ科 Phasianidae
: ヤマドリ属 Syrmaticus
: ヤマドリ S. soemmerringii
学名
Syrmaticus soemmerringii
(Temminck, 1830)
和名
ヤマドリ
英名
Copper Pheasant
亜種
  • ヤマドリ(キタヤマドリ) S. s. scintillans
  • ウスアカヤマドリ S. s. subrufus
  • シコクヤマドリ S. s. intermedius
  • アカヤマドリ S. s. soemmerringii
  • コシジロヤマドリ S. s. ijimae

ヤマドリ(山鳥[1]Syrmaticus soemmerringii)は、鳥綱キジ目キジ科ヤマドリ属に分類される鳥類。日本固有種。名前は有名だが、野外で出会うのは少し困難な鳥でもある[2]

形態

全長はオスで約125cm [3]、翼長20.5-23.5cm [4]。メスは約55cm [1][5][4]、翼長19.2-22cm [4]。体重はオスでオス0.9-1.7 Kg 、メスで0.7-1 Kg [4]。尾はオスのほうがかなり長く、尾長はオスが41.5-95.2cm、メスが16.4-20.5cm[6]。尾羽の数は18-20枚[4]。オスの羽色は極彩色のキジと異なり、金属光沢のある赤褐色を呈す。およそ頭部の色が濃く胴体から脚にかけて薄くなる傾向があるが、その程度は亜種により様々である。よく目立つ鱗状の斑がある。目立つ冠羽はないが、興奮すると頭頂の羽毛が逆立ち冠状に見えることもある。顔面にキジ同様赤い皮膚の裸出部がある。尾は相対的にキジよりも長く、黒、白、褐色の鮮やかな模様がある。脚には蹴爪を持つ。メスの羽色は褐色でキジのメスに似るが、キジのメスより相対的に尾が短い。[要出典]

生態

和名の「ヤマドリ」は山地に生息することに由来する[1]。主に標高1,500メートル以下の山地にある森林や藪地に生息し、渓流の周辺にあるスギヒノキからなる針葉樹林や下生えがシダ植物で繁茂した環境を好む[5]。冬季には群れを形成する[5][3]

食性は植物食傾向の強い雑食[7]、植物の葉、果実種子昆虫クモ甲殻類、陸棲の巻貝ミミズなどを食べる[5][3][4]

オスは鳴くことはまれだが、繁殖期になるとオスは翼を激しくはばたかせ、オートバイのエンジン音に似た非常に大きな音を出す(ドラミング、ほろ打ち)ことで縄張り宣言をし、同時にメスの気を惹く。また、ドラミング(ほろ打ち)の多くは近づくものに対する威嚇であるともされる[2]。木の根元などに窪みを掘り木の葉や枯れ草、羽毛を敷いた直径20cm 、深さ9cm に達する巣に、4月から6月にかけて6-12個の卵を産む[5][4]。卵は長径4.8cm (4.4-5.15cm[6]) 、短径3.5cm (3.3-3.65cm[6]) で、殻は淡黄褐色[4]。メスのみが抱卵し、抱卵期間は24-25日[3]

婚姻形態は一夫多妻であると推定されていたが、実際は一夫一妻であることが三重県津市の獣医師によって突き止められた[8]

丸猶丸ほか(1968)によれば

48個体の飼育環境下での産卵数は 5 - 40個、産卵期間は、10 - 97日と個体差が大きかったとしている[9]。また、繁殖適齢期は、3 - 4歳。雌雛の発生は雄雛よりも多いと報告されている[9]

分布と亜種

日本の固有種であり、本州四国九州に生息する[1][5][3][4]。生息する地域によって羽の色が若干異なり、後述の5亜種に分けられている。

羽色は温度や湿度によって決定し(寒冷地の個体は羽色が薄く暖地の個体は羽色が濃くなる)、同地域でも南北で変異が生じるとする報告例もある[4]。一方で尾羽の形態や腰の白色斑は遺伝的要因が影響していると考えられている[4]。なお、これらの亜種の分布域は明瞭でないため、検討が必要とされている[10]

細く短い尾羽を持ち、全身の羽色は淡色[4]。。
  • ヤマドリ(山鳥) S. s. scintillans (Gould, 1866)
別名キタヤマドリ(北山鳥)。
本州(北緯35度20分以北および島根県北部、兵庫県北部より北)に分布する[10]
細く短い尾羽を持ち、全身の羽色は淡色[4]。腰の羽毛は羽縁が白く、肩羽や翼の羽縁も白い[4]
基亜種アカヤマドリに対して色彩が異なることから、1866年にアメリカのグールドにより別種として記された[2]
ウスアカヤマドリのオス
Syrmaticus soemmerringii subrufus
  • ウスアカヤマドリ(薄赤山鳥[1]S. s. subrufus (Kuroda, 1919)
本州(北緯35度20分より南の太平洋側、千葉県、静岡県、三重県、和歌山県、山口県)および愛媛県南部に分布するとされる[10]
尾羽は細い個体も太い個体もおり、全身の羽色は赤みがかる[4]。腰に白色斑が入り、肩羽や翼の羽縁がわずかに白い[4]
静岡県の採集標本から、黒田長禮により、1919年に別亜種として記された[2]
  • シコクヤマドリ(四国山鳥[1]S. s. intermedius (Kuroda, 1919)
兵庫県南部および中国地方(鳥取県、島根県南部、岡山県、広島県、山口県東部)と四国地方(香川県、徳島県、高知県)に分布するとされる[10]
細長い尾羽を持ち、全身の羽色はやや濃色[4]。腰の羽毛は羽縁が白く、肩羽や翼の羽縁がやや白い[4]
愛媛県の採集標本から、黒田長禮により1919年、別亜種として記された[2]
  • アカヤマドリ(赤山鳥[1]S. s. soemmerringii (Temminck, 1830)
九州北中部[4](福岡県、佐賀県、長崎県、大分県から、熊本県北部、宮崎県北部)に分布するとされる[10]
太く長い尾羽を持ち、全身の羽色は濃色[4]。腰の羽毛に白色部がなく、肩羽や翼にも白色斑が入らない[4]
基亜種。長崎に滞在したシーボルトの収集標本に対し、1830年、オランダのテミンクによってヤマドリとして初めて記された[2]
  • コシジロヤマドリ(腰白山鳥[1]S. s. ijimae (Dresser, 1902)
九州中南部(熊本県南部、宮崎県南部、鹿児島県)に分布するとされる[10][a 2]。準絶滅危惧種[a 2]
太く長い尾羽を持ち、全身の羽色は濃色[4]。腰の羽衣が白く、肩羽や翼に白色斑が入らない[4]
東京帝国大学教授であった飯島魁の送った標本から、1902年にイギリスのドレッサーによって、飯島の名を種小名として記された[2]

交雑

野生状態でキジとの交雑が生じる[11]が、交雑個体に対し科学的な分析を行った文献記録は少なく[12]繁殖力の有無等は明かでは無い。

人間との関係

種小名 soemmerringii は、ドイツの解剖学者、ゼンメリング (Sömmerring) への献名である[1]

ヤマドリは雌雄が峰を隔てて寝るという伝承があり、古典文学では「ひとり寝」の例えとして用いられた[13]。またオスのヤマドリは尾羽が長い事から、「山鳥の尾」は古くは長いものを表す語として用いられており[1]百人一首には柿本人麻呂の作として「あしびきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝む」が取られている。この歌では「山鳥の尾のしだり尾の」までが「ながながし」を導く序詞である。

ヤマドリに関する俗信としては、年老いて尾が十三節になったヤマドリは人を騙したり、また夜に人魂のように光るなどの言い伝えがあり[14][15]長野県に伝わる「八面大王」という鬼を坂上田村麻呂が退治する物語では、「三十三節あるヤマドリの尾羽で矧いだ矢で無ければ鬼を退治出来ない」という描写がある[16]

狩猟と保護

キジと共に狩猟対象とされている。日本では鳥獣保護法における狩猟鳥獣であるが、環境省令により2017年(平成29年)9月14日までメスヤマドリの捕獲が禁止されている[17]

人工授精[18]による養殖技術が確立され[19]、野生個体の増加を目論んだ幼鳥や成鳥の放鳥が各地の民間団体や[19]自治体[20]により行われている[21]。放鳥に用いるのは人工授精により養殖育成した個体[22]であるが、放鳥後の寿命は10日程度と短かいと報告されている[23]、主な消耗原因として「天敵食害」[24]「衰弱死」「溺死」「射殺(狩猟)」「交通事故」があげられている[21]

脚注

  1. ^ a b c d e f g h i j 安部直哉 『山溪名前図鑑 野鳥の名前』、山と溪谷社2008年、330-331頁。ISBN 978-4-635-07017-1
  2. ^ a b c d e f g 川路則友「見られそうで見られないヤマドリ」『BIRDER』第27巻第1号、文一総合出版、2013年1月、34-35頁。 
  3. ^ a b c d e 黒田長久監修 C.M.ペリンズ、A.L.A.ミドルトン編 『動物大百科7 鳥類I』、平凡社1986年、184頁。
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w 黒田長久、森岡弘之監修 『世界の動物 分類と飼育10-I (キジ目)』、東京動物園協会、1987年、113-114、177頁。
  5. ^ a b c d e f 環境庁 『日本産鳥類の繁殖分布』、大蔵省印刷局1981年
  6. ^ a b c 高野伸二『カラー写真による 日本産鳥類図鑑』東海大学出版会、1981年、248-249頁。 
  7. ^ 小笠原暠、冬期のキジとヤマドリの生息環境と食性について 山階鳥類研究所研究報告 Vol.5 (1967-1969) No.4 P351-362, doi:10.3312/jyio1952.5.4_351
  8. ^ [リンク切れ]CHUNICHI Web ヤマドリ、実は「一夫一妻」 津の獣医師が発見”. 中日新聞 (2012年3月7日). 2012年3月7日閲覧。
  9. ^ a b 丸猶丸、一戸健司、斉藤臨、平林忠、ヤマドリ (Phasianus soemmerringii scintillans) の増殖に関する研究 I. 人工授精による繁殖成績 日本家禽学会誌 Vol.5 (1968) No.2 P96-101, doi:10.2141/jpsa.5.96
  10. ^ a b c d e f 日本鳥学会(目録編集委員会)編 編『日本鳥類目録 改訂第7版』日本鳥学会、2012年、3-4頁。ISBN 978-4-930975-00-3 
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注釈

関連項目

外部リンク