オパビニア
オパビニア | |||||||||||||||||||||
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オパビニアの復元図
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保全状況評価 | |||||||||||||||||||||
絶滅(化石) | |||||||||||||||||||||
地質時代 | |||||||||||||||||||||
古生代カンブリア紀ドラミアン期 (約5億500万年前) | |||||||||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||
Opabinia Walcott, 1912 | |||||||||||||||||||||
タイプ種 | |||||||||||||||||||||
オパビニア・レガリス Opabinia regalis Walcott, 1912 |
オパビニア(学名:Opabinia)は、カンブリア紀の海に生息していた古生物の1属。鰭のある体に5つの眼と鋏を具えた吻をもつという独特な姿を特徴とし、バージェス動物群のオパビニア・レガリス(Opabinia regalis)という1種のみが正式に記載される。
学名は発見地近くのオハラ湖(Lake O'Hara)の南東部にあり、ハンガビー山とビッドル山の間に位置するオパビン峠(Opabin Pass)から命名された[2](「オパビン」は現地の言葉で「岩」を意味する[3])。
かつてはアノマロカリスなどと同様に、バージェス動物群の中で現存する動物門の体制には収まりきらないプロブレマティカ(不詳化石)と疑問視され、「奇妙奇天烈動物」(weird wonders)の代表例として語れてきた著名な一生物である。その後は研究が進んでおり、基盤的な節足動物として認められるようになった[1][4][5][6][7]。
化石
オパビニアの化石は希少であり[1]、カナダのブリティッシュコロンビア州バージェス山にある約5億500万年前(カンブリア紀中期後半、ドラミアン)の地層から発見されている[1]。本種は、バージェス頁岩にて米国人古生物学者チャールズ・ウォルコット(Charles Doolittle Walcott)によって発見され、1912年に記載されている。しかし、オパビニアの独特な姿が解明され、注目を集めるようになるのは、ハリー・ウィッティントン(Harry B. Whittington)に本種への再記述が行われた1972年以降である(後述を参照)。
形態
吻を除いて体長はおよそ4 - 7cm程度[1]。 両側にヒレ(鰭)が並ぶ胴体、そして頭部にはハサミを具える吻と5つの眼があるという他の動物には全く見られない独特の形態を持つ。
胴部
細長い柔軟な胴部は15つの体節に分かれ、各体節にほぼ一定の幅のヒレ状の付属肢が対をなして配列される。ヒレはやや下側に向かって張り出し、それぞれの表面には鰓として考えられる櫛状の附属体「setal blades」をもつ[4]。体の尾端はやや細長い管状で、斜め上に向いている附属体のない3対のヒレをもつ。アノマロカリス類も、似たような体制を持っている[8][9][10]。
胴部腹側の脚の有無については、学者によって意見が分かれる[4](後述を参照)。
眼
頭部の前面に5つもの眼を具えている。前方の3つの眼は三角形を作って配置され、斜め後方にある1対の比較的に大きな眼がついている。この5つの眼は短いながら眼柄がついている。本種はそれによって上方に360度近い視野を確保していたように見える。通常、この眼は複眼として復元されているものの化石的根拠はない[2]。
吻と口
頭部先端の下面には筋に細分された吻を1本具えている。化石の観察によれば、この吻は様々な向きに保存され、高い可動性を示す[1]。吻の先端には、5-6本の棘をもった1対の短い付属肢がハサミのように配置され、物を掴めるトングのような造形になっている[1]。この吻はアノマロカリス類、ケリグマケラやパンブデルリオンに見られるような1対の前部付属肢から左右に融合した付属肢であると思われる[11][12][13]。また、対になる付属肢に由来する説や多くの化石的証拠に基づくと、通常の復元図のような、先端のハサミを上下配置の構造にするという復元は誤りで、これは左右に配置する構造として復元すべきであると指摘される[12]。
また、口はハサミにあるわけではなく、吻に次ぐ頭部の腹側にはやや膨大した部位があり、口はその後端に開き、その周辺には放射状の構造が並んでいる[2]。
内部構造
内部構造は、消化管が確認されている。上述の通り、口は後方に向かっているため、消化管の前端はUターンして折り返している。胴部の消化管(中腸)には、第3節から第13節まで計11対の丸い分岐(消化腺)がある[14]。近縁と考えられるアノマロカリス類、ケリグマケラ、パンブデルリオンだけでなく、イソキシス、フキシャンフィア類、三葉虫など真正の節足動物からも、このような構造をもつ消化管が確認される[14][15]。
生態
バージェス頁岩で発見されたオパビニアの化石の状況から、オパビニアは海底の表層に生息する動物だと推測された[2]。吻のハサミを使って、海底の獲物を捕まえて口に運ぶ捕食者と考えられる。また、化石に発達した歯らしき構造が発見されていないため、柔らかい動物を主食とすると思われる[2]。
体の両側に突き出したヒレは、ムカデの脚のように、ガレー船の櫂(かい)のように、順序良く波状に動かすことによって推進力を生み出すことができると思われる。オパビニアはこれを用いて泳ぐと考えられる。オパビニアの胴体は、魚やゴカイのように左右で波打つことができるほどの可動範囲は持たないと思われる[2]。
発見史と系統関係
オパビニアは、カンブリア紀の生物の中でも形態の復元と系統的位置に多くの議論が繰り広げられた一生物である。最初は甲殻類、その後は議論的な不詳化石(プロブレマティカ)、やがてアノマロカリス類と共に基盤的な節足動物と見なされて2010年代の現在に至っている[5]。
甲殻類(1910~1970年代)
発見時はその独特な形態が理解されておらず、オパビニアはほぼ疑いもなく節足動物であると考えられた。1912年、アメリカの古生物学者チャールズ・ウォルコット(Charles Doolittle Walcott)はこれをバージェス動物群のうち最も原始的な節足動物と見なした。彼はオパビニアの化石を現存するThamnocephalidae科の無甲目(ホウネンエビとアルテミアの仲間)と比較し、オパビニアを原始的な無甲目の甲殻類と見なしたが、現生甲殻類のような特徴(2対の触角、大顎、小顎)は見当たらず、ヒレにある櫛状構造の解釈に難点があるとも明記した[5]。
ジョージ・イヴリン・ハッチンソン(George Evelyn Hutchinson)もその見解を踏襲し、1930年、ホウネンエビの様な仰向けの甲殻類として復元されたオパビニアの復元図を発表した。これは史上初のオパビニアの復元図である[16]。1970年、Alberto Simonettaは、同じくバージェス動物群のレアンコイリアとヨホイアなどの特徴に基づいて、本種の化石に全く見当たらないものの、触角や関節肢など節足動物らしき部位をオパビニアの復元図に多く追加していた[17]。
不詳化石(1970~1990年代)
ところが1975年、イギリスの古生物学者ハリー・ウィッティントン(Harry B. Whittington)が再検討したところ、現在の動物には当てはまらない構造の動物であるらしいことが分かった。1972年にバージェス動物群の学会発表があった際、ウィッティントンのこの復元図が映し出された途端、会場内は爆笑の渦に包まれた[2]。そうして、いつまでも収まらなかったため、学会進行が一時中断となったという逸話が残っている。
『ワンダフルライフ』の著者であるスティーヴン・ジェイ・グールド(Stephen Jay Gould)は、バージェス動物群には現在の動物門の枠組みには収まりきらないプロブレマティカ(不詳化石)であり、動物界の孤児であるとして、カンブリア紀動物相の現在との異質性を主張し、その代表例の一つとしてこの動物を扱った。
しかしその後、専門家からの反発が強く、そこまで言うほどの異質性は無いとの主張も多い。環形動物と節足動物の共通祖先から枝分かれしたものとする、ハリー・ウィッティントンの説などがその1つである。しかし、環形動物はむしろ軟体動物などに類縁する冠輪動物であることが21世紀以降において判明し、節足動物との直接的な類縁関係を認めうるかは疑問である。(節足動物#他の動物門との関係性を参照)
基盤的な節足動物(1990年代~21世紀)
新たな発見と分岐学の発展により、かつて不詳化石と考えられたこれらの動物の類縁関係についての考察が進んでいる[5]。
1986年、ジャン・バーグストローム(Jan Bergström)の知見により、直前の1985年で発見されたアノマロカリスの全身化石から、アノマロカリスとオパビニアとの類似点を判明し、オパビニアの各部分の構造も更新された[18]。左右に対をなすヒレを持ち、そのうち最後の3対は斜め上を向くが、この点ではアノマロカリスも同じである。加えて、オパビニアの吻をアノマロカリスの前部付属肢に相同と見なせば、眼柄にあった眼、頭部の下面に口があり、その前に前部付属肢がある、という点でもアノマロカリスと共通している。
近縁と思われるアノマロカリス類、ケリグマケラやパンブデルリオンの対になる前部付属肢とは異なり、オパビニアの1本の吻は一見で異質である。しかしこれは著しく左右融合した1対の前部付属肢であり、先端の対になるハサミが前部付属肢の端であると解釈できる[11][12][13]。先端のハサミの明瞭な左右相称性と左右開閉の配置(これを上下開閉とする通常の復元は誤りであると指摘される[12])も、対になる付属肢に由来することを示唆する[12]。また、オパビニアは鰓のような櫛状の構造体「setal blades」を持つという点も、前述の動物群と共通している[4][10]。
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簡略化された汎節足動物におけるオパビニアの系統的位置 [8][19]。 |
アノマロカリスとオパビニアの上記のような特徴の組み合わせは現生節足動物に見られないが、解剖学的にはいずれも節足動物様の体節制を示し、消化管の形態から節足動物との共通点も認められ[14]、ヒレも付属肢であると見なすことができる。特にアノマロカリスには、複眼の存在と分節した外骨格をもつ触手(関節肢)など、更に多くの特徴で節足動物との類縁関係を示す(アノマロカリス類#系統関係も参照)。オパビニアの後方に向かっている口という、節足動物の共有原始形質の1つも挙げられる[7]。また、これらの近縁と思われるケリグマケラとパンブデルリオンにおける、ヒレの下に葉足があるという附属肢の配置も、節足動物のニ叉型付属肢は、このような背腹の付属肢の融合を通じて由来することを示唆する[4][10]。その後の研究も、オパビニアはこれらの動物のようは付属肢の配置をもった可能性が挙げられる(後述参照)[8][4]。
そして1996年、イギリスの古生物学者グラハム・バッド(Graham Budd)の知見を始めとして、アノマロカリスやケリグマケラと共に、オパビニアは真正の節足動物(真節足動物)のステムグループ(初期脇道系統)に分類されるようになった[8]。アノマロカリスには、ラガニア(ペユトイア)、アンプレクトベルア等、近縁の別属があったことがその後で分かっており、アノマロカリス類(Anomalocaridid)を構成する。それと同様に節足動物のステムグループに属とされるケリグマケラ、パンブデルリオンとオパビニアは、便宜上に "鰓のある葉足動物"「gilled lobopodians」としてまとめられ、系統的にそれらもう少し離れたところに位置される。このような節足動物との類縁関係は、21世紀以降においても多くの分岐学的知見に支持されている[20][9][4][21][14][19][10][5][6]。
脚の有無
化石には節足動物にあるような関節肢が見当たらないが、やや長い三角型の痕跡が胴部とヒレの間にあり、体節に応じて1対ずつ並んでいる。この部分の正体に関しては、主に「消化管の枝」と「柔らかい脚」という2つの仮説が繰り広げられる。なお、この部分の解釈の違いは、オパビニアの分岐学的位置にさほどの影響を与えていない[4][10]。
1975年、ハリー・ウィッティントン(Harry B. Whittington)は、この一連の三角型の痕跡を消化管の枝、もしくは鰓に繋がる循環系の一部であると考えていた。1996年、グラハム・バッド(Graham Budd)は、この三角型の痕跡を内臓としてオパビニアの胴部に納めるには長すぎであると指摘し、化石の断面によると、これはヒレから分離した部位であることが示唆される。バッドは、この部位を元々葉足(葉足動物のような脚)に当たる部分の体腔痕跡であると考え、従ってヒレの下には葉足が並び、加えてそれぞれの葉足の先端に1対の爪があると主張していた[8]。しかし2007年、ZhangとBriggsは元素マッピング(elemental mapping)でこの痕跡の元素組成を分析し、消化管と同じ成分を持っていると判明していた。従って、彼らはバッドが提唱した葉足と爪の存在を否定し、この部分はヒレまで差し込んだ消化管の枝であると主張していた[20]。
ところが2011年、バッドとAllison C Daleyが共著した原記述に、葉足の存在を断言しないものの、その可能性を支持し、ZhangとBriggsの一部の判断を否定する(少なくとも爪の存在は否定的という判断を肯定する)幾つかの証拠が挙げられた。元素マッピングで判明した消化管と三角形の痕跡に当たる同様の元素組成は、吻など他の部位にも見つかっており、消化管に限るものではない。加えて、消化管の枝に該当する部位は、実はその痕跡とは全く別の部位である、数対の丸い消化腺であることも明らかにした。葉足動物の1種アイシュアイアの化石にある、葉足部位の体腔痕跡とオパビニアにおける三角形の痕跡の類似点をも指摘し、更に一部のオパビニアの化石標本から、僅かであるものの、葉足の外皮組織らしき構造も発見されていた[4]。
近縁種
オパビニアはアノマロカリス類、ケリグマケラ、パンブデルリオンなどと共にDinocarididaという基盤的な節足動物の1綱として分類されたが、形態はいずれともやや異なるため、これらとは別にオパビニア科(Opabiniidae)およびオパビニア類(Opabinid)として扱われる。ウォルコットはオパビニア属に2種あると考えてOpabinia regalis と共にOpabinia media と命名した。そしてシベリアからロシアの古生物学者に発見され、1960年においてOpabinia norilica と記載される化石もあった。しかし、1975年に公表したウィッティントンの再記述に認められるのはOpabinia regalis だけである[2]。
2018年現在、オパビニア科のメンバーとして認められているのは、未だにOpabinia regalis 1属1種のみである。しかし、オーストラリアの化石産地Emu Bay Shale から発見され、Myoscolex ateles というかつて環形動物と考えられた同時代の古生物は、のちに頭部に少なくとも3つの眼と1本の吻らしき構造をもつことがわかり、オパビニアの近縁種である可能性が示唆されている[22]。
脚注
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関連項目
外部リンク
日本語による
- オパビニア - 古世界の住人 - ウェイバックマシン(2004年12月11日アーカイブ分)
英語による
- Opabinia - Fossil Gallery - The Burgess Shale
- Opabinia - The Cambrian :ページの下段がオパビニア関連
- Smithsonian page on Opabinia, with photo of Burgess Shale fossil
- Darstellung als Animation :動画参照(オパビニアの生態を再現したアニメーション)
- Opabinia - An Example of an Early Life Experiment? :画像参照(上=化石標本、中=獲物を捕らえるオパビニア[中央。生態再現想像図])