酒井忠康

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酒井 忠康(さかい ただやす、1941年7月16日 - )は、日本美術評論家世田谷美術館館長。多摩美術大学美術学部芸術学科客員教授。

来歴[編集]

北海道余市郡余市町出身。北海道の積丹半島の町に生まれ育ったので、酒井は普通の人とは自然や季節の感じ方が違う[1]。冬は氷点下20度近くにもなる土地で、日本の伝統的な花鳥風月の自然観に、なじめないでいた[1]。床の間にかかる古典的な絵を見ても感銘を覚えず、京都や奈良に行って古い寺や仏像を見ると、さすがに「いいなあ」と思っても言葉が出てこない[1]

北海道余市高等学校を経て、慶應義塾大学に入学。本人いわく「大学で美術史を学んでも、まともに研究はしなかった」とのこと。若いころは、カミュや安部公房、大江健三郎のような人間の不条理を描く作家の小説をよく読んでいた[1]1964年慶應義塾大学文学部美学美術史科卒。学生時代は、就職をためらうモラトリアム人間であったが、ひょんな縁で大学卒業と同じ年より神奈川県立近代美術館学芸員になる[1]。当時、美術批評家の土方定一が館長で、最初はその仕事の手伝いをする学僕であった。土方は酒井に思想的な骨格がないのを見て、英国の美術批評家ハーバート・リードを勉強するように助言した[1]1962年に刊行されたリードの『若い画家への手紙』は、現代芸術に対する考えを若い画家に宛てた手紙の形で述べた文章であり、酒井は大いに啓発された。酒井としては、土方は酒井より37歳も年上だが、発想が斬新で、生命力があり、感度が高い人を重んじる、若い人の発想を大切にする人であった[1]。他にも、司馬江漢の『江漢西遊日記』や鶴見俊輔『限界芸術論』などに感銘を受けた。

1979年小林清親を論じた『開化の浮世絵師 清親』で第1回サントリー学芸賞受賞。その後学芸課長、副館長を経て、1992年館長。2004年より世田谷美術館館長。近代美術の研究、現代美術の評論活動を行う。2003年の『海にかえる魚』では、小説に挑んだ。

著作[編集]

  • 『海の鎖 描かれた維新』小沢書店 1977/青幻舎, 2004
  • 『開化の浮世絵師清親』せりか書房 1978/平凡社ライブラリー, 2008
    • 改題『時の橋 小林清親私考』小沢書店, 1987
  • 『野の扉 描かれた辺境』小沢書店, 1980
  • 『人間のいる絵との対話 ヨーロッパの画家たち』有斐閣 1981
  • 『彫刻の庭 現代彫刻の世界』小沢書店 1982
  • 『青春の画像』美術公論社 1982
  • 『影の町 描かれた近代』小沢書店, 1983
  • 『魂の樹 現代彫刻の世界』小沢書店, 1988
  • 『スティーヴン・ディーダラスの帽子』形文社, 1989
  • 『遠い太鼓 日本近代美術私考』小沢書店, 1990
  • 『森の掟 現代彫刻の世界』小沢書店, 1993
  • 『彫刻の絆 現代彫刻の世界』小沢書店, 1997
  • 『海にかえる魚』未知谷, 2002
  • 『彫刻家への手紙 現代彫刻の世界』未知谷, 2003
  • 『その年もまた 鎌倉近代美術館をめぐる人々』かまくら春秋社 2004
  • 若林奮 犬になった彫刻家』みすず書房 2008
  • 『早世の天才画家 日本近代洋画の十二人』中公新書 2009
  • 『彫刻家との対話 現代彫刻の世界』未知谷, 2010
  • 『鞄に入れた本の話 美術書の一隅』みすず書房, 2010
  • ダニ・カラヴァン 遠い時の声を聴く』未知谷, 2012 
  • 『覚書 幕末・明治の美術』岩波現代文庫, 2013
  • 『積丹半島記』Tokyo Publishing House〈叢書crystal cage〉, 2013
  • 『ある日の画家 それぞれの時』未知谷, 2015
  • 『鍵のない館長の抽斗』求龍堂 2015
  • 『芸術の海をゆく人 回想の土方定一』みすず書房 2016
  • 『片隅の美術と文学の話』求龍堂 2017
  • 『ある日の彫刻家』未知谷 2017

主な編著[編集]

  • 『近代日本美術史 1・2』 佐々木静一共編 有斐閣, 1977
  • 『世紀末の黙示録』前田常作共編著 毎日新聞社, 1987
  • 『奇妙な画家たちの肖像』 形文社, 1991
  • 『近代日本の水彩画』 岩波書店 1996
  • 『岩波近代日本の美術 5 描かれたものがたり 美術と文学の共演』橋秀文共著 岩波書店, 1997
  • 岸田劉生随筆集』岩波文庫, 1996
  • 『摘録 劉生日記』岩波文庫, 1998
  • 『雲の中を歩く男 関根正二画文集』 求龍堂, 2000
  • 『風貌・私の美学 土門拳エッセイ選』 講談社文芸文庫, 2008  
  • 『槐多の歌へる 村山槐多詩文集』 講談社文芸文庫, 2008
  • 佐藤忠良 彫刻七十年の仕事』 講談社, 2008
  • ヨーゼフ・ボイスの足型』若江漢字共著 みすず書房, 2013

翻訳[編集]

脚注[編集]

  1. ^ a b c d e f g 日本経済新聞朝刊2016年6月19日付

参考[編集]

  • [1]
  • 『文藝年鑑2011』