軽減税率

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軽減税率(けいげんぜいりつ)は、食料品や教育費などの「生活に最低限必要なもの」には消費税を軽減(ないし非課税[1])とすることで、標準の税率よりも低く抑えた税率のことで、日本では主に消費税における複数税率を軽減税率と呼んでいる。

軽減税率導入に向けた課題[編集]

高所得者ほど恩恵をより大きく受ける[編集]

軽減税率は「低所得者の負担の軽減」という名目で政策導入が検討されている。しかし、実際には「高所得者ほど軽減税率の恩恵をより大きく受ける」ことになり、低所得者対策として有効でないことなどから、多くの経済学者は軽減税率の導入に反対している[2]

これは「すべての国民に一律で軽減措置を行うことで、高所得者も軽減措置を受ける」ためで、食品などの生活必需品とされる品物においても、高所得者は低所得者に比べ多くの金額を支出していることから、より多くの消費税の軽減措置を受け、より大きく恩恵を受けることになるためである。またその結果として本来国が得る税収を減らすことにもなる。

制度の複雑化による様々な負担[編集]

軽減税率により消費税を複雑化することにより、税額控除、事務負担、税務執行による様々な仕事が増え多くの運用コストが発生することとなる。導入時において具体的な仕組み作りや税率可変できるシステムの導入が課題とされている。

対象となる生活必需品の選定[編集]

対象範囲となる生活必需品は「食料品」のみとされているため、その他一般的な消費財に対する選定基準を設ける必要がある。仮に軽減税率を食料品に適用する場合、飲食サービスの区分をどうするのかという問題が生じる。このように「生活必需品」と「贅沢品」を区分する、客観的な基準の設定が難しい案件も多数存在することを踏まえ、家計データ、関係するビッグデータなどの客観的データに基づいて選定基準を設けることが課題とされる。

財政悪化の懸念[編集]

内閣府が2014年に示した中長期財政試算では、消費税の軽減税率導入に伴う代替財源が確保されていないことが影響し赤字額が増える見込みとなっている。消費税率10%への引き上げ時に導入する軽減税率では1兆円規模の減税となる見通しで、このうち6,000億円程度は財源のメドが立っていないため2020年度の赤字額が増える見込みとなり、軽減税率導入による財政悪化が懸念されている[3]

軽減税率のあり方[編集]

政策的配慮の必要性[編集]

軽減税率導入について、税制度上の中立性及び簡素性を考慮し、累進性と逆進性のバランスをとらなければならない。税収状況に応じて税制を変更するなどの定期的な見直しが政策的配慮として必要とされる。

各国の軽減税率[編集]

欧州諸国では多くの国で消費税に軽減税率が導入されている。しかし、運用コストの高さ、逆累進性問題、癒着など問題点が多かったため、その反省から現在では単一税率へ向け見直しの機運が高まっている。税制の専門家などでは欧州諸国の軽減税率は失敗の経験として、軽減税率導入は否定的に捉えられている[4]

また欧州諸国における軽減税率は、経済困窮者への配慮などといった福祉政策的な観点によって作られた制度ではない[5]。1960年頃の欧州では分野により税制が大きく異なるものが多数あり、それらの統一を図ろうとしたものの各所からの抵抗や反発の結果、政治的妥協として消費税に複数の税率が適応される事態となったことがその経緯だ。

2015年、EU加盟国28カ国中21カ国で軽減税率が適用されている。区分けや税率は各国で違いがある[6]

例えば、カナダでは「ドーナツ5個以内」は「外食」とみなし消費税6%を課税し、「ドーナツ6個以上」は「その場では食べられない」とみなされ「食料品」となり、消費税は非課税となる(2013年1月時点)[7]ドイツではハンバーガーを食べる場所により変わり、店内で食べると「外食」とみなし消費税19%を課税し、「テイクアウト」にすると「食料品」とみなし、消費税を7%に減税している(2013年1月時点)[7]

日本の軽減税率導入をめぐる議論[編集]

公明党が唯一の軽減税率推進政党[編集]

2015年現在、日本では公明党が唯一の軽減税率推進政党となっている。自公与党間で軽減税率の合意はあるものの、公明党からの軽減税率の合意なしには選挙協力ができないとの条件闘争からの結果、自民党は軽減税率を合意したとされている。 [8]

政治的背景[編集]

自公連立政権の発足後、公明党の衆議院議員兼軽減税率制度調査委員長の上田勇の強い要望と自民党への交渉により、「平成26年度税制改正大綱」における消費税率を8%から10%に増税時に軽減税率を導入することが与党内で合意された。しかし、与党内合意の一方で自民党は導入時期に関してはやや慎重な姿勢である。また、財務省は軽減税率による税収減を懸念し、経済界は事務処理の負担増を懸念しているとされる。多くの経済学者は、軽減税率制度より簡素な給付措置の方が、低所得者対策としてより有効であると主張し続けている。しかし、昨年末、当時の大手紙の世論調査で軽減税率制度に多くの賛意が寄せられたなどを背景に、自民党と公明党は軽減税率制度の導入を決めた。

飲食良品への適用[編集]

軽減税率が適用される飲食料品は、「食品表示法に規定する食品」(酒税法に規定する酒類を除く)と、厳密に定義されている。飲食料品の定義は良いとしても、「外食」は従来通りの標準税率と決めたため、その線引きが厄介な問題となった。これは、元をたどると、軽減税率導入を検討する過程で、高級料亭での飲食も軽減税率が適用されては、低所得者対策にならないとして公明党が「外食」を適用から除外するよう要求して合意したことに起因する。

では、軽減税率が適用されない「外食」をどう定義したか。それは、取引の場所と態様(サービスの提供と言えるか)に着目した定義だ。つまり、食品衛生法上の「飲食店営業などで、テーブル、いす等を設けて飲食させるための設備を置いた場所で、食事を提供する」ことを「外食」と定義した。要するに、飲食を提供する場所を指定して飲食すれば、それが「外食」となる。ただし、学校給食老人ホームでの食事は、生活を営む場で他の形態で食事をとることが困難なため、軽減税率の対象とする。

新聞への適用[編集]

新聞への軽減税率適用は、政権迎合につながると疑問を呈す声が多く、適用は第24回参議院議員通常選挙を意識する総理大臣官邸の意向が色濃く反映されたとの見方が強い。朝日新聞のコラムで池上彰は「安倍政権は今後、新聞報道に対し、見返りを要求することはないのか。あるいは、それを仄めかすことはないのか」という疑念を示す意見を投稿している。

見返りを要求するのは当然の帰結であり、その事態を招いたのは新聞社であるとの見方が強い。新聞を軽減税率の適用品目とすることについて、インターネットでは「新聞は公共財じゃない」「新聞なんて生活必需品じゃない」「なくなってもいい」と激しい批判の声が高まっている。新聞は「ジャーナリズムより自分の給料を選んだ」という批判も強い。

堀江貴文は「5時に夢中!」(東京メトロポリタンテレビジョン)の番組内で、公明党が自民党に対し執拗に新聞を対象として含ませようとしてきた原因は、公明党の支持母体である創価学会が発行する「聖教新聞 (にかかる消費税)が8%から10%になったら、(購読者が)激減する可能性が高く、聖教新聞を守るためである」と主張している[9]

10月15日、新聞や通信、放送各社の代表ら約520人が参加する「第68回新聞大会」が日本新聞協会主催で開かれ、消費増税に伴う新聞への軽減税率適用を求める特別決議が3年連続で採択された。日本新聞協会会長で読売新聞東京本社社長の白石興二郎が、ヨーロッパを始めOECD加盟国の殆どが、社会政策として新聞に対しゼロ税率か軽減税率を適用していると指摘しており、「新聞の軽減税は世界ではある程度一般的である。読者の負担を減らすことで情報、知識へのアクセスが容易となり、結果的に減税措置は社会に還元される」と軽減税率適用の意義を訴え、新聞への軽減税率適用を求める特別決議を採択した。賛否両論の中で、日本国民の80%は賛成しているが、20%は反対している。

財務省天下り利権との批判[編集]

古賀茂明は、軽減税率は財務省が特定の品目を軽減対象として認める代わりに、その関連業界の団体・企業に天下りをさせ、族議員ら企業や団体からの政治献金・選挙協力という見返りを得るために公明党・自民党が導入させようとしている上に高い購買ほど減免の恩恵を受ける制度だと批判した[10]

脚注・出典[編集]

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関連項目[編集]

外部リンク[編集]